事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜天窓のある「がらんどうの家」は子どもたちの小宇宙〜

開口部にこだわった新築レポート -東京都 M邸-

Profile Data
住宅形態 木造地上2階建て(SE工法)
住まい手 夫婦+子ども4人
敷地面積 97.66m2
延床面積 130.81m2


今月の家を手がけた建築家:川崎修一+竹下久子(川崎建築計画事務所)


取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

都心の密集地に建てる、4人の男の子が駆け回れる家

M邸外観。北面だが、玄関にはエコガラスに防犯フィルムを張った大きな明り取りを設け、2階バルコニーの目隠しとなる木製ルーバーも上部開放にするなど、明るさを確保する工夫が随所に見られる。
6才の長兄から乳幼児の四男まで、M邸の主役は元気な男の子たち。力いっぱいジャンプし、家じゅうを駆け回る彼らの尽きないエネルギーを、おおらかに受けとめる家ができた。

ご夫婦+上は6歳から下は0才までの男の子4人。大家族のにぎやかな暮らしをおおらかに育むM邸を、春の一日に訪ねました。

奥様の仕事復帰をめざし「子育てを助けてくれる人がそばにいれば心強い」と考えつつ探し当てた土地は、ご実家から徒歩30秒の都内住宅地です。
それまでのMさん一家は賃貸マンションの4階暮らし。奥様のA・Mさん(以下Aさん)は、家づくりを始めたときの思いを「ここでは跳ねないでね! って怒らずにすむ、子どもたちが生き生きといられる家にしたかった」と振り返ります。「子どもは移動の基本が『走り』なので、当分は各部屋の仕切りも必要ない感じでした」

「生活の基本は全部1階で、という希望もありました」と、こちらはご主人のY・Mさん(以下Yさん)。子どもたちが小さいうちは食事や着替え、入浴など生活の機能をすべて1階におさめて効率と安全性を確保し、2階は主に就寝と遊びの場と位置づけたのです。

設計を託された川崎修一さんと竹下久子さんは、南北に細長く境界線ぎりぎりまで隣家の軒が伸びる敷地を「典型的な都市型ですね」と語ります。「一般的な都市の住宅として内向きに開放しながら、光をどうまんべんなく入れていくかがポイントでした」

子どもたちが駆け回れ、生活がしやすく、十分な採光がある家。こんな条件のもと、住宅密集地のただ中の30坪に大空間が誕生しました。


「通る視線」を確保した、スキップフロアの大空間

入口から1階を見通す。玄関脇の水まわりコーナーを経て、対面キッチン、ダイニング、リビングまで、柱も壁も見当たらない一室空間となっている。
納戸上部のロフトより2階スキップフロアを見下ろした様子。ステップ3段分ある子ども室と手前のプレイルームの段差から、1階リビングの窓辺に置かれたベビーベッドが見える。
リビングよりダイニング側を見返す。スキップフロアの段差を通して2階の様子が見え、採光の効果もある。1階床は、厚みのある幅広のウォールナット材を植物性オイルで仕上げた、床暖房対応フローリング。
リビングから段差を見上げれば、透明ポリカーボネートごしにトップライトも見える。

間口約4.2m、奥行き約13.6mの室内に足を踏み入れた最初の印象は「壁がない」ことでしょう。玄関からダイニングキッチンを経て奥のリビングいっぱいに広がる窓まで、視界を遮るものはありません。
「この間口と奥行きで視線方向に壁が意識されると、空間的に寂しくなります。そうならないプランにしたいね、と設計側では話していました」と川崎さん。

1階は、建物を支える構造壁を東側に集中させ、せり出す部分は収納スペースに入れこむことで壁の存在感を消すよう工夫されています。対向する西側には、水まわりを除けば2階へ続く吹抜けの階段とリビングの壁だけが残りました。
許容応力度計算による「鉄骨造のような設計手法(川崎さん)」によって「玄関を入った瞬間に奥まで見渡せて、なんだかすごく広そうだなっていう印象があるんじゃないかと…」とAさんが笑う、広々としたスペースがつくられました。

2階は、M邸のもうひとつの特徴「スキップフロア」がよく見える空間。納戸をはさんで少し奥まった主寝室のほか、壁ではなく段差によって区切られた子ども室とプレイルームが並びます。

子ども室はリビングの真上にあたり、階下の天井高を上げた分だけ床レベルが高くなりました。「家族が長い時間を過ごすリビングは、天井を高くして居住性を上げたい」Aさんの希望が、このスキップフロアのアイディアへとつながっています。
「子ども部屋からプレイルームに向かって、よく飛びおりたりしています。部屋ごとに階層が違う、子どもにとって面白い家ですよ」とYさん。

段差の部分には透明なポリカーボネート板がはめ込まれ、光が階下まで届くほか、ロフトからもリビングの様子が目に入ります。1階、2階、ロフトと3つの階層を見通す視線の確保は「日頃の設計から『視線を通すこと』による奥行き感を心がけていますが、ここまでは想定していませんでした」と川崎さんも驚く偶然。
この豊かな「つながり」もまた、M邸を数字以上の広い空間に感じさせている要因なのでしょう。


