事例紹介/リフォーム ビル

ホテルが挑戦した“居ながらエコリフォーム”

-山形県 HOTELビューくろだ-

Profile Data
立地 山形県天童市
建物形態 RC造地上5階建
利用形態 ホテル
リフォーム工期 2017年9月~12月
窓リフォームに使用したガラス 真空ガラス・複層ガラス
(真空層あり)
利用した補助金等 国土交通省
平成29年度既存建築物省エネ化推進事業補助金
改修計画 株式会社アビーズ
http://abyz-ec.co.jp/

寒さ・暑さのクレーム解消を願い、エコリフォームを決断

1978年創業のHOTELビューくろだは、シングルのビジネスユースから団体観光客、ファミリー層、スポーツ合宿まで幅広い宿泊ニーズにこたえる。向かって右が新館、左がふたつの展望レストランを備えた本館

年間宿泊客は延べ約3万人。40名のスタッフとオーナーファミリーが、ガラス張りの明るいロビーで温かく迎え入れる

屏風や長持が和の風情を醸し出すラウンジで、女将の黒田千鶴子さんと常務の黒田成彦さんにお話をうかがった。コーナーガラスのあるスペースは会議室としても使用される

本館5階の展望レストランからは、天童の温泉街や月山など山形の名峰が一望

将棋駒の生産日本一で知られる天童市は、山形県の中央に位置し、山形空港にも至近で出羽三山や庄内、蔵王観光の基地のひとつです。

初夏はさくらんぼ狩りでもにぎわうまちには明治・大正時代から続く温泉街の顔があり、その一角にある「HOTELビューくろだ』が今回のエコリフォームの舞台となりました。今年で開業40年を迎える、寒さと結露、そして西陽の暑さに長年悩んでいたホテルです。

村山盆地の一角を占める天童は夏の最高気温40℃以上、冬はマイナス10℃以下も記録する内陸性気候。
「客室から『暖房をつけても部屋が暖まらない』とフロントに連絡が来るたび、毛布やヒーターを持って駆けつけました」と、女将の黒田千鶴子さんは振り返ります。

自慢の展望レストランでは、鍋料理の湯気で流れるほどの結露が窓につき、眺望にも影響が出ていました。
その一方で夏は西陽の熱にあぶられ、とくに西向き窓が連なる新館はチェックイン時間のずっと前から客室のエアコンを回しておかなければならなかったといいます。

エコリフォームに取り組んだきっかけを、常務の黒田成彦さんは「断熱ガラスの知識は以前から持っていました。業界の会合や研修などで新築ホテルやリニューアルした施設に行けば『二重ガラスにしているんだな』とか、よく見て参考にしていました」と語ります。
「ただ、コスト面で“うちにはきついかな”(笑)とも思っていたんです」

そんな折に、信頼するパートナーからアドバイスがあったのだといいます。
HOTELビューくろだの社長・黒田俊彦さんと、地元の大手建設会社(株)アビーズのトップ・関東義則さんとは旧知の間柄。ふたりで熟慮し、“老朽化している本館の窓枠は取り替えよう”程度に考えていた改修計画を、アビーズ建築部が建物全体のエコリフォームに高めて提案したのでした。

さらに、ガラス施工販売会社・日本板硝子東北(株)から補助金利用が提案され、コストの不安も払拭。
助成の条件であるエネルギー消費量の軽減をめざして、建物の外皮性能を大幅にアップする本格的なエコリフォームに踏み切ることができたのです。

客室はもとよりロビー・レストラン・大浴場に至るまで、すべての開口部が高性能の断熱ガラスへと入れ替えられることになりました。


客室からの苦情電話がゼロに! 灯油消費量もダウン

シングルガラスの窓だった客室は、厳冬期は「暖房を強にしても寒い」と言われることもあり、オイルヒーターなどの補助暖房機器を常に用意していたという。築20年の新館では、もとからあるサッシを生かしてガラスだけを入れ替えた

レストランから宴会場へと続く廊下にも、高さ2.7m幅7.5mの大開口が。すべてエコガラスに交換

灯油消費量比較グラフ

2017年9月から始まった工事は年末にほぼ完了、館内環境は一変しました。

工事後以降、1月から3月の厳冬期間でも「寒い」のクレームがなかったのです。
渡り廊下に面して冷気が入りやすく、常連客から「あの部屋は寒いね」とつねづね言われていた北向きの客室を含め「フロントへの苦情電話は、1回も鳴りませんでした」

