事例紹介/リフォーム

アイディアと工夫満載の窓で
豊かな光と陰影をつくる

愛知県・H邸

Profile Data
立地愛知県春日井市
住宅形態木造軸組2階建
住まい手夫婦
建築面積75.56㎡
延床面積110.41㎡

今月の家を手がけた工務店:
(株) 中島工務店
http://npsg.co.jp/index.html

岐阜の銘木“東濃ひのき”で終の住処を建てる

四半世紀近く住み続けた土地の南隣に、新たな住まいをつくったご夫妻がいます。おおらかに葺きおろされた大屋根の家を訪ねました。

H邸の敷地は春日井市の北東部、高台に広がる住宅地の一角です。
背中合わせにある更地は、かつての住まいがあった土地。築40余年を経た建物はあちこち傷み「設備もダメになりつつありました。そんなときに南側のお隣が空いたので『日が当たる方へ!』と買ったんです」夫とふたりで暮らすこの家の主、Hさんは笑顔で話します。
ご自身の定年退職と重なり、ライフスタイルを考える時期でもありました。

住宅展示場をめぐる中、岐阜県の地場産材『東濃(とうのう)ひのき』で建てた家に出合います。東濃ひのきは伊勢神宮の式年遷宮で御神木にも使われる銘木。その粘り強さと美しさでは国内屈指の誉れ高い建材です。

さらに、設計・施工を手がけた(株)中島工務店のモデルハウスは、新品感を打ち出すことが多い他のハウスメーカーのそれと比べ、従来の暮らし方を変えずに既存家具や手作り品も置きやすい“素朴さ”が感じられたといいます。
「さらっとした新築にしたかった」と振り返るご夫妻の志向によく合致する佇まいだったのでしょう。

こうして“〈ドキドキわくわくの見せる家〉ではなく今までの暮らしの延長線上にある家づくり”が始まりました。

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真02

H邸外観。最高高さ約10mの2階建だが、大屋根の頂部を前面道路から後退させることで建物全体を低く感じさせ、街並みに配慮している。玄関とリビングの開口前に目隠しとして立てられたフェンスと、左手和室窓の手すりの意匠もそろえてファサードデザインを構成

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真03

ダイニングテーブルでお話をうかがう。Hさんご夫妻のほか、設計から施工まで一貫して請け負った(株)中島工務店住宅部の細江さん、香田さんにもご同席いただいた

窓の配置とL字平面の組み合わせが明るさと陰影を生み出す

計画を進めるなかで「窓はとにかく明るく大きくつくってほしいと伝えました」とHさん。
風通しと日当たりがよく、開放的な家…この国で家を建てる人の多くが最初に思い描く願いでもあります。

設計を任された中島工務店の香田さんは、この希望を受け入つつ夫婦ふたりで暮らす“終の住処”の要素を重視し「生活のすべてが1階で成り立つようにしました」と振り返ります。

1階はLDKを中央に配置し、寝室や水まわりでぐるりと取り囲む廊下のないプラン。住まい手がもっとも長い時間を過ごす場所から、どこへでも移動しやすくなっています。

リビングには吹抜を設け、2階廊下の手すりごしに空間を共有しました。「上の書斎にいることも多い夫と、リビングから呼応しています」とHさん。
部屋の中央にかかる地元産マツ材の丸太梁は、誰の目をも釘付けにしてしまいます。「来る人はみんな、玄関から中を見上げて『いいなあ』っていうんですよ」と、昔から白木が大好きというご主人が顔をほころばせました。

いつか来るかもしれない介護を受ける生活を考慮し、寝室からウォークインクローゼット(WIC)を経由してトイレにアクセスできる動線もつくられました。ここからさらにキッチン、リビングとめぐり、寝室までの回遊ができるので、お孫さんが遊びに来るたび走り回っているといいます。

各スペースはL字型フォルムを基本とし、複雑に組み合わされて平面全体を構成しています。
「直接部屋の中央に面しない開口をつけて、そこからも光を取りたいと考えました」と香田さん。掃き出し窓や大きめの腰窓といったメイン開口以外に、少しずれた箇所からも採光する。そのことで室内に明るさだけでなく奥行きや陰影をも生み出すのが狙いでした。

寝室を兼ねた和室につくられた踏み込みは、その効果がよくわかる箇所のひとつでしょう。少し奥まっている窓は東からの自然光を取り込み、和の空間に柔らかな明るさを添えています。
アップライトピアノとエレクトーンが並ぶ趣味コーナーも同様です。リビングから玄関側に延びるこの空間には天井が張られ、建具なしでも独立した雰囲気を持っています。それでいて、奥に切られた窓はしっかり採光に貢献。L字型スペースの先端に開口を設ける手法がここにも採用されています。

2階には夫の書斎と、独立した子どもたちが孫を連れて帰省する際に使うフリースペース。リビング吹抜部分の両脇には小屋裏収納とバルコニーを配置し、東西に走る廊下を中央につけました。
フリースペースの建具は可動式で、全部外せば14畳の大きな部屋に変身します。梁の上部は小壁を作らず隣室とつなげており、屋根形状をそのまま映した勾配天井も手伝って、全体に一室空間のような雰囲気が感じられます。

