事例紹介/リフォーム

築42年の木造を減築エコ改修
暖かなゼロエネ住宅が誕生!

群馬県 I邸

Profile Data
立地群馬県前橋市
住宅形態木造軸組平屋建(1977年竣工)
リフォーム工期2018年9月~12月
窓リフォームに
使用した主なガラス
エコガラスS

2階部分を減築+徹底的な耐震・断熱を施す

前橋市は榛名・赤城・浅間といった北関東有数の山々に囲まれた盆地に位置し、全国に58ある中核市のひとつ。冬は“赤城おろし”の名で知られる冷たい季節風にさらされ、夏は最高気温40℃の記録もある内陸性の土地柄で知られています。

築42年の2階建住宅をエコリフォームした住まいを、このまちに訪ねました。
迎えてくれたのはIご夫妻です。もとの家は奥様が生まれ育った実家でしたが、ご両親が逝去されて数年、建替か改修か時間をかけて検討し、最終的に改修を選びました。

「古くて寒くて暗い家でした」とIさんは振り返ります。厳寒期はー3℃近くまで下がる気候風土に耐えてきた高経年の木造住宅は、大きな窓や壁からも冷気が入り込み、石油ファンヒーターをつけても場所によっては室温が0℃だったとのこと。

相談をもちかけたのは、兼ねてからご主人と知り合いだった新井政広さんでした。
お隣の高崎市にある工務店(株)アライの代表取締役として高断熱・高気密の家づくりに長年取り組んでいる新井さんは、旧I邸の現地調査を綿密に行い、耐震と断熱の性能を念頭に置いた減築・改修を提案します。

「建物が傾いていて、2階は歩きづらくなっていました。そこで、断熱と耐震改修、さらにはできるだけ廃材を出さないよう減築を提案し、おふたりに受け入れていただいたのです」

減築によって2階部分を除去し、1階も基礎と柱以外ほぼすべて新しくする大規模な改修は2018年9月に始められました。そして4ヶ月後、新年の訪れとともにI邸は新たな姿で住まい手に引き渡されたのです。

築42年の木造を減築エコ改修 暖かなゼロエネ住宅が誕生!-詳細写真02

大小の窓が並ぶI邸の南面。モダンなグレーの外壁に白い樹脂サッシがアクセントになっている

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(株)アライの新井政広さんにもご同席いただき、ダイニングテーブルでお話をうかがった。吹き抜けのリビングの頂部高さは4mを超える。2本並んだ梁は巾330mmの米松材。「梁が見える家に」という住まい手の希望にこたえた

エアコン1台で家じゅう暖か。北の窓辺もエコガラスなら寒くない

計画が具体性を帯びた当初の希望をうかがうと「明るくて暖かい家、ですね」とIさん。一方ご主人は創エネ住宅化を新井さんと検討したといいます。
「エネルギーについてはこれからどうなるかわからないので、電気消費量と売電収入のバランスを検討した上で太陽光発電パネルを設置することにしました」

工事にあたって新井さんは、まず既存の柱に加えて土台から梁・柱・耐力壁・筋交いなどで新たな躯体をつくり、耐震面の改修をしっかり行いました。
次に壁や屋根・天井部そして床に高性能グラスウール断熱材を200mmから場所によっては400mmもの厚さで詰めこみ、さらにすべての窓をアルゴンガス入エコガラスの樹脂サッシ窓に変更。ガルバリウム鋼板で葺いた新しい屋根には容量4.9kWの太陽光発電パネルを載せました。

2階建から平屋、そして高性能な“ゼロエネ住宅”へとI邸は生まれ変わったのです。

寒さが本格化する1月に入居した後の体感について、Iさんは「何よりもキッチンが明るくなったのがうれしかったですね。家全体が暖かくなって、北側の窓辺やお風呂も寒さを感じませんでした」
北側にあったキッチンは今回のリフォームで南東に移され、広く明るい空間になっています。

「玄関からリビングまで、全部開けっ放しでいられます」とも。

I邸の平面は西側の玄関ホールから建物の中央を廊下が延び、両脇に部屋や水まわりが並んでいますが、それぞれの建具をすべて開け放してどこも寒くないというのです。これは約100㎡の室内がほぼ同一の温熱空間になっていることを意味します。

