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事例紹介 / 新築

窓はトリプルエコガラス
母に贈る心地よい住まい

埼玉県 O邸

立地
埼玉県所沢市
住宅形態
木造軸組2階建
延床面積
104㎡

今月の家を手がけた工務店

(株)夢・建築工房
https://yumekenchiku.co.jp/

1階だけで暮らせ、暖かく涼しい。小さな母の家

高齢の親御さんを第一に考えた、やさしく暖かい断熱住宅を今回はご紹介しましょう。

木造2階建の住まいです。けれど施主のOさんいわく「母の生活が1階ですべて成り立つ家にしました」。

近年、平屋の新築住宅が静かな人気です。超高齢社会が到来した今、階段の上り下りなく暮らせるメリットの大きさがうかがえるようです。

1階はLDKとともに、ベッドや安楽椅子のあるお母様の居室が配置されました。外部デッキに続く南向きの掃き出し窓から採光し、観葉植物もよく育つ明るい環境です。リビングとの境に走る敷居は段差がないものを選んで、つまずきの心配をなくしました。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-外観

シンプルな矩形の平面を持ち、地震にも強いO邸外観。南側に庭を大きく取り、太陽高度の低い冬季も日差しを確保した

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-取材風景

1階ダイニングテーブルでお話をうかがった。お母様の部屋とリビングにはフルハイトの建具を採用しており、引き開ければほぼ一室空間

洗面などのユーティリティは建物北側に集中。玄関脇のトイレはリビングからも近くて便利です。
O邸の1階は廊下がなく、エントランス空間とリビングはほぼ一室空間。室温ムラをなくすことでヒートショックの不安を解消しているのです。設計を担当した『夢・建築工房』からの提案でした。

外につながる扉や三和土がある玄関は寒いと考えがちですが、外皮断熱を徹底すればリビングと変わらない室温が実現できます。
玄関ドアには中央に明かりとり窓が入っていますが、トリプルガラスにして外気をシャットアウトしました。光は入れて冷たい空気は入れない。断熱ガラスの強みが垣間見えるディテールです。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-見返し

洗面上部はW1570×H570の大きな型板FIX窓で採光。ふたつあるトイレの窓はW500×H770とW500×H970。水まわりの北向き窓を大きくできるのは、エコガラスの高い断熱力あってこそ

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-パントリー/洗面回遊

トリプルガラスの入った玄関扉を入ると、靴箱を兼ねた土間やトイレ、階段、洗面スペースがリニアーに並ぶ

2階はOさんご夫妻の寝室や家事室、多目的スペースを配置しました。居室は2面採光です。
敷地南面に広めの庭を残したため、四季を通じて隣家の影は届きません。「日当たりはとてもいいですよ」とOさんがにっこりしました。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-シュークローク/浴室

2階の家事室も2面採光。ベランダに続くテラス窓から日がよく入り、部屋干しの洗濯物もよく乾く

こだわり抜いたトリプルエコガラス窓で徹底断熱

施主のOさんはかつてガラスメーカーに勤務され、エコガラスについても熟知しています。新築時の希望を問うと、打てば響くように「断熱性能ですよ」と返りました。

ここに加えて、専門家としての知識やこだわりの要素が入ってきます。

  窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-子ども室

メーカーの営業部門で機能ガラスに携わった知識と経験、豊富な情報量をベースに、計画・設計を進めた施主のOさん。エコガラスに防犯ガラスを組み合わせて環境と安全性能を向上し、快適で安心な住まいをつくりあげた(撮影時のみマスクを外していただきました)

すべての窓にエコガラスを使うのは当然として、中間層はアルゴンガス入りを指定して熱貫流率をさらにダウン。中間層の素材も一般的なアルミでなく樹脂にして熱伝導を抑えています。サッシももちろん樹脂一択。

  窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-リモート室

アルゴンガス入りエコガラスに防犯ガラスを合わせ、3枚のガラスが樹脂サッシにおさまる。中間層はチャコールグレイの樹脂だ。おなじみの銀色に輝くアルミ中間層とはひと味違い、目新しい

