事例紹介 / リフォーム ビル
廃墟の再生、そして
エコガラスの支援でZEB Readyに
静岡県
リコー環境事業開発センター 未来棟・食堂棟
- 立地
- 静岡県御殿場市
- 建物形態
- RC造5階建・3階建
- 工期
- 2021年8月~2022年1月
- 窓リフォームに
使用したガラス - エコガラス(真空ガラス)
長い時を経た建物のZEB化にチャレンジ
リコー環境事業開発センターは広大な富士山麓、駒門工業団地の一角に建っています。1985年に竣工した白亜の建物は、その後一時の休止期間を経て2016年に再始動、2022年にZEB化改修を終え“環境事業の一大拠点”として生まれ変わりました。
かつては最先端の複合機やプリンターの生産拠点。が、当時の潮流だった工場海外移転のあおりを受け、2013年に動きを止めます。
その後の2年間放置された建物は、壁に苔が繁殖し内部は埃とカビとクモの巣だらけ、雨漏りも多発して、まるで廃墟のようだったといいます。
このような遊休施設を“環境事業を創出する拠点”として再生させる取り組みが2015年から始められ、2016年4月、リコー環境事業開発センターがオープンしました。
生まれ変わった建物には、回収した複合機のリユース・リサイクル/オープンイノベーションを通じた新規環境事業の創出/リコーの環境活動の情報発信 という3つの機能が与えられています。
その後さらに、この取り組みの一環として既存建物のZEB化にチャレンジする新たなプロジェクトが立ち上げられました。
具体的な計画は2017年に動き出しました。ZEB化の可能性検証から設計へと進み、2020年の春にはZEB化実証事業の補助金申請・交付決定までこぎつけます。
ところがその頃からコロナ禍の影響が拡大し、いったんは交付を辞退。翌年再度申請を行って7月の交付決定後に工事着工となりました。
せっかく決まった交付を辞退するのは、大きな勇気だったでしょう。
けれど設計を担当したリコークリエイティブサービス(株)ファシリティマネジメント事業本部設計事務所の秋山昌也さんは「補助金申請が再チャレンジできます。それを知ってもらえる例ですよね」きたんのない言葉に、目がさめる思いでした。
柔軟でポジティブなこんな姿勢こそが、事業の成功を支えたに違いありません。
人を迎え、憩わせる開放的なガラス張り空間を断熱
環境事業開発センターを構成する複数の建物のうち、ZEB化改修の対象となったのは『未来棟』と『食堂棟』です。
40年近く前に建てられたビルをZEB化していくのは、やはり一筋縄では行きません。
設備関連を任されたリコークリエイティブサービス(株)ファシリティマネジメント事業本部の磯崎政弘さんは「最初はわからないことが多く、昔の図面をひっくり返して勉強しました。とくに電気関連が大変でしたね」。
5階建の未来棟は1階にライブラリーコーナーやシアタースペース、2階は先端技術をベースに開発した独自の環境ソリューションや先端技術を紹介する展示スペース。3、4階にスタッフルーム(社員用オフィス)とフリースペースを挟んで、最上階はプレゼンテーションやセミナー用に社外の人も使える会議室が配置されています。
“魅せる空間”の役目を与えられた1、2階はガラス張りのゆったりしたスペース。ZEB化改修のポイントとなったのは、室内側から既存窓に取り付けたLow-Eガラスでした。窓自体が二重になることも手伝って断熱力が大きく上がります。
「足場がいらない工事だったので、工期も短くできて助かりました」と秋山さんがにっこり。現場監理担当者の実感でもあったでしょう。
空調機器も一部高効率のものに更新し、省エネと同時に訪れる人の快適性にも配慮しました。
同様の外皮改修は、食堂棟でも行われています。
食堂棟は工場での作業の合間にスタッフが休憩する重要な空間。高い吹抜や曲線を描く壁があり、高く伸び上がる大きな窓で全体が包み込まれていて、周辺の風景を眺めながら気持ちよく過ごせるように設計されたのがわかります。
