事例紹介 / 新築
カッコよさより住み心地!
安心安全・高気密高断熱ハウス
千葉県 U邸
- 立地
- 千葉県神崎町
- 住宅形態
- 木造軸組+パネル工法2階建
- 住まい手
- 夫婦+子ども3人
- 延床面積
- 147.60㎡
流域面積日本一、長さでは第2位を誇る一級河川・利根川。坂東太郎の異名を持つ国内屈指の一級河川のほど近くにU邸は建っています。
世紀をまたぐ古刹の鎮守の杜を西に、南には創業300年超の老舗酒蔵が広がる敷地と聞けば、パワースポットを訪ねるような気分にもなってきます。
さっそくお邪魔してみましょう。
使い勝手よく快適な家はシンプルかつメンテフリー
切妻屋根の2階建は2018年竣工です。酒蔵の末娘でそれまで夫とお子さんふたりとでアパートに住んでいたというUさんは「結露とすきま風のある寒い家でした。ダウンを着て寝たこともありますよ」と、かつての賃貸住宅暮らしを振り返ります。
そんな経験を背景に望んだのは「快適で住みやすくて安全、汚しても気にならず、使い勝手がいい」性能重視の質実剛健? な家でした。
設計を引き受けたのは、サクラ建設工業の寺田正己さんです。
深い緑のすぐ脇に、正方形に近いシンプルな平面の住宅が木造軸組とパネル工法を組み合わせて建ち上がっています。
「デコボコすると生活しにくい面が出てくるので」寺田さんの言葉通り、すっきりとした印象です。
豊かな日差しを受ける南面にたくさんの窓とバルコニー、テラスがあるのはもちろん、他の3面にもバランスよく開口が設けられました。鎮守の杜のおかげで西日の心配がないのも幸いしています。
電線が見当たりません。敷地内に立てたポールに電線をまとめ、地中に埋設して住居内に引き込んでいるのです。
軒も出しすぎず、強風の吹き上げで屋根が飛ばされる不安を払拭。災害時とくに最近増えている大型台風への配慮が感じられました。
外壁は高圧洗浄にも耐えるタイル張りです。昨今使われることの多い高圧洗浄機ですが、建材によってはコーティングがはがれて傷みの原因になり「そういうものはメーカーがモップの水拭きを推奨しています」と寺田さん。頻繁にはやりづらいメンテナンスでしょう。
“あとからかかるメンテとお金を少なくする”スタンスはU邸のあちこちで見られ、設計コンセプトのひとつにもなっています。
手をかけずに美しく長持ちする家をつくる。それ自体がひとつのエコへの取り組みといえるのではないでしょうか。
合わせ&Low-Eガラスの多彩な窓で快適と安全をゲット
玄関を入ると、木の空間に迎えられました。床、壁、天井もパイン材を美しく張り、ダークブラウンの家具や窓枠と調和しています。
「男の子3人なので、多少汚されてもイラっとしないような、男っぽい色調にしました」最初は白い家にも憧れましたが、とUさんは笑います。
1階はLDKに7畳の多目的室が付き、アイランドキッチンから一目で見渡せます。
北側に水まわりが並ぶ廊下との境にデザインガラスを張った室内建具を立て、全体に回遊性を持たせたことで「子どもたちがいつも駆け回っていますね」
にぎやかな暮らしにたっぷりと自然光を注ぐ開口はすべてアルゴンガス入Low-Eガラス+樹脂サッシ。1階部分では、合わせガラスと組み合わせた防犯性の高いLow-Eガラスが採用されました。
U邸のすぐ西側は鎮守の杜の遊歩道になっていて不特定多数の人々も通るため、安心安全を考えての選択です。
窓の開き方も多彩。引き違いのほかに両袖片引き窓や上げ下げ窓、ドレーキップまたはツーアクションとも呼ばれる窓まで、目的やデザインに沿ってさまざまな窓が選ばれています。
2階にある3つの居室は、どれも二面採光です。横幅1.5m以上高さ1mほどもある大きな両袖片引き窓が基本で、ふだんはレースカーテンも引かないとのこと。
隣家が間近に迫る都会の住宅地では少々難しい開口計画です。
「開口が多いとエネルギー的にはロスが出ますが、自然採光で明るくできる方がいいですから。都会だとどうしても目が合っちゃうけれど、このエリアならいいのかな」と寺田さん。
土地の優位性あってこそ可能なデザインかもしれません。
家じゅうどこも温度ムラなし、省・創エネも十分
エネルギー関連の性能をうかがいました。
断熱等級4のほか、UA値0.82、ηAC値2.2とどちらも省エネ基準値以下の省エネ住宅です。
