事例紹介 / 新築
全部引き込んで大開口に
内と外をつなぐエコガラスの窓
埼玉県 K邸
“内と外が一体になった窓”に憧れて
「朝起きてリビングの窓を開けるときが一番好きな時間。四季折々で毎日風景が変わり、窓がその額縁になっています」
と、緑が茂る庭に向かう大きな窓が示されました。ピクチャーウインドーを背に、住まいを語るKさんの柔らかな声が続きます。
ご一家はこの敷地に建っていた築30年の家で暮らしていましたが、建物の老朽化が進み、冬の寒さも厳しくなって改修を考えたといいます。
しかし建物を支える土台の傷みが激しかったことで断念。「子どもたちが小さいうちに家との思い出を作っていきたい」と建て替えを決めました。
はじめに相談したのは某ハウスメーカーです。ところが“家族のことを一緒に考えながら家づくりを”との思いに反し「早く建てたそうだったんですよね」
「図面も『これでいきます』って、もう決められている感じ。長いスパンで一緒に考えてくれなさそうでした」と続けました。
ご夫妻は契約を白紙にし、初心に戻って“どんな家を建てたいのかを一緒にゆっくり考えてくれる家づくりのプロ”を探し始めます。インターネット検索する中で、野口修一さんが代表を務める野口修アーキテクツアトリエのホームページを見つけ出します。
「窓がくりぬいてあって、中と外が一体になっている家が載っていたんです。ああ、こういう感じの家が好きだなあと思って」
K邸の家づくりが再開した瞬間でした。
「窓は断熱と防犯が不可欠」住まい手の思いにこたえた“合わせLow-E複層ガラス”
計画を進める中でおふたりが大切にしたポイントは「断熱・防犯ガラス・引き込みができる窓・人が集まりやすくて隣家との行き来もしやすいこと」。開口部や窓に対する高い意識が感じられます。
思えば野口さんへの設計依頼の決定打となったのも、HPで見つけた窓でした。
そして採用されたのが、エコガラスの一種でもある『合わせLow-E複層ガラス』の窓。
断熱力の高いエコガラスと、台風など災害時での破壊や空き巣の打ち破り被害を軽減する合わせガラスを組み合わせ、住まいの快適さと安心・安全を守るという、2種類の性能を持ち合わせた高機能ガラス窓です。
Kさんのご主人は「前の家はとても寒く、結露も激しくて。だから新しい家は断熱が絶対条件でした」と、長く暮らしたかつての住まいを振り返ります。
さらに「雨戸がないので、防犯ガラスも必須ですよね」とも。
合わせLow-E複層ガラスの性能は、そんな思いにジャストフィットしたといえるでしょう。断熱性能をさらに高めるために野口さんはアルゴンガスが封入されたタイプも指定。壁の断熱材は105mmと厚くして、建物外皮全体を高断熱仕様に仕上げました。
居心地のよい家族室をつくる中間領域+コージーコーナー
K邸は1階にリビングダイニングや水まわり、2階に寝室や書斎など家族各々の部屋があります。
メインスペースは1階の半分以上を占める家族室。東西に伸びる空間は庭に向かうふたつの大開口を持ち、その配置によってゆるやかにゾーニングされています。
東側は造作デスクやつくりつけの棚がある“スタディスペース”で「中一の娘はここで勉強しています」。机がある2階の自室よりも気持ちがいい、そんな気持ちが垣間見えるお話です。
ここには、かつてお母様が住んでおられた隣家との行き来を担う開口もつけられました。外から直接出入りできる縁側付きの掃き出し窓がそれです。
“ご近所が訪ねてくるのは玄関ではなく庭先”という、かつての日本で当たり前に見られた風景が、重なりました。
ソファーとテレビのある中央部を経て、家族室の西側は対面式キッチンとダイニングテーブルのある食事スペースです。
キッチン正面には、例のピクチャーウインドー大開口。付随するウッドデッキが室内空間を庭にまで拡張しています。「このデッキで夜、音楽を聴いたり子どもと話したり、お酒を飲んだりします」とKさん。足触りのいい80cm幅のデッキには大きな庇もつき、四季を通じて庭を眺めるにも絶好の場です。
内と外をつなげる役割を持つこんな空間は『中間領域』ともいい、住宅においてはデッキテラスや縁側がその代表格です。住まい手の希望もあり、ダイニング窓での設置を提案した設計者の野口さんいわく「中間領域では“何かが起こる”可能性が常にあります。1mmでも楽しくなるように…そんな思いでした」
