Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声
1972年生まれ。米コロラド州立大学にてマネジメント専攻、アリゾナ州立大学サンダーバードグローバル経営大学院修了、MBA取得。1998年帰国し大手電機メーカーに4年間勤務した後、2002年マテックス入社。基幹システム開発や営業を経て2005年経営企画部部長と同時に取締役就任。2006年常務取締役、2009年より現職。同年『エコ窓普及促進会』設立。
2012年地球温暖化防止全国ネット『低炭素杯2012』最優秀家庭エコ活動賞、2015年経済産業省『先進的なリフォーム事業者表彰』受賞。2010年持続性推進機構『エコアクション21』認証登録、2021年日本健康会議『健康経営優良法人』認定。
颯爽にして明朗、社員への温かいまなざしが印象的。科学的データをベースに、深い思索を経た経営哲学と理念を聞き手本位のやさしい言葉で語る。国内ガラス卸売の雄ならではの広い視野と未来志向のビジョンに誰もが魅了され、内外からの信頼は絶大。2022年10月一般社団法人住宅開口部グリーン化推進協議会初代会長に就任。そのリーダーシップで業界のみならず、増大する地球環境問題・社会課題解決への動きを牽引する。
二級船舶免許所持者だが「全然乗れていません(笑)」
ホールセラーからホールプロデューサーへ
『窓から日本を変えていく』御社の印象的なスローガンです。窓やガラスをどのようにとらえておられますか。
窓もガラスも、普段はあたりまえのように身の回りにありますが、なくなったら大変。空気のようなものです。
インフラ、ファンダメンタルな存在で、エネルギーにも健康にも大きなインパクトを与えられる、他にはないもの。
なのに日常の中ではあまり考えられることがありません。だからこそ、意識の幅を広げることで日本を変えられるのです。
そこが最高最大の魅力ですね。
社会性が高く、なくなれば全体が機能しなくなる。窓は可能性にあふれているんです。
さまざまな課題の解決にも役に立てる、と。
喫緊の課題であるCO2削減や環境破壊の軽減などエネルギー関連のほか、いわゆるウェルビーイング、さらにBCPやさまざまな災害リスクへの対策面でも、貢献できることがあります。
エネルギーロス軽減のためにメーカーさんがつくる新商品を、まちのガラス・サッシ屋さんと一緒にきちんと届けていくのは、私たち卸の仕事です。
お客さまが必要とされていること・商品のライフサイクル・エネルギーロス・CO2排出さらに健康面まで考え、納得の上で投資いただくのが大切と考えています。
ホールセラーではなく、地域企業やエンドユーザーの方々のための“ホールプロデューサー”になる。それが期待されていると思っているんですね。
ただモノを売るのでなく、数ある商品を選び組み合わせて、必要とされることやお悩みの解決を軸に提案する。それがホールプロデュースであり、プロデューサーとしてのプライドと自負を持って目の前の生活者に寄り添うことが求められます。
さらに提案時には、商品をより活かすためユーザーリテラシーを高めるのも必要です。
エコガラスに代表される高機能ガラスをどう使いこなすか、といったことですね。
「性能の高い窓にしてよかった」と思ってもらえるリテラシーをつくっていかなければ。
今までは“閉め切って性能を発揮する商品”として売ってきました。しかし窓は透明で開け閉めでき、外とつながるゲートウェイ的なものです。
常に閉め切るのが本当に豊かな暮らしだろうか? 爽やかだったら窓を開けよう! そんな“開けて良くなる話”もしていきたいですね。
“卸をアップデート”したとき、理念は社会貢献に
経営理念のトップに社会貢献を掲げておられます。
2009年、創業80年の歴史をふまえて今後何を守っていくかを考え、社会貢献性を事業の核にする理念軸をつくりました。
いきすぎた貨幣資本が招いたリーマンショック後、初代から継承されてきた“先義後利”にこだわりつつ、事業性から社会性へと志向を変えたのです。
さらに『経営理念浸透カフェ』という社内イベントを開催してみんなで考えながら、企業の存在意義である“コア・パーパス”そして企業文化をかたちづくる“コア・バリュー”もみがいて。
『窓から日本を変えていく』のスローガンは、その中でのビジョンとして2013年に制定しました。
利潤追求から社会貢献へと軸足を移された。
良い商品を広くお客さまに届けていく仕事と精神は変わりません。
企業のファンクションだけでなく理念形成と大義を重視し、社員みんなでそれを味わいかみしめながら進む、というスタンスです。
代表取締役に就任して以来、ひたすら「いかに卸をアップデートするか」を考えてきました。
サステナブルへのシフト、減少を続ける着工件数への対処に向き合う中で、これからの企業は社会的価値をつけなければ企業価値そのものに疑問符がつき、若い人も入ってくれなくなる…そう思ったとき、商品を商品としてだけ扱っていく限界を感じたのです。
商品の中に自分を介在させ、自分の考えを重ねていく。こんなストーリーこそが相手に響き、社会課題に向き合うパワフルツールとして商品を成り立たせるのではと思いました。
これをお客さまや地域企業さん、仕入先とも一緒に研究していきたい。SDGsも各社ごとにもう一度分析し、ビジネスや経済を“悪”にすることなくどう育てていくかを、ともに考えたいですね。
これからの企業価値、とはどのようなものでしょうか。
企業価値は長い間、経済的価値をX軸、社会的価値をY軸に語られてきました。
私はそこにもうひとつ、Z軸として“文化的価値”の領域があると考えています。
地域とつながり仲間を増やし、社員のビジネスマインドを養う
文化とは人間の器を耕し、精神の醸成によって幸せで豊かな充実した人生へとつながるもの。
これからの企業は、それを考えていかなければなりません。
社員ひとりひとりが文化にふれて実感し、それぞれの内なるものを変えていく。得られた知見や知識を共有し、業界外の人々とも手を携えて、一緒にビジネスマインドを育てていきたいのです。
私はそれを『共創志向型企業』と呼んでいます。
その際のビジネスマインドとは?