オール電化となったI邸は愛用のファンヒーターに別れを告げ、家全体を暖房するのは2台のエアコンのみ。コタツも床暖房もありませんが「前の家のようについ厚着してしまうと暑いです」とIさんは笑います。「前は、窓からも壁からも寒さが伝わってきたんですが」

日常の空調はリビングのエアコンを朝5時でタイマー予約し、晴天時は8時か9時でスイッチを切ります。その後はずっと無暖房。日が落ちたところで再度エアコンをつけ、設定温度22.5℃で就寝まで運転するとのこと。北と西の2面に窓がある寝室にも、エアコンはありません。

I邸はUA値0.31の断熱性能を誇り、BELS*認定五つ星も獲得しているゼロエネ住宅、電気料金も気になります。
するとご主人いわく「光熱費はかかっていないんですよ」

以前は石油ファンヒーター3台にエアコンとコタツを併用し、月2万円を超える電気料金に加えて灯油代がかかっていましたが「今は電気料金のみで、1万円もかかっていません」
太陽光発電による売電収入を勘案すれば、実質ゼロ円となるしくみです。

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リビングダイニングから玄関ホールまで一直線に続く廊下。暑い時期はここに扇風機を置いてリビングのエアコンから吹き出す冷風を受け、家じゅうに送ったという。両脇にある各室の引戸は開放され、温熱環境が共有されている

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水まわりにはドレーキップ窓が採用された。内倒しと内開き2種類の開け方がある窓で、高い断熱気密性能をもつ。ヨーロッパでは一般的だが、日本国内では比較的高価格なこともあり普及は進んでいない

家は見た目より機能。見学会で目を養うのがお勧め

「新しい家は内と外の温度差が大きい。だから外出時は温度計を確認し、外が寒いのを認識してから(笑)上着を着込んで出るんですよ」
そんなエピソードを披露しつつ、ご主人は「エコリフォームを検討している人には、工務店をしっかり選ぶことと見学会や展示場でいろいろ見ることをお勧めしたいです」と話します。

「ハウスメーカーはデザイン重視のところが多く、機能は二の次という印象でした。でも住まいにとって大事なのは“快適に過ごせるかどうか”のはず。見た目よりも室内の快適さや光熱費がかからないことでしょう?」

展示場をめぐる中で室内に滝がある家も見てちょっとやりたくなった、と笑い話も差しはさみながら「耐震や断熱などの知識がこちらになくても、住む側のことをちゃんと考えて教えてくれる。それがアライさんでした」とも。
単に知り合いだからではなく、実際にアライの住宅完成見学会に足を運び、北向きの窓辺も寒さを感じなかったことが依頼の決め手だったといいます。

たくさん見学して住宅を見る目を養いつつ、自ら考える重要ポイントはぶらさない。当たり前のようで実はそう簡単ではないかもしれないこのスタンスは、参考になるのではないでしょうか。

プロとしておふたりに伴走した新井さんは「一番大切なのは断熱ですが、Iさんの家では命と財産を守るための耐震工事をしっかりやれたのがよかった」と安堵の笑みを浮かべ「これからは窓を開けたり閉めたり、この土地の微気候に合わせていろいろやってみてほしいですね」とアドバイスを贈りました。

辞して玄関を出ると、日没間近の外気の冷たさに驚きます。裏を走る道路や隣に建つ飲食店の騒音も、室内では全く意識しなかったもの。高いレベルで達成された断熱・気密力を改めて実感しつつ、夕日に照らされたI邸を後にしました。

  • * 建築物省エネルギー性能表示制度。2013年に国土交通省により制定された。第三者認証マークのひとつとして、ガイドラインに基づき建築物の性能を5段階で評価し、広く一般に向け表示する
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旧I邸のキッチンがあった位置に配された家事室には、ふたつの北窓と小屋裏収納に続く階段がある。物干し場としても重宝するユーティリティ性の高いスペース

取材協力(株)アライ
URLhttps://kk-arai.com/
取材日2019年11月9日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
エコガラス