事例紹介 / リフォーム ビル
働きやすい光と熱を
日照時間トップの地で窓リフォーム
山梨県
敷島金属工業株式会社
- 立地
- 山梨県甲斐市
- 建物形態
- 鉄骨造2階建
- リフォーム工期
- 2021年7月(3日間)
- 窓リフォームに
使用したガラス - 真空ガラス(日射遮蔽型)
日当たり良すぎ? 暑さと眩しさにさらされ続けた社屋
甲府市から北西に数km。紅葉で名高い昇仙峡の玄関口に当たる地で、今年60周年を迎える老舗企業が取り組んだエコ改修をご紹介しましょう。
「このあたりは昔から工具産業や鍵製造で栄えたまち。その中で長年、スチール家具の錠をつくってきました」
山並みと広い空に抱かれて建つ本社社屋で、敷島金属工業株式会社の取締役・岸本敏江さんはそう話します。多くの地元住民を働き手として迎えてきた歴史があり「80歳を超えるOBOGの方々もたくさん住んでおられますよ」
地元密着の姿勢は今も変わらず、ほとんどの従業員が近隣に在住し徒歩通勤も少なくないそうです。そんな方々に支えられた60年でした、とにっこりしました。
創業時から移転していない社屋は、このエリアの特徴的な気候風土である“長い日照時間と強い日差し”の影響を長年にわたって受け続けています。
お隣の甲府市は全国の県庁所在地の中でも常にトップクラスの日照時間を誇り、2020年の年間日照時間は2250時間と高知市に次ぐ第2位。フルーツ王国・山梨の面目躍如ともいえるでしょう。
“日当たりがよい”と聞けば、一般には明るくポジティブなイメージを喚起させます。
しかしひとたび目線を変えてワークスペースとしての環境を考える時、強力な日射は少し違った姿を見せはじめるのです。
「日差しが暑い、眩しい、つらい」。スタッフが日々感じていた体感が、敷島金属工業のエコリフォームにつながりました。
南と西の窓群に強力な日射熱 緑のカーテンを経てエコリフォームへ
敷地内には事務室や会議室のほか、加工場や出荷作業場などメーカーらしい多様なワークスペースが配置されています。
日射の影響をとくに強く受けるのは、出荷関連作業をする建物南側および商談スペースや事務室のある西側です。「植栽もないので、暑い時期はブラインドを下ろして冷房をガンガンかけるしかありませんでした。日があるうちは本当につらかった」
この状況を改善しようと、10年前には会社を挙げて『緑のカーテン』に取り組みました。
1階西面ほとんどをカバーする40株のゴーヤを社員総出で育て、休日は当時の社長で現会長の岸本良三さんが水やりに出社したそうです。その甲斐あって見事に育ち、取引先の大手オフィス家具メーカーが自社で定める“グリーン調達会社”に認定したほど。
「近所でも評判のグリーンカーテンでした(笑)」
けれど水やり以外にもこまめな剪定や肥料の心配など負担が大きく、数年前に「体力の限界が来て」緑のカーテンづくりは終了します。
戻ってきた厳しい日射に対抗すべく、会社では地域のガラスプロショップ・株式会社クリアに相談、エコガラスの出番がやってきました。
おためしリフォームで効果を確認 既存の窓枠を生かしてエコガラスを使う
初めての試みでコストが壁になるのは世の常です。そこで敷島金属工業では、旧知の間柄だったクリアの林元則社長と話し合い、まずは“おためしリフォーム”してみることにしました。
ふたつある大きな開口が南と西を向き“社内でもっとも暑い”場所、南西角の出荷作業スペースに改修の的を絞って改修。3年前のことです。
結果はどうだったでしょう。アルミ建具の既存枠を残し、ガラス部分のみをエコガラスに交換した後の衝撃を、当時営業部門の担当でここによく詰めていたという現社長・岸本直也さんいわく「全然違いましたよ、すごい!」
「モノや人の出入りが頻繁な場所なので、あまり冷房をかけずに暑さが厳しい時だけエアコンをつけていたのですが、改修後は変わりました。冷房するのはひと夏に1、2回くらい? 例年より全然少なくなりましたね」
これを受けて2021年7月下旬、満を持して本格的なエコ改修が実施されました。
今回の対象は、くだんの出荷作業スペースからそれぞれ南と西に延びる建物1階の開口群です。工事を3回に分け、それぞれ会社の休業日に行いました。
