事例紹介/リフォーム

吹抜けのある暖かな木の家
秘密はエコガラス+外張り断熱

岐阜県・K邸

Profile Data
立地岐阜県下呂市
住宅形態木造軸組2階建
住まい手夫婦
建築面積104.34㎡
延床面積178.46㎡

今月の家を手がけた工務店:
(株)中島工務店
http://www.npsg.co.jp/index.html

時間と飛騨の寒さで傷んだ築70年の木造を解体。新たな姿に

今回お邪魔したのは日本三名泉のひとつ・下呂温泉にほど近い萩原町です。飛騨川に沿う宿場町として栄えた歴史ある街並みに、今も街道の趣が残っています。
迎えてくれたKさんは、明治時代からこの地に続く家の4代目。代々住み継いできた築50~70年の住居を2019年に解体し、ご夫婦の暮らしを重視した新しい家を建てました。

「益田郡は風の町。冬は北から強い空っ風が吹き、乾燥して寒いんですよ」と奥様。真冬の気温は-8℃~-12℃にもなるといいます。
そんな中、年を経た木造建築の室内は「人のいるところだけ石油ストーブを使っていたので、そこから離れるほど寒くなり、リビングが20℃でも廊下は5℃。移動したくありませんでした」

厳冬期には室内でも-3℃まで下がることがあり、寝るときは寝室をあらかじめオイルヒーターで暖め、かつ電気毛布が必須。古いサッシの窓は全面結露してカーテンもべったり濡れていた、と振り返ります。
さらにKさんいわく「床は傷み、浴室のタイルも剥がれていました。あと20年住むのは無理だろうと、建替を決めたのです」

2019年、曽祖父の代からの歴史と思い出がつまった家を生まれ変わらせる時がきました。

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真02

街道筋に建つK邸。金属サイディング仕上げの外壁は、その内に120mm厚のグラスウール断熱材を抱く。南向きの玄関は換気用上げ下げ窓を切った通風型断熱引戸。ガラスはもちろんLow-Eガラス

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真03

靴箱や収納をゆるやかに目隠しするため、祠床風に塗り回した壁が印象的な玄関。曇りガラスのFIX窓から入る光が拡散され、明るい

仕切りが少ない、暖かな木の家。ポイントは外張り断熱

設計を任されたのは、岐阜の良質な県産材『東濃ヒノキ』を使った家づくりで知られる中島工務店の設計士・加藤 隆さんです。
旧知の間柄だったKさんご夫妻に計画の初めから竣工まで伴走した加藤さんは、住まい手の希望から環境性能に加え、地域の伝統や家相に到るまで熟慮しながら設計に取り組みました。

家づくり当初のイメージをご夫妻にうかがうと、第一に暖かい家であること。さらに奥様は「明るく、そして風通しをよくしたいと。特にリビングの窓は最大限に大きくしたいと思っていました」以前の家が暗かったのと、このあたりは夏にとても気持ちのいい風が吹くことを念頭においた希望です。

一方、Kさんが大切にしたのは空気感。「壁はクロスでなく左官仕上げの塗り壁で、と思っていました。湿度の調整もしてくれますし」

住まい手それぞれの思いをベースにしつつ、加藤さんが設計の基本に据えたのが“間仕切りを少なめに”という考え方でした。「仕切るとどうしても温度差が出ますから」

吹抜けがあるなど気積の大きい室内は「暖まりにくいのでは」と思いがちです。
しかし窓や壁など建物外皮の断熱性能を上げて外の冷気をシャットアウトしつつ、室内の空気を上手に循環させることで、家中どこにも温度ムラのない快適な空間をつくることができます。
これが“外張り断熱”の考え方で、K邸新築にあたり加藤さんが選んだ手法でした。

メイン空間であるリビングは床から頂部まで6mほどある吹抜け空間。シーリングファンとサーキュレーターで上下階の空気を撹拌し、温度差をなくすしくみになっています。

隣には仏間を兼ねた和室を置きました。伝統的な日本民家の“続き間”を踏襲したかたちです。ここにダイニングキッチンを加えた約50㎡を実質的なワンルームとし、周囲を水まわりや客間、パントリーや家事コーナーが取り巻く1階となりました。

ダイニングの背後にある階段を上がると、造りつけの棚がある2階ホールにたどり着きます。ここを中心に主寝室とご子息の個室、納戸そしてバルコニーに続くスノコの渡り廊下を放射状に配置。
ホールは吹抜けと階段とで1階と空気を共有しています。上下階の温度差の発生を抑えるカナメ的存在ともいえるでしょう。

空間構成でもうひとつ、重視されたものがありました。家相です。

「仏間の上は部屋にしない・水まわりは西・玄関は南東・鬼門である北東には窓などの大きな“欠け”をつくらないこと」加藤さんの言葉を聞き、奥様が笑いながら「百パーセント、家相でできている家なんですよ」と続けました。

K邸では、古い家の解体時も“年回り”を考慮して期日を決定しています。
先祖から受け継ぎ、今後も長く暮らし続ける場として家をつくるとき、家相に配慮する住まい手は今も決して少なくありません。
その底にあるのは、平和や安寧を願う自然で敬虔な心なのでしょう。

