事例紹介 / 新築
エコガラス+合わせガラスの窓で
安心・快適な都心暮らし
東京都・T邸
- 立地
- 東京都杉並区
- 住宅形態
- 鉄骨造3階建
- 住まい手
- 夫婦+子どもひとり
- 延床面積
- 139.97㎡
断熱と安全。窓に与えられたふたつの使命
迎え入れられた室内は1階が水まわり、ゲストルームそしてガレージ。2階にリビングダイニングを配し、最上階が主寝室・書斎・子ども部屋です。
住まい選びの決め手になった窓では、エコガラスに破損しづらい“合わせガラス”を組み合わせてつくられた高機能ガラスを採用。
1階と2階につけられたこの窓は、一般的なガラスとは異なるふたつの特長を併せ持っています。
ひとつめは高い断熱性能。主にエコガラスが担う部分です。
夏は太陽から降り注ぐ強い日射熱を跳ね返して内部を涼しく保ちます。冬はガラスを通って入り込もうとする冷たい外気をシャットアウトして、室内の暖かさも逃がしません。
涼しい、あるいは暖かい住宅内部と、暑さ寒さが厳しい外部の温湿度や日射環境とを窓で遮断し、居心地よく快適な室内環境を守る性能です。
さらに、壁との決定的な違いである“透明さ”で熱を遮りつつ自然光は取り入れて部屋を明るくし、風景も楽しめるという、ガラスならではのメリットもあります。
もうひとつは防災・防犯面の性能で、こちらは合わせガラスの担当です。
合わせガラスは2枚のガラスの間に透明な合成樹脂の膜を挟みこんだガラス。固いものがぶつかっても貫通しにくく、ここ数年増え続けている、大型台風の飛来物による窓ガラスの破壊被害を最小限にとどめてくれます。また万が一割れた場合も破片がほとんど飛び散らない性質を持ち、窓の周囲を安全に保つのです。
この割れにくさには空き巣防止の効果も。外からの打ち破りに時間がかかるため侵入抑制に効果的といいます。
Tさんも「リビングのほか、ガレージに面した1階のゲストルームはとくに狙われやすいと思ったので、合わせガラスの窓は前提でした」と振り返りました。
異なる性能を備えた2種のガラスを組み合わせたこの窓は“合わせLow-E複層ガラス窓”とも呼ばれています。
取材に同席いただいた一般社団法人 板硝子協会の池田直輝さんからは、合わせLow-E複層ガラス窓のしくみに関する興味深い話もうかがいました。
「組み合わせるときはLow-Eガラスを室外側にします。合わせガラスより割れやすいLow-Eガラスを外側にすると破った時に破片が散り、泥棒は仕事がやりづらくなるんですよ」
快適さと安心の両方を満たすためにそれぞれの得意技でがんばってくれる。それが合わせLow-E複層ガラス窓というわけです。
熱気・冷気の遮断プラス開け閉めにもひと工夫。都心のエコガラス窓
2021年初頭からこの家の住人となったTさんに、室内の体感についてうかがいました。
第一声は「真冬でもエアコンは不要でした」。ゲストルーム、リビングそして主寝室と全部で3台あるエアコンは、入居以来一度も使っていないといいます。
とくにリビングは間接照明も入った高い天井と掃き出し窓があり、冷えやすい条件がそろっていますが「床暖房、しかも2分割した半分だけで過ごせました」
南に向いた掃き出し窓からは、隣家との境に抜けた空間ごしに冬の低い日差しが差し込んで快適だったといいます。
窓ぎわに置かれたひとり用ソファはTさんの特等席。「ここに座って、ゆっくり室内を眺めるのが好きですね。窓の性能を感じながら(笑)」
真冬の窓ぎわで生じるひんやりとした寒さを、誰もが一度は経験したことがあるでしょう。けれどT邸では、真冬でも床暖房だけで、足元から天井まで伸びる大きな開口の脇にゆったり座っていられる…エコガラスの断熱力を語るエピソードです。
反対に、取材に訪れた“これから夏に向かう中間期”は「窓を開けると、外がいかに暑いかに気づきます。室内に熱が通ってきていないことがわかるんですね」。
冬場と夏場、どちらにもおいても力を発揮するエコガラスの断熱性能をストレートに表す言葉といえるでしょう。
