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事例紹介 / 新築

エコガラス窓から望む海
南房総のベンチマークハウス

千葉県 H邸

立地
千葉県南房総市
住宅形態
木造在来工法平屋建
住まい手
夫婦+愛猫
延床面積
161.89㎡
利用した補助金等
地域型住宅グリーン化事業

今月の家を手がけた工務店

早川建設
https://www.hayaken.co.jp/

窓から望む太平洋 シンプルで広やかな平屋の家

南房総市白浜町は千葉県の最南端に位置しています。
温暖かつ都心に近いリゾート的なイメージを持つ一方、冬は氷点下を記録する日もあり、また一年を通じて強い海風が吹く土地柄です。

Hさんご夫妻の新しい住まいは海辺まで直線距離で約300m。緩やかな坂を少し上がったところに建っていました。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-外観

建物の東に海へと向かう坂道が走っている

招き入れられたのは、窓から太平洋を望む20.8畳のLDK。勾配天井の最高高さは約5mあり、シンプルな内装と相まってひろびろと気持ちのいい空間です。
「広めのリビングでキッチンとダイニングを一直線に置きたい、と設計者に話しました」と、奥様のIさんは話します。ソファを置き、畳も敷いて、おふたりと元保護猫のニコちゃん(3歳♀)のメインスペースとしました。

南面には大きな掃き出し窓が並び、デッキに出れば隣家の屋根ごしに太平洋が広がります。
部屋の隅には、目の高さに合わせて横長の窓を切ったカフェスペースも。ここはHさんのお気に入りで「毎朝ここで1日のスケジュールを確認して、仕事に向かいます」
すっきりしていながら、中身はもりだくさんのLDKです。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-リビング

4つの窓のどれからも海が見えるLDK。腰窓の下に敷かれた畳はピンク色で、この空間によく合っていた

  エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-カフェスペース

横すべり出し窓の高さはカフェテーブルを基準に決められた。「お正月には海から昇る初日の出が見えます」

キッチン背後にはリモートワークできる書斎兼ニコちゃんのケージがある部屋、その先に寝室があります。LDKと同様にデッキに向いた掃き出し窓を確保しつつ、プライバシー性の高い空間として前面道路から奥側に配置しました。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-寝室

寝室は2面採光。鮮やかなターコイズに塗られた壁の先は書斎兼ニコちゃんのケージ部屋で、LDKにも抜けられる

水まわりなどのユーティリティは、東西に走る廊下と平面中央のWIC、パントリーを境にして北側へと集中させています。
常に海風が吹く環境を考えてIさんが希望した、室内干しできるランドリールームもここ。

「共働きで不自由なく暮らせる、シンプルで必要最低限の家です。2階建も考えましたが、検討するうちに『使わないね』となっていきました」Hさんが振り返りました。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-ランドリー

西端から廊下を見る。左手に玄関やユーティリティが並び、右手には収納を経てLDKほか居室を配置。LDK側には建具をつけず、南大開口からの自然光を取り込んでいる。北側浴室に隣接するランドリールームも海辺の暮らしには欠かせない

配置カンペキ断熱シッカリ採光バッチリ エコガラス窓を使いこなす

窓はすべてアルゴンガス入Low-Eガラスです。が、まず印象に残るのはその大きさや配置のメリハリでしょう。

もっとも大きいものはLDKと寝室の掃き出し窓で、高さ約2.2m幅約1.7m。デッキにつながっていることで室内空間を拡張させているほか、青く輝く水平線という最高の借景を存分に取り込む役割をも担っています。
ちなみに手前の家はご両親の住まいで「前に何も建たないのがわかっていますから、開口を大きくしました」。周囲からの視線も気にならず「完璧な配置です」Hさんが笑いました。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-南窓