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真04

吹き抜けのリビングに隣接するダイニングでお話をうかがう。室内は珪藻土や中霧島壁など多孔質の塗材を用いた真壁造だが、和風になりすぎずさりげない。末口八寸超の白い大黒柱は奥様こだわりの京都 北山ヒノキの磨き丸太だ。床にはチーク材を選択。ねっとりと深みのある独特の色合いは内装デザインのベースとなった

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真05

東濃ヒノキを張った腰板の美しいピンク色が目を引く仏間。地袋収納の上に切られた窓は西向きだが、隣接建物が西日を遮るため断熱タイプのエコガラスを採用している

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真06

木組みの妙と量感を感じる2階ホール。天井板は張らず、80mm厚のフェノール樹脂材とスタイロフォーム+空気層で屋根断熱している。手前の階段と吹き抜けとで下階と空気環境を共有するため「朝は階段を通ってダイニングに冷気が降りてきます。そのうち消えますが(笑)」と奥様。床はブラックチェリー材

周辺環境から導かれる開口部計画。窓はエコガラス

K邸の窓はすべてエコガラス。南北と東面で断熱タイプ、西窓には遮熱タイプが採用されています。
「大きな窓のある明るい住まいにしたい」奥様の願いは、さてどのように実現されたのででしょうか?

開口部の計画は、その性能はもとより、周辺環境が少なからず影響します。
K邸の敷地は東に酒蔵や和菓子店など歴史ある商店が点在する街道が走り、南は隣家の建物。北は飛騨川ごしに岐阜の山々がのぞめる見晴らしのいい方角となっています。

人通りが多くプライバシー配慮が必要な東面では、1階の窓をキッチンと家事コーナーのふたつに絞りました。どちらも型ガラス仕様で、明るさは確保しつつ外からの視線を遮断しています。

しかし東は、御嶽山を含む木曽の山々の眺望が楽しめる方角でもありました。そこで外部の視線が入らない2階の二間で大きな開口を切ったのです。

リビングの掃き出し窓が面する南側は、隣家との間に駐輪場を兼ねたスペースを取りました。同時に目隠しの設置も求められたため1階部分への日射が失われましたが、吹抜けにふたつの高窓をつけることで外からの自然光を取得し、明るさを確保しています。

北を向く客間には、駐車場に面して掃き出し窓がつけられました。日が差さないのに大きな窓、寒いのでは…? とちょっと心配な気もします。
しかしこれは、いずれ訪れるかもしれない御両親の介護時に車の移乗が楽なようにと、住まい手が考え抜いた結論でした。
奥様は「シャッターとエコガラス、室内側には障子もあるので、以前ここに泊まった親戚も『寒さは感じなかった』と言っていました」

そして西面の開口は、客間の地窓やトイレの明かり取りなどどれも小さめです。寒い地域であっても西日の熱は強く、遮熱型のエコガラス採用の理由もそこにあります。

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真07

キッチンとともに1階東面の開口を得た家事室。遮熱型エコガラスをはめ込んだ窓は型ガラスタイプを選び、前面道路からの視線を遮断する。内倒しタイプの開閉システムは防犯面で高い安心感がある、と住まい手

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真08

10畳の主寝室は、あらわしの小屋組が高いところで3.5mを超える。2面採光の窓は掃き出しが南面バルコニーに通じ、腰窓は眺望の良い東を向く。「夏は思い切り窓を開けて眠りたいんです、毎日キャンプみたいに」と笑う奥様の願いを叶えるエコガラスの引き違い窓は高さ1.3m。窓外に連なる木曽の山並みは「御嶽山の御前山ですよ」とKさん

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真09

頂部の高さ約6mの吹抜けリビングでは南の高窓から外光が降り注ぎ、バルコニーに続くスノコ廊下が頭上をめぐる。ふたつの高窓は横すべりだし窓とし、夏場に下階の窓と一緒に開けることで家全体の換気をも担う

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真10

真壁造に地窓と掃き出し窓、障子で和の雰囲気が満ちる客間。珪藻土と同じく多孔質の中霧島壁は湿気や臭いも吸着し、室内空気を清浄に保つ。「しばらく閉め切ったあとに開けても、中の空気がきれいだと感じます」C値0.3とのことだが、息苦しさ等はもちろん一切ない

エアコン1台と床暖房で家じゅう快適! 温度ムラもなし

K邸を訪ねたのは2月中旬、今年は暖冬とはいえ一年で最も寒い季節です。
空調機器の使い方を含め、家全体の室内環境をどうコントロールしているのかは気になるところ。うかがってみました。

暖房機器は、古い家で長く使ってきた石油ストーブをやめ、各室ごとのエアコン設置+リビングダイニングと水まわりの床暖房とに切り替えました。
しかし「実際に使うエアコンはリビングの1台だけですね」と奥様。あとは床暖房で十分といい「昼は、晴れていれば床暖も要りません。家全体が保温されている感じです」

