事例紹介/リフォーム ビル

五つ星の老健改修は
快適さVS省エネの構図?!

-兵庫県 兵庫医科大学 ささやま老人保健施設-

Profile Data
立地 兵庫県篠山市
建物形態 RC造4階建
利用形態 介護老人保健施設
リフォーム工期 2016年9月~12月
窓リフォームに使用したガラス エコガラス(真空ガラス)
利用した補助金等 経済産業省 平成28年度ネット・
ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)
実証事業
改修計画 アズビル株式会社

計画の前提は補助金にあり
無欲の勝利でBELS五つ星を獲得

篠山市の中心市街地と北部に広がる農地の境に、兵庫医科大学が保健・医療・福祉の総合的ケアを地域に提供する施設群が集積する。ささやま医療センター・リハビリテーションセンター・ささやま居宅介護支援事業所そしてささやま老人保健施設の4館はそれぞれ渡り廊下でつながり、一体となっている

受付窓口に掲げられたBELS認証に最高ランクである五つ星が並ぶ。2017年現在BELS認証を受けている全国の医療・福祉系施設95のうち、約1割にあたる12施設のみが認められているレベル

館内1階の応接室でお話をうかがった

短期を含め、常時100人の入所者を受け入れるささやま老健施設は、もとは公立病院だった施設を移譲されるかたちで開設し、今回は初めての大改修に当たる。館を統括する施設長であり併設する居宅介護支援事業所の所長も務めるのは、医学博士である大柳光正さん

計画から予算面、施工に至るまで実質的な責任者として奔走したのは、兵庫医科大学総務部施設整備課課長補佐の加藤雅己さん。豊富な建物改修経験をもとに計画全体を牽引した。「五つ星は狙ったわけではなく、結果的にこうなっただけ。工事も当初は翌年2月完了予定で、こんなに早く終わると思っていなかったんですよ(笑)」と、ざっくばらんに語る

高齢社会を反映し、ニーズが高まり続ける介護老人保健施設。丹波の黒豆で知られる篠山盆地に広がる城下町・篠山市に、その一館を訪ねました。2016年に総合的なエコ改修を行い、病院等建築としてBELS*1最高ランクを獲得している数少ない建物のひとつです。

兵庫医科大学が運営するささやま老人保健施設は、同大学が篠山市に展開する医療福祉施設群の一角をなしています。1999年の開設から20年余、地域の高齢者ケアに尽力してきました。

きっかけは、空調をはじめとする建物設備の老朽化です。
「機器の劣化や故障が続き、効率も悪くて光熱費がかさんでいました」中心となって改修事業を引っぱった兵庫医科大学の加藤雅己さんは話します。

設備更新が急がれるとともに、他方ではエネルギー削減に向けた大学全体での取組も始まっていました。

確実な省エネを前提に学内の省エネルギー推進委員会が計画を練り続けるも、やはり問題は予算面。そこで目にとまったのが経済産業省のZEB*2化支援事業です。省エネ性能にすぐれた建物の新築や改修に対して補助金が交付されるこの事業への申請をめざし、計画は“設備の更新+建物の断熱”へとシフトしました。
窓のエコリフォーム工事が、このタイミングで加えられたのです。

支援申請について加藤さんは「ゼロエネは難しいと考えてはいました。全体のイメージアップにもつながるかもという思いでしたね」
結果は予想に反して一次エネルギー消費量50%減という堂々の成績。総工事費1億9000万円の約6割にあたる1億810万円の補助金を獲得したのでした。

五つ星の老健エコ改修。その実際を見てみましょう。


寒暖差の大きな土地柄
窓が対峙する外気は夏35℃冬マイナス10℃

事務機能や通所者対応機能を集約する1階を除き、館内は中央のサービスステーションを囲んで4面に療養室を置く配置。個室・2人室・4人室と3種類ある療養室は、ひとり当たりの床面積8㎡以上と病院よりも広く、ゆったりとしている

談話室は真北に向かって幅5mを超える窓があり、篠山の田園風景とかつて修験道場だった歴史のある多紀連山の峰々が眺められる。大きな開口はしかし、寒さの元凶でもあった

南側ほぼ全面が天井近くまでの開口になっている通所デイルーム。冬場は寒さ対策でカーテンが引かれることもあり「射してくる光がもったいないと思っていました」と小川さん

2~4階の療養室階では南西の角に食堂兼デイルームが配置され、曲面ガラスを含む大きな窓が光を取り込む。通所デイルームと並んで館内でもっとも開放感を感じるスペースだが、厳しい西日を防ぐカーテンが欠かせなかった。現在も、中央にある曲面ガラスのみ改修前から入っていた熱線吸収ガラスが使われている

ケアスタッフをまとめる兵庫医科大学篠山キャンパス事務部介護サービス課課長補佐の小川孝博さん。医療・看護・介護活動の現場代表として、最前線と運営側の橋渡しを務めるキーパーソンだ

事務機能が集約された1階の平面図。南西の浴室エリアは使用が短時間に限られるとして窓のリフォーム対象外となった。予算面を検討する際、参考になる考え方だろう

4階平面図。南西にある食堂の曲面ガラスと小浴室を除き、すべての窓がエコガラスに交換された。中央にあるサービスステーションには各階を通じて吹抜けが設けられ、外光を取り込むことでスタッフの仕事環境に配慮している

