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Designer’s Voice 建築設計者の声

透明な窓ガラス その向こうに何を見せるか

柴田昭治(しばた・しょうじ)

1947年生まれ。シバタ建築設計事務所代表取締役。建築系公務員を経て1980年事務所設立。富山県内を中心に福祉・教育・医療等公共施設からオフィスや店舗等商業施設、一般住宅まで多様な建築物の計画・設計監理・竣工後の維持管理・都市計画まで取り組む。建築領域と土木・都市領域の融合を念頭におく活動を通した社会貢献を標榜。一級建築士・伝統再築士


柴田昭浩(しばた・あきひろ)

1980年生まれ。大学卒業後、東京の設計事務所に勤務。2010年シバタ建築設計事務所入社、現在は専務取締役として所員をまとめつつ、構造とデザインの融合、地域の自然文化に根ざした設計に取り組む。一級建築士


柴田千恵(しばた・ちえ)

1983年生まれ。工業高等専門学校にて建築を学び、卒業後富山県内の建設会社に設計職として勤務。2008年シバタ建築設計事務所入社。内と外との関係性を追求し、細部にまでこだわった建築設計をめざす。一級建築士・インテリアコーディネーター

河川・水田・散居村 土地の文脈で建築をかたちづくる

富山県小矢部市を拠点に、個人住宅から大規模公共施設まで、設計監理・計画・竣工後の維持管理業務と幅広く手がけておられます。

柴田昭浩(以下A):小矢部市は車がないと暮らせないところ。昔から砺波平野の米を小矢部川の水運で富山湾に運んで栄えた、川とともに生きてきたまちです。
山があって水田があって地平線があって自然豊か。一方で集落性が強く、地域のコミュニティがしっかりしています。三世代居住も多いですね。

そういったキーワードを拾って建築の形をつくっています。

地域性から設計のヒントを得ていると。

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事務所が手がけた小矢部市立蟹谷(かんだ)こども園。屋根の高さを違えた建物群が寄り添って建つ“散居村”のイメージを映す外観とした

柴田昭治(以下S):“まちの特性に合わせて建築の顔をつくる”感じです。

市立図書館のファサードでは、蛇行して流れる小矢部川の姿をデザインに取り入れました。蟹谷こども園では水田の中に寄り添って建つ散居村や山並みの風景を表現しています。

A:構造面では木構造を見せたいと考えていて、一般の住宅でもなるべく架構が見えるようにします。タワーなど大規模な建築ではもちろんRCや鉄骨造にするので、適材適所ですが。

S:こういうやり方を大事にしていきたいですね。「富山の家は無垢の木材と軸組で建てているから長く持つ」という面がありますから。

そのあたりも土地の文脈や優位性を活用されているのですね。

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事務所会議室でお話をうかがった。左から時計回りに柴田昭浩さん、柴田昭治さん、柴田千恵さん(撮影時のみマスクを外していただきました)

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山々のスカイラインや碁盤の目を描いて広がる水田に住居が集まって建つ様子など、小矢部市の風景が持つ特性をイメージスケッチで表現

断熱等級4必須。性能と意匠は両立させる

建築の環境性能に対するお考えをお聞かせください。

S:断熱等級4は必須! 当然、提案すべきこととしています。

柴田千恵(以下C):C値や断熱性能の実証もしています。ただ、等級4は当然ととらえているので、お施主さんにお伝えするのは「いいものを入れていますよ」くらい。
お引き渡し後、しばらくたってから「断熱、効いてます」とお施主さんから電話がきます(笑)

予備知識なしで体感できる性能が発揮されている…

C:住宅ではエアコン1台、さらにエアコンなしで快適な環境をめざしています。
プラスチック系の断熱材を吹き付けで隅々まで充填します、構造材や架構をかくさないようになるべく薄く。Low-Eガラスと樹脂複合サッシも必須ですね。

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代表取締役の柴田昭治さん。ZEBをはじめ高い環境性能を備える建築の普及を「若い人たちが本当に実現してくれる時代になった」と語る

A:性能と意匠を両立させるために、断熱性能の“入れどころ”を考えてスタディを繰り返しています。

両立が難しいときはどちらを優先するんですか?