リビングにいながら太平洋を望む、リゾートホテル並みの眺望。隣家の屋根からの照り返しもあるが「気になりません」と住まい手。エコガラスの断熱力が見えるようだ

対照的に東西と北面の窓は小さく、高めの位置についています。
玄関のある北側に付随するガレージもシャッター付きの完全屋内型。住人の気配は感じられません。そこが狙いだといいます。
「このあたりのご近所は車の在る無しで人がいるか判断します。防犯面からも、家の様子をあまりわからせたくないんですね」

大きな開口でなくても採光は問題ない、とも。
朝は東の腰窓とカフェスペースの窓からリビングに日が入り、その後太陽は高度を上げながらデッキ側へと移動します。LDKと廊下の境は建具がなく、掃き出し窓から入る外光が届いて「照明なしでも、夕方まで明るいですよ」

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-外観

近隣の通行がある北側は閉じた印象だ。シャッター付きのガレージは壁の断熱材にグラスウール、窓はアルゴンガス入りエコガラスを採用し、住宅並みの性能を持つ

明るさの秘密をもうひとつ。高窓の存在です。

北面には玄関ポーチと洗面にそれぞれ横長の高窓がつけられています。
どちらのガラスもはめ殺しの型板タイプで、役割はほぼ採光に特化。外から覗けない位置に切ることで安心・安全性も高めました。
「洗面は明るくて、朝の化粧にも便利です」Iさんの笑顔です。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-窓

廊下側から見る玄関ポーチの窓と、洗面スペースの窓。どちらも脚立を使わない限り外からの視線は通らない。型板ガラスにすることでさらに安心感が高まる。高窓からの自然光は室内奥まで届く特徴があり、横に長くすれば照らす面積も広がる

省・創エネと心地よさと。ZEHの凄みがここにある

H邸はZEH、かつ長期優良住宅です。環境性能を示す主な数値は以下のとおり。

・Q値:1.51
・UA値:0.36
・C値:0.28
・耐震等級3
・省エネ等級4

開口・外皮面では窓ガラスへのアルゴンガス入Low-Eガラスの採用はもちろん、配置に応じて日射取得型と日射遮蔽型を使い分けています。南窓は取得型、東西北窓は遮蔽型です。

ほかに室内ブラインドでも日射遮蔽し、南面では軒を深く出して夏季の強い直射日光を防いでいます。
壁には100mm厚の硬質ウレタンフォーム断熱材を入れ、日射熱はもちろん外部空間の熱気や冷気の影響をしっかり低減。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-軒

南側の軒の出は1.2m超あり、日射遮蔽のほか少々の雨でもデッキに出やすい

断熱・気密化された室内の空調は、壁から吹き出すタイプの全館システムが担っています。家じゅうの温熱環境を1台のエアコンで冬暖かく夏涼しく保ち、床暖房もありません。追加のエアコンが必要になったらと壁にコンセントをつけておきましたが「要りませんでした(笑)」。

エアコンは26℃設定で終日回し、就寝時のみスイッチを切ります。全熱交換型の24時間換気システムが適度な室温を保ちながら室内空気を清浄に保って、ここでは海辺ならではの潮の香りもありません。
「この家に住んでから、睡眠の質がよくなりました」住まい手のそんな言葉に思わず頷きたくなる、不思議な“空気のきれいさ”が感じられるようでした。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-浴室

浴室は西面に縦すべり出し窓を設置。しかしこの窓が開けられることはほとんどないという。「室内が乾燥気味なので、入浴後は扉を開けて居室内に湿気を流すようにしています」とHさん。高気密高断熱の家の新たな常識のひとつかもしれない

創エネもZEHにおいては欠かせない要素です。H邸は屋根に6kwの太陽光発電パネル、ガレージの隅には容量13.5kWhの蓄電池が設置されています。
個人住宅としてはかなりの高ポテンシャルに驚きます。Hさんは「昼は発電と充電、夜は充電した電気のみで生活しています」
日進月歩の環境・エネルギー技術の一端が、垣間見えるようです。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-蓄電池