客室清掃係からも「以前は寒かったけれど、今は汗を流しながら仕事しています」との声が聞かれるように。以前は清掃と一緒に窓を開けて換気し、その後すぐ暖房のスイッチを入れていたのを「チェックインの30分前で十分部屋が暖まるようになりました」

廊下のひんやり感もなくなりました。
「館内全体が暖まっているので、客室内にも冷気がこなくなりました。こんなに変わるのかなあ、と」笑顔で話す千鶴子さんに「建物全体の気密が上がった感じです。音も静かになりました」と成彦さんが続けます。

展望レストランの鍋料理も、結露が解消された窓からの眺望を楽しみながら味わえるようになりました。

効果は省エネ面にも現れています。
メインの熱源である灯油の消費量は、リフォーム前後の同月比較で5~30%以上も下がっています。同様に電気使用量も2~5%ダウン。宿泊稼働率の変動を考慮しても、目に見える数値といえるでしょう。

これから迎える初めての夏も「もちろん期待しています」


宿泊も宴会も通常通り。お客様を迎えながら工事する

今回のエコリフォームを指揮した(株)アビーズ 建築部部長の水戸部道朝さんは、全体計画から現地調査、図面、工程表作成までを手がけた“総監督”。工事期間中は毎日のように現場に設けた仮事務所に詰め、采配を振るった。通常営業を続ける宿泊施設での全館リフォームについて「お客さまが怪我をしないよう、安全を確保するのが一番大事ですね」

客室の窓がすべて真西を向く新館では、遮熱性能を高めたエコガラスへの入れ替えを決定。夏の西陽対策が大きな悩みだった

1階ロビーには幅、高さともに2m超のガラスが5枚並ぶ。石庭の眺めと明るい光が楽しめる窓は南を向き、夏の日射を考慮して遮熱性能にすぐれたエコガラスを採用した

ファミリー客向けに用意された10畳の和室は、本館の角部屋。広縁部分の窓は北向きで寒さが厳しく、高い断熱力を発揮するエコガラスに入れ替えた

水戸部さんと協力し、エコガラスの選定から一次エネルギー関連の諸計算、補助金申請手続きまでを担当した日本板硝子東北(株)営業本部リフォーム部次長の宇和野光浩さん。「建物全体の省エネ性能を申告する必要のある今回のような補助金申請では、建設会社さんとガラス屋さんの共働が不可欠です」

ホテルは病院同様に24時間稼働が基本の施設です。今回のエコリフォームでも休館はせず、通常営業で工事する“居ながらリフォーム”形式がとられました。

この方法では、館の稼働・業務との兼ね合いから宿泊者の安全確保まで、綿密な計画が求められるのはいうまでもありません。
アビーズ建築部の水戸部道朝さんは、2017年の春先から計画づくりに取りかかりました。

月に一度のミーティングでは、黒田社長らホテルオーナーと建設会社、ガラス会社、さらに必要があれば足場工事会社の担当者まで、関係者を集めて打ち合わせ、情報共有を続けました。

工事の段取りを示す工程表は新館・本館客室等・本館レストランと分け、客室番号まで明記した上で作成。
実際には当日の宿泊状況その他で変更が生じるのは必須、よって現場での修正が大前提です。建物の通常稼働が続く“居ながら改修”らしい体制でしょう。

エコリフォームの要となるガラスは、全開口部のエコリフォームが補助金申請の条件でした。これを踏まえ、窓の向きを第一の根拠において、以下の断熱ガラスが選ばれたのです。

  • ① 南西向きあるいは西向きの窓:主に夏の日射熱を防ぐため遮熱性能の高いエコガラス
  • ② 北西向きの窓:室内の暖かい空気を逃さずに保つ、断熱性能の高いエコガラス
  • ③ 東向きの窓:多くは新館客室エリアの廊下につけられた窓が該当。真空層のある複層ガラス

