事例紹介 / 新築
Low-Eガラス窓の家で得た
性能・快適・プライバシー
東京都 S邸
性能重視の合理性と家相を両立した設計
都心の住宅地内、茶と白のツートーンでまとめられた新築住宅を訪ねました。
かつてここに建っていた家にSさんご夫妻がやってきたのは2004年。1963年竣工の中古住宅に、水まわりに加えて窓のアルミサッシ交換など、老朽化した箇所を更新する部分リフォームを施して入居したといいます。
夏暑く冬寒い家だったと振り返る住まい手が旧宅の解体と新築に踏み切ったきっかけは、新型コロナウイルス発生拡大が招いた在宅勤務です。
「一日暮らすと辛い。家の住み心地について考えるようになりました」
家づくりにあたって定められたのは、ふたつの軸でした。
ひとつは、技術畑の仕事を持つSさんにとってはごく自然な要素であろう“合理性”です。
現代に合わせた耐震のほか、高い断熱性能の確保を念頭に施主自ら「樹脂サッシの窓にしたらどうだろう」と設計側に提案し、UA値などの計算も求めました。
一方、太陽光発電パネルの設置は見送っています。
「もう少し技術が枯れてくればいいですけどね。今だと十数年で壊れるかもしれない」現時点でのパネルの耐久性やメンテナンスに対する深い知識と認識がうかがえました。
もうひとつの軸は“家相と暮らしやすさ”です。
ほぼ正方形の平面は、土地の形状に合わせると同時に「家は欠けがないほうがいい」というSさんの考えをも映しています。
中央を南北に走る廊下が全体を東西に分け、LDKは東側に配してキッチンを南に。一般的に日当たりなど条件が良い南面はリビングとするのが定石ですが、鬼門・裏鬼門にあたる方角への水まわり配置を避けるためにこの間取りが選ばれました。
キッチンは昨今の新築住宅では減少傾向にある“独立型”です。調理へのこだわりかと思いきや「前の家と同じ形にしました。汚れやすいところでもありますし」
新しい家の住み心地を考えるとき、以前と変わらない使い勝手も大切な要素のひとつかもしれません。
同時に、安心安全に配慮した変更もまた新築の基本でしょう。
玄関から2階に続く階段はゆるやかな折り返しタイプです。旧宅は直階段でしたが「落ちるとこわいですから」。住む人の思いに応えつくられた階段は踏面も広く、安全に上り下りできそうです。
窓はすべてガス入りLow-Eガラス+樹脂サッシ
東西南北に開口があるS邸の窓はすべて、樹脂サッシにアルゴンガス入りLow-Eガラスをはめ込んだ高断熱仕様です。
壁や床など他の建物外皮はセルロースファイバーとプラスチック系の断熱材を使い分け、最終的にUA値0.53を実現。長期優良住宅に認定される高性能住宅となりました。設計を担当した丸山工務店の丸山勇人さんは「樹脂サッシと断熱ドアの存在が大きかったですね」と話します。
ここ数年続く酷暑も踏まえ、以前の家とも比較した温熱面の体感をうかがいました。
エアコンは各居室にありますが、起床時はどれも稼働していません。「寝ていても暑さで目が覚めたりはしませんね」とSさん。
就寝前にエアコンを止めて夜じゅう閉め切られた1階は朝になってもムッとする暑さはありません。2階の寝室を出て洗顔しながらスイッチを入れ、朝食を終えたらオフにします。
2階に上がり、今度は自室を空調して在宅勤務を始めますが、引き戸は開け放したまま。「前の家の2階は、夏は上がれないほど暑かった。今は大丈夫です」
ホールには南に面した幅2m超の掃き出し窓がありますが、外の熱気はとくに入り込まないようです。
仕事を終えれば階下に降り、あとは就寝前に寝室のエアコンを1~2時間程度回してから閉め切って眠ります。
1日を通して“誰かが使っている部屋”のみを空調する。これは冬も同じですが、浴室やトイレ、廊下などでも寒さを感じることはないとのこと。
「吹抜けがあるような家は全館空調でもいいけれど、この家は細かく仕切っていますから」とSさん。住まいの特徴を把握し考慮した上での手法でしょう。外皮全体の高い断熱性能がベースにあることはいうまでもありません。
日差しからくる日射熱についてもうかがいました。
S邸は周囲の住宅群との間隔が狭く、軒天も庇もほぼありません。南側は前面道路が走ってひらけ、夏は直射日光を受けますが、ベランダにつけたポリカーボネートの庇が「3割くらいカットしてくれます」とSさん。自室の机脇の掃き出し窓がちょうどその開口にあたり、普段はレースのカーテンを1枚引いているだけといいます。
他の窓も、多くは隣家の壁が日差しを遮るので気にはならないとのこと。
その中で唯一、西日の直撃を免れない2階寝室窓だけは夏じゅうシャッターを下ろしています。
日射熱対策ではスダレやヨシズ、シャッターなど窓の外側で日差しを遮る“外部遮蔽”が、ブラインドやカーテンといった室内の遮蔽ツールに比べて、より高い効果が期待できるのです。
日中からシャッターを下ろすのはどうも… という考え方も、もちろんあるでしょう。S邸では寝室という就寝時のみ使う居室だったことも、終日閉め切るという選択肢を可能にした要因といえそうです。
季節が移って冬になればこのシャッターは上げ、代わりに北窓のシャッターを閉めることが多くなるとのことでした。
光は取り入れ視線は遮る。都市住宅で活かされる型ガラス
「夏も冬も、家じゅうどこも温度差がない。ストレスがなくなりました」と話すSさんに、お好きな窓やお気に入りの箇所についてもお聞きしました。
最初に挙がったのはキッチン南側、FIXと引き違いが縦に並ぶ窓です。以前の家も同じ箇所に、同様の大きさで引き違い窓があったといいます。
ふたつに分けることで引き違い窓にのみ面格子がつき、上部の窓からはよりすっきりと外光を取り入れられるようになりました。
階段踊り場の縦長窓も「あかり取りとしていいですね」
ただし、ハンドルを回して操作する縦すべり出しの形態は使いづらさを感じるといいます。
すべり出し窓の開閉ハンドルはS邸のようにくるくる回すものと、掴んで角度を変えるものがあります。すべり出し窓は構造上内側に網戸がつくので、窓だけ開けたいときには回転式ハンドルが都合が良いのです。
ただしこの機構はなじみの薄さゆえの使いづらさや煩わしさを感じる人も一定数います。すべり出し窓を検討する際には気に留めておくとよいかもしれません。
また、すべての窓で型ガラスが採用されています。リビングの掃き出し窓などは透明ガラスにレースカーテンを引くのが定番ともいえますが、S邸はプライバシー保持を優先しました。
都心の戸建住宅では、開口部の配置は設計者の頭を悩ませる要素のひとつ。隣家と窓同士が向き合ってしまったり、ともすればお隣の2階からリビングが丸見えといった笑えないことが起こる可能性もあるからです。そういった面でも、Sさんのスタンスは参考になるでしょう。
思いがけない在宅勤務が招いた“心地よい住まいへの気づき”。それらを反映した家づくりは、リタイヤ後の暮らしと住まいの計画にも多くの共通点がありそうです。
朝食を食べたら出勤し、帰ってきたら夕食を取って就寝する。今まで、家とはそんな“寝ぐら的存在”だった方も少なくないでしょう。コロナ禍が運んできたライフスタイルは、“長く過ごす=生きる場所”としての新たな住まいづくりに向き合う機会をも、連れてきたのかもしれません。
- 取材日
- 2022年7月23日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 金子怜史