工務店・ガラス店のみなさま/スペシャルインタビュー

「名医と呼ばれる建築屋であれ(前編)

金子一弘(かねこ・かずひろ)
1952年生まれ。大学卒業後、オフィス機器会社勤務を経て1977年、母方の祖父が経営する金子建築工業株式会社(岐阜県・恵那市)入社。1984年、同社代表取締役就任。1995年、協同組合東濃地域木材流通センターを設立、理事長に就任。
室蘭工業大学の鎌田紀彦教授に師事、東濃地域を拠点に次世代高断熱住宅づくりに取り組み、その普及に向けセミナー開催、講演会と全国を飛び回る。
長年にわたり断熱建築に関する材料・構造について自ら調査・測定し検証を重ねる。徹底した現場主義と実践に基づく手法、それをベースに舌鋒鋭く迫る理論から「エコ住宅のエバンジェリスト(伝道師)」の異名も。その飾らない語り口と骨身を惜しまず動き続ける姿は、地域の工務店から全国の研究者まで幅広く厚い信を集めている。NPO新木造住宅技術研究協議会岐阜支部長。2007年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程前期終了。


快適な「本当にいい家」のため、性能と構造には妥協なし

お話は新しいモデルハウスでうかがった。太陽光発電パネルや太陽熱給湯システム、電気自動車を電源とするエネルギーシステムも備えた実験住宅は、躯体に地域の銘木「東濃ヒノキ」・土壁・版築が使われた、さわやかで快適な空間。
現在、木質構造の博士論文を執筆中の金子さん。研究者の理論と建築業の現場実践主義を両輪に、高断熱住宅づくりとその普及に取り組む。

――家業のメインである材木流通・建築資材販売業のほか、地元・岐阜県を中心に、高断熱の家づくりに一貫して取り組んでおられます。そのきっかけは?

20年ほど前、オーロラを見に行ったフィンランドでカルチャーショックを受けました。
外気温マイナス30℃なのに、木造平屋建てのロッジの中では見学者全員が半袖半ズボンなんです。ストーブもエアコンも見当たらないのに、どうやって暖房しているんだろうって。
そのとき窓にトリプルガラスが使われているのを見て、さらにヘルシンキでは防湿シートを使った建築の工事現場も見学してきました。

帰ってきて、ウレタンパネル等を使った高断熱住宅を手探りで始めます。それからNPO新木造住宅技術研究協議会の鎌田紀彦先生と出会い、日本の住宅の在来工法に防湿シートを取り込んだ方法を知りました。そこで、ちょうど家づくりを始めていたお施主さんと話し合って建てたのが、高断熱住宅第1号です。

私も妻も東京生まれ東京育ちで、移り住んだ岐阜の寒さがすごくこたえていたことも、寒くない家づくりへの原動力になりました。

――夏は気温35℃、冬はマイナス10℃という地域の風土も、取組の前提にあるのですね。
それ以降「楽園住宅」と銘打って高断熱住宅のみ建て続けてこられましたが、ベースにある考え方は。

いいものしかつくらない。高い安いではなく「本当にいい家とは何か」を理解してくれるお施主さんの家しかつくらないことですね。

――本当にいい家、とはどんな家でしょう。

コンセプトの中心には、普遍的な価値観である「住宅とは体と心を休める場所。だから快適であるべき」というのがあります。
実際につくる過程では、構造面と性能面で妥協はしません。耐震等級は3を取り、Q値(熱損失係数)は1.6以下にしています。
とくにQ値については、この地域の気候特性ではここまでしないとエネルギー消費量が従来と変わらなくなっちゃうんです。いくら快適でも、エネルギーを使いすぎるのはよくないですから。

伝統工法やデザインには全然こだわりません。最近力を入れている土壁にしても、遮熱や調湿の機能を利用しているだけなんです。
私の自宅は築35年の土壁の家を断熱改修したものですが、夏は100畳くらいの広さを10畳用のエアコンで冷やせます。土壁が蓄熱体になって、建物の熱容量が大きくなっているんですね。

断熱と気密をきちんとし、建物に熱容量を付加してやれば、小さなエアコン1台で家じゅうどこも夏涼しく、冬暖かい、そんな性能のある住宅になるんですよ。


モデルハウスは実験住宅。自ら建てて性能を測定・検証し、また建てる

モデルハウス夜景。南面には大きな開口が並び、張り出した庇が日射を遮る。2階窓まわりにつけられた額縁のようなウインドキャッチャーが印象的。左手奥には太陽熱給湯システムのヒートパイプ式真空管集熱器が見える。 インタビューに同席してくれた、建築部で設計を担当する一級建築士の金子妙子さん。「2階のウインドキャッチャーは当初、夫(一弘さん)にさんざんこきおろされたんですよ」と笑った。

――現時点で国内トップクラスの断熱・省エネ・創エネ技術を網羅したモデルハウス「東濃型ZETH(ゼッツ:ゼロ・エネルギー・ティンバー・ハウス)」を、3年前に建てた土塗壁モデルハウスの隣に建てられましたね。

この建物を含め、今まで2~3年おきに合計8軒のモデルハウスを建ててきました。
そのたびに社内はみんな大反対(笑)また建てるのかって。でも、建てた瞬間に失敗に気づいて「しまった、次はこんな風に改良したいな」となるんです。

このモデルハウスでは、デシカント換気システム*(注1)と小型エアコンを組み合わせた暖冷房を初めて取り入れました。高断熱樹脂サッシや外付け電動ブラインド、2階の窓まわりにはウインドキャッチャーも付けています。

モデルハウスはすべて実験住宅です。ブラインドを上げ下げしたり、条件をいろいろ変えて、室内環境・エネルギー消費量・CO2排出量などを測定してデータを集め、検証して改良点を考えていきます。