ガレージの隅に大容量蓄電池が鎮座する。テスラの蓄電池は増設も容易なんですよ、とHさん

故郷への愛と誇り「南房総らしい家の基準に」

実はHさん、南房総市・館山市・鴨川市・鋸南町を中心に1980年代から住まい手本位の住宅建設に取り組んできた工務店『早川建設』の二代目です。
2014年に会社の実質トップとなってからは“ゼロエネルギー”と“安心安全”な家づくりへと特化。 2021年度にはじまった6つ星ZEHビルダー登録制度でも 即時評価されて現在に至っています。足掛け10年、 ZEHメインの家づくりに取り組み続けている環境住宅のプロフェッショナルなのです。

自邸として完成させたこの高性能住宅を、つくり手として「快適性が想像通り。すべてが計算通り・提案通りです。妥協がない家」と表現しました。
「南房総の家づくりの基準になる、ベンチマークと位置づけています。この家の性能をめざせばいい」と、力を込めました。

H邸が実現した“耐震と創エネ”“全館空調”“高断熱高気密”を基準に、意匠や素材感は住まい手自身が選んでいく。それが極意だというのです。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-リビング

性能面では妥協のないH邸だが、内装や細かいインテリアなどは「壁紙はビニールクロスです。サーキュレーターはネットで買って自分たちでつけました」と屈託がない。譲れない部分以外は住まい手の考えや好み、予算事情に任せるこのスタンスは、高性能住宅の普及にとって実は大事な要素なのかもしれない

台風に強い軽い屋根やシンプルな平面計画など多様な要素の規格化も進め、南房総らしいコンセプト住宅の提案もしています。地域の住環境全体のレベルアップをはかろうとする、壮大な取組でしょう。

その根底に流れるのは、この地の典型的な住まいで育ってきたご夫妻自身の経験でした。

建物は無断熱で暑くて寒い。真冬は室内でジャンパーを着込んでも朝は寒くて目が覚める。年中吹く海風は隙間風と砂埃になって部屋に入り放題… このあたりはそんな家も普通だった、とおふたりは振り返ります。
新築するときも「親戚やつきあいのある工務店に依頼してなるべく安く」に重きが置かれ、快適な温熱環境という価値観には遠かったのです。

けれどHさんは、そんな南房総エリアの家づくりが少しずつ変わってきていると話します。
「とにかく安く、快適さはどっちでもいいという声が減って、生活を良くしたいと考える方が増えてきました。暑くも寒くもなく“あたりまえに住める家”が選ばれ始めているのです」
早川建設の貢献は、疑いようもないでしょう。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-南面

令和元年の台風15号がもたらした被害の教訓を念頭に置く“軽い屋根材の採用と平屋”は、早川建設がうたう南房総地域のコンセプト住宅にとって根幹のひとつ。耐震を考慮した構造計算の必須化やシンプルな矩形の平面も同様だ。H邸はそのすべてを満たしている

シンプルが基本のH邸ですが、ところどころに遊び心あるディテールも見られます。

カフェスペースの木製机は、以前の住まいのダイニングテーブル。この家では半分にカットしてカフェテーブルになりました。
トイレはヘリンボーン張の床に猫の足跡模様の壁紙。ランドリールームや寝室の壁にも鮮やかな色彩やカラフルな柄が踊ります。

「人が見ないところで、柄や色で遊びました」と楽しげに語るご夫妻。家づくりのプロとしての責任感と暮らしを楽しむ豊かさが同居した“住まい空間へのあふれる愛”が、そこには確かにありました。

エコガラス窓から望む海 南房総のベンチマークハウス-カフェテーブル

シャビーな雰囲気もある味わい深いカフェテーブルはご夫妻の歴史にとっても大切な存在に違いない。トイレを飾る可愛らしい足跡が、ここがバリバリの高性能住宅であることを忘れさせる

取材日
2023年10月13日
取材・文
二階さちえ
撮影
小田切 淳

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