事例紹介 / 新築
縁(えにし)を継ぐ新しい家
住まう人の心とエコガラスで温かく
東京都 T邸
- 立地
- 東京都品川区
- 住宅形態
- RC+木造軸組混構造3階建二世帯住宅
- 住まい手
- 親世帯(夫婦)+子世帯(夫婦+子どもふたり)
- 延床面積
- 182.98㎡
今月の家を手がけた設計者
- 黄川田 守
- (株)サイ設計
品川区高輪台は、江戸期に諸藩の下屋敷があった地です。東に広がる東京湾から第一京浜を超えるとにわかに標高が高くなり、海抜30mほどの台地が目黒付近まで続きます。
父の代からここに居を定めて70年余というTさんご一家が、旧宅を解体し住まいを新築したのは2020年のことでした。地下1階地上2階の3階建は、土地の高低差を生かしB1を1階として親世帯であるTさんご夫妻が居住。上階にご子息ファミリーが住む完全二世帯住宅です。
夫婦で住まう、新しくて思い出に満ちた家
招き入れられた室内は中央にリビングダイニングと和室、南東に奥様の部屋、擁壁に面した北側には水まわりと納戸を配置した平面。玄関ホールとLDK、和室の間には建具がなく、一室空間的なつくりです。
「椅子座になったので、このテーブルによくいます」と奥様がおっしゃるダイニングは、飾り壁でキッチンとゆるやかに隔てられたご夫妻のメインスペースです。南向きの掃き出し窓から自然光が射し込み、庭に咲く花々や緑も目に入ってきます。
オーディオやテレビを楽しむ場でもあり「クラシック音楽のyoutubeを大音量で聴いていますが、しっかり防音できているから大丈夫」
奥に進んだ奥様の部屋では、斜めに並ぶ3つの小窓に目を引かれました。すぐ脇を通る外部階段の勾配に合わせて配置されているのです。
私道ながら近所の人々によく使われる道といい「開けることはありませんが、人の通る気配を感じられる窓で、気に入っています」部屋の主がにっこりしました。
一方で、庭に面しつつ歩く人の視線を直接受けない掃き出し窓はよく開けられ、趣味の書道をする際の採光とともに換気面での役割も果たしています。
そして夜はTさんの寝室になる和室は、この家の“もうひとつのメインスペース”。新築された家の中で記憶と思い出が大切に守られている部屋です。カーペットの下には、かつての家の居間と同じく掘りごたつが設けられました。
ここは仏間でもあります。
ご夫妻には病とよく闘い夭折されたご長男がおられ、今も同じラグビー部だった同級生が定期的に集まるとのこと。掛けられた絵画や写真、思い出の品々が、新しくなった家でも変わらず彼らを迎えます。
一時は土地の売却・転居を考えたものの「そういう場だから引っ越せない。そんな面があるんですよ」Tさんの言葉です。
開けてよし閉めてよし エコガラス窓で断熱し換気する
東西南北に切られた大小の窓には、すべてエコガラスが採用されています。一般的な引き違いタイプのほかにすべり出し窓も多用し、高い断熱・気密性能を持たせました。
築70余年の住宅に長く暮らしてきたご夫妻は「最初は“窓がピチッとしている”のが息苦しかったんですよ。前の家では知らないうちに風が流れていましたから」と笑います。
窓は、住み替え前との断熱面の違いが見えやすい箇所です。おふたりの感覚はごく自然といえるでしょう。
今は「窓は一年中開けています。毎朝、体操する前にね」と奥様。同時にお掃除もして一日を始めるそうです。リビングや自室のほか、玄関脇の納戸にある2箇所の窓を開けると室内によく風が通るそう。
気密性の高い窓は息苦しそう、と心配する声をしばしば聞きますが、もともと窓は開け閉めできるもの。必要ならばどんどん開ければいいのです。
反対に浴室や洗面室の窓は、外部の擁壁と間近に接していて常に湿度が高く、たとえ水まわりであっても開けられることはありません。奥様は「それでも、ただの壁よりガラス窓がある方がいいと思います」
開口部のとらえ方・使い方はまさに住まい手次第、と教えられるようです。
その一方で、エコガラスが本領を発揮するのはやはり“閉めている“とき。
