事例紹介 / リフォーム ビル
エコガラスとレトロガラスで
素敵な窓辺あるリノベーション
東京都
SOCIAL DESIGN LIBRARY
- 立地
- 東京都豊島区
- 建物形態
- RC造2階建
- 工期
- 2023年
- 窓リフォームに
使用したガラス - エコガラス
都心の高経年ビルを“知の空間”に
豊島区上池袋の一角、周囲の建物に埋もれるように小さな建築が佇んでいます。
築30年超の事務所ビルがリノベーションされ、開かれたサードプレイスとして生まれ変わりました。
『SOCIAL DESIGN LIBRARY(SDL)』と名付けられた建物にはシェア型書店や広場、多目的スペース、シェアオフィスなどが入り、地域の企業や住民(ヒト)、セミナー・展示・文化イベント(コト)、書籍群(情報)が集まる“知の空間”。
建物所有者と大学研究者、自治体、編集者、企業コンサルといった異なる職能を持つファウンダーたちが力を合わせ、この建築企画を実現しました。
エコガラスも貢献した、時代の先端をゆく断熱リノベ建築の扉を開いてみましょう。
明るい吹抜けと参道のような通路
迎えてくれたのは、建物の所有者であるマテックス(株)に勤務する村山剛さん、田中華子さん、岩﨑美紗子さん。
村山さんは代表取締役の松本浩志社長とともに、コンセプトづくりからSDLに参画しているキーパーソンです。
物置状態だった高経年ビルのリノベーションにあたり、考えたのは「スクラップ&ビルドでなく、歴史を残しながら、費用をかけずにいかに形を変えて素敵にするか、でした」と振り返ります。
この方針に従い、建物に降り積もった時間を見せようと、一部を除いて外皮はいじらず外側の階段室もそのままに。
一方で使用面積を増やすため室内の壁を壊してスケルトン状態にし、新たに間仕切りをつけ、開口部の断熱力をアップして室内環境の快適性を向上。南北の出入口は2階の床を抜き、明るく開放的な吹抜け空間としました。
配置計画も独特です。
細長い平面の東半分を“広場”と名付け、南北の出入口を通り庭のようにつなぐ空間に。イベント開催やマルシェ、作品展示、トークセッションなどに使える自由度の高いスペースです。
中央にはレールで吊った木とガラスの間仕切りを設置し、西側にキッチンや書店、多目的スペースそして書庫を並べました。間仕切りは使い方に合わせて動かし、可変する空間にしています。
広場について村山さんは「セキュリティへの配慮で諦めましたが、本当は自由通路にしたかった」
理由は敷地の場所性にありました。
ガラスの魅力満載のリノベーション
両脇をビルに挟まれたSDLは一見、窓が少ない建物に思えます。が、一歩中に入るとガラスの専門企業が手掛けたリノベーションらしい、工夫と魅力あふれる多様な開口部が待っていました。
その多くはエコガラスです。
南北両端を明るく演出する大窓はその白眉でしょう。2枚とも2.7m角の網入りエコガラスです。「もともとは壁だったところを切ってつくった開口部です」と、営業推進部の田中華子さん。
2階床の一部を抜いて吹抜けにすることで1階の両開き扉とその周囲のガラス、大窓とを連続させて開放的な空間へと設えました。
一方、東西の壁面にある窓からは隣の建物の壁に手が届きそうです。都心ではよく見かける状況でしょう。
しかし「デッドな窓にせずアクティブな窓にしよう」とデザインが施され、見事に生まれ変わりました。
象徴的なひと窓が2階にあります。
既存の網入り窓をいじらず、木サッシにLow-Eガラスと昭和の型板ガラスを組み合わせたエコガラス仕様の内窓を設置し、その手前に木組みの棚をつけて“書棚のある窓”としたのです。
外からの光を得つつ型板ガラスの紋様がゆるやかな目隠しになり、数十センチ先にコンクリート壁があることを忘れさせます。バックバーのような雰囲気で本が並ぶ洒落た風景ができあがりました。