天窓と高窓で光を取り入れ、プライバシーを守る

東を向いて一直線に並ぶ2階の高窓は、隣家の軒線を超えた高さで位置が決められた。
階段の上、片流れ屋根に切られた天窓は、白壁による反射も含めて豊富な自然光を1階まで届ける。
子ども室南面は、構造壁の部分を除いて間口いっぱいに窓をとった。子どもたちが大きくなった時点で間仕切りをつけ、個別ブースがつくられる予定。
遮熱高断熱エコガラスと網入りガラスを組み合わせた、水まわり上部のトップライト。ロフト壁面に穿たれた開口が直交し、採光している。
2階廊下に張られたガラスを通してトップライトの光が落ち、1階の水まわりは明るい。浴室の戸も半透明の3枚引きにして、北側窓からの光を導いた。
洗面から見上げたガラスの天井に映る子どもたちの足裏がかわいらしい。張られているのは、走り回っても安心な強度を持つ17.5mmの強化ガラス。
光井戸の恩恵を受けて明るいロフトにはエコガラスのすべり出し窓もつけられ、熱がこもらない工夫が施された。

北の接道面を除く三方を隣家に囲まれたM邸の採光計画のカナメは、トップライトとハイサイドライトです。

周囲にこれだけ建物が迫る中でプライバシーを考えれば、下の方に窓を作っても意味がない。トップライトと、隣家の軒線を超えたハイサイドライトの設置とで光を入れていこう。川崎さんの提案のもと、 東西の壁は1・2階とも高い位置にリニアな高窓、階段上と水まわり上の2箇所には天窓が設けられました。

南側の壁面は、1階リビングは構造壁部分を除き床から天井まで全面、2階も間口のほぼ9割を窓にし、どちらも大開口となっています。

光は午前中は主に東の高窓、午後は西の高窓と階段上のトップライトから室内へと射し込みます。1mの軒がある南の大開口からも自然光が入り、日中は照明がいらない家になりました。
リビングではスキップフロアの段差から落ちる光、ダイニングでは階段ごしのトップライトの光も、重要な光源です。

水まわり上のトップライトは、室内に光の井戸をつくりました。2階の床にガラスを張って1階まで光を導くアイディアは、川崎さんによるものです。
南北に長く、低い位置に窓のない建物では、中央に近い部分ほどどうしても暗くなりがち。しかしここは真上からの自然光で明るく、その恩恵はガラスの欄間をつけたトイレにまで及んでいます。

「閉塞感がないし、子どもは暗いところを怖がるので、洗面やトイレに自然光があるのはいいと思います」とAさんが言えば「歯を磨いていると、2階の床を走る子どもたちの足裏がガラスごしに見えます。行ったり来たりするのがかわいいんですよ」とYさんは満面の笑顔。M邸ならではの風景でしょう。

さらにはロフトも、この光井戸に面した壁に開口を穿って採光しています。大活躍の天窓です。

M邸の窓は、都心の住宅密集地では一般的な防火用の網入りガラスを使わず、トップライトを除いてすべて透明ガラスです。「網入りは苦手で…」というAさんの志向を考慮し、価格を比較した上で防火規定をクリアした網なし防火ガラスを採用しました。
毎日つき合う窓だから、予測できるわずらわしさはできるかぎり取り除いておく。住まい手の暮らしをきちんとイメージする設計者の姿勢が表れているようです。


一見「非省エネ」、実はエコガラスを駆使した長期優良住宅

東の構造壁の幅に合わせることですっきりと仕上げられた大容量の収納。テレビ台まわりでは、子どもたちそれぞれに向けて4つの収納扉がつくられているのがわかる。
防火規定をクリアした網なし防火ガラスの掃き出し窓は、フロートガラス5ミリ+中間層12ミリ+Low-Eガラス5ミリを組み合わせたエコガラス。真冬の深夜もリビングの暖かさを保つ。
リビングの南側はほぼ全面、エコガラスの大開口。欄間上部は4枚の窓のうち3枚がFIX、右端の1枚をフック棒で開けることができる。同様に、曇りガラスを使った高窓にも手動で開閉可能な打ち倒し窓が含まれている。

計画・設計にあたって川崎さんと竹下さんは、この家での6人家族の生活シーンーー動線・収納・食事・くつろぎなど一連の暮らしーーを、常に想像しながら作業を進めたといいます。
「生活が始まってから『こんなはずじゃなかった』と思われない、機能的な部分で絶対に不満が出ない、そんな家になるように努力しました」

Yさんが「ハウスメーカーのプランの10倍くらいありましたね」と振り返る収納は、生活のベースとなる1階に集約されて使い勝手がよく、両親用以外は引き出しもスペースもすべて4つずつ。
住宅の設計時、竹下さんは住まい手が何を入れるかを必ず聞き取って「収納スケッチ」を作るといいます。そのこだわりが、子どもたちの日常から生活習慣までをずっと支えていくことでしょう。