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真04

玄関から内部を見通す。リビングの北側にDK、奥は和室を兼ねた寝室。リビングでは床座になることを考慮して少し低めにかけられた丸太梁が目を引く。東濃ひのきをふんだんに使った真壁造の壁には珪藻土を採用した。床もひのき材の節フローリング

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真05

寝室からトイレへの動線。左手のWICから勝手口前を抜けてトイレまで数mだ。トイレブースの面積は1坪近くあり、将来車椅子仕様に変更する可能性に配慮している。必要に応じて小便器を汚物洗浄用の流しに交換することも可能

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真06

奥に窓のある和室踏み込み。手前に置かれた鏡台ごしに柔らかな自然光が入り、陰影をつくり出す

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真07

玄関に隣り合ってリビングからL字型に拡張するピアノコーナーも、奥の東壁に窓がつけられた。採光とともに、夏は東西方向の卓越風を取り込んで室内に流す換気窓の役割も

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真08

2階へは段板や造作手すりの木目も美しいHさんこだわりの直階段で。踊り場近くの窓はインナーバルコニーに面し、夏場に開ければ家中に風が通る

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2階フリースペースは鴨居や梁の上部に小壁をつけず、各室間や廊下の一体感を強めている。勾配天井には屋根の形がそのまま反映された

高性能の窓と深い軒、効果的な通風で冬暖かく夏涼しい家に

H邸の建つ住宅街は標高100m超で、冬の気温は零下にもなり雪も降る土地柄です。室内の体感や暑さ寒さについてもうかがいました。

暖房にはエアコン+リビングの一角にあるペレットストーブを使います。40年以上住みなれた以前の住まいと比べてもらうと「ぐっと冷え込む感覚がないですね。就寝時にかける布団も減りました。前は毛布を2枚も使っていたんですよ(笑)」

大小合わせて20箇所以上あるH邸の窓には、すべて断熱タイプのLow-Eガラスが使われています。開口部から入り込もうとする外の冷気が、うまく遮断されているのでしょう。
また、ほぼ真南を向くリビングの掃き出し窓からは一日中日差しが差し込み「昼寝していると暑いくらい」とHさん。シーリングファンの効果も感じていますとにっこりしました。

一方夏の日中はリビングのエアコン1台を回せば十分とのこと。威力を発揮しているのが窓開けによる通風で、とくに東西方向をいい風が流れるといいます。「和室の吊押入の下にある地窓とピアノコーナーの窓、それから洗面台の前の窓。この3つをよく開けますね」

日中の日差しをほぼ完全に遮る深い軒も、室内の涼しさを保つ大きな役割を果たしています。

Hさんは「リビングの窓が大好きで、一年中カーテンもブラインドも閉めません。その方が誰が来たかもすぐわかるし」と話します。H邸でもっとも大きく、しかも真南を向いているこの掃き出し窓に直射日光が当たれば、たとえLow-Eガラスでもその熱は完全にシャットアウトできません。深い軒による外部遮蔽のおかげで、ブラインドもおろさずに素通しの状態を保つことができるのです。

「せっかく窓があるのに、昼間はカーテンや雨戸で閉め切らないと暑くていられない」とは、しばしば耳にする話です。日本の住まいに長く受け継がれながら昨今は少々敬遠されがちな軒や庇について、いま一度考えてみることもまた、ときに必要ではないでしょうか。

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真10

南掃き出し窓から午前の陽が差し込むリビング。日差しは回りながら一日中室内に陽だまりをつくる。断熱タイプのLow-Eガラスは遮熱タイプと違い日射熱をある程度通す性質があり、このような状況が可能だ。
窓外のフェンスは目隠し兼用で、カーテンやブラインドは不要、とHさん。建物の基礎と前面道路には約1mの高低差もあり、通る人の視線は室内までほとんど届かない。
ペレットストーブは冬場のメイン暖房機として活躍している。火が安定するまでの時間が短い、タイマーも使える、内装制限がないなど、薪ストーブより敷居が低いのも魅力

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和室の西面に切られた地窓は夏の換気で大活躍。現代でも変わらない、伝統的な日本家屋の知恵

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出が1.2mある1階南面の軒。夏場の直射日光はシャットアウトされ、窓に届いたり室内に差し込むことはない

断熱だけじゃない。住まい手と設計者が工夫と思いを込めた窓

H邸の窓には、断熱遮熱以外にも注目したいポイントがいくつもあります。

「私の居場所ですよ」とHさんが笑うダイニングキッチンには、シンクの正面に高さ約1m、幅約1.5mの大きな窓があります。
一般的なキッチンではこの位置に吊戸棚がつき、その下に高さ数十cmの窓が切られるかもしくは壁になっている、というのが通常ですが、Hさんは「私は背が低いから吊戸棚に手が届きません(笑)」ときっぱり。さらに「大きな窓を向いて仕事したかったんです」と続けました。

