事例紹介 / 新築 ビル
エコガラスが支援する
“見て見られて、楽しく働く”
千葉県 株式会社ZOZO本社屋
- 立地
- 千葉県千葉市
- 建物形態
- S造一部RC造 地上2階地下1階建
- 延床面積
- 3621.92㎡
- 用途
- 事務所
- 竣工
- 2020年
道ゆく人がすぐそばに。 街に溶け込む“見通し良好”オフィス
ZOZOTOWN。日本におけるeコマース(インターネットショッピング)の黎明期を支え、今も快走を続ける老舗ファッション通販サイトとしてご存知の方も多いでしょう。
事業の母体である株式会社ZOZOの本社は2021年春、それまでの拠点だった千葉市の海浜幕張から千葉大学のある文教地区・西千葉エリアに移転しました。
周辺は古くからの住宅地でもあります。近年は若い人々がフリーマーケットを開催したり、個性的なお店を出すなど新たな息吹が感じられますが、東証一部上場企業が本社社屋を置く地としては「なぜ?」との思いも生まれます。
疑問に答えてくれたのは、同社CI室フレンドシップマネージメント部の谷嶋布美子さん、コミュニケーションデザイン室の多々納芙実さんと久保利彩さんでした。
「会社の新しい在り方、“街とつながる企業”になろうという思いによるものです」。
この姿勢が、巨大なガラスのファサードで内部を文字通り“丸見え”にした、挑戦的なオフィス建築の源泉となりました。
室内の床レベルは前を通る歩道と揃えられ、道ゆく人とスタッフの仕事場を隔てるのはガラスのみ。足元から天井まで、遮るものはありません。
こんなにもオープンな状況に臆することなく、3人は「街の人に見てもらいたいし、私たちも街を見たいんですよね」と笑顔で話すのです。
“互いに見る・見られる”この関係を、ファッションをメインコンテンツとする企業で働く者として「行き交う人の服装や振る舞い、仕草を見てイマジネーションを広げ」同時に『楽しく働く』という言葉に象徴されるワークスタイルを「見てもらいたい」を実現するもの、といいます。
「街に溶け込み一体化する社屋にしたかった」との言葉も。聞くほどに当初の違和感が消えていきます。
社内で生まれるアイディアや独自の開発技術が漏洩しないように、守秘が大前提とされてきたオフィスビルのあり方が、軽やかに打ち砕かれるようでした。
都市ならではのエネルギーを貪欲に吸収し、増幅してまた還元する。“街とつながる”という新たなスタンスを選んだ企業にとって、ガラス張り本社はひとつの必然だったのかもしれません。
今日の仕事場を自由に選ぶ。一室空間に散らばる居場所
建物内部は曲線屋根の下に、それぞれ床の高さが違う3つのスキップフロアが広がります。
最も高い北のフロアからは中央に階段が延びてファサード側の空間に降りることができ、折り返すようにもう一段下がって次のフロアへ。
非均質な一室空間です。
目を引くのは、ふわりとかかる織物のように柔らかくオフィス全体を包む天井。細い木材を格子状に織り込んでつくられています。日本のアパレル・ファッション界を牽引し続ける存在として「大きな布が人を包み込むように」…そんなイメージを設計者が表現しました。
無柱の大空間には、多彩な“働くための居場所”があります。
外光が直接入ってくる道沿いのエリア。天井を低く抑えた落ち着きある空間。高い書棚のさらに上にあるキャットウォークを生かした集中できる席など、質の異なるワークスペースが自然に同居していました。
原則リモートワークを行っている現在は、固定のデスクを持たないフリーアドレス制がとられ、スタッフは業務内容に合わせて自身で“今日の仕事場”を選びます。「全体にオープンで、社員同士が声をかけあいやすい。垣根のないコミュニケーションができています」。
デスクスペース以外に、ソファやローテーブルなどが置かれて気分転換や雑談をうながすコーナーも、あちこちに用意されています。
たまたま始まった気軽なやりとりから新しいアイディアが生まれることも多々あるといい「リモート作業にはない、仕事の醍醐味ですね」
コミュニケーションゾーンと呼ばれるこのスペースの家具は、すべて造作だともいいます。
風通しよく、自由に、仲間の存在を感じながらポジティブに仕事をしよう…そんなワークスタイルをアフォードする執務室は、会社に根付いている『楽しく働く』を体現する空間なのでしょう。
