事例紹介/リフォーム

牽引役は管理組合
大規模マンションエコリフォーム

愛知県・Nマンション

Profile Data
立地愛知県岡崎市
住宅形態RC(一部SRC)造15階建
分譲マンション(1993年竣工)
リフォーム期間2015年9月15日~10月4日
窓リフォームに
使用した主なガラス
真空ガラス
利用した補助金等平成26年度既存住宅・建築物における高性能建材導入推進事業

固定資産税減免(一部住戸)

約200住戸の分譲マンションで全窓をエコガラスに

かつて三河国と呼ばれ、徳川家康を生んだ松平氏ゆかりの地・岡崎が、今回のエコリフォームの舞台です。

戸建住宅が集まるエリアに建つ15階建マンションは全部で186住戸。笑顔で迎えてくれた管理組合理事長の木村宗春さんは、窓について「住民の方からの“結露がひどいので何か対策はないか”という相談は、ずっと以前からありました」と振り返り、こまめに拭いてもらうしかないですねと答えてきた、と続けました。

動きがあったのは4年ほど前だったといいます。
築20年を超えた建物では窓枠のビート*が劣化し、交換が決まりました。ところがほぼ同時期、たまたまマンション管理セミナーに参加した木村さんが“エコガラスで窓をリフォームできて、補助金もある”との情報をつかんできたのです。

説明を依頼され、機能ガラス販売と施工のプロである(株)あけぼの通商がやってきました。空き住戸の窓を使い、コールドスプレーを吹きつけてエコガラスとシングルガラスの断熱性を比較するデモンストレーションを行うと「体験した管理組合の理事全員が『すごい、ぜひやりたい』となったんです」

見積もりがビート交換工事とあまり変わらなかったこと、加えて改修費用の三分の一にあたる補助金が交付されるといった条件も後押ししました。管理組合理事会は検討を重ね、住民への説明やアンケート調査も実施。
ほとんどの住民の支持を得て、2015年4月の定期総会ではビート交換転じて真空ガラスによる窓のエコリフォームが決まったといいます。

200近い世帯数を持つ分譲マンションにおいて、住民の合意を得るのは決して簡単なことではありません。
Nマンションでは

  • ①理事長の木村さんをはじめとする管理組合のていねいな説明
  • ②補助金申請によって入居世帯の実質的負担がゼロだった
  • ③普段から管理規約改正がまめに行われ、共用部である窓の性能改修を計画修繕として認めると明記していた

といった事柄が、スムーズな合意形成につながったといえるでしょう。

牽引役は管理組合大規模マンションエコリフォーム-詳細写真02

戸建住宅群の中に建つNマンションは3LDKや4LDKなど広めの住戸が多い。当初はファミリーの入居が主だったが、現在は半分以上が入れ替わり、単身で購入・居住する人も増えているという。窓のエコリフォーム直前に2回目の大規模改修をすませており、竣工から四半世紀経つとは感じられない外観

牽引役は管理組合大規模マンションエコリフォーム-詳細写真03

集会室でお話をうかがった。今回のエコリフォームで名実ともに計画を牽引した木村宗春管理組合理事長のほか、施工を担当した(株)あけぼの通商東海営業所所長の木村賢太郎さんと営業担当の伊藤健一さんにもご同席いただいた

管理組合の協力と施工者の挑戦で短工期を実現

今回のエコリフォーム成功には、あまり見られないいくつかのポイントがあります。

まずは採寸。Nマンションは186の住戸に対し間取りのパターンが140あり、一戸ごとに慎重な作業が求められたため、迅速な作業は難しいと思われました。
しかし大規模修繕直後で残っていた足場を活用することで「2日間で全住戸を終わらせることができました」と、あけぼの通商東海営業所の伊藤健一さんは振り返ります。
さらにバルコニーがある箇所も外側から採寸し、居住者不在で作業を進めたのも、短期間での工事完了につながりました。

実際の工事にかかった時間は、9月中旬から10月はじめの計20日間です。平日・休日を問わず、申告してもらった希望日に基づいて各住戸の施工日が決められました。
住まい手の立会いが基本となるため当初は土日への集中が見られましたが、ここは管理組合が頑張り「なるべく日程をばらして調整しました」と木村理事長。2回の大規模修繕でつちかった経験が生きたといいます。

管理組合の協力はほかにもありました。
工事中のスムーズな移動を考えてあらかじめフェンスを取り外し、集会室を施工者に向けて開放。「休憩場所兼物置、さらに小さな部品の加工場としても使わせていただきました」あけぼの通商の木村さんは笑顔で話します。

さらに木村理事長は自身の住戸を先行して施工し、一住戸にかかる作業時間を確認しました。これによって工程表の精度が上がり、スムーズな流れが生まれたとのこと。
「理事長さんには本当に助けられました」

施工側も負けてはいません。少ない作業人数をカバーするため、ガラスの搬入搬出に引越運送会社の手を借りることに挑戦したのです。他業界のプロフェッションを信じ、3000枚のガラスの運搬を任せました。
引越のプロたちはガラス運搬用の馬を提供され、パレットとリフトを駆使して各住戸の前までエコガラスを運び上げたといいます。

さらに、工事期間中のガラスを保管するのに現場にほど近い貸し倉庫を使う工夫も。
業界の常識にとらわれることなく、現場でベストの解を探して選択する。柔軟な発想が短期間の工事完了を可能にしたのでした。

