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事例紹介 / 新築 ビル

ZEB Readyのこども園
不可欠だったエコガラス

富山県 小矢部市立蟹谷こども園

立地
富山県小矢部市
構造種別
木造平屋建
延床面積
1,948㎡
用途
幼保連携型認定こども園
竣工
2020年

砺波平野の風景をモチーフに

豊かに広がる水田地帯に屋敷林で囲まれた家々が点在する『散居村(さんきょそん)』。蟹谷(かんだ)こども園は、砺波平野の代名詞であるこの美しい風景の中に建っています。
2020年4月、国内で初めてZEB Ready認定されたこども園として、小矢部市に開園しました。

高さの違う大小の建物がリズミカルに並んでいます。保育室やロビー、子育て支援センターなどが用途ごとに分節され、中庭を囲んでいるのです。
「5~6軒の住宅が寄り添って集落をなす散居村をイメージしています。地域の伝統的な風景が子どもたちの記憶に残ってくれればと考えました」設計を担当したシバタ建築設計事務所の柴田昭浩さんは話します。

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北から見る蟹谷こども園。水平を強調しつつ分節された建物群が寄り添う姿はまさに散居村のイメージだ。2021年12月現在、園児118名教諭38名が在籍している

故郷の気候風土や特長を建築に落とし込むスタンスは随所に見られます。

広々とした遊戯室では、天井を覆う屋根架構が目をとらえます。周囲に広がる水田の井桁模様をヒントにつくられました。
横一線に延びるアプローチの庇は田んぼの水平線をイメージしたもの。コの字型の建物配置は、この地方で秋から冬にかけて吹く北西風が室内に強く入り込まないための配慮です。

地域の既存保育所3つが合併した施設であり、子育て支援や防災拠点の役割も担うため、地域に向け高い開放性も求められました。
園児ではない子どもの一時預かり室や支援センターはもちろん、選挙の投票所や災害時には指定避難所としての使用も想定される遊戯室も、エントランス近くに配置して住民の利便性をはかっています。

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美しい架構で支えられた遊戯室。「せっかくの木造建築だから木を見せ、森に覆われているような空間にしたかったんです」と語る柴田昭浩さんは「構造とデザインの融合ができてよかった」と続けた

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長さ63mのアプローチが建物ファサードを東西一直線に延びている

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高い天井と窓とで明るい子育て支援センター。専用のエントランスを用意し保護者が入りやすい。専門の受付スタッフも配置されている

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ロフト階平面(上)と1階平面(下)。コの字型の建物群が園庭を囲む平面は、冬の強い北西風から敷地内部を守ることを前提に計画された。東西南北にたくさんの窓があり、すべての保育スペースにデッキがつけられている

子どもたちとその家族だけでなく、地域に住まうすべての人々に開かれたこども園。随所がバリアフリー化され、ユニバーサルデザインを取り入れているのもごく自然なことだったのでしょう。

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園の管理運営者、設計を手がけたシバタ建築設計事務所、そして小矢部市こども課からそれぞれ関わり深い方々にお集まりいただいてお話をうかがった。プランを説明する柴田昭浩さんの話しぶりがなごやかな空気を作り出す(撮影時のみマスクを外していただきました。以下同)

大量の窓で園の内と外とをつなぐ

蟹谷こども園の建築は1階+ロフト階で構成されています。1階に連続する掃き出し窓、ロフトには連窓のハイサイドライト=高窓とたくさんの窓をつけることで、特筆すべき明るさと開放性を実現しました。

その豊かさをもっともよく表す空間のひとつがエントランスです。

風除室を抜けた瞬間、高さ5mを超える吹抜の天井と高窓から差し込む自然光に迎えられました。
低い下足入れの向こうにも大きな窓が並び、園庭で遊ぶ子どもたちの姿が目に入ります。
園長の唐島和美さんが「登園時、保護者の方が『ほらみんな遊んでるよ、行ってらっしゃい』と子どもたちに声をかけて送り出すんですよ」
正面に窓がなければ、生まれることのない風景です。