敷地についてTさんは「建て替え前は東側に池がありました。和室になっているところの地下には、今も水が流れているんですよ」といいます。このあたりは江戸期に三田用水という人工の水路が設置されていた歴史もあり、水と縁が深いのかもしれません。
その影響か「夏は涼しいですよ。窓を閉めてエアコンを少しまわし、その後はスイッチを切ってそのまま居られます」と奥様。冷やされた空気が窓を通って外に流れ出ぬよう、エコガラスがせきとめてそのまま保持しているのでしょう。
都心の家でもカーテンなしで エコガラス窓が守るプライバシー
ご子息ファミリーが暮らす上階も訪ねました。
前面道路に接する1階と2階を吹き抜けでつなげた住戸は、たくさんの開口がある明るい空間。それぞれの窓が機能に応じてメリハリある大きさと位置を与えられています。もちろんすべてエコガラスです。
2階のLDKでは、テラスにつながる掃き出し窓と南側に並んだ3つの窓に加え、アイランドキッチンの背後につく西向き窓も採光と通風に大きな役割を果たしています。
とくに縦すべり出しタイプの3連出窓は「開け幅を調整しやすく応用度が高い。流れる風も気持ちいいんです」と奥様のお気に入り。縦すべり出し窓は開けると障子が外側に張り出し、かすかな風でもキャッチして室内に取り込んでくれる“技あり”の窓なのです。
LDKは18畳、天井高も2640mmと高く、大きな気積と開口とで“夏は暑く、冬は冷えやすい”条件がそろっています。
けれど住まい手いわく「夏は暑すぎず、冬は寒すぎない。そんな体感ですよ」。エアコンは暑さがとても厳しい時のみ回し、冬は「使ったことがありません。以前住んでいた家はエアコンなしでいられませんでしたが」と笑いました。
ここでも、エコガラスの断熱力がうかがえるようです。
1階玄関と2階の踊り場をつなぐ吹き抜けにも、効果的な窓がつけられていました。
南のベランダから入る風が寝室を通り抜け、踊り場に切られたふたつの窓から自然に流れ出て行くのです。玄関に光を落とす役目も合わせ、存在感のある開口です。
もうひとつ印象的だったのは「カーテンなしで窓を大きく開けても、外からの視線を意識せずにいられます」という奥様の言葉でした。
都心の住宅で“どこにどんな窓をつけるか”は、住宅の設計者がもっとも気を使う部分のひとつ。隣家そして近くを通る人々の視線を遮りつつ明るくて開放感のある窓は、多くの住まい手が大切にしたい要素にちがいありません。
ご子息ファミリーの家では、高低差のある敷地条件を生かした窓の配置やサイズのほか、エコガラスのミラー効果が日中の外部視線をほぼカットしてプライバシーを保ち、安心感につながっています。
加えて大きな開口が取り込む自然光で室内がいつも明るく「子どもたちがこわがらなくなりました」。素敵なおまけもついてきたようです。
閉め切らず街に開き、人々を迎える暖かな家
B1に戻り、Tさんご夫妻にお好きな窓をうかがいました。
キッチン脇の丈高い掃き出し窓、斜めに配置された自室の3連窓、とそれぞれに答えが返る中、心に響いたのは「なにより“閉め切った守りの家”でないこと、明るくて防御していない感じが、この家はいいのです」というおふたりの言葉でした。
住宅地を歩くと、外から中の様子が一切わからない“閉じた家”を見ることがあります。
接道側に窓をつけず、内側に中庭と大きな開口をつくって採光する住宅は“コートハウス”と呼ばれ、不特定多数の視線にさらされやすい都心部では選ばれることも少なくありません。
しかしご夫妻は街路に向けて窓を開き、花や緑を庭に育てて街の風景に貢献する住まい方を選びました。ご長男が遺した縁を途切れさせることなく訪れる同級生たちをはじめ「ここは、いろいろな人が集まれる場なんです」と話すご夫妻の想いがそのまま形になった家なのです。
- 取材日
- 2022年4月2日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 渡辺洋司(わたなべスタジオ)