事例紹介 / リフォーム ビル
30周年の特養がエコガラス改修
快適さと省エネ、経営にも貢献
奈良県
ウォームヴィラ新庄園
- 立地
- 奈良県葛城市
- 建物形態
- RC造3階建
- 工期
- 2022年
- 窓リフォームに
使用したガラス - エコガラス(真空ガラス)
緑の中の特別養護老人ホームをエコガラスで改修
総務省の調査によると、2023年3月時の日本の全人口はその29%が65歳以上になりました。
人類が経験したことのない猛スピードで進む高齢化の波に洗われつつ、若い頃とは違う生活スタイルになっても豊かさや安心感をもって暮らせるように、より高度な福祉サービスが切実に求められています。
特別養護老人ホーム(特養)は、常時介護が必要な高齢者を24時間ケアし、看取りも行う総合的な施設。公的面が強く使用料も比較的安いため、多種多様な高齢者ケア施設の中でもそのニーズの高さは指折りです。
そんな施設のひとつである『ウォームヴィラ新庄園』は奈良盆地の西、大和三山を見わたす緑豊かな高台に建っています。
要介護3以上の方々の“終の棲家”をコンセプトに開館し認知症ケアやショートステイ、デイサービスにも対応、近年は介護予防事業にも取り組みながらこの10月に30周年を迎えます。
はじめは一部だけの“お試し改修”で性能を確認。
本工事はいつも通りに使いつつ約1ヶ月で完了
標高約200mの自然景観が魅力的な敷地は、一方で厳しい内陸型気候に属する土地です。
遮るもののない強い日射・西日が照りつける夏の気温は35度を超え、エアコンを入れても室温はなかなか下がらなかったといいます。
「窓からの直射日光は利用者さまの体温が上がる心配もあり、ベッドを移動させることもありました」と、施設長の森本潤哉さんは話します。
「周囲がこういう環境ですから、できればベッドにいても窓からの景色を楽しんでほしいんです」そんな思いがあるなかでもやはり入居者の体調維持が第一、とくに南に向く窓はカーテンを引いてベッドも遠ざけざるを得ませんでした。
冬の気温は零下まで下がり、年に数回は降雪も。30年近くを経た建物は場所によってすきま風もあったといいます。
高齢者の大敵である大きな気温変化の心配、さらに窓を覆う激しい結露への対処にも多くのスタッフが悩まされてきました。
改修のきっかけについて、理事長の上田麻子さんは「ウクライナ戦争以来のエネルギーの高騰です。全館の温水空調を担う熱源であるガス料金や電気料金が上がり、光熱費はいつも懸念でした」と話します。
誰もがうなずきたくなる状況でしょう。
しかし当時は断熱ガラスの情報などもなく「たまたま排煙窓に網戸をつけたくて、ガラス屋さんに連絡しました」2022年のことです。
橿原市のガラス専門会社・村島硝子商事との出会いが今回のエコ改修の始まりでした。
話を聞いたガラスのプロから「既存のアルミサッシを生かし、ガラス面だけ交換して断熱性能を上げてみては」との提案がなされたのです。
けれど上田さんも森本さんも「窓で省エネできる」とは思えなかったといいます。
「安い買い物ではないですから」と上田さんは“お試し改修”をしてみることにしました。
3階1フロアの居室の窓を試験的にエコガラスの一種である真空ガラスに換え、実際の効果を確認するものです。以前からの単板ガラスの窓とエコガラスに換えた窓それぞれの表面温度、さらに室内の気温変化も測定することに。
暑さが本格化する7月に行われたこの“お試し”で、森本さんは「変化を感じました。エアコンがすぐ効いて、しかもその涼しさが保たれている。スタッフからも『弱モードでも効きやすい』との声がありました」と振り返ります。
そして同年10月、村島硝子商事によるスピーディな施工で全居室257枚の窓が真空ガラスに交換されました。
工期はひと月ほど。入居者の住まいとして24時間稼働する施設内での工事はさぞかし気を使ったのでは? と投げかけると、森本さんは「窓の外側にあるベランダからの工事だったので、不安はありませんでした」。
各居室のあるじには工事中だけフロアや談話室に移動してもらい、数時間後部屋に帰ればエコガラスの窓に変わっている、という流れだったといいます。
既存サッシを生かすこの改修手法“ガラス交換”は、忙しく動き続ける介護スタッフの仕事も邪魔しない、素早くてなにげない工事。福祉施設や病院、オフィスなど稼働時間が長い建築空間のエコ改修でも強みを発揮しています。
「もっと前から、断熱ガラスにはこんなに効果があることを知りたかった。具体的な数値や、鉄骨造やRC造など建物タイプによる違いなどの実測データを、メーカーさんはもっと示していけばいいのではと思います」
上田さんの言葉は、エコガラスの存在とその性能がまだまだ世に知られていないこと、地球温暖化防止が待ったなしの現在、一層の周知が求められていることを教えてくれているのではないでしょうか。
健康を支える快適さと経営を支える省エネの双方を実現
エコガラスに換えた窓の断熱効果を、現場からもう少しうかがってみましょう。
かつては直射日光の強い熱にさらされ、カーテンを引いてベッドも移動せざるを得なかった夏の窓辺は「近くに立っても、ガラスをさわっても暑くない。カーテンは引かず、ベッドの移動もなくなりました」
エアコンはすぐ効くしスイッチを切っても暑くならない、と森本さんは笑います。
寒さと結露で入居者にもスタッフにも負担がかかっていた冬も、森本さんいわく「利用者さまが『寒くないよー』と言ってくれることもあります。ご自身で体感を表現できない方もいらっしゃるので、こういった声を聞くとスタッフも安心しますね」
高齢者の健康にとってよくない大きな室温変化がない、この快適さは本当に大切ですと続けました。
一方省エネについては、上田さんいわく「暖房設備をハイブリッドにして、とくに冬場の効率が上がりました」。
以前から使っているガス温水の全館空調に加え、1フロアに数台の石油ファンヒーターを設置。組み合わせて短時間で空間を暖めます。その後はエコガラスの断熱力で暖かさが外に逃げずとどまるといい「設定温度も2℃くらい下げられるようになりました」
エネルギー使用量はぐんと下がり、気温の振れ幅も小さくなって全体に安定。「いろいろ楽になりますよ」トップの心情をきたんなく示すであろう、上田さんの言葉です。
増え続けるニーズとうらはらに、非営利の公的施設である特別養護老人ホームの経営は順風満帆とは言い難いようです。利用率の影響、老朽化が心配されても建物の建替や改修を控えて黒字を維持するなど、入居者の生活環境整備と経営維持とのバランスは、決してやさしくはないのでしょう。
そんな中、温熱環境の安定と快適性の向上は入居者の健康はもちろん経営面にもメリットがある、とこちらは森本さん。
日射熱による負荷の軽減は「ご高齢の利用者さまの健康に大きな効果があります。もし体調を崩して入院を余儀なくされれば、そこは空室になって施設運営にもいいことがありません。お元気に過ごしていただきつつ経営も安定する。改修にはそういう面があると思っています」
現場での実践と経営への目配り、その両輪で施設環境を考える。今後の施設運営にはこういった高い意識が一層求められてくるに違いありません。
- 取材協力
- 村島硝子商事(株)
https://mgsnsg.co.jp/
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 小田切 淳