「内と外をつなぐ部分に、大きな窓で視線の抜けをつくろうと考えました」設計を担当した柴田千恵さんは振り返ります。内側と外側を曖昧にして子どもたちが自由に行き来する、思い描いたことが「目の前で起こっていて、感動しました」

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ダイナミックな張弦梁*が支えるエントランス。高さも照明も抑えた風除室との空間的コントラストが訪れる者を圧倒する

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玄関正面に連なるガラス窓からは下足入れごしに園庭が見通せ、子どもたちの遊ぶ姿を保護者が立ち話しながら見守ることもできる。左手にはガラス張りの職員室が配置され、園スタッフとのコミュニケーションも誘発する

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園の管理運営を統括する唐島和美園長からは、子どもたちへの愛情に満ちた言葉があふれる。「地元に根ざすこども園としておばあちゃんやおじいちゃんにも遊びに来てほしいです!」地域に暮らす高齢者をも思いやった

デッキの役割も重要です。高さを室内の床と合わせて出入りしやすくし、さらに軒の出を深くして少々の雨でも遊べるようにしつらえています。
冬季には雪や雨が多い気候風土の中、一年を通じて子どもたちが元気に動きまわれる「中間領域としての“縁側”にこだわりました」。

設計の成功を裏付けるように、唐島園長は「子どもたちは朝から夕方までずっと外にいるんですよ。先生方も、少し天気がよければ『外に行こう!』とうながしています」と話します。そんな様子が窓からよく見えるといい「職員室から園庭もエントランスも見渡せるのがいいですね」と続けました。

天候の影響で外遊びがままならないときも、大丈夫。高窓を含む大開口でたっぷり外光を取り込む保育室、そして『なかよし広場』『すくすくひろば』と名づけられた遊び空間がふたつも整えられています。

園は子どもたちの家。降っても照っても心地よく過ごしてほしい… たくさんの窓には、そんな願いが込められているのです。

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レッドウッド材の軒の出は2mを超える。少々の雨や雪なら子どもたちは部屋を飛び出し、デッキで外の空気を吸いながら遊ぶ

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掃き出し窓の敷居は段差をなくし、室内の床とデッキの高さをそろえた。デッキの材は再生木が選ばれている

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愛息も蟹谷こども園の園児という柴田千恵さん。ママの目線も入っているだろう行き届いたディテールが設計のあちこちに見られる。「設計者としてイメージした通りに使われている、それがうれしいです」

ZEB Ready認定に不可欠だったエコガラス

調理室まわりなど一部を除き、ほぼすべての窓にはアルゴンガス入りのエコガラスが採用されました。設計者は「ZEB Readyのためにここは“死守”しました」と振り返ります。

柴田昭浩さんいわく「子どもたちがすくすく育つには、建物を機械的に暖めずに過ごす方がいい。なるべく自然な環境で体に負担がなく、土地の気候特性も体感できる建築にしようと思いました。パッシブデザインの手法をやってきた過去の経験もありますし」
想いを実現するメニューを探す中で行き着いたのがZEBだった、ともいえそうです。

教育施設や福祉施設は、採光を重視し多くの開口部設置が義務づけられる建築です。壁メインの建物と比べて断熱面はおのずと不利になり、予算が限られる公共建築ではZEB認定のハードルもなおさら高くなります。

それでも、設計者のスタンスが揺らぐことはありませんでした。

空調機器をあまり使わずパッシブに、でも開口は多めにして快適な建築をつくろうとするとき、窓や壁など建物を外側から包む“外皮”には高い断熱・遮熱性能が求められます。
なぜなら、自然界に暑さや寒さ、季節風といった厳しい状況が生じたときもなるべくエネルギーを使わずに跳ね返し、室内を守る役割が課されるから。

なかでもガラス窓は熱の通り道になりやすい箇所です。シングルガラスの開口部は、夏は室内に入る外部熱の約7割が通り、冬は暖房された空気の約6割が流出します。
壁に比して窓が多い明るく開放的な建築ほど、その影響は大きくなるのです。

蟹谷こども園ではどの空間でも、エコガラスをはめ込まれた窓が暖かい室内空気の流出を防ぎ、冷たい外気を跳ね返しています。取材に訪れたのは12月半ばで北陸らしい曇天でしたが、エアコンを稼働させずに十分過ごせていました。
2021年4月に就任した唐島園長いわく「実は着任してから、まだエアコンを使っていないんですよ」