――それだけ頻繁に建てると、お金もかかって大変ではありませんか。

建物のほかに測定機器にも数百万円かかります。でも、自分たち自身が性能実験をして実証しなかったら、そういう性能が出せるって他人に説明できないですから。

それに、このモデルハウスには「交流施設」というテーマもあるんです。
スタッフの他に、勉強会の講師として全国からお招きする研究者や大学教授の方々とここで情報交換会をやっています。いずれは宿泊もできるようにして、室内環境を体感してもらえたらいいなと思っています。

――キッチンカウンターの下は土壁のようになっていますね。

版築*(はんちく)(注2)です。この建物は土壁と版築で蓄熱しています。 近くに行くと涼しくて気持ちいいでしょ? 冷輻射があって、体の熱を引っ張ってくれるんです。ほんとは部屋の真ん中に、天井まで届く版築の壁をつくりたかったんですよ(笑)

――こういった素材の効果も体感できる場になっているのですね。お客さまの住宅の断熱仕様は、実験住宅の測定で得られた数値や結果をもとに決めるのですか。

それとは別に、すべて現場ごとに考えます。断熱材の種類も厚みも全部シミュレーションして必要な熱抵抗値を決めていきます、ひとつひとつ計算して。
研究者や設計事務所は、方程式はたてるけど自分で「建てて」はいないでしょう?でも私は自分で測定して、補正して、建ててきました。ずっと。


住まい手が太鼓判を押す「病院が要らない家」

設計・施工を手がけた瑞浪市のAさん邸。東濃ヒノキと土壁を贅沢に使った和風家屋のQ値は1.55W/m2Kと北海道の住宅並みの断熱性能を持つ。住まい手は「住んでみての感想? 快適、の一言ですよ」。 モデルハウスの性能は国内屈指で、政府の閣僚が視察に訪れるほどだが、実験住宅は趣味でやっているようなもの、という。「日本の住宅研究はまだまだ発展途上。こういうことをやっている人があまりにも少なすぎるんです」

――お客さまと「本当にいい家」を建てるために、日頃どのような説明、お話をされているのでしょうか。

モデルハウスを見ていただいたり、泊まってもらうと「こうしたい」と言ってくださる方がいます。
例えば私の自宅は土壁の母屋のほかに新在来木造工法の離れがあって、どちらも高断熱化していますが、実際に肌に感じてさわやかなのはやっぱり土壁の母屋の方。両方にお連れしたお客さまは、土壁がいいなあとおっしゃいますね。

それに、OBのお客さまの家に一緒に行くと、そこのお施主さんが、今までとは考えられない生活をしていますって説得してくれるんですよ。夏に行くと「今日は外暑いの?」と聞いてきたりして(笑)

どこにお金がかかっているのか、の説明もきちんとします。
通常の複層ガラスの窓と、アルゴンガス入りのLow-Eトリプルガラスが入った高性能断熱サッシとでは価格が5倍くらい違うとか、耐力壁の性能を保つために釘打ちは機械だけに頼らず一本一本手打ちで仕上げるとか。防蟻対策も二重三重です。

――五感に訴える体験とOBの声、真摯な説明ありきというわけですね。加えてこの快適さがどのようにつくられているのか、さらなる説得力を持つために、実験住宅での測定や検証が役に立っているのでしょうね。

快適さってね、今までに体験したことのない「未知との遭遇」なんですよ。

家がこれだけの性能を持てることは、ほとんど知られていない。このあたりの人々は「家は開けた方が気持ちいい」と言いながら真冬でも窓をガラッと開け、厚着してこたつに入っていますが、それは「靴を履いたことがなくて裸足で歩いている」といった状態にもたとえられます。
だから高断熱住宅にかかるお金を聞くとびっくりしてしまう。
でも、やっぱり靴を履かせないとだめだよね。一度履いちゃったら、裸足で砂利道はもう歩けない。

それに、私たちの建てるような家に住むと、病院が要らなくなるんですよ。

少し前まで、このあたりは脳血管障害や心臓病で亡くなる人の率が高くて、冬はお年寄りは病院に入れちゃえ、といっていたんです、暖かいから。それで冬じゅう出てこない。乾燥していつも消毒用アルコールのにおいがする所に居ていいはずはないのに、帰れないんです。

でも、もし家が暖かくて快適だったら? 誰も病院なんか入らないですよね。いつも家にいて、必要最低限だけ病院に行くでしょう。

83歳で古い家を取り壊して新築したお施主さんがいます。奥さんが透析しているから、夜の着替えなどを考えて暖かい家がいいって。
お子さんはなんでそんなにお金かけるんだって反対しましたが、今でも行くとご夫婦でにこにこしてお茶出してくれますよ。もう90歳くらいでしょうか。

前の家と比べて介護も楽になっているし、夜中のトイレを心配しないで水が飲めるようになり、医者いらずだそうです。

「あと何年生きられるかわからないけれど、こんな家に住まわせてもらい、夫婦でいる時間が長くなる」と喜んでくれました。 自分の寿命と直結して感謝されたのは、驚きでしたね。


注1:シリカゲルやゼオライトなどの除湿剤を利用して潜熱を処理する空調システム。
注2:古代から伝わる、土壁や建物の基礎をつくる工法。土に石灰やにがりを配合し、型枠に入れて突き固めることを繰り返して壁体をつくっていく。


取材日:2012年7月29日
聞き手:二階幸恵
撮影:渡辺洋司(わたなべスタジオ)
金子建築工業株式会社
金子建築工業株式会社
岐阜県恵那市
社員数 47名
注文住宅、リフォーム業・断熱改修リフォーム・不動産業・木材、建材販売

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