ロゴ

事例紹介 / 新築 ビル

窓はエコガラス+強化ガラス
木造小学校で省エネ教育を考える

島根県 益田市立桂平小学校

立地
島根県益田市
構造種別
木造平屋・一部二階建
延床面積
1037㎡
用途
教育施設
竣工
2020年3月
利用した補助金
2019年度業務用施設等におけるネット・ゼロ・エネルギービル・省CO2促進事業/『ZEB』・Nearly ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業

開校150年の小学校を改築、木造平屋に

島根県の玄関口である萩・石見空港を要する益田市は、北は日本海、南は中国山地に接しています。画聖・雪舟がその晩年を過ごし、室町時代に端を発する石見神楽を今に伝える、豊かな自然や歴史文化の香るまちです。

訪ねた桂平(かつらがひら)小学校は市内最西部に位置する学校。夏涼しく冬暖かく、少ないエネルギーで快適に過ごせる高い断熱性能を備えた建物で13人の児童が学び、地域にも開かれています。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-川手前遠

桂平小学校ファサード。平屋の屋根に太陽光発電パネルが載っている

明治6年開校という歴史ある学校は、耐震診断の結果を受けて解体・新築が決定しました。そして新たに、高津川流域の県産材と特産の石州瓦を使った木造の校舎が誕生したのです。
「木の校舎は、空気が柔らかくていいですよ」迎えてくれた大橋 大校長がにっこりしました。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-ファサード

4人の方にお話をうかがった。左から大橋大校長、益田市教育委員会教育総務課主任主事・岩﨑俊也さん、同教育総務課施設係長・永田 誠さん、杉内直也教頭

中庭のある回遊型の空間

校舎は一部を除いてほぼ平屋で、中庭の周囲を走る廊下に沿って居室が並ぶ回遊型です。横に長い一般的な校舎と比べて「子どもたちがどこで何をしているか把握しやすく、職員も効率的に動けます」と大橋校長。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-平面図1階・2階

桂平小学校平面図

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-人物

職員室前の廊下からは、ガラス越しに中庭の向こうの低学年教室も見通せる

この見通しのよさは不審者の侵入に備えやすい面もあります。職員室が東側に配置されていますが、これも校庭に面した窓から子どもたちをいつでも見守れるようにと、安全面での配慮が大きいとのこと。

普通教室は日当たりのいい南側に配置されました。低・中・高学年単位で3つに分けられ、年ごとの生徒数に合わせられるよう間仕切りをつけることで可変性を確保しています。
中庭をはさんだ反対側は、音楽室や理科室などの特別教室エリアです。こちら側の廊下は三角形の梁が続く吹き抜け仕様で、高窓からの採光も見られました。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-図書 間仕切り

東の窓からは校庭の様子、廊下に面した側はガラス張りの引き戸で校舎内の気配が感じられる。職員室は桂平小学校のカナメだ

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-対策室

南からの光がよく入って明るい低学年教室。左上に、畳まれた可動式間仕切りが見える

校舎内は床にも天井にも建具枠にも木材が使われています。杉の羽目板でつくられた腰板を教室や廊下にめぐらせ、塗り壁仕上げも手伝ってか住宅のように落ち着いた雰囲気。アットホームな学校です。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-集成材

中庭の周囲をめぐる廊下の北西部分。柱の角にシャッターが下りるスリットが切られ、地域住民が校舎を利用する際にはセキュリティ用に下ろすこともできる。左奥の吹き抜けの廊下に、特徴的な三角形の梁が並んでいる

エコガラスが支えるNearly ZEB

桂平小学校は2019年、Nearly ZEB登録を達成しました。

高性能の省エネ建築をめざしたきっかけを「基本設計を終えて実施設計が始まる段階で、環境性能向上も視野に入れていこうという話になりました」と、益田市教育委員会の永田 誠さんは笑いながら話します。

高効率空調やLED照明の採用、さらに太陽光発電パネルと蓄電池の設置と、昨今の環境建築の王道を行きつつ、開口部にはエコガラスに強化ガラスを組み合わせ、断熱力と安全面の高さを兼ね備えた窓ガラスを採用。安心に快適さを上乗せした点に現代の公立学校の姿が見えるようでした。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-ロビー