このキッチンは昨今の新築住宅でスタンダードになりつつある対面式ではなく、壁付けです。向かいは今は更地なので、安心して窓を開けながら炊事をしているといいます。
窓のサイズもキッチンの配置も、自他共に認める料理上手のHさんにとって、大事な仕事場を気持ちよくしつらえるためのごく自然な選択だったのでしょう。
そこには、時流にとらわれることのない軽やかな姿勢がありました。

2階の廊下にあるふたつの高窓は、「南に窓がほしい」という住まい手の願いをかなえた香田さんの労作です。
「南向きに大きな屋根を葺きおろすと、その方向に開口が取りにくくなるので、勇気がいるんです(笑)H邸では“たがいちがいの部分”を作って、窓をつけました」

大屋根の半分を葺かず、壁の下部から別の屋根を葺くことで窓をつける部分を確保。「そうきたか!」と膝を打ちたくなる工夫です。さらにFIXにせず手動のすべり出し窓にして風を通せるようにしました。高窓の得意分野である重力換気にも一役買ってくれるでしょう。

香田さんのアイディアは止まりません。洗面所の窓にも目からウロコの造作がありました。
シンク正面に鏡を張ってその上下にあかり取りをもうけるのはよく見かけますが、香田さんは窓の“手前”に可動式の鏡を取りつけたのです。
鏡を90度回転させることで高さ約80cmの窓からたっぷりの採光と通風が得られます。「一番開けているのはこの窓かもしれません」とHさん。ありそうでなかった技アリの開口です。

そして、日本ではまだ普及途上の感もある“すべり出し窓”が多く使われているのもH邸の特徴でしょう。
使い慣れた引き違い窓との相違を尋ねると「最初は風通しが悪いかも、と思っていました(笑)でも実際は普通に風が通るし、窓が開いている感じがしないのもいいですね」とHさん。
一般的にすべり出し窓は引き違いより気密性が高く、開口部の断熱性能向上にも貢献するとされています。横すべり出し窓には、突然の雨でも窓が庇がわりになって室内への降り込みをある程度防いでくれる効果もあります。

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真13

シンプルな壁付I型のシステムキッチンが大きな窓に向かっている。Hさんの思いと使い勝手を第一に考えられたキッチンスペースだ。奥には香田さん設計の造作棚と、前の家から持ってきた重厚な茶箪笥が仲良く並ぶ

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真14

2階廊下の高窓はハンドル開閉式の横すべり出し窓。開け閉めは大変ですかとHさんに問うと「まったく問題ありません」と笑顔が返った

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真14

2階高窓を外から見上げる。大屋根は半分葺いて開口部分を残し、窓の下から別の屋根を葺きおろした香田さんのアイディア

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真14

洗面台には、通常の上げ下げ窓の手前に可動式の鏡をつけた。蝶番で90度壁側に回すことができる。裏にも鏡を張ってある気遣い

アイディアと工夫満載の窓で豊かな光と陰影をつくる-詳細写真14

ピアノコーナーの窓も横すべり出し。突然の雨でもあわてずにすむ

木を多く使う家ならではの暖かさも

H邸を訪れたのは12月中旬、晴天でも外気温はひとケタというお日和でした。それでもリビングのエアコン1台だけが回る室内で寒さを感じることはありません。断熱・気密性能はもちろん、至るところで使われているひのきや杉の内装や造作家具もまた、木材独特の暖かな空気感を作り出しているようです。

住み心地や全体の温熱環境をどう感じるか尋ねた際にも、Hさんは室温や暖房機器ではなく「ひのきの床が暖かくて柔らかいのでスリッパを履かなくなりました。前の家はもっと冷たかったですね」と、木肌に手足が触れる感覚を真っ先に語りました。
窓やエアコンの性能や建物の断熱力だけでなく、建材、とくにH邸においては基本素材である“木”が持つ特性もまた、住まいの快適さを左右する大きな要素だと改めて教えられた気がしました。

きちんとつくられた木の家は、完成しそこでの暮らしが始まってからも、定期的なメンテナンスを含めて作り手に見守られ続けます。
中島工務店の細江さんは「設計を始める前から竣工まで、私たちが開催する内覧会やイベントにHさんは全部出席してくださったんですよ」と振り返りました。計画開始から設計完了まで1年もの歳月をかけつつ、住まい手と作り手は強い信頼関係を育んできたのです。

これからも一緒に、ひのきの香り立つこの家を育てていくことでしょう。美しくエイジングしていくその姿を、いつかふたたび訪ねたいと思いました。

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設計時を振り返り、香田さんは「Hさんのお話を聞いていくとそのままデザインになっていくんです。不思議な感覚でした」と楽しげに語った。一方、住まい手のHさんは「香田さんには打ち合わせのたびに階段や窓、畳、床などたくさんの希望を伝えましたが、そのひとつひとつを受けて説明し、納得するまで待ってくれたり提案をしていただきました。真心のこもった仕事ぶりで、内も外も大好きな家をつくってもらえたのだと思っています」

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「この家の家守り(やもり)として、これからも関わっていきたいです」と細江さん

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東濃ひのきは、その美しいピンク色の木肌も特長のひとつ。歳月を経てさらに味わい深くなる

取材日2018年12月15日
取材・文二階幸恵
撮影中谷正人