これら3種がガラス施工会社から提案され、オーナーによる検討・決定を経て、施工図作成、メーカー発注へと進みました。

こうしてまとめ上げられた改修計画は、同年9月にいよいよ動き出します。


宿泊の合間をぬう客室工事、大判ガラスをクレーンで吊るレストラン工事

HOTELビューくろだ1階平面図

HOTELビューくろだ3,4階平面図

新館の客室に採用された真空ガラス。0.2mmの真空層を支える小さなスペーサーが並んでいる

東を向いて縦すべり出し窓が並ぶ新館の廊下。既存のサッシをそのまま残し、真空層のある複層ガラスに交換

多くの職人を束ね、ガラス施工作業の指揮をとった日本板硝子東北(株)宮城事業部公務グループ課長の三浦 亨さん。「家具があって宿泊のお客さまがいる客室の工事はリフォーム的。その一方でクレーンを使う展望レストランの工事は新築工事的な要素が大きかった。それぞれに専門的な職人さんの技術が必要でした」と振り返る

ロビーと新館をつなぐ接点では、さまざまな形や大きさのガラスが見られる。ベンチや装飾品が置かれ、明るく心地よい空間となっていた

南と西の二面が天井から床までガラス張りの展望レストラン。天童の街並みから月山、朝日連峰など東北の山々まで一望できる、HOTELビューくろだ自慢の食事処だ

エコリフォーム直前の展望レストラン。細い鉄製のサッシにシングルガラスが入っている。この大開口の上に、新たにアルミサッシを取り付け、エコガラスをクレーンで釣り上げてはめこんだ。新築ビルと同様の仕事(写真提供:日本板硝子東北)

最初の工事対象は新館でした。
築20年の建物は南北に伸びる平面の西側に客室、東側に廊下が延び、そのどちらにも窓がついています。サッシ自体の傷みが軽かったためそのまま生かし、ガラスのみを取り替えることにしました。

既存サッシを生かす“ガラス交換エコリフォーム”は短時間で施工でき、音も静かです。9月は館の決算期にもあたり、スピーディに作業できて期内に完了する工事を優先したのです。

ここで選ばれたのは、真空ガラスと複層ガラス。客室の窓は西陽の熱をカットする遮熱型真空ガラス、廊下はコストパフォーマンスの高い断熱複層ガラスへと交換しました。

10月からは、本館の工事です。
廊下をはさんで南北に客室が並び、1階にはロビーやラウンジ、5階にふたつの展望レストランと宴会場も擁する本館の窓は、形も大きさもさまざま。とくにレストランはともに2面が総ガラス張りで、工事には客室とは違う配慮も求められます。

さらに本館の窓は40年の月日を経て傷みが激しい箇所が多く、新館と同様のガラス交換のほか、もとの窓枠の上に新しいサッシを取り付けてガラスをはめ込む方法も採用されました。

サッシ施工者とガラス施工者が共働し進められる工事は、1日で客室3~4部屋のペースで進みます。
当日朝にフロントの予約担当者も含めて朝礼・ミーティングをし、客室の稼働状況や変更、それぞれの作業についてすり合わせます。その後、空室は9時頃から工事を始め、それ以外はチェックアウト後にそれっとばかり現場に向かうのが常でした。
清掃担当者の仕事と重なる時間でもあり、「互いに声をかけあっての作業でした」とガラス工事の責任者・三浦 亨さんは振り返ります。

音の問題もあり、基本的に作業は夕方まで。養生からサッシの取付、ガラスのはめ込みまでを終え、翌朝にシールや養生を外して完了です。
この流れを繰り返し、約2ヶ月で客室54室、加えてロビーやラウンジ、浴場、階段室まで、レストランを除く本館すべての窓ガラスをリフォームしました。

「限られた時間で形や大きさもさまざまなガラスを入れる上、予定外の部屋の工事が急に決まるなど、作業はタイトな感じでした」と三浦さん。
短い時間で安全に、しかも変更は日常茶飯事。居ながら改修は施工者の腕が試される場でもあるかもしれません。

一方、雄大な眺望が楽しめる5階展望レストランは、天井から床までガラス張りの大開口空間。一辺が2mを超えるガラスを1枚ずつ外から吊り上げての工事は、全工程でもっとも気を使う作業となりました。

エントランスの真上にレストランが位置していることもあり、安全確保には細心の注意が払われ、工事の最中は人の出入りも一時ストップ。警備にも人数が割かれました。

その一方で、大きなガラスがクレーンに吊られ5階の高さまで運ばれていく光景は宿泊客からご近所まで多くの人々を引きつけ、ホテル周囲にはたくさんのギャラリーが集まったといいます。
「お祭りのように楽しい雰囲気になって、わくわくしました」と千鶴子さんはにっこり。周囲へのアピールに、エコリフォームが一役買った格好でしょうか。

