事例紹介 / 新築 ビル
木造校舎はZEB Ready
故郷の資源とエコガラスが活躍
高知県 大豊町立大豊学園 前期課程棟
- 立地
- 高知県大豊町
- 構造種別
- 木造2階建
- 延床面積
- 2516.74㎡
- 用途
- 教育施設
- 竣工
- 2022年
町民参画で新しい小中一貫校をつくる
大豊学園は小中学校に保育所と給食センターも併設した公立の教育施設です。少子化をきっかけにかねてから小中一貫教育を検討してきた町が、教育基本法の一部改正で可能になった“義務教育学校”として新たに開設、2022年4月に開校しました。
新築されZEB Readyを取得したのは、小学1年生から5年生にあたる児童が主に過ごす前期課程棟と、隣接する大杉保育所そして給食センター。6年生から9年生(中学3年生)が所属する後期課程は、同じ敷地内の旧大豊町中学校校舎を改修して使っています。
前期課程棟は、美しく迫力ある木架構が印象的な校舎です。
近年、公共建築木造化の動きが各地で見られますが、高知は森林面積率国内第1位、スギやヒノキなど人工林率第2位の大森林県。加えて大豊町には県下最大の製材工場もあり、地域のアイデンティティと林業は切っても切れない関係です。木造での建設は必然だったといってよいでしょう。
「柱材・パネル・内装材は大豊町産、その他の部材もすべて高知県産材です」と話すのは町教育委員会の北村邦彦さん。
建物を支える大きなパネルはCLT*で、前述の製材工場が加工した町産のスギ材を使っていますと続けました。地元の産業に直結した事業でもあるのです。
新しい学校の構想・計画は自治体と教育委員会、学校の現場と、異なる場に身をおく人々が共働するかたちで進められました。
加えて大豊学園はコミュニティ・スクールで、地域住民や保護者代表で構成する学校運営協議会が学校づくりや運営に直接参画していく仕組みも持っています。コンセプト作成時には、日頃学校と直接関わりを持たない町民の意見も取り入れられました。
設計・施工段階では2週に一度の定例会議を教委・設計・施工の三者で行い、膝を付き合わせての会議は計30回以上。必要があれば、教育の現場をもっともよく知る教諭が図面に要望を書き入れたりと、ここでもひらかれた学校づくりが実践されています。
まちの資源を生かす設計 エネルギー面も怠りなく
設計を担当した艸(そう)建築工房は、地域のコンテクストや産業文化をベースに、建築工法やエネルギー関連の視点も加えて大豊学園の意匠デザインをまとめ上げました。
三角屋根が4つ連なる外観は山々の景観にシンクロし、デッキを挟んで全体を分節することでそれぞれの教室に光と風を通しています。
『ゆとりすとデッキ』と名づけられた3つの屋外デッキは教室からそのまま出られ、子どもたちに故郷を吹く風の肌ざわりや風景を直接届ける役割も。コンセプトに謳われる「地域性を取り入れたゆとりある校舎で子どもたちがのびのびと過ごす居場所」の願いにも応えるアイディアです。
新たな建築工法『CLT貫工法』の開発は、もっとも大きな設計ポイントのひとつでしょう。
大豊町産の大きなCLTパネルに県産のヒノキ集成材を貫として通し、建物を支えながら風と光と視線の抜けをつくる工法です。木のテクスチャーをそのまま見せた美しい架構へと見事に昇華させました。
大豊学園後期課程教頭の溝渕幸声さんは「まちの資源を最大限に活用した希少な工法として、誇りに思っています」とにっこり。
ZEB化を念頭にした環境・エネルギー設計もなされています。
パッシブ面では、質・量ともに窓を充実させて自然の採光・通風を確保。壁面は厚さ24cmのCLTパネル、外気に接する全開口部をエコガラスとすることで建物外皮に高い断熱力を持たせました。
厳しい寒さが解消 ZEB Readyの性能を実感
温暖なイメージがある高知県にあって、四国山地の山々に囲まれる大豊町は冬の気温は零下に達し、雪が降ることもあります。どちらかといえば寒さにより備えたい気候風土といえるかもしれません。
校舎内の空調についてうかがうと「早く登校した先生がスイッチを入れていきます」と大豊学園校長の岡村洋一郎さん。