登り梁のあるかわいらしい図書室は、タイルカーペットと畳敷きとでくつろげる

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-カウンター

エコガラスと学校用の強化ガラスを組み合わせた窓ガラスで、断熱省エネと安全性能の双方をアップした

真夏には気温35度を記録するという夏場から、室内環境を振り返っていただくと「教室も、そして廊下も涼しいです。授業や休み時間に校庭にいた子どもたちは、昇降口まで帰ってくると「涼しい~!」といって、ゴロゴロしていますよ(笑)」

エコガラスの窓際に1~1.2mの深い庇をつけて強い日射を遮っているのも、室内の温度上昇を防ぐ要素のひとつでしょう。「眩しくないのもいいですね」と語る先生もおられました。
南向きの大きな窓がある教室でも、窓からの日差しや熱気で暑さを感じることはないといいます。“光を入れて、暑さは入れない”エコガラスの役割がよく果たされているのでしょう。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-交流スペース

東面に並んだ昇降口と職員室には1.2mの軒が出されて直射日光を遮り、眩しさにも対処している

冬場はどうでしょうか。

教頭の杉内直也先生は「他校から訪れる先生に『この学校は暖かいね』と言われるんですよ」
「昼は窓から日が入って教室は暖かい。廊下も暖かいのがいいですね、職員室前の廊下が、いちばん暖かいんじゃないかな」

杉内教頭は学校全体の空調の管理者でもあります。
冬は気温が零下になるこの土地では「エアコンは朝、みんなが登校してくる前にスイッチを入れています」
エアコン自体の効きもよく、子どもたちの頬がポッと赤くなるくらいですよ、とにっこりしました。ここにもエコガラスの断熱力が寄与しています。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-太陽光

桂平小学校校舎は南側の一部のみに2階があり、3・4年生、5・6年生の教室と、少人数指導を行う『わくわく教室』が配置されている。廊下の窓は教室同様の腰窓で、上下に分かれてそれぞれ開けられる

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-エコガラス

中庭と外部スロープの間を通っている1階西側の廊下。両側に開口が続き暑さや寒さを感じやすい箇所だが、エコガラスが外部の熱気や冷気を遮断し、快適な空間になった

子どもたちに伝える省エネの“科学”

少子高齢化が加速する中、小中一貫校やコミュニティスクールが全国的に増加しています。地域の宝である子どもたちの学びの場をいかに整備するか、自治体はもとより、地域に暮らす皆が地元の教育施設について考え、コミットしていく時代とも言えるでしょう。
桂平小学校同様に、ZEBレベルの環境性能を備えた小中学校も徐々に増えてきています。

そんな中、大橋校長の言葉は印象的でした。
「夏場はエアコンをつけっぱなしにしていますが、このことを子どもたちにどう教えていくのかを考えなくてはいけないのです」

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-南開口 ルーバー

休日は住民の利用も可能な音楽室。ほかに家庭科室やランチルームも地域に開放されている

“もったいない”という価値観は、世界的にも評価されている日本の価値観のひとつでしょう。
エアコンの継続運転がエネルギー効率面で正しいことは、かなり知られてきました。けれど子どもたちに対し、例えば日頃から「水を大切にしよう」と節水を教えている中で“つけっぱなしした方がいいんだよ”と、どう説明すればよいのでしょうか。

桂平小学校ではこの課題を社会科の授業で取り上げ「感謝しながら勉強しよう」とのスタンスで、子どもたちに伝えているといいます。
エネルギーという目に見えないものについて考え、問いかけて「あたりまえと思えばその本質がわからなくなってしまう。それを防ぎたいのです」

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-仮眠室

BEMSは昇降口脇のスペースに設置。職員室にもつながっている

省エネという言葉はいまや、生活習慣や経済面で私たちの暮らしにすっかり溶け込んだように見えます。そこにもうひとつ、“科学の目”を加えることも、止まらない地球温暖化に対処するために今後求められていくのかもしれません。

子どもたちと一緒に大人も学び続けようよ。校舎の脇で咲き誇る桜の大樹から、そんな声をかけられた気がしました。

窓はエコガラス+強化ガラス 木造小学校で省エネ教育を考える-床吹出

取材当日、教室の窓の外には見事に咲き誇る大島桜の姿があった。この国の四季が失われることのないよう、できることはまだまだあるのだろう

取材日
2024年4月12日
取材・文
二階さちえ
撮影
小田切 淳
イラスト
中川展代

バックナンバーはこちら

PageTop