「敷地が都市計画区域外でもあり認定申請はしていませんが、性能自体は十分です」と寺田さん。
開口部のほか、工法や断熱材も高い性能の実現に貢献しています。
「外断熱通気工法で高気密高断熱住宅にしました。断熱材は硬質発泡ウレタンです」と寺田さん。
壁の外側に断熱材を張って内側に通気層をつくり、建物上部の換気口で季節に応じた排気・換気を行うことで、夏はさわやかで冬は暖かくて結露のない住環境を創出する工法です。
さらに屋根には太陽光発電パネルを設置しました。最大出力5.5kWで、個人住宅としては大きめの発電能力を備えています。
オール電化住宅であることを前提にこの冬の電気料金をうかがうと「売電分を除いて月1万5000円くらいでしょうか」。
売電分を差し引けば、家族5人が暮らす延床面積147㎡の家で1万円を切るといいます。
窓開け+エアコン+換気システムを上手に使う
季節ごとの室内環境調整も気になります。夏と冬、さらに仕事や通学で家族が出払っている時など、どのように整えているのでしょうか。
夏は「起床したらまず窓を開けます。暑さが厳しくならないとエアコンはつけません。夏は基本、さわやかです」
玄関脇の収納エリアにある東窓からは、とくに良い風が入ってくるとのこと。風はLDKの各窓のほか、階段を上って踊り場の上げ下げ窓に向かい、外へと流れ出していきます。
朝食を終えて家族が出かけるときは、家じゅうの窓を閉め切ります。エアコンがついていればスイッチを切り、湿気排出用に2階の換気扇を稼働して出勤します。 こうすると、帰宅して扉を開けても「ムッとせず、暑くなっていません」窓や壁の断熱力が外部の熱気をきっちり跳ね返しているのでしょう。 就寝時は寝室のエアコンを1時間ほどタイマーで回して眠るそうです。これも盛夏のみ。
冬は朝晩エアコンを使います。が「起きたらLDKだけスイッチを入れ、午前中には消します。あとは人がいても夕方までつけませんね」 冷えやすい水まわりも入浴前に浴室暖房を少し回すだけ。あとは室内建具を引き開けてLDKの暖かい空気を回流させ、温度ムラを解消して全体の快適さを保っています。
とくに2階は「昼間の熱で“あったまっている”感覚があって、エアコンは本当にいらない」とのこと。聞いていた寺田さんが「厚い発泡断熱材で囲まれているからですね」とにっこりしました。 カーテンも冷気を防ぐために引くことはないといい、Low-Eガラスの断熱力が感じられます。
カッコよさより長く住める=エコな家
この家の暮らしやすさは快適さや省エネ性に限りません。
3人兄弟の母であるUさんが何度も口にしたのは「子どもがワイワイやっても音が漏れません。カラオケもできるし、車やバイクが外を通ってもうるさくない」すぐれた防音性でした。
合わせLow-Eガラスの窓は、それぞれのガラスの間に空気やガス層もあることで、熱気冷気以外に音も通しづらい性能を備えているのです。
健康・衛生面で高い性能を持つ建材も使われました。
リビングと多目的室の境、そしてトイレで使われている壁材は、調湿や防臭性能を持ちかつデザイン性のあるもの。さらに清掃面では「(以前の住まいと違って)お掃除ロボットが使いやすいです」
前述の換気システムの活躍もあってか家全体の空気が清浄に保たれ、家族はウイルス性胃腸炎にもかからなくなったといいます。
U邸は、多くの人が憧れるモダンなデザイン・テイストの白い家いわゆる“ホワイトキューブ”な住宅ではありません。木の暖かさをまとい、凝ったデザインより使い勝手や快適さを優先した“長く使う家”なのです。
「子どもたちもいるので、長い目で考えました。今カッコよくするよりもずっと使えるようにしたい。代が替わっても長く住めたらいいですね」とUさんはにっこり。
続けて寺田さんが「百年持つように、が設計の基本でした。スクラップ&ビルドにならないように。それが結局はエコになります」
戦後から現在に至るまでこの国にいまだ浸透していない“長持ちする家づくり”に、最新の環境技術を取り入れたエコ住宅。それは豊かな水と田園風景が広がるふるさとの風景そのままにのびのびと気負いなく、忘れてはならない大切な何かを教えてくれているようでした。
- 取材日
- 2022年2月24日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 金子怜史