床の輻射式空調は集中スイッチがありますが、個別調整もできるといい「時間はかかるけれど、全体にあまりムラがない。床冷暖房はいいと思います」
前期課程棟の隣には、旧大豊町中学校の校舎を耐震改修した後期課程棟が並びます。一般的なRC建築である後期課程棟は「やはり寒いですね」。
玄関や特別教室を共有する子どもたちにも、違いは感じられていることでしょう。
夏場の空調も同様ですが、比較的涼しいこともあり「東の窓から入ってくる日差しの眩しさと日射熱をロールカーテンで遮るのが中心です」
断熱・快適だけじゃない エコガラスが支援する“育ち合う学び舎”
校舎を歩いていて印象に残るのは、大迫力の木造架構のほかに、やはりガラス面の多さでしょう。
エントランスから各教室、廊下や階段、トイレに至るまで、おびただしい数の窓やガラス戸が光と風と風景を取り入れているのです。
外部に面しているガラスはすべてエコガラス。形も大きさも開閉の仕方もさまざまですが、CLTパネルとともに建物外皮全体をくるむように断熱し、ZEB Readyの性能を実現する大きな役割を担っています。
天井板を張らずに架構をそのまま見せる教室は最高高さ6m超。
隣り合うワークスペースや廊下との境は一部の壁を除いてほとんどCLTパネルと貫になっているため、室内空気は共有されて校舎全体が半一室空間のようになっています。
これだけの開口部と気積を持つスペースが、アイディアと技術を駆使すればZEBレベルのエネルギー消費量で快適な環境になるのです。なんとも勇気を与えてくれる話ではありませんか。
さらに大豊学園は、たくさんの窓がもたらすのは快適さだけではないことも教えてくれます。
「それぞれのガラスが大きいので、スペースとして区切られても室内が広く、圧迫感がありません」と岡村校長。
「廊下もデッキも広くていろいろ活動できるスペースになっていますが、ガラスごしに他の学年が何をしているのか見えるんですね。子どもたちの感性に訴える要素だと思います」と続けました。
大豊学園には『縦割り班』と呼ばれる1年生から9年生までが縦にグループを作って清掃などを行う仕組みがあります。学年とは別の枠で児童・生徒が関わり合うのです。
前期課程と後期課程で校舎は分かれていても、同じ玄関を使い、前期棟の図書館や後期棟の特別教室も日常的に行き来するため、学校ではおのずと互いの存在を感じながら過ごすことに。学園のコンセプトに謳われた『多くの人々との交流と豊かな体験を通して思いやりのある子どもを育てる』ことの具現化ともいえるでしょう。
「面倒を見ることで上の子は下の子にやさしくなり、下の子は上のお兄さんお姉さんはカッコいい、と憧れを抱きます。次の学年になったら自分も…と思うんですね」
開放感あるガラス張りの学校で異学年が自然に混じり合う。その日常がもたらす育ち合いを溝渕教頭はこう表現し、笑顔になりました。
コミュニティ・スクールである大豊学園には、地域からさまざまな大人たちもやってきます。
学校運営に関する意見交換や共働だけでなく、正規のカリキュラムに組み込まれた地域学習に協力し、伝統文化『太刀踊り』を継承したり農業体験のサポート、地域清掃、部活指導など児童・生徒と直接関わる取組に参加する人々が、日常的にいるのです。
学校よ地域の核であれ。そんな期待と願いが、そこには映し出されているのかもしれません。
集まり散じ、建物は変わっても「大豊を心に刻む教育は変わりません」と溝渕教頭は語ります。
町の誰もが、地域の宝である子どもたちをいつくしみ育んでいく“古くて新しいふるさとの学び舎”。その未来に思いを馳せながら、小雪の舞い始めた学園を後にしました。
*Cross Laminated Timber(直交集成版):材木をひいた板を並べ、その後に繊維方向が直交するように複数枚を重ねて接着した木質系材料。厚く大きな板をつくることができ、建築の構造材や家具などに使用される
- 取材協力
- 艸建築工房
http://www.sou-af.jp/
- 取材日
- 2022年12月26日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 小田切 淳
- イラスト
- 中川展代