玄関脇の浴室・洗面には、帰宅後リビングを通らずにそのまま直行することができます。育ち盛りの男の子4人が外から帰ってくる様子を思い描けば、納得かつありがたい配置。トップライトの自然光で明るさも確保しました。

さらに、建物の断熱性能によって左右される温熱環境や省エネ性も、住まいの機能の一角をなす要素です。
M邸ではすべての窓に遮熱エコガラスが採用されました。一年を通じた断熱のほか、夏には都内有数の暑さとなるこの土地の気候風土を考慮しての選択です。
断熱材も、外壁には100ミリの高性能グラスウール、屋根部分には95ミリの樹脂系を入れ、次世代省エネ基準をクリアする性能とボリュームを持たせています。

開口部が多くて間仕切りの少ないM邸は一見、エネルギー効率のよい家には見えません。にもかかわらず、寒かったこの冬も毎日の暖房はほぼ床暖房のみ。エアコンは朝20分ほど、しかも1週間程度回しただけだったといいます。

末のお子さんのベビーベッドがあるため、ここしばらくはリビングのソファーで就寝しているAさんも「真冬の深夜も、羽毛ふとんなし・エアコンなしで十分あったかいんですよ」
南側ほぼ全面が窓、東西の壁に高窓が並ぶと聞けば冷えやすそうな部屋ですが、暖かさは逃げ出すことなく保たれているようです。

実はM邸は長期優良住宅認定の家。省エネ性のほか耐震性や耐久性など多くの面で、長持ちする住宅としての材料選択や工夫が施されました。
とくに断熱面は「木造としての外気と内気の違いは歴然。長期優良クラスはやっぱりいいですね」と、自身も木造住宅で育ったという川崎さんも太鼓判を押す効果が体感されています。


使いこなされ家族と育つ、光あふれる「がらんどうの空間」

右端の1枚が開く、階段上トップライト。先日、4枚の窓それぞれにハニカムタイプの断熱ブラインドを設置した。「夏は直射日光が強く、昨年は暑かったのでつけました。ブラインドを閉めても光は入りますよ(Aさん)」これもフック棒で開け閉めできる。
プレイルームは子どもたちの天国。裸足に心地よい無垢材フローリングは川崎さんのお勧め。「傷がついても、本物の材料は削ればまた元に戻ります。気にしないで、どんどんわんぱくに使ってもらえればいいんじゃないかな」
就寝前に電気を消せば、階段は天然のプラネタリウム。
取材風景。Mさんご夫妻の背後にはダイニングスペースと階段を隔てる厚さ3ミリのガラスが張られ、トップライトからの光を通しつつ冬の冷気や夏の熱気を遮っている。図面を指し示しながら説明するのは設計者の川崎さん。

ほとんどが高い位置にあるにも関わらず、M邸の窓の開閉はすべて手動。天井高2.46mのリビングにつけられた高窓も、フック棒で簡単に開けることができます。

「手や棒で届くのなら、基本的に電動の開閉装置は使いません。コストもかかるし、こわれたときに大変だから」と川崎さん。階段上に4枚並ぶトップライトも、うち1枚は開くようになっています。開く窓に必ず網戸がついているのも、特徴です。

どの窓も望むときに気軽に開け閉めできることは、風通しや室温調整に対する住まい手自身のより自然でこまめな関わり、言い換えれば「家の使いこなし」を、そっと支援するしくみのひとつではないでしょうか。

そして現在、この家を最もよく使いこなしているのは子どもたちかもしれません。

1階に機能が詰めこまれた分、2階は「がらんどう(笑)」とYさんが形容するほどシンプルな空間。ここでゴムボールサッカーや段差を使ったお店やさんごっこが始まり、プレイルームいっぱいにおもちゃがちりばめられ、幼稚園のような遊びの風景が広がります。
Aさんの望んだ「子どもたちが生き生きといられる家」が体現された空間を「その雰囲気が、すごく好きなんですよね」と川崎さん。

設計者が予想しなかった光景もまた、住まい手によって見出されています。

「夜、子どもたちが寝ついて、最後に僕が階段の電気を消すんですが、そのときトップライトを見上げると、真っ暗な中で星や月がきれいなんですよ」Yさんが披露した秘密に、すかさず「今まで教えてもらえなかった。そこまで言われたら見たいね!」とAさんが返し、笑いの輪が広がりました。
「設計プロジェクトが住まいとして「生活」に変わったとき、僕らにもわからなかったことを発見してもらえる。設計者冥利につきますね」

高い窓に囲まれたがらんどうの家。そこは豊かな光と家族の笑顔があふれる、あたたかな小宇宙でした。


取材日:2012年3月24日
取材・文:二階幸恵
撮影:渡辺洋司(わたなべスタジオ)

今月の家を手がけた建築家:川崎修一+竹下久子(川崎建築計画事務所) 取材企画協力:OZONE家づくりサポート <建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

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