広々としたガラス張り空間をスポイルせずに、暖かくて涼しい快適な場にしていくのは窓のエコリフォームの真骨頂。高い断熱力を持つLow-Eガラスを付加することで、働き方改革にも直結する“楽しく心地よくご飯が食べられる食事処”が実現しました。
既存サッシ+エコガラスでZEB化。さらなる工夫でローコストに
オフィスや社内向け会議室スペースでは、既存サッシを生かしてガラス面だけをエコガラスに入れ替える“ガラス交換”の断熱改修が行われました。
これも足場いらずで室内側から施工でき、かかる時間も少なくできる手法です。
短時間の工事とはいえ、事務所の窓改修で重要なのは、やはり業務に支障が出ないようにすること。
とくに“居ながら改修”では、窓に近い家具や人が一時的に移動を余儀なくされることもあり、影響を受ける場に席があるスタッフには丁寧な説明や情報共有が不可欠とされ、施工者は協力を仰いできました。
センターではどうだったのでしょうか。
「以前からフリーアドレスでしたし、何よりも今回のZEB化改修に協力したいという雰囲気が社内にありました」と、環境・エネルギー事業センター事業推進室の菊地佳代子さん。リモートで出社する人が大幅に減っており、作業時は別の部屋に移動して仕事すればいいだけだったのも良かった、と笑顔で言い添えました。
今後はこんな窓改修工事が増えていくに違いありません。
フリーアドレスオフィスのメリットは他にもありました。
「実は空調機器の更新は一部で、多くは既存のものを今も使っています。配置換えだけ、したんですよ」秋山さんの言葉に驚かされました。
ZEB化改修にあたっての空調や照明の交換は、もはや定石。日進月歩で性能アップする機器の採用は省エネ力向上=ZEB化に欠かせない要素とされています。
しかしセンターでは、フリーアドレス化に加えてリモートワークで日常的な使用人数が減っている現状を逆手に取り、社内全体の空調機器類から比較的新しくて調子のいいものを選んで、使用頻度の高い箇所に入れ替えたのです。
さらに状況に合わせて2台あるエアコンの1台を止めるなど、運用そのものも柔軟化。結果、少ない機器更新でエネルギー消費量を下げ、かつZEB Readyを実現させました。
ほかにも、もともと一定の断熱性能を持つRC造建物の特長を生かして断熱材付加を見送ったり、面積が大きい食堂棟の屋根に遮熱塗料を塗ったりとできるかぎりコストを抑えています。
建物自体のポテンシャルを生かしたアイディアや工夫の数々。補助金交付があっても潤沢な予算はなかなか望めないZEB化改修事業で、ぜひ参考にしたいものです。
築40年近い高経年ビルでもZEB化はできる!
「圧倒的だったのは断熱ガラスです。影響は大きかった」
取材の最後、今回のZEB化事業を振り返っての印象を尋ねると、口々にこんな言葉が返ってきました。
設計の秋山さんは「外皮改修は地味だけど(笑)、ZEB化をめざすならちゃんとやった方がいいです」と断言。「補助金の獲得も大きいですけどね」、と付け加えました。
「築37年の古いビルでもZEBが取れる。ここで得た知見を生かして今後もお客様に紹介していきます」と菊地さんと稲熊さんは口を揃えます。計画から運用まで、取組の中で獲得するノウハウを広めることによって、より多くのお客様の信頼を得ていきたいと力を込めました。
さらに環境・エネルギー事業センター事業推進室イノベーション推進グループリーダーの森山尚子さんは「ZEBの実現、脱炭素の取組は企業としての業績ととらえています。広くPRしていきたいですね」
リコーが掲げる総合的なデジタルサービスは、その根本に“はたらく人”と“持続可能な社会の実現“に対する想いがあるといいます。
今回のZEB化改修は、世界に共通する価値観となったサステナビリティ、社会課題解決に向けたリコーのスタンスの表明でもあるのでしょう。
- 取材日
- 2022年11月29日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 小田切 淳
- イラスト
- 中川展代