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幅3m半ほどもある3枚引きや4枚引きの掃き出し窓が並ぶ廊下。5mm厚のガラスを使ったエコガラス窓は中空層にアルゴンガスを封入し、断熱性能をアップしている

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南に向かって高さ約3.5mの開口がある、明るい保育室

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冷えやすいトイレもエコガラスの採用で大きな掃き出し窓の設置が可能に

夏にはエコガラスに加えて深い軒や外付けブラインドが大活躍。ガラスに当たろうとする直射日光を遮断し、熱気の入り込みも防いで涼しさを保っています。

「ZEBに向けて窓を小さくするのは簡単です。でも、そうしたくなかった」と柴田千恵さん。すごく大変でしたけどね、とにっこりしました。
豊かな窓があれば目は外に向き、子どもたちは気軽に自然の中に出ていける。だから大きな窓をたくさんつけて、それでもZEBの性能を実現したい。この願いを叶える不可欠の存在として、エコガラスは選ばれたのです。

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4.5mの高い天井に西向きの大開口がある3歳児の保育室は、太陽光の角度に追尾して日射遮蔽する電動ブラインドを設置して西日の熱に対処した

窓以外の外皮である壁面や屋根には厚さ70mm~90mmのプラスチック系断熱材を入れ、基礎部分はウレタンフォームを吹き付けました。
建物全体が高い断熱技術でくるまれ、守られています。

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床を一段下げた居心地の良い絵本コーナー。分厚い曲線壁にt=70mm硬質ウレタンフォーム断熱材の存在感がにじむ。窓からの自然光で明るいこのスペースは「外遊びから帰ってきた子どもたちがまったりするところ(唐島園長)」だそうだ

地域の気候特性から“地中熱利用”にたどり着く

パッシブ建築として挙げたいもうひとつのポイントは、換気でしょう。
内と外をつなぐ園の窓は頻繁に開け閉めされており「保育室の高窓はたいてい開けています」

中間期、園庭に面している掃き出し窓を開けると、そこから入った風は高い位置の開口部=高窓に向かって流れます。低い位置から高い位置へ空気が上る現象を利用したこの換気手法は“重力換気”または“温度差換気”として知られ、パッシブな空調として採用されてきました。

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乳児エリアの遊び空間『すくすくひろば』。木造建築の雰囲気を強調した格天井は、ほふくで動くことも多い園児の体格に合わせて低めに設計

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保育室との境に排煙窓を兼ねた外倒しの高窓をつけ、採光と重力換気を行っている

高窓は夏も開けられます。
蟹谷こども園には地中熱を利用した換気システムがあり、床から涼しい風が吹き出されて子どもたちの体をやさしくなでながら上っていくからです。

システムは採熱パイプを土中に埋め、一年を通じて安定している地中の熱を取り出すしくみです。これに多少の温度調整を加え、あとは床に設けたダクトから夏は冷風、冬は温風が柔らかく流れ出します。
「夏はとても暑いので、足元から風がスーッときて涼しい」と唐島園長。冬には暖かい風が出てくるダクトの上に園児がちゃぶ台を置いて「こたつにしています」と笑いました。

この技術は、とくに動きが活発になり“体を使って遊ぶ”3歳~5歳児が過ごすスペースで採用されました。一方でほふくやよちよち歩きの0歳~2歳児向けスペースでは、より穏やかな床暖房を選択。子どもたちの育ちに対する設計者の温かな目線が感じられます。

地中熱活用のアイディアは地域性から生まれたものでもあります。
柴田昭浩さんは「北陸で自然エネルギーを考えるとき、冬は曇りがちで太平洋側のような日射が期待しづらいんです。地中熱が合っているんですね」
土地の気候風土を最大限に生かす、サステナブルな手法でしょう。

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幼児エリアの『なかよし広場』では、は年中・年長児のエネルギッシュな動きを考慮し、乳児エリアよりも自然に近い環境をつくる地中熱換気を採用。年中安定している地中熱によって“暖かすぎず寒すぎない”空間が生まれる。床の白いダクトの上に直接ものをおかない、という決まりを子どもたちはよく守っているという