出荷作業スペースと同じく、既存の枠は残してガラスのみ取り替える手法で、エコリフォームの世界では『ガラス交換』とも呼ばれています。
採用したエコガラスは、ペアガラスの間に真空層を設けてそこにLow-E膜を蒸着させた『真空ガラス』です。
おためしリフォームでも使われたエコガラスですが、今回は主目的である夏季の強い日射熱カットを考慮し、遮熱性能がより高いものを選びました。
暑いさかりに行われたエコリフォームは、完了と同時にその力を遺憾なく発揮していきます。
建物西面にはエントランスと受付、そして事務室があります。
事務室は低めのオフィス家具とパーティションで窓際から隔てられていますが、大きな面積でずらりと並ぶ連窓から差し込む日差しのパワーは大きく、昼頃にはきっちりブラインドを閉めて冷房をかけるしかなかったそうです。
エコリフォーム後に訪れた職場環境の変化について、事務スタッフの方々からは「以前は窓から直撃してきた日差しと熱が、ふわっとしました。光が拡散されている感じがします」「眩しさが和らいで、目に優しいです」との声が。それは柔らかく、安堵のある言葉ばかりでした。
暑さも眩しさも解消 閉め切ったブラインドを開けて外も見える
商談スペースでは、別の角度からの効果も体感されました。
パーティションで事務室と区切られ、もっとも明るい窓辺にあるその空間は、日射の影響もより直接的。商談は常にブラインドの羽根を固く閉じてなされていたといいます。
せっかく窓があるのにいつもカーテンやブラインドで覆われ、採光も開放感もない…これはオフィスのみならず、西窓のある住宅などでも頻繁に目にする風景でしょう。
エコガラスが入って日差しが和らげられた窓辺では、完全に閉ざされていた羽根の傾きが調整され、外部に視線が通るようになりました。岸本さんいわく、事務所にとってこれは大きいといいます。
商談スペースは正門近くに位置し、敷地内の人の出入りが窓越しによく見えます。つまりは外からも見えやすく「本当は“外から見えずに内から見える”のが、一番いいんですよね」。
ブラインドの全閉はプライバシー確保の意味合いもあったのです。
エコガラスには、外側が鏡のように反射する『ミラー効果』と呼ばれる性質があります。建物内からは普通に外が見え、外からは内部が見えづらいくなるのです。
この効果のおかげで、商談スペースでは日射とともに外部の視線をもさりげなく遮れるようになりました。企業社屋としての別の側面にも寄与できたといえるでしょう。
快適な室温は職場のコミュニケーションも改善する
もうひとつ、働く人への思いがにじむ岸本さんのお話がありました。
「事務所内が満足できる室温かどうかは、それぞれ違うでしょう? 涼しく感じて誰かがエアコンを消すと『どうして消すの?』という人が出てくる…以前はそんな問題がありました。結局は私が言えばいい、となるのですが」
いうまでもなく、これもまた数多くの会社が抱える問題です。
一般的なオフィス空調では、吹出し口に席が近かったり長時間内勤する人と、外回りから帰ってくるスタッフとの間では体感が異なり、互いに気を使う場面が多くなります。誰もが一度は経験したことがあるのでは?
エコガラスによる外部熱の遮断は、エアコンの効きをよくして建物内部の室温を保ち、安定させる効果があります。
敷島金属工業では2台あったエアコンの稼働が1台になったほか「設定温度は夏25℃、冬20℃で固定しました。あとはスタッフそれぞれに任せています」
エコリフォームが改善したのは室温だけではなかった。岸本さんの笑顔はそう語っているようでした。
事務室の空調には半透明の回転翼がついています。吹出しに合わせて羽根が回り、穏やかな拡散ができているとのこと。よく見かけるエアコンルーバーとはひと味違うこんな仕掛けもまた、執務環境への気遣いの表れでしょう。
「『三方よし』という言葉がありますが、うちの場合は売り手よし、買い手よし、そして“社員よし”なんですよ」
- 取材協力
-
(株)クリア
https://clear-g.co.jp/
- 取材日
- 2021年11月8日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 小田切 淳
- イラスト
- 中川展代