開け閉めの仕方も気密性を重視し、掃き出し窓だけを引き違いにして、ほかは大小を問わずFIXまたはすべり出し窓にしました。

昨今よく見かけるようになったすべり出し窓は、縦タイプでは外の風をつかまえ室内に流れ込むよう促し、横タイプは開けておいても少しの雨なら吹き込まず、さらに外から侵入しづらいという防犯上のメリットも備えています。

私たち日本人の多くは引き違い窓に親しんできていますが、気密の面ではやはり優位性があるすべり出し窓。
位置や手の届きやすさも考慮に入れつつ取り入れれば、断熱性能向上の大きな力になってくれます。

ガラスは南面テラス窓のみ2枚で、他はすべて3枚=トリプルガラスにしました。室内側は台風などの自然災害や侵入犯罪への対策として、防犯複層ガラスを採用。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-リビング掃き出し

2階にあるOさん夫妻の寝室。テラス窓は引き違いだが、東向きは縦すべり出し窓を配置。時々開けて風をつかまえ、換気する

さらに、エコガラスの性格を生かした使い分けもされています。

南面の窓では、冬場の太陽光をある程度取り込める“日射取得型”エコガラスを選び、豊かな日差しで室内に陽だまりができるようにしました。
一方、西と北を向く窓では夏の強い日射熱への対処性能を強めた“日射遮蔽型”エコガラスを選択。盛夏には北方向からも射してくる西日を遮断して、室内の気温上昇を防いでいます。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-上げ下げ

エコ+防犯ガラスが入った樹脂サッシ窓が並ぶ。日射取得型エコガラスを通して柔らかい日差しが入り、床に陽だまりが生まれている。テラス窓のガラスは大きく、シングルガラスの生活からエコガラスに変わった当初は住まい手の多くが「開け閉めが重くなった」感覚を持つ

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-玄関窓

キッチンの窓はO邸にふたつしかない西向き。隣家の壁が近く、西日が差し込むことはあまりないが、日射遮蔽型エコガラスを採用し断熱を徹底

窓以外の断熱も徹底しています。

壁・屋根・床などの建物外皮部分で、壁には約200mmのグラスウール断熱材。屋根はやはりグラスウールの吹込タイプ断熱材を350mmの厚さで入れました。
床は基礎断熱で、立ち上がり部に100mm、床部分に50mm厚の発泡プラスチック系断熱材を張っています。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-主寝室/WC窓

家事室テラス窓の足元では、壁に入れられた約200mmのグラスウール断熱材が可視化していた

建物全体がエコガラスと断熱材で包み込まれることで、冬は冷たく夏は熱い外気が中に入らず、同時に空調された室内空気は外に逃げません。
床下空間も断熱範囲なので、床暖房なしでもフローリングの床が冷たくならず「スリッパを履かなくていいんですよ」Oさんの言葉です。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-キッチンと上げ下げ

基礎断熱された床下空間とリビングがガラリを通して室内空気を共有し、湿気による建物の傷みを防ぐ。床フローリングはタモの無垢材

室温の目安は“19℃”。冬はこれ以上、夏はこれ以下が保たれる

O邸の空調機器は、エアコン2台と小さな電気ストーブ1台だけです。一年を通じた室内環境の整え方をうかがってみましょう。

この家でもっとも長い時間を過ごすお母様に、1日を振り返っていただきました。印象的だったのは、空調そのものをあまり使っていないことです。

まずは記憶に新しい冬場について。
「朝起きてから1時間くらいは何もつけません。真冬でも室温が17℃以下にならないので、寝巻のままでいろいろできます」とにっこり。その後は着替え時に電気ストーブ、家族が集まったところでエアコンを回しますが、それも1時間ほどで切り「夕方まではつけません」

日が落ち、入浴後に少し冷えてきたら1時間ほど電気ストーブをつけ、その後就寝。朝までエアコン不要というわけです。

「外からの日差しのおかげで暖かくいられます。窓からの光が足元に当たるんですよ」
と、指し示されたのはベッド脇の安楽椅子。オットマンもついています。「ここに座って、窓から庭を眺めているのが好きですね」
室内外の花や緑を目にしながらの豊かな時間を思いました。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-掃き出し外観