さらに「段差処理と同時に座れるようになる」と、スタディスペース側の窓にも縁側をつけたとのこと。縁台将棋もできそうな雰囲気ある場にしつらえたのです。
そんな家族室の全景をキッチンから見て、気づくことがありました。
ソファーやダイニングチェア以外にも、収納を兼ねた幅広い窓台や縁側、デッキ、窓に向かって降りてくる階段など、ちょっと腰掛けて本を読んだりコーヒーを飲みたくなるような場所があちこちにあるのです。
このような場はコージーコーナー=こぢんまりとくつろげる心地よい居場所、とも呼ばれます。「あちこちに居場所が点在している。そんなリビングにしたい」計画当初、Kさんが野口さんに伝えた希望が形になりました。
今は、仲のよい3つの家族で「ときどき集まって食事しています」といい、いずれは庭も使ってバーベキューをと楽しい計画も。
「人がどんどん集まってくつろげる、ウェルカムな感じでいたいですね」Kさんの言葉通り、温かく開放的で人を引き寄せずにおかないリビングです。
その一方でふと、この空間の実現には合わせLow-E複層ガラスの防犯性能も一役買っているのかも、と思いました。
住まいの開放性と安全性を考えるとき、開口部が果たす役割もまた決して小さくないはずです。
家族の暮らし方を変えた窓
K邸の窓は、かたちも大きさもバラエティ豊か。なかでも印象的なのはやはり引き込み窓でしょう。「窓がくりぬかれている」とKさんが表現した、引き開けた窓を壁にしまいこみ全面開口にできる窓で、家族室にある3つの窓はすべてこのタイプです。Kさん一番のお気に入りなのはいうまでもありません。
すべり出し窓も多く使われました。閉めた時に高い気密性を発揮するほか「開け閉めしやすくて風がよく入ります。外からの視線も遮ってくれる」とKさん。
「少しくらいの雨なら、開けたままでも降り込まないんですよ」と、こちらは野口さんの言葉です。
開け閉めには一般的なカムラッチのほかにハンドルを手で回す“オペレータータイプ”も採用しています。キッチンや玄関ではFIX窓と組み合わせ、使い勝手と採光が両立していました。
窓のこだわりは階段室にも見られます。
高い位置で2箇所に切られた窓は、南側に透明ガラス、西側では型ガラスを選びました。道路に面した南窓には、帰宅時に「家の明かりが見えるように」との思いが込められています。
一方、隣家に近い西窓はプライバシーに配慮して型ガラスに。さらに階段室と隣り合う子ども室との間には室内窓をつけ、光が導かれていました。
大小合わせて全22箇所の窓はその多くが頻繁に開け閉めされ、風通しはもちろん、風景を取り込みながら内と外とをつなげています。
そんな家に住まい始め「積極的に片付けをするようになりました」とKさん。「開放的で大きな開口が好きなので、外から見られてもいいようにね」と笑いました。
同時にインテリアや装飾に興味が湧いてきて「ここにはどんなものを置けばいいか考えたり、SNSで情報も見たりしながら」ご子息とふたりで我が家のインテリア担当を自認しているそうです。
「以前よりも家に愛着が湧きました」
設計者の野口さんは「ここはいつお邪魔しても、建主さんの『よくしていこう』という気持ちを感じます」と話します。
「住み始めると大抵は暮らしが勝ってしまうんですよ。お子さんも3人おられるし、今回もそんな予想をしていました。でも、違いましたね。ていねいに暮らしていこうとする気持ちや動きがいつもあるんです」
Kさんは亡きお母様が丹精されていた庭を見つめ「毎日毎日茂ってくる緑を見ているうちに『お花がかわいくて、見ているのが大好き』と言っていた母の気持ちがわかってきました」。
“家は人を変える”そんなことを息子も言うんですよ、とにっこりしました。
「良い建主さんが良い家をつくる。私はそう思っています」野口さんがうなずきます。
良い家と良い住まい手とは、互いに影響し合い共振しながら、明るい方へと昇り続けていくのかもしれません。庭に立つ木製パーゴラもお母様が手を掛けたもの。そこに目をやりKさんは「これから緑を、バラとかかな、咲かせていくつもりです」
いつかまた風薫る季節に、訪ねてみたいと思いました。
- 取材日
- 2021年5月23日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 渡辺洋司(わたなべスタジオ)