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事例紹介 / 新築 ビル

パッシブ&アクティブ省エネで
Nearly ZEBを達成

愛知県 愛知県環境調査センター・愛知県衛生研究所

立地
愛知県名古屋市
構造種別
鉄骨造4階建
敷地面積
12,558.94㎡
延床面積
8,147.46㎡
主要用途
研究施設
竣工
2019年

“環境首都あいち”にふさわしい全国モデルを標榜。ZEB認証をめざす

東西100m近くも延びる4階建ファサードに太陽光発電パネルがずらり。名古屋市中心部、お城の北東数キロの位置に建つ愛知県環境調査センター・愛知県衛生研究所の威容です。Nearly ZEBに認証された数少ない公共施設として稼働しています。

同じ敷地に建っていた旧建物が竣工後50年近く経って老朽化。耐震等も含めて改修・建替が必要になったことが、ZEB化計画の始まりでした。
愛知県は、『環境首都あいち』にふさわしい全国モデルの新エネ・省エネ施設となるべく、ZEBという高い目標を定めて2016年より実施設計・建設を開始。2020年4月に全面供用を始めました。

パッシブ&アクティブ省エネで Nearly ZEBを達成-詳細写真02

愛知県環境調査センター・愛知県衛生研究所全景。新築工事は敷地内の空きスペースから着手し、職員は旧建物で業務を継続して、完成後に移転した。旧建物は地下の躯体を一部残し、地中熱利用で空調負荷を軽減する『クールピット』システムとして生まれ変わっている

建物内は複数のゾーニングが形成されています。実験室群、それを支える事務・総務スタッフの執務室、そして県民の環境学習の場として開かれた『あいち環境学習プラザ』。また愛知県衛生研究所が同居しています。

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1階ではピロティからガラス張りのエントランスを経て、あいち環境学習プラザに至る。エコガラスの折戸は幅約24m

現場の運営を担うセンター総務課の小久保さん、常駐して建物環境の管理を一手に引き受ける大成有楽不動産の九鬼さんに、お話をうかがいました。

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コロナ対応で窓を開けた会議室でお話をうかがった。窓際から環境調査センター総務課の小久保さん、ひとりおいて大成有楽不動産名古屋支店の九鬼さん

最新の新エネ・省エネ技術を駆使した挑戦

愛知県環境調査センターではアクティブ手法とパッシブ手法両方の環境技術を駆使した施設建築に取り組み、運用しています。

アクティブ面から見ていきましょう。複数の最新空調熱源設備機器が取り入れられています。
太陽熱でつくる温水とガスのコージェネシステムから出る温水廃熱を組み合わせて高効率運転する『2温水回収ジェネリンク』はその代表格。センターの全館空調熱源のメイン設備です。
電気をエネルギーとする井水熱源ヒートポンプチラーも導入しました。これらの熱源設備は、豊富かつ年間を通じて水温が安定している地下水を活用し運転されています。センターに常駐し、各機器の保守点検から調整、トラブルの監視まで担当する九鬼さんは「今後、よりエネルギーを削減するために中間期はこの井水利用設備を熱源のメインにする計画もあるんですよ」と話します。稼働実績を踏まえてさらなる向上をめざしているとのこと。

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2温水回収ジェネリンク(左)とヒートポンプチラー(右下)はセンターの空調システムのみなもと。コージェネ廃熱や地下水等、エネルギーを無駄なく活用する超高効率熱源システムだ。ガスエンジンの廃熱とともにジェネリンクを動かすのは、屋上に設置された太陽熱集熱器でつくる温水(右上)。夏場は100℃近くにもなるという

エネルギー管理のおおもとである熱源は、監視室で一括管理されています。
恒常的に安定した室内環境が必須の実験室は一年を通じて個別空調ですが、対照的に執務室やあいち環境学習プラザなどは全館空調です。

照明はLEDで、次世代人検知センサを採用。人の動きだけではなく熱も判別するので、じっと座っての実験やパソコン仕事でも消えることがありません。この技術はとくにオフィスのZEB化においてはもはや常識?
ともいえるくらい、よく見られるようになりました。

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執務室は天井に空調の吹き出しと照明センサを設置。デスクに着席している職員を円形のセンサが熱で感知し、LED照明を点灯する

創エネ面では屋上・地上さらに南外壁の一部まで計1352枚の太陽光発電パネルを設置し、304kWの容量を確保しました。立地条件を最大限に活かして大きな発電能力を獲得し、Nearly ZEBを達成しています。

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屋上に広がる太陽光発電パネル。エネルギー使用量が多い建物のZEB化では、創エネ能力の高さも重要な要素のひとつとなる。センターは市内中心部にありながら周辺に高い建物が少なく、恵まれた立地条件