また、リモートワークでTさんが日常的に使う3階の書斎にはもともとエアコンがありません。掃き出し窓があり冷えやすい部屋に見えますが「朝のうちはちょっと寒いけど、だんだん暖かくなってきます」
リビングから階段を上ってくる暖かい空気が、エコガラスの窓と壁の断熱材によって外に逃げることなく書斎で保たれているのでは、と思いました。
ところで取材に訪れた4月末は風薫る気持ちの良い季節。自然と窓を開けたくなるこの時期にはどうされているのか気になります。さっそくうかがいました。
日常的に開けているのはシステムキッチン脇の縦長窓とリビング掃き出し窓の2箇所で、ほかに「休日は主寝室のすべり出し窓を開けています」。
浴室等を除いて、他の窓はあまり開けないといいます。
これは、断熱性能が高く室内環境が安定した住まいではしばしば耳にする話です。
加えてT邸の場合“最都心の住宅地”というそのロケーションにも、理由があるかもしれません。
住宅間の距離が近い、窓同士が向かい合っているなどで視線カットが必要だったり、隣から調理のにおいが流れてきたりと、郊外とは違うさまざまな要素が都市部の住宅地では生じます。ついている窓すべてを開けるより、状況に配慮した窓開けが快適さにつながることは十分に考えられるのです。
T邸のキッチンには背後にエコガラスの型板ガラスが入っています。「透明ではないガラスをうまく使っているよね」とこちらもTさんのお気に入り。隣家の視線を遮りつつ自然光は十分入り、明るさが保たれています。
都市の真ん中で、嬉しく心地よい窓とは?
住まいにおいては性能のほかデザイン性にも重きをおくTさんに、窓の意匠についてもうかがってみましょう。
最初に返ってきたのは「デザイン的には、窓は小さい方がいいかな」という言葉です。『窓をつけるならまず大きく広く』との希望が大勢を占める現代にあって少々驚きましたが、周辺からの視線対策も考えれば、都市住宅に求められる要素のひとつかもしれません。
確かにT邸にはいくつもの魅力的な“小さな窓”が存在します。
その最たるものが、2階のニッチなスペースに切られた高窓です。
西向きで型板ガラスが入っていますが、特徴のあるテクスチャーを持たせたモノトーンの壁に射す外光が、神秘的ともいえる雰囲気をつくり出しています。もしも窓が倍の大きさだったら、やはり印象は違ってくるでしょう。
都心の住宅地につきものの網入りガラスから解放された、視界良好な窓もあります。
主寝室では中央にFIX、その両脇に縦すべり出しを組み合わせた窓がつけられました。真ん中の大きな窓からは、家々の屋根越しにまちの風景を楽しめます。
建築基準法に定められた基準では、多くの場合ここは網入りガラスが入ります。しかしT邸では、高い耐火性能で基準を満たした“網の入っていない防火窓”が採用されました。
種類こそまだ少ないものの、都会の住宅地の真ん中でも使える網なしガラスが開発されているのです。
すっきりとした視界が得られる透明な防火ガラスは、窓外の眺望を左右する大きな要素。これからの家づくりでは、そんな窓ガラスの存在も頭の片隅に入れておくとよいかもしれません。
この家で暮らし始めて「以前よりも窓に興味を持つようになりました」とTさんはいいます。都心に家を建てるなら、周囲との関係も考えつつ「やはりできるだけ開口を取ることを勧めたい」とも。
さらに「都市の住宅の窓には、建築的な規制とそれに対応する高い技術とが盛り込まれています。ハウスメーカーの人には、そんなガラスのことをもっと伝えてほしいですよね」
ここに住んでから人を呼んで家のことを話すようになったんです、そう語るTさんの笑顔には自らの住まいを深く理解する喜びが感じられました。
いわゆる建売住宅は、すでに建ち上がったその姿に安心感をおぼえます。けれど一見みえづらい性能面についても気を配る、そんな視点とスタンスは、家さがしで後悔せず、長く愛せる存在を見つけるための実は大きな要素なのではないでしょうか。
- 取材日
- 2021年4月30日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 渡辺洋司(わたなべスタジオ)