改修以前、空調設備はガスを熱源とする冷温水を建物全体に循環させるシステム。竣工から17年以上が経ち、機器の劣化とともに効率は下がる一方でした。
照明は暖色系で温かな雰囲気がある一方、やはり劣化で暗くなっていたといいます。

シングルガラスだった窓は総面積約720㎡で、鉄筋コンクリート4階建の四方にぐるりと切られて内部を明るく保っています。
その反面、盛夏は35℃厳寒期はマイナス10℃と寒暖の差が激しい篠山盆地の外気にたくさんのガラスが相対するため、熱気や冷気が室内に与える影響は大きくならざるを得ません。

「冬は利用者さんから『北側エリアが寒い』とか『夜は冷え込む』という声がありましたね」話してくれたのは、スタッフとともに現場の最前線で働く同館課長補佐の小川孝博さんです。
南の壁一面が窓になっていて開放感のある通所デイルームでも「寒いときはカーテンを閉めていました」

夏の大敵は西日です。
建物の西側には食堂兼デイルームや療養室が配置されています。窓の外には畑が広がり、午後には遮るもののない西日が容赦なく射し込んでくるため、カーテンはやはり必須だったとのこと。

このような室内環境の現状調査や設備性能評価を行い、ZEB化支援事業への申請も念頭に以下の改修計画が練り上げられました。

  • エコガラスによる窓のエコリフォーム
  • 熱源をガスから電気に変更した新しい空調システム
  • 空調の台数・流量制御システム構築
  • ヒートポンプ給湯器と自動水栓の採用
  • LED照明と在室検知制御システム導入
  • BEMS*3の導入

工事は2016年の9月下旬から同年12月初旬に実施され、延床面積4,360㎡の建物の大規模なエコ改修が、実質3ヶ月ほどで完了しました。

入居者用の療養室を持つ老健は、病院同様に“24時間眠らない施設”。そして主な利用者は、弱った体の回復をめざして日々リハビリを続けている高齢の人々です。
この特性を踏まえ、多くの知恵や気遣いをも伴った担当者間の協力体制のもと、スピーディーな改修が行われたのでした。


利用者は療養者。だから不安も負担もNG!
情報伝達と心配りで“居ながら改修”を乗り切る

3・4階北東側の療養室を外から見る。1人室も2人室も、ひとつのベッドにひとつの窓が割り当てられている

4階の1人室。ベッドサイドの窓からは十分な採光がある。改修は4階から始められ、工事の時間帯だけ部屋のあるじは別所に移動し、終了後すぐに戻ることができた。短時間での施工完了は、既存の窓枠を残してガラスだけをエコガラスに交換し壁には手をつけない窓リフォーム手法の利点のひとつ

館内中央でサービスステーションの採光を担う吹抜け。ここにももちろんエコガラス

畳のある“家族介護教室”にはふたつの窓。入居者の家族に向けた改修工事関連の説明・情報伝達は「月に一度お送りする請求書に同封するお便りに記載しました。これだと必ず読んでもらえます(笑)」と小川さん



施工期間中は、複数の部署同士でスケジュールをはじめ多くの調整や確認、情報の伝達が続けられました。

定例会議は毎週です。
各階サービスステーションの責任者・施工会社の技術担当者・全体を統轄する医療センター管理課担当者が顔を揃えて、その週の工事スケジュールを確認。療養室の工事などは入居者の一時的な移動を伴うので、とくに綿密な確認が大切です。
節目節目には、現場スタッフをまとめる小川さんも出席して利用者の居住環境を詳しく伝えました。

工事といえば避けられないのが“音”や“振動”です。「事前に通知しておかないと利用者さんがびっくりするので、気を使いました」と小川さん。しかも「普段接しているスタッフの言葉でないと、スムーズに伝わりづらいんですよ」
老健施設の特質がうかがえる話です。

また、一時的に照明が落ちるなど利用者の暮らしに直に関わる作業では「直前に再度『落とします』とアナウンスする。改修工事の鉄則です」と、こちらは加藤さん。
年中無休の病院や福祉施設の改修は“居ながら”が基本です。利用者の日常生活になんらかの影響が出る以上、こまやかな心配りは欠かせません。

さらに工事期間中は敷地内の駐車場に仮設の現場事務所が設置され、施工の技術担当者が常駐しました。
「困ったことやクレームが出た時はすぐに伝え、利用者さんにも“今、対応しています”と言える。よかったです」小川さんがにっこりしました。
事業主と施工者のよい関係が、そのまま全体の安心感につながるのがわかります。

なかでも印象的だったのは「情報をいかに公平に、公式に伝えるか」という小川さんの言葉でした。

「一連の工事が“スタッフ全員に関係することだ”とわかってもらわなければなりません。あとで『聞いていない』と言われないように、あらゆる情報は現場担当の責任者から各部署の長に伝えられ、そこから“公式な情報”として各スタッフに下ろしました」

利用者への情報伝達において、日頃身近なケアスタッフからの口頭説明がもっとも有効である以上、ポジションに関係なく運営側全員が同じ情報を共有することこそがスムーズかつ安全な工事のカナメ。現場の知恵を目の当たりにするようです。


省エネ数値は上々。でも体感はこれから
効果はBEMSで集積・分析し、運用提案へ

改修前と後での光熱水費の比較グラフ(データ提供:兵庫医科大学)

採用されたエコガラスは、2枚のガラスの間に真空の層をはさんでつくられた真空ガラスだ

南側