エコガラスと発電パネルを活用。建物外皮でパッシブ省エネ

重厚な設備機器に頼らないパッシブな省エネ手法も充実しています。センターでは主に建物の躯体と外皮が活用されました。

執務スペースからピロティになっているエントランス部分まで、北面を除くほとんどの窓がエコガラスです。

「空調のコントロールがいいですね」と、勤務スタッフはにっこり。新しいシステムの性能はもちろん、外の冷気や熱気の入り込みを防ぎつつ室内の快適空気を保つエコガラスも、一役かっていそうです。

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エコガラスの開口に囲まれたピロティの地下では、旧建物の躯体がクールピットとして稼働。環境学習で訪れる小中学生が休息する場など多様な使い道のあるフリースペースとなっている

見学者が自由に出入りすることもできるあいち環境学習プラザはセンター内でもっとも窓が多く、ここにもエコガラスが採用されました。
訪れる人が快適に展示や講座を楽しめるように…そんな配慮が感じられる明るいスペースです。

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エントランス脇のあいち環境学習プラザ。天井まで伸びるエコガラスの連窓は、上部に外倒し、下部は片引きと2タイプの窓を組み合わせている

一年を通して室内環境の安定が求められる実験室もまた、エコガラスが役に立てる場。持ち前の断熱力で外気の影響をシャットアウトしながら採光し、快適な作業を支援しています。

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安定した室内環境が求められる実験室でも、大きな開口が取れれば仕事場としての快適性も向上(写真提供・愛知県環境調査センター)

執務室に戻って窓から外を見ると、半透明のスクリーンが目に入りました。シースルータイプの太陽光発電パネルです。センターの南面には窓の外側に鉄骨の枠がついており、一面に広がる太陽光発電パネルはここに留めつけられているのです。

『メカニカルバルコニー』と呼ばれるこのスペースはメンテ時の足場となるほか、パネルをつけることで外壁が二重構造=ダブルスキンとなり、建物の日射遮蔽効果を高めています。さらには大量の配管群をパネルで上手に隠して美観をつくるという、一人三役の役割を担うスグレモノ。
エコガラスとともにパッシブな省エネを支える存在でしょう。

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執務室の窓から見るシースルー太陽光発電パネル。視界はほとんど遮られていない

小久保さんは「シースルーの太陽光発電パネルは普通のパネルより価格は高く、発電力も低いです」と話します。その一方で視線が通ることで仕事環境は快適性が保たれ、外光が入って室内の照明利用を減らせるメリットもあります。「普通のパネルだったら室内は真っ暗ですよ」とも。

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メカニカルバルコニーの様子。外壁との間にできたスペースにたくさんのダクトや配管、配線の束が見える。取り付けられた太陽光発電パネルが目隠しの役割を果たし、外観からこの状態は想像できない

ここには、建物のZEB化時に求められる“ある種のバランス感覚”といったものの一端が現れているようです。

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通常の太陽光発電パネルとシースルーパネルを組み合わせることで意匠性が生まれ、独特のファサードデザインを獲得している

ZEBは人と建物の両輪で。運用しながら改善は続く

愛知県環境調査センター本棟の2020年度の一次エネルギー消費量は、太陽光発電による創エネルギー分も含め141GJで、基準値である9,652GJに対し98%削減。Nearly ZEBにふさわしい高いレベルの省エネを実現しました。しかし、これで終わるものではないといいます。

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2020年度の一次エネルギー消費量グラフ(資料提供・愛知県環境調査センター)

センターでは竣工後も、建物性能の検証や無駄を省き高効率な運用を進めるための改善等、一連の取り組みを続けています。
『コミッショニング』と呼ばれるこのプロセスは、計画・設計・施工・運用を通じて今回のZEB化に関わり、現在も環境管理業務を担う大成建設との協働作業であり「使用する方々の協力が不可欠」と九鬼さん。

つくったら終わりではなく、使いながら工夫し、業務に従事する人々の意識をも高めながら継続していく。それこそがZEB本来の姿なのでしょう。

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九鬼さんが常駐する管理室にはセンターのエネルギーや環境情報が集まる。BEMSのほか、2温水回収ジェネリンクや井水熱源ヒートポンプチラーの状態、全館でのエネルギー使用状況が一目でわかる回路図まで、数台のパソコンで確認することが可能だ

「2020年度のCO2削減量は486t。カーボンニュートラル社会の実現に向けた建物で自分は働いているんだ、と感じるようになりました」小久保さんの言葉です。

人と建築の両輪で成り立つZEB化への取組が、迫り来る現実となった気候変動・地球環境問題と確かにつながっていることに改めて気づいた、秋の一日となりました。

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あいち環境学習プラザでは、今後普及が予想される新しい環境技術も展示。集光器で集めた太陽光を光ファイバー経由で室内に放射するシステム(左)や、内側を反射鏡に加工したダクトを通して外の自然光を建物の奥まで導く薄型水平光ダクトや有機EL照明(右)などを目の前で体感できる

取材協力
大成建設(株)設計本部・エネルギー本部
取材日
2021年10月14日
取材・文
二階さちえ
撮影
渡辺洋司(わたなべスタジオ)

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