事例紹介/リフォーム ビル

ハイレベルのオフィスZEB化を
エコガラスとともに

千葉県 株式会社竹中工務店 東関東支店

Profile Data
立地千葉県千葉市
建物形態RC、S造地上2階建
利用形態事務所
リフォーム工期2015年10月~2016年3月
窓リフォームに
使用したガラス
アルゴンガス入りエコガラス

日本を代表するスーパーゼネコンが取り組んだ、自社ビルのエコ改修事例です。

舞台は40余名のスタッフが働く2003年竣工の『竹中工務店 東関東支店』。稼働を止めない“居ながらできる工事”によるZEB化改修事業です。
経済産業省と資源エネルギー庁による3つのZEB定義のうち、実質的な『ZEB』*1に相当する、日本国内の既存オフィスビル改修としてはほぼ例のない、高いレベルの改修でした。

事業にあたって掲げられたコンセプトは4つ。

  • ①快適性の考え方を変える
  • ②スーパー省エネビルを作る
  • ③スマートな働き方を考える
  • ④災害にも強くなる

これらを実現すべく、竹中工務店は過去から現在まで磨き上げてきた建築設備や環境関連の技術を結集させ、新たな技術開発への挑戦もありました。そんななかでエコガラスもまた、活躍の場を得たのです。

ハイレベルのオフィスZEB化をエコガラスとともに-詳細写真02

東京湾の最奥部・千葉港エリアに建つ竹中工務店東関東支店。一帯には国内有数の港湾貨物量を誇る千葉港や県立美術館、千葉ポートタワーといったランドマークのほか、オフィスビルや高層マンションが広がる。端正な低層建築の屋根上には太陽光発電パネルと太陽熱集熱パネルを設置。集熱パネルがつくる温水は好天時には50℃を超える

ハイレベルのオフィスZEB化をエコガラスとともに-詳細写真03

お話をうかがったのは、右から竹中工務店広報部副部長・橋本尚子さん、東京本店設計部設計第2部門設計3グループ長・田附岳夫さん、同じく東京本店設計部設備部門設備3グループ長・田中宏治さん

エコガラス・ダブルスキン・電動ブラインド。建物外皮を徹底断熱

求められた省エネ性能をクリアするため、開口部をはじめとする建物外皮の断熱性能向上が徹底されました。

外壁と屋根にはウレタンやスタイロフォームといったプラスチック系断熱材を付加し、3倍以上の厚みに。

そして外皮断熱のカナメである窓を、竣工時から入っていたエコガラスからアルゴンガス入りの高性能エコガラスへとグレードアップしました。
業務に支障をきたさない“居ながらできる工事”として既存のアルミサッシはそのまま生かし、コルク材を巻いて断熱力を向上させています。

新たに付け足した窓もありました。
既存窓の外側に強化ガラスを新設し、開口部をダブルスキン仕様にしたのです。外皮にもうひとつ空気層をつくって断熱性能アップを狙い、同時に外付けブラインドを保護する役割も与えました。
このブラインドは電動で、太陽光を追尾して自動的に羽の角度が変化する機構を持つものです。室内側にあった手動ブラインドに代えて新しく導入されました。
竣工当時から西日カットの役割を果たす縦ルーバーとともに、今は日射遮蔽の主翼を担う存在となっています。

オフィスの窓といえば、パソコン画面の見やすさなどを優先するあまりブラインドは常に閉まり気味…という風景もしばしば目にします。改修前の東関東支店もまた同様でした。
しかし自動開閉するこのブラインドを導入してからは「薄暗かった室内が明るくなりました」と、今回の改修事業で中心的な役割を果たし、設計部設備部門を率いた田中宏治さん。断遮熱機能に加え、室内の快適さに対するブラインドの寄与がうかがえる言葉でしょう。

窓まわりは、この建物全体のデザインの決め手でもあります。
最外部に林立する幅約25cmのアルミ縦ルーバーと全面ガラス張りの外皮とは、端正で印象的なファサードを構成する主役。この意匠を崩すことなく改修工事を進めるために、田附岳夫さんをはじめとする設計担当部署が重ねたであろう検討と工夫は想像に難くありません。