A:基本的には最後まで諦めません。構造、性能、意匠を行ったりきたりしながらねばります。最後はコストですが(笑)

S:性能を下げると将来的には結局ダメになる。とくに住宅は一生の買い物で財産そのものです。1日のうち16時間も過ごすところだから、いいものを提案しないとね。

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専務取締役の柴田昭浩さん。意匠と性能のどちらを取るかという少々意地の悪い質問に「最初から余り捨てません」。どちらも生かす道を最後まで探っていく。決して簡単ではないことをあたりまえのように即答した

内と外をつなぐ開口部。ガラスの向こうに何を見せるか

窓や開口部について、どうとらえておられますか。

C:窓は建築の外と内の関係性をつくるもの。透明なガラスのその先に何を見せるか、を考えますね。

外と中をつなぎたい場所には大きなガラス窓を配置しています。リビングから庭や景色を見せたいときなどですね。ガラスを通り抜ける視線の先にある風景、を考慮します。

S:増築と大規模改修を手がけた津沢こども園は、大きなガラス開口から小矢部川や周囲の山々など故郷の風景がよく見えるんですよ。
北向きなので、安定した外光を終日室内に取り込める利点もあります。

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柴田千恵さんは蟹谷こども園のBEMS管理も担当。ガラスの開口部を“視線が抜けて先が見える”“内と外をつなぐ”のふたつの視点で語ってくれた

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蟹谷こども園の遊戯室につけられた大きな窓からは砺波平野の水田と山並みが見える

A:風景のほか、日射や風を“いかに取り入れていかに制御するか”を考えますね。位置によっては外側にブラインドをつけて日射をコントロールします。

蟹谷こども園では天井を高くして高窓をつけ、部屋全体を明るくしながら広々と心にゆとりを持たせられるようにしました。

エコガラスのような断熱性能の高いガラスの使い方は?

C:Low-Eガラスは当然のものとして採用しています。サッシはアルミと樹脂の複合ですね。

A:高性能の断熱ガラスを使いつつ、庇と軒を出し、日射を調整することを開口部での必須事項にしています。
窓際では樹木の植栽も考えます、なるべく落葉樹を植えるようにしたりね。外構も大事なので計画や提案もします。実現するかは最後までわかりませんが(笑)

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蟹谷こども園内の子育て支援センター。傾斜天井の最上部まで伸び上がる高窓で室内は広々と明るい

ZEBに育てられ、多くのことが見えてきた

2020年には事務所をZEBプランナー登録されました。

S:以前から省エネ建築を増やしたいと思っていたのですが、実際の現場では性能の高い設備を取り入れる予算はありませんでしたね。
ZEBやZEHを知って勉強を始め、今は材料のことまで考えられるようになっています。

蟹谷こども園では「ここは子どもたちの家なのだ」とのコンセプトで性能を突き詰めていったらZEB Readyになった。こども園でのZEB認定をめざした経験は、その後の設計にすごく生きています。

A:建てる側の人間として、計画から完成後の運用、そして最終的な廃棄まで関わるのが建築だと思っています。

通常、建築にかかるお金の3分の1が施工費用といわれているので、残り3分の2でエネルギー消費量やCO2発生をいかに減らしていくかを考えますね。
できればゼロにしていきたい。究極は“設備のない建築”です。でもそれは無理で、電気やガスなどのエネルギーはどうしても必要。

だからこそ創エネが大切になってきます。富山は日照時間が短いので、太陽光発電より地中熱を使うのが有効なんですよ。

S:蟹谷こども園で地中熱空調システムを取り入れました。エネルギー経費削減として大成功ではないかな。

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蟹谷こども園の計画は、シバタ建築設計のほか小矢部市こども課や市内の保育所長でつくる会議などでも多くの議論や提案がなされた。ZEB Ready認定は、子どもたちの育ちを支える建築に高い環境性能が必須であることを証明したといえるだろう

C:CO2削減面では、材料も深く関わってきます。やはり木材を使うことで一番減らすことができる。
さらに製作過程から考えると、例えば外材を使おうとすれば「これは船で燃料を使って運んできてるんだよね」というところまで行き着きます。ならばなるべく地場産材を使うのがいいだろう。ライフサイクルCO2ですよね。
そういったことを見据えて、材料や形式を選んでいこうと考えています。

A:ZEB建築をやったことで見えてきたことがたくさんある。ZEBで育ててもらった感じですよ、本当に。

ZEBを追求したら、地域のコンテクストにつながったと。

S:“景観十年文化百年風土千年”という言葉があります。先祖が一千年をかけて培ってきた風土や文化の上に景観は成り立つという意味ですね。
その景観を形にして建築へと落とし込んでいく。それが私たち設計者の社会的責務だと思っています。

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国産木材をふんだんに使った架構が美しい蟹谷こども園のエントランス

取材日
2021年12月16日
取材・文
二階さちえ
撮影
金子怜史
株式会社 シバタ建築設計事務所
社名
株式会社 シバタ建築設計事務所
URL
https://shibata-and-associates.com/
住所
富山県小矢部市
社員数
8名
事業内容
建築全般および意匠の企画、設計および工事監理
都市ならびに地域に関する調査・研究・計画
造園の企画、設計および工事監理
家具全般の企画、設計 等

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