モノを売るとき、素敵な人は結果的に売れるんですよね。
ビジネスで生きる魅力、というものがあります。社員ひとりひとりが成長し、自分の意思や存在価値をモノに重ねて提案するとき、商品はパワーを持ちお客さまは魅了されるのです。
日々自分のパーパスを考え、良くするため成長するためにチャレンジすれば、仕事の仕方も仲間の増え方も変わります。
そんな人々がビジネスを正しいベクトルへとデザインしていく…それはモノを売るだけではないマインド、ビジネス感です。
その一環として、ガラスのリユース事業にも取り組み始めました。
既存型ガラスのレトロデザインを生かした室内窓を製品化されましたね。
ガラスのリユースは従来、廃棄する方が安いのでビジネス価値はありませんでした。
けれど、これからは捨てられない時代です。
とくにガラスは時間が経っても質も強度も変わらずに残る、ある意味“抜群の素材”。ならばレトロガラスに価値を感じて支持するお客さまと一緒にリユース市場をつくっていこう…そんなチャレンジなのです。
できることから始めて仲間をつくっていきたい。机上の経営理論や理屈を実際のビジネスにしていくのはやっていて楽しいし、仲間も増えるんですよ。
こういったことを、社内外でもっともっと分かち合っていきたいですね。
地域社会や文化と直接つながる施設も2軒、新たにつくられました。
本社近くの倉庫を改修し『HIRAKU IKEBUKURO』と名づけたコミュニティスペースです。
ひとつはすでに稼働中で、お笑い芸人『ロンドンブーツ1号2号』の田村淳さんがオンラインサロンにしてyoutubeの配信活動をし、地域交流や学びの場ともなっています。
もうひとつは来春オープンで、こちらはまちの図書館。地域のヒト・モノ・コトが出会い、コミュニティやネットワークをつくるスペースになる予定です。
業種は違っても、地域づくりを考え貢献するためどうすればいいか、自分たちの持っている力をどう発揮するかを学べる場ですね。
こういった場づくりは、最終的には社員ひとりひとりの成長のためでもあります。
知と豊かさを地域の人々と共有し、学んで考え成長することが、会社のエネルギーになるのはまちがいありませんから。
窓はすべてにこたえていける
パンデミックを経て変化したこの世界で、窓はどんな存在となっていくのでしょう。
窓やガラスって、何があってもこたえていけるすごい産業なんですよ。
地球温暖化や大災害から事件事故まで、起きることすべてに対し建材としてこたえていける。こんな産業は他にあるでしょうか? あとは水関連のメーカーさんとかかな(笑)
でも案外、地球環境といった大きなスケール以上に大切なのは“人の心”だと思っています。
同窓会という言葉がありますが「窓から入る光を受けて学び、文化や感性、精神を養うことが人間の成長に関与する」という実際の研究結果もあるそうなんです。
『窓辺の光の中で人間をみがく』。そんな窓辺を取り戻したい。
明るく暖かく夏は涼しい窓辺で、ですか?
温熱環境から入りたくなりますが、実は「ここ素敵じゃない? カッコよくない?」が、第一だと思うんです。
それ欲しいなあ、こそ重要。そこをめざしていきたいですね。
- 取材日
- 2022年9月22日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 小田切 淳
- 社名
- マテックス株式会社
- 住所
- 東京都豊島区
- 社員数
- 260名
- 事業内容
- ガラス・サッシ・エクステリア・インテリア建材の卸売/窓・ガラスの製造加工/地域企業サポート