東南に大きな開口を持つお母様の居室は、O邸でもっとも快適な箇所。アマリリスやシクラメンが美しく咲いていた

夏も窓をあまり開けず、かつパッシブな住みこなしがなされています。

まずは起床後、階段踊り場と2階の家事室の窓を開けます。北と東にそれぞれ向いたこれらの開口から風が通り、24時間換気システムも手伝って、良い風の流れができているようです。
あとはその日の状況に応じて「日中に一度弱くエアコンをかけることもあります。すぐ19℃くらいまで下がりますよ。そこでスイッチを切っても、翌朝までそのままの室温が保たれます」とのこと。

驚きの数字ですが、竣工時に測定された断熱性能の数値を聞けば「それもありかも…」との感じは、なきにしもあらず。

O邸のUA値は0.27です。
国土交通省の住宅性能表示制度が定める省エネ等級の最高は7で、UA値はO邸が立地する6地域の基準が0.26。ひとつ下の等級6は0.46ですから、ほぼ等級7と言ってよいでしょう。
C値もうかがいましたが、こちらは「低すぎて測定不能」だったそうです。

さらに、オール電化であることを前提に冬と夏の電気料金をうかがいました。
もっとも寒い1月2月でひと月約1万3000円で、暑かった昨年夏も、ひと月1万円に届かなかった、とのこと。

シンプルでかわいらしい住宅は、高い実力を隠していたのです。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-バルコニー窓

一年を通してもっとも開けられる階段室と2階家事室の窓。階段は建物平面のほぼ中央にあり、踊り場の窓は家全体の通風換気のカナメでもある

日本の家は寒くて暑い。今こそめざす“世界基準の快適さ”

かつて暮らしていた住まいを「大きすぎて寒く、窓は結露して大変でした」とお母様は振り返ります。「だから、小さい家に憧れがあったんですよ」

柱と梁で構成され、壁の代わりに襖や障子を立ててきた伝統的な日本家屋。内と外の境があいまいな建物の断熱は難しく、全体を空調せずに人の体だけ暖める火鉢やコタツ、ストーブで“暖をとる”方法が長く続けられてきました。

その文化は家族だんらんの象徴として今も愛されていますが、一方で国内の多くの住宅は、WHOが『住まいと健康に関するガイドライン』で勧告している『寒さによる健康影響から居住者を守るための室内温度として18℃以上』の目安に届かないまま。
昔ながらの寒いお風呂や洗面、トイレがヒートショックの主原因にもなっています。

同様に、地球温暖化の影響で厳しさを増す夏の暑さによる“家の中での熱中症発症”も増加の一途をたどるばかり。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-トイレ

取材に訪れた3月上旬の午後、家事室西窓に置かれた室内温湿度計が19.5℃を示す。この日は家全体が無暖房だった

窓や壁に断熱力があれば、小さなエアコン1台で省エネしながら部屋は涼しくできます。必要以上に広すぎない家であれば、使うエネルギーもさらに少なくできるでしょう。

省エネや快適さ、さらに最近では電気料金の抑制が住まいの重要なファクターであることは、いうまでもありません。
そこに高齢社会での健康配慮という要素を加えたとき、“小ぶりで、1階だけで生活でき、高い断熱性能を備える”O邸は、これからの日本の住宅のあり方にリアルな示唆を与える、そんな存在になり得るのではないでしょうか。

窓はトリプルエコガラス 母に贈る心地よい住まい-網入り

1階のトイレ扉にはめ込まれていた『結霜(けっそう)ガラス』。昭和の初めまで使われていた古いタイプのデザインガラスで、これは大正期のものだという。「旧丸ビルの解体時に研究用に残されたものの一部を再利用しました。百年前のガラスです」往年のガラススペシャリストのOさんらしい、貴重なコレクションだ。美しいレトロと最先端、2種類のガラスが同居する心地よさに、未来の住まいの姿が見えるよう

取材日
2023年3月6日
取材・文
二階さちえ
撮影
金子怜史

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