このように昭和の型板ガラスを多く目にするのも、SDLの大きな特徴です。
国内ではもう製造されていないこれらのガラスは「建物解体時に連絡を受けてレスキューしたものや、廃業するガラス屋さんから譲っていただいたものです」と田中さん。
昔なつかしい風情が人気を呼び、近年は『昭和レトロガラス』の愛称もついたこのデザインガラスを、内装で十二分に生かしています。
1階の間仕切りはもちろん、4つのシェアオフィス・ミーティングスペース・ラウンジがある2階では木製の格子に型板ガラスや色ガラスをおさめた壁面が構成され、見え隠れ感のある空間をつくりだしています。
「遮られていながら、孤立しない感じが好きですね」田中さんの言葉に、“透明な建材”というガラスの特異性を思いました。
開口部断熱に絞ってローコストにエコ改修
断熱リノベ建築でもあるSDL、その温熱環境もうかがいましょう。
前述の通り、外気に触れる開口部の多くはエコガラスで改修されています。
既存建築の面影を残すことを前提に、吹抜けの大開口とオフィス部分の窓以外はもとの網入りシングルガラスを生かし、室内側にエコガラスの内窓をつける手法が選ばれました。
「コスト面を考え、最低限の断熱処理として開口部のみ改修。ほかはほぼ何もしていません」と村山さん。壁自体がある程度の断熱性能を持つRC建築であったことも幸いしているのでしょう。
もとより外の熱気や冷気の半分以上は窓ガラスを通して伝わるため、開口部のエコ改修はローコストかつ手軽で効果が高い断熱リノベに直結します。
管理担当として常駐する岩﨑さんに、オープンからちょうど1年経った建物の暑さ寒さ、体感をうかがうと
「真夏は涼しくて本当に快適です。よほど暑くならないかぎりエアコンはつけませんでした」
温暖化の一途を辿る東京の酷暑をものともしない、そんな笑顔が返りました。
「シェアオフィスの利用者からも『快適でずっと居たくなっちゃう』と言っていただいています」
では、冬季はどうでしょうか。
SDLのエコガラスは日射取得タイプで、太陽光の熱を遮りすぎません。冬の日中は室内に陽だまりをつくることを前提にしているのです。
「冬場にここに来てくれる人に暖かく快適に過ごしてほしいから」と、村山さんは選択の理由を語ります。
一方で岩﨑さんいわく「床がコンクリートそのままだからか、足元が若干冷えます」。暖房はしっかり効かせているとのこと。
「でも、床はイベントなどでたくさんの椅子や机を移動させることも多いんです。フローリングより気を使わないで済むメリットがありますね」
床土間以外にも天井部分の吹き付けをあらわしにするなど、SDLのリノベーションでは、なるべく手を加えずに建物の歴史を伝える部分が意図的に残されました。
少々荒々しく見えつつも、ずっと居たくなる使い勝手の良い快適空間。エコガラスの窓もしっかり仕事しています。
コミュニティに貢献する快適な場を創る
遊休資産化した高経年ビルを、スクラップ&ビルドせずにどう生かしていけばいいのか。SDLはその疑問にガラスのプロが投げかけたひとつの提案といえるでしょう。
開口部に的を絞る断熱リノベでローコストに室内環境を整え、同時にリユース品も含めたガラスを駆使した内装デザインでコミュニティ空間を魅力的に演出、もう一度生かされて地域に貢献しようとする建築。
「ガラス屋さんの建物だよね、と言われますよ」と笑いながら「五感で窓を感じてもらえる素敵な場にしたいです」と村山さんは話します。
窓のプロフェッショナルのまなざしは、すでに次の空間づくりへと向かっているようでした。
- 取材日
- 2024年5月17日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 小田切 淳
- イラスト
- 中川展代