まるごと1軒空調の重責?を床暖とともに担うリビングのエアコンは、ではどのように使われているのでしょうか?まず毎朝6時にタイマーで稼働を始めます。17℃ほどの室温を20℃まで上げ、ご夫妻が出勤する8時にスイッチが切られます。
あるじがいったん戻る昼食時、室温は起床時と同じ17℃程度がキープされているため暖房はなし。仕事が終わり帰宅して夕食時の19時頃に、ようやく再稼働となるのです。

そして就寝時に床暖房と同時にスイッチオフ。それでも起床するまで、家じゅうでほぼ17℃以上が保たれるといいます。
ちなみに2階では終日寝室の戸を開けて下階から上る暖気を受け取るため、エアコンが使われることはありません。

以前の住まいが室内でも氷点下を記録していたことを思うと、驚きの断熱・保温性能アップといえるでしょう。

「体が冷え切らないんですよ」
住まい手の印象的な言葉です。「手も足も床も暖かいから。体温が上がっているかも」
服装も布団も薄くなり「靴下2枚ばきだった足が、風呂上がりは裸足です」睡眠が深く、トイレに起きなくなったといいます。寒い地域の生活では、どれも体調や健康に直接関わってくる要素ではないでしょうか。

そしてエコガラスの窓は「結露も、近くに寄ったときの寒さもありません。以前は朝、カーテンを開けると全面結露して冷え切っていたのに」

いいことづくめですね、と水を向けるとKさんは「部屋に野菜が置けなくなったんだよね」。以前は室内の寒い箇所にそのまま置いていた野菜が傷むようになったというのです。
「りんごも米も、今は仕事場の倉庫に置いてますよ」…つまりは以前の部屋が冷蔵庫並だった…? と、一同思わず大笑い。

笑いながらも加藤さんは「安心しました」と感慨深げに話します。
「設計時、性能については数値しか見えません。本当に暖かさが確保できたか一番気になっていました。ホッとしましたね」

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真11

2階は吹き抜けと階段を通じて下階の暖気を上げて全体を暖めるのが前提。渡り廊下のスノコ仕上げも納得だろう。ホールで目を引く千本格子の開き戸は納戸の出入口で、解体前の家にあった建具を大工さんがリノベーションし使ってくれたとのこと。飛騨の匠の技が真壁によく似合う

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真12

リビング掃き出し窓は大開口。直接の日射はないが結露・寒さともにまったくないという。繊細な木の窓枠が美しく「これが見たくて、カーテンはふたつとも枠にかからないようにしました」奥様の言葉通り、カーテンレールに工夫が

この家の主役は夫婦。子どもでも来客でもない

東京出身の奥様いわく「この家に住んでから、たまに実家に行ってもすぐ帰りたくなるんですよ」
その理由に、性能向上による快適さや思いを込めたゆえの愛着のほか「夫婦の暮らしを大切にした家ならではの居心地のよさ」を挙げました。

最初は“子どもと育つ家”といった考え方や、昔ながらの客間がやはり必要ではとの思いもあった、というご夫妻。けれど最終的に「居る時間が長いリビングのソファを良いものにするなど“自分たちが住むための部分”にお金をかけたからこそ、居心地のいい家になったと思います」

キッチンを飾るフラワーアレンジメントは、数ヶ月前から始めた奥様の新しい趣味です。
以前からダイニングキッチンが居場所だったそうですが「窓から朝日が入ると別荘にいるみたいで、ここに座ってコーヒーを飲む時間が大好きになりました。そうすると窓辺にお花を飾りたくなって」教室に通い始めたとのこと。

さらに「以前は掃除が嫌いでした、やりがいを感じられなくて。でも家が新しくなったら楽しいんです」

家が住まう人を変える。その瞬間に立ち会った気がしました。

一方Kさんは「以前の家と変わらず、リビングでテレビを見るのがなによりの楽しみですよ」新調したソファと大画面テレビに満足、と言いつつ、南に面した広いバルコニーでの干し柿作りが新たな楽しみになったとにっこりしました。

家づくりにあたり、その使い方過ごし方を考えるのは楽しくも難しい作業です。
多くの要素から優先事項を抽出し、時間軸をも加え取捨選択しながら、周囲の声にとらわれすぎずイメージをまとめていく。この課題に “真の主役は誰か”を一番にもってくる“K夫妻流”でのぞむのもまた、ひとつの方法かもしれません。

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デザイン性の高いトイレ空間。間接照明は設計担当・加藤さんの手になるもので、同様の木工作品が他にも随所に見られる。極細の縦すべりだし窓は奥様のお気に入り。西向きのため遮熱タイプのエコガラスが選ばれた

吹抜けのある暖かな木の家 秘密はエコガラス+外張り断熱-詳細写真14

エコガラスの型ガラス窓を通った外光が柔らかく拡散し、アレンジされたお花を引き立てるキッチン。調理器具類は別の収納にすべておさめて隠し、ミニマムな大人の空間になっている

取材日2020年2月21日
取材・文二階さちえ
撮影渡辺洋司(わたなべスタジオ)
エコガラス