外皮の改善以外にも、省エネ性能を飛躍的に上げる数々の技術が用いられました。

照明にはタスク・アンビエント方式*2を採用。低めの照度に設定した天井照明に、ワンタッチで個別調整できる手元照明を組み合わせました。LEDや人感センサーの導入と相まって、照明用の電力消費量は改修前から86%削減できたといいます。

空調システムは新たに自社開発しました。天井のパネルに冷温水を流してその輻射熱を利用する“放射空調”と呼ばれる方式のものです。
夏の冷房時には、駐車場の地下67mに埋設した杭で取り出す地中熱を熱交換し、冷水を作って使います。一方冬は、屋上に設置した太陽熱集熱パネルがつくる温水が活躍。この温水は、こちらも新たに技術開発したデシカント空調*3にも活用されています。

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2階北西側開口部。幅約70cm高さ約3.5mのすらりとした窓が連なり、建物ファサードを構成している。アルゴンガス入りエコガラスの外側に強化ガラスを重ねたダブルスキン仕様で、ふたつの窓の間に外付けブラインドがおさまる。褐色に見えるのはサッシに巻かれたコルク材

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羽を閉じた状態のブラインド。日中は太陽光に追尾して動き、室内に適度な自然光を取り込む

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天井のLED照明は人感センサー付き。通常300ルクスほどの照度に抑えられ、ワーカーは机上の照明機器を手動調整してデスク上を好みの明るさにする。手元照明では照度のほか色温度も選べる

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放射空調を担う天井パネルの裏面模型。冷温水を流すパイプが仕込まれ、輻射熱を利用して頭上から室内を空調する。主な執務スペースである2階の設定温湿度は、夏期26℃/50%、冬期は場所により22℃〜23℃/40%

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新開発した小型デシカント空調システムの1/3モデルを前に、機構を説明する田中宏治さん。温度と湿度を別々に調整するデシカント空調は省エネに長けた次世代空調システムとして注目されているが、小型化が難しく小規模建物での導入は難しい点があった。この点を克服し、天井内に設置できるまで小さくしたのが今回のユニット。太陽熱集熱パネルの温水は暖房のほか、吸湿したモジュールを乾燥する目的でここでも使われる

均質空間から自然、多様さ重視へ。オフィスの新しい快適を提案

コンセプト①にある“快適性の考え方を変える”面では、オフィス環境を大きく変化させ得る要素がいくつも採用されています。

従来のオフィス計画は“温度や湿度が保たれた均質な室内環境が執務スペースに望ましい”との考え方が一般的でした。
これに対し、開口部を介して外部とつながることで自然の光や風を感じたり、業務内容や体調に合わせてその日の仕事場を選択できる等“自然で多様な要素を持つオフィス環境にこそ快適がある”という新しい概念が提示されたのです。

開口部周辺では窓からの自然採光を活用したナチュラルな明るさの創出がめざされ、前述した太陽に追尾する外付けブラインドも効果を上げています。

外の空気を積極的に取り込む“自然換気”も実現されました。
現代オフィスの窓は、開閉できないFIX窓のみで構成されることも多く、そこではエアコンの常時稼働を余儀なくされます。ここに着目し、東関東支店では窓際の6箇所に換気口を設け、天窓と連動して自動開閉する仕組みをつくりました。
秋や春の中間期には新鮮な外気が取り込まれて室内を流れ、天窓に達して出て行きます。
「淀んだ感じだったオフィスの空気が変わった」との声も聞かれました。

ほかに、ワーカーひとりひとりを対象に個別の気流を起こすユニットも開発されています。
飛行機の座席上部にある吹出口のように、天井から各デスクに向けピンポイントで気流を放射するシステムです。大きな給気口からスペース全体に向けて気流を吹き出す従来型と違い、個人の感覚で調整できるパーソナルな空調といえるでしょう。

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窓際につけられた換気口。自動で開閉するが、手動で動かすことも可能だ

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建物の頂部に4箇所切られた天窓から青空がのぞく。連動する換気口が開くと、室内に涼しい風の流れが起こった。流れ込んだ低温の外気は室内で暖められて上昇し、天窓から出ていく。重力換気と呼ばれる換気手法

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パーソナル気流ユニットでは、天井のLED照明に隣り合うふたつの吹出口から、デスクで仕事するワーカー自身が風量を調整した気流が放たれる。小さなライトが付いているのは人感センサー部分。動作ではなく熱画像を検知するため、机にじっと座っていても大丈夫

スマートな働き方と省エネを同時に実現する空間

コンセプト③に見られる“スマートな働き方を考える”は「今回の改修でもとくに力を入れました」と田中さんが語る部分です。
大勢のワーカーが均質な空間で仕事するのが当たり前だったオフィス環境を変え、新しい働き方と省エネを同時に実現することを念頭に空間計画がなされました。

部署ごとに机やコピー機、キャビネットを配置していたフロアを、打ち合わせや会議を行う『コミュニケーションエリア』、個別で仕事に集中する『ワークプレイス』、資料類をまとめた『ファイリングエリア』の3ゾーンに分割。ワーカーは業務に合わせて各スペースに移動します。

一見、フリーアドレス*4の発展形にも見えますが、省スペースや空き机の活用を目的としたかつてのそれと違い、ここではいわゆる働き方改革・知的生産性向上・省エネが主眼に置かれました。
実際に仕事をする側からは「各部署間でのコミュニケーションが活発化し、それにともなって仕事もしやすくなった」との声が聞かれ、狙い通りの効果が上がっているようです。

改修後の調査では、社内全体の残業時間が約4割減少したこともわかりました。
「ファイリングエリアの設置で資料収集等の作業効率がアップしたり、ZEB化を身近に感じて『空調が稼働している間に仕事を終わらせよう』との意識が高められたのかもしれませんね」

実験的な取組である“ウェルネス制御”も、改修後の1年間で試みられました。
腕時計型の端末を身につけ、オフィス内での位置や快適感覚、代謝量といったワーカーの個別情報を収集・分析し、それぞれに最も合った仕事環境づくりにつなげる制御システムを構築するもので、近未来を感じさせる挑戦です。

そしてコンセプト④の災害対応面では、BCP*5を見据えた創エネルギー・再生エネルギーの技術が組み込まれました。

屋根に設置した太陽光発電パネルは最大出力40kW。公共電力等のライフラインが途切れても数日間はオフィスとしての稼働が可能といいます。平時はつくった電気エネルギーを蓄電池に蓄えて照明やOA機器、空調用に自家消費し、余剰分を売電しています。

太陽熱集熱パネルや地中熱利用など平常時から稼働している創エネシステムも加えることで、災害時にも建物機能をある程度保ちつつ帰宅困難者にも対応できる力を備えたビルになりました。

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2階平面図(改修前)

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2階平面図(改修後)

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2階執務スペース全景。向かって右がコミュニケーションエリア、左がワークプレイス、くもりガラスで隔てられた奥がファイリングエリア。天井照明のみの部分が多いコミュニケーションエリアには、明るさを保つため白色系のカーペットが張られている

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コミュニケーションエリアには会議用の大きな机のほか、ペーパーレス会議を支援するモニターやコピー・ファクス等の複合事務機器が集中的に置かれる箇所もある。東関東支店営業部の北村真佑さんは「よく使うコピー機がデスクから離れた場所に移動したおかげで、オフィス内で歩く機会が増えました。ずっと座っているよりいいかも」と笑顔で話してくれた

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ウェルネス制御では腕時計型とスマートフォンをウェアラブル端末とし、無線LANでクラウド内の制御システムにパーソナルデータを転送。分析・学習し環境制御につなげる実験を行なった

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敷地内には太陽光発電用パワーコンディショナーやヒートポンプ、貯湯タンクなど各種のエネルギー制御機器がずらり

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蓄電池は電気自動車8台分のリチウムイオン電池をリユースしている。扉を開けると自動車のシート形状をそのまま映した電池が現れた