風景に溶け込む環境建築が地域の省エネ意識を育む

蟹谷こども園は計画当初から多くの人々に支えられ、完成した施設です。

事業主体である小矢部市は、民生部こども課が中心となってこの高度な省エネ施設の建設に取り組みました。
日本国内の認定こども園初のZEB認定をめざすケースとして、環境省など各機関からの支援もあったといいます。

ディテールを含む具体的な設計面では、小矢部市内の保育所長らでつくる会議の場でも熱心な検討が行われ、保育・教育の専門家ならではの知恵や情報が設計者にもたらされました。
「こういったアドバイザー的な方々の存在と協力が重要だったと思います」と唐島園長。柴田千恵さんも「図面を見ていただいたり、同じ熱と想いをもって共感いただきました」

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周囲の自然に溶け込むこの建築を、地域との交流機会の中で市民に知ってもらえれば、と小矢部市民生部こども課主事の荒田将幹さん。「初めて来たときは、広くて開放的なエントランスにうわーっと感動しました」

公共施設の計画ではあまり行われないという、民間施設の設備環境や家具の使い勝手なども積極的に検討、採用されたものもあったといいます。園内に点在する魅力的な遊びの場や仕掛けは、それらの反映なのでしょう。

日常の環境管理は職員室の一角にあるBEMSで行っています。担当として月に一度チェックに訪れている柴田千恵さんは「今、マニュアルを作成中です。今後、園内の誰が担当することになってもわかるようにしておかないと」

多様なパッシブエネルギー設備のほか、出力10kWの太陽光発電パネルも備えている蟹谷こども園は、ZEB Ready認定建築として具体的な省・創エネの実績も求められます。整えられた設備群をきちんと生かす運用手腕が今後も欠かせないのです。
「みんなで勉強して、学校でも役所でもない“こども園としてのZEB運用”をしていきます」

ここは地域の人々に地球環境やエネルギー、省エネについて問いかけ、思考や知識を深めていく使命を帯びたシンボルでもある、とも。
子どもたちと彼らを取り巻く大人たちに対し、今そして未来の環境について意識づけしていくことで「世界が変わると思っています」

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なかよし広場上部につくられたロフトは子どもたちお気に入りの遊び場だ。唐島園長も「ワクワクして、私も大好きなんですよ」個性的なこのスペースにも民間施設からのヒントが生きているかもしれない。この日は子どもたちによる『忍者の修行場』と化していた

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ロフトからはガラス越しに調理室が見下ろせ、食育の場にもなっている

設計側トップとして現場を束ねたシバタ建築設計事務所の代表取締役・柴田昭治さんは「CO2削減は建築界でもずっと言われてきたことでした。ここにきてやっと、若い人たちが本当に実現してくれるようになった。すばらしいことです」と笑顔で話します。
「こども園は“家”。住宅として求められる性能を突き詰めたらZEBになった、というところでしょうか」

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総責任者として設計を指揮した柴田昭治さんは「設計者としてZEBの経験・実績を積むこともできてよかったです」2017年の基本設計開始から2018年の実施設計まで約1年。「長い設計時間は、勉強できる機会でもありました」と語った

受け継がれてきた風土と歴史文化が香る故郷の風景に美しく溶け込み、高い性能と魅力的な空間で人々を迎え入れるZEB Readyのこども園。それは机上の環境教育を超え、リージョナルな生活空間にあって地球市民としての意識を触発する最高の学び舎となるに違いありません。

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北陸の寒風をものともせず元気に遊ぶ園児を名峰・立山連峰がやさしく見守る。子どもたちによって大人もまた引き寄せられるこの魅力的な建築が、地域の環境拠点になる日は遠くないだろう

  • * 木材や鉄骨などの部材とケーブルを組み合わせて梁をつくる構造形式。大きな空間に軽やかな印象を与えることができる
取材協力
(株)シバタ建築設計事務所
https://shibata-and-associates.com/
取材日
2021年12月16日
取材・文
二階さちえ
撮影
金子怜史
イラスト
中川展代

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