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FIX・片引き・換気用小窓が複雑に組み合わされた出窓。正確な採寸には細心の注意が求められた

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共用部には地上から最上階まで貫通する吹き抜けがある。残っていた足場は、ここに面した窓やバルコニーのない出窓の採寸に役立った(写真提供・あけぼの通商)

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すべての窓で真空ガラスが採用された。場所によってワイヤー入りやくもりガラスのバリエーションも

多くの住民が納得した“予想外の断熱力”

エコガラスの実際の効果はどうでしょうか。住まい手の方を訪ねました。

Tさんご夫妻が暮らす住戸は高層階の角にあります。お隣に接する西側以外の3面に開口を取った4LDKには、全部で10箇所の窓がありました。

寒さと結露、そして外からの音が悩みだったというTさんは、エコリフォーム後の室内を「今は大丈夫。すぐ近くにある小学校からの音も聞こえません」とにっこりしました。

「エアコンはもわっとするから嫌いで」と、以前から真冬でもあまり暖房しなかったという住まいは「リフォーム後は電気ストーブだけですぐに暖まります」
結露も改善されました。以前は、住戸外にある共用部の吹き抜けと隣り合っていて冷やされやすい玄関の窓がとくにひどかったといい「カビも生えていました」その心配もなくなりました。

一方、低層階中住戸の木村理事長邸は「以前はガスファンヒーターに加えてコタツを2台、布団をかけずにつけていたんですよ」と、あるじが豪快に笑います。
「リフォーム後は、暖房機器を一切なくしました。昼間の日差しで部屋が暖まり、それがずっと保たれているんです」
他の住民からも「日中の暖かさが継続する。灯油を買わずにすんで、とても助かっている」との声が多く寄せられるそうです。

夏は夏で、かつては一日中回していたエアコンを「22℃設定でもすぐに寒くなって、止めますね」とのこと。

「断熱効果がここまですごいとは思わなかった。もともとは結露とビートの劣化解消だけを望んだリフォームでしたから。予想外のありがたさですよ」

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カウンターを挟んでダイニングスペースと向き合うT邸のキッチン。勝手口ドアは東を向き、サービスバルコニーにつながる。足元までガラスが張られており、エコリフォーム以前は寒さの元凶だった

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玄関に光を届ける内倒し窓は吹き抜けに面しており、風に冷やされて結露が激しかった

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南側リビングと和室にはそれぞれエコガラスの掃き出し窓。外にバルコニーが伸びている

手を携えた“居住のプロ”と“施工のプロ”

「補助金を活用してのマンションエコリフォームは、やるべきです。省エネ性も快適性も、そして資産価値も変わりますから」木村理事長の言葉です。
と同時に「管理組合の理事が“どうしてもやりたい”という気持ちを持って、自分ごととして汗をかかなければ難しいですね」と、釘も刺しました。

とくに住民の合意形成については「あきらめずに勉強していくこと。反対する人をつっぱねるのでなく、その人が何を求めているのかを考えます。不安を解消し、不満の原因を聞いて解決策を考える。その上で相手の言い分が理不尽なら、あとは毅然とした態度をとること!」

住民向けの対応だけでなく、施工会社との打ち合わせや工程表づくり、事前準備、工事中の安全対策まで、管理組合の理事がしなければならない事柄は多岐に渡ります。
「これからエコリフォームをするマンション管理組合の方は、そのひとつひとつをしっかり頭に入れて“こんなはずじゃなかった”とならないようにしてほしいですね」

木村理事長のみならず、Nマンションの住まい手の多くは複数回の大規模改修、全戸のインターホンや消防設備の更新など、経年マンションならではの多様な改修を経験している、ある意味で筋金入りの居住者です。
そんな住民とともにリフォームを成功させたあけぼの通商の木村さんは「施工者として、約束した時間は厳守すること、いつも見られているという意識を持つことを徹底しました」と当時を振り返り「工事中は、どうしてもガラスが割れてしまって工期を変えざるを得ないこともあります。そんなときでも怒る方はいなかった。本当にいいお客さまばかりでした」

岡崎は三河花火の中心地でもあります。5月と11月にはNマンションのすぐ近くで新作花火の発表会が行われ「毎年楽しみなんですよ」とTさん。
居住のプロと施工のプロが手を携えて導入したエコガラスの窓に、美しく映る空の花を思いました。

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マンション管理士の資格を持つ“プロフェッショナル理事長”木村宗春さん。今回のエコリフォームでは、合意形成や情報提供・共有など内部向け業務、あけぼの通商との工程作成や打ち合わせといった渉外、さらに補助金をめぐるSII(環境共創イニシアチブ)との折衝に奔走した。最初の補助金申請は時間差で間に合わなかったといい、事業主体の対応に憤りも。それでもあきらめず、二次募集で見事に交付を勝ち取った。住民から絶大な信を集める笑顔と気さくな語り口の裏に、強靭な精神力が隠されている

牽引役は管理組合大規模マンションエコリフォーム-詳細写真11

ときには歯に衣着せぬ突っ込みをかける住まい手代表と、それを真摯に受け止める施工者代表。苦労を分かち合った者同士の気のおけない会話が続いた

*窓ガラスをサッシに固定するゴム製の部品

取材協力株式会社 あけぼの通商
URLhttps://www.anmitsuglass.co.jp/
取材日2019年4月8日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
エコガラス