冬暖かく夏は涼しく。オフィスと街をエコガラスがつなぐ
窓にはすべて、エコガラスが採用されました。
建物の南面と北面はほぼ全面ガラス張りです。さらに3つの曲線屋根の隙間もガラスを入れ、より多くの自然光を取りこんでいます。
街とつながり、見る・見られる親密な関係を媒介する大開口をつくる一方で、四季を通じて快適な室内環境を保つというオフィスビルの大前提を無視することはできません。
両者を実現する切り札のひとつが、エコガラスなのです。
発泡プラスチック系断熱材を入れた建物外皮とともに、外気の熱や冷たい空気を高い断熱力でシャットアウト。同時にまちの風景を執務室に取り込み、外に向けては自らの働く姿をダイレクトに見せていきます。
ガラス最大の特徴である“透明性”だからこそできることといってもいいでしょう。
快適さを保つもうひとりの縁の下の力持ちは、空調システムです。
ZOZO本社のように、天井が高くて大きな気積を持ち、かつ複雑な内部フォルムを持つ一室空間は、効果的な空気調和が難しい建物の典型。場所によって室温のムラが出やすいのです。
ここでは新たに開発されたシステムが導入されました。曲線を描く屋根の内部に沿って紙製の空調ダクトを行き渡らせ、夏はそこから冷気を吹き出します。
強い太陽光にあぶられる屋根を冷やしつつ室内全体に涼しい風を落とすこの仕組みは、高低差等でゆるやかに区切られている各ゾーンごとにコントロールが可能。冬は一部を除いて空気の流れが反対になり、床のダクトから暖気を吹き出して天井までのぼらせます。
床の染み出し空調の孔は、ぱっと見では目につきません。タイルカーペットをめくると無数の孔があり、そこから空調された空気が染み出します。南では窓に沿って走るスリットが、曲線の編み上げ天井内に仕込まれて見えない空調システムとともに、快適なオフィス環境を維持する役割を果たしているのです。
基本をリモートワークとしつつも、2021年2月の移転以来、定期的にここで業務に携わる谷嶋さんに体感を聞きました。
「執務室内で温度ムラを感じることはありません。それよりも廊下に出た時やエントランスで感じる方が多いと思います」。
オフィスのあちこちに温度計測機器を置き、測定を続けているともいいます。取材に訪れた11月は竣工後初めての冬を迎える直前。「冬場にどうなるかは、これからですね」とにっこりしました。
“ガラス越しに見る・見られる”でつくる。新しい企業のかたち
エコガラスの大開口の貢献はもうひとつ。室内への自然な光の取り込みです。
執務スペースの照明は、オフィスでは一般的になりつつあるタスクアンビエント仕様ではなく、基本は天井から。さらにデスクの上にはなるべくものを置かないことにもなっているといいます。フリーアドレスのしやすさにも関係しているかもしれません。
タスク照明はなく、家具や床、壁、天井、どれもブラウンを基調とする比較的明度が低い室内にも関わらず、暗いという感覚はありません。南北双方に広々と張られたガラス群から豊かに入る外光が、オフィス全体を自然な明るさで照らしているからなのでしょう。
街とつながりながら働き、溶け込んで一体化する職場。そんなワークスタイルをめざす企業にエコガラスがどう役立てるのかを、この建物は魅力的にかいま見せてくれました。
断熱や採光はもちろん、何よりも街行く人とまちで働く人が“透きとおったガラスごしに見たり見られたりしながら互いのエネルギーを交換”しつつあるのです。
「ZOZO本社が気になっている、ぜひ中に入ってみたい」街の人のそんな声も聞きました。
地球温暖化の進行や新型コロナウイルス発生拡大など、誰もがさまざまな不安要素と向き合わざるを得ない日々が続いています。
こんな時代にあって、新しくそしてどこか心楽しくさせるコミュニケーションを社会に向けて提案する存在でありたい。未来に向かう企業の在り方、その一端に出会う取材となりました。
- 取材協力
- 株式会社ZOZO
https://zozo.jp/
- 取材日
- 2021年11月19日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 渡辺洋司(わたなべスタジオ)