既存オフィスビルの居ながらZEB化、現場の見方

過去の既存オフィス改修事業ではほぼ例のない『ZEB』をめざした理由を、広報部の橋本尚子さんは「高いレベルに挑戦しようという思い、そして自らやってみなければお客様にお勧めできない、ということです」と話します。
将来発生する新たなビジネスも見据え、この改修を“自社のショールーム的役割をも担うネット・ゼロ・エネルギービルをつくる事業”に位置付けたともいえるでしょう。

計画に直接携わった竹中工務店東京本店の設計・ワークプレイス・技術・施工監理の各部署担当者は、週に一度の全体会議のほか、仕事の合間を見つけての小さな打ち合わせ、さらに改修後のオフィスで仕事をする東関東支店所属のワーカーを含めてのワークショップを積み重ねながら、改修工程を進めました。

工期は2015年10月~翌16年3月。期間中の平日つまり営業時間内に継続して施工する、居ながらできる改修の王道を行くやり方です。
サッシを残して窓の中身だけ入れ替える“ガラス交換”の手法が開口部断熱に選ばれたのは、実はこの工期にも関係しています。

設計部の田附岳夫さんいわく「サッシまで交換すれば工事に時間がかかります。寒い時期でもあり、吹きさらしの中で長い時間仕事をしてもらうわけにはいきませんから」

その一方で「既存サッシの溝に新しいガラスが合うかどうかで工事のやりやすさは変わるので、一般のビルオーナーさんにとってガラス交換はハードルは高いかもしれません」とも。
エコガラスへのガラス交換工事では溝幅に配慮したアタッチメントが用意されており、事前確認も可能です。

既存建築物のZEB化事業は、新築のそれと比べて圧倒的に少ない状況が続いています。しかも内容は照明・空調・給湯器等設備機器の交換による高効率化+太陽光発電パネル設置がほとんどで、東関東支店のように窓や壁、屋根といった建物の外皮にしっかり断熱を施すZEB化改修は少数派なのが現実です。

とくにテナントビルにとっては、投資回収期間が長い上にパッと見てその性能がわかりづらいガラスより、LEDや最新の空調機器を新設した方が顧客向けの大きなアピールポイントになるという一面もあるでしょう。

でも、と田附さん。「ある程度の年を経た建物は断熱性能がとても低いのです。だから外皮の高断熱化はやっていかないと… 快適性や健康面でも有効ですよ」

快適性や居住性では◯、けれどコスト面ではハネられる。技術的にこなれ、しかも比較的軽い工事ですむ照明や空調の交換と比較してコストも工期も重くなりがち…それが、ガラスを含めた外皮改修のひとつの特性かもしれません。
しかし建物自体のエネルギー負荷を抑制し、高いレベルでの省エネ化を標榜するZEBの概念から見れば、本来不可欠な要素ともいえるはずです。

取材を終えて外に出ると、傾きかけた陽を受けたアルミルーバーがこの日最後の輝きを放っていました。
少ないエネルギーで、働く人々の快適な環境を保ち、長く美しく使われ続けるオフィス建築。ネット・ゼロ・エネルギービルディングがめざす理想が、この小さな建物の中で確かに息づいている気がしました。

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来訪者の応接用スペース等がある1階には大きなモニターが掛けられ、デジタルサイネージで建物のエネルギー状況を“見える化”している。1ヶ月ごとのエネルギー収支や現時点での消費エネルギーや発電量までが配信され、同様のデータは各スタッフのパソコンでも閲覧が可能

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改修前後の消費エネルギー実績の比較(画像提供:竹中工務店)

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経済原理で考えれば、現時点での既存オフィスビル改修はLED照明や高効率空調への転換を主とする『ZEB Ready 』レベルが合理的では、と田附さん

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午後の陽を受ける縦ルーバーは、ゆるやかなカーブを描く美しいフォルムを持つ。強化ガラスが付加されたことで改修前よりもせり出し、日射遮蔽力は向上したという。デザインと機能が融合した建築美

取材協力竹中工務店
URLhttp://www.takenaka.co.jp/
取材日2018年11月1日
取材・文二階幸恵
撮影渡邊洋司(わたなべスタジオ)
イラスト中川展代
エコガラス