多い時には十数名の職人さんが連日入りながらも、ホテルの機能を一切止めずに行われた全館工事は、12月初めにほぼ完了。暖かいお正月を迎えました。


補助金獲得のための教訓は「建物図面をきちんと保管」

フロントデスクでは、天童名産の将棋駒の隣にBELS2つ星を獲得した認定証が誇らしげに宿泊客を迎える

階段室やエレベーターホールに光を落とす小さめの窓もすべてエコリフォームの対象。館全体をムラのない快適さで満たす

幅4mのFIX窓と外倒し型の高窓がある大浴場。真空層のある複層ガラスで窓リフォーム済み

レストランの奥にある厨房スペースは北向きの大きな窓があり明るい。ここも複層ガラスでリフォーム。宿泊客のみならず、働く人々の業務環境が向上されている

館内のいたるところに和の風情あふれる小物がしつらえられていた。女将の千鶴子さんが旅先で見つけたものや、和裁の心得があるスタッフの手作り品もある。「高級な焼き物より、こんななにげないものに優しさや安らぎを感じる、と言ってくださったお客さまもいます」心地よさをつくるのは温熱環境だけでは決してない

HOTELビューくろだエコリフォーム連携図

HOTELビューくろだの改修は、国土交通省の補助金獲得を前提に計画され、第三者機関の審査を経て交付まで達したエコリフォームです。
申請作業は建設会社とガラス会社がタッグを組み、互いのプロフェッションを駆使しての共同作業となりました。

この補助金はBELS評価*が必須条件だったため、図面から建材選び、一次エネルギー消費量の計算まで、エコリフォーム後に建物が獲得する環境性能を細かく書類に記載して提出するよう求められました。
ところがHOTELビューくろだの場合、竣工当時の施工図面の多くが失われており、建材の寸法や種類などを現場で逐一調査・確認する作業を余儀なくされることに。
担当したアビーズの水戸部さんは「やはり図面があればいいですね(笑)補助金申請を考えるなら、すごく重要な部分だと思います」

ホテルに限らず、竣工図面が行方知れずになっているのは、一定の年月を経た建物ではよくある話です。改修に際して補助金を検討する場合には、図面の在処を確認しておくのも大切でしょう。

また、エコリフォームを対象とする公的補助金は、国交省や経産省以外にもさまざまな主体が事業化していますが、熱量計算や煩雑な書類作成等が求められることもあります。「場合によっては、コンサルタントに入ってもらってもいいかもしれません」

多くの人の力で実現したエコリフォームでHOTELビューくろだの環境性能は向上、さらに常務の成彦さんの奮闘で天童市第1号の防火優良認定証も獲得しました。
冬暖かくて夏涼しく、火災など非常時にも安心できる施設へと生まれ変わったのです。

エコリフォームで大切なことは? の問いに「綿密な打ち合わせと、資金繰りを含めしっかりした計画が何より大事。これがないとやっていけないと思います」と女将の千鶴子さん。

さらに「お客さまに、このホテルで快適かつ安全な時間を過ごしていただけるという安心感・安堵感が、今回のエコリフォームで私たちが得たいちばんの成果と思っています。命をお預かりする仕事ですから」と続けました。

穏やかな、けれど毅然としたその言葉に、さまざまな目的で訪れ、一夜もしくは何日かの暮らしをゆだねようとする人々を暖かく迎え入れ守る、ホテルという場の持つ本質を教えられた気がしました。


取材協力 日本板硝子東北株式会社
URL http://nsg-t.com/
取材日 2018年6月5・6日
取材・文 二階幸恵
撮影 中谷正人

*BELS:Building-Housing Energy-efficiency labeling Systemの略。ベルスと読む。建築物省エネルギー性能表示制度。 建物のエネルギー消費性能を第三者機関が評価・見える化し、高い性能を持つ建築物が適切に評価され選ばれる環境をつくることを目的に定められた。 一次エネルギー消費量と外皮性能をもとに評価し、☆の数による5段階で示される。申請には申請書・設計内容(現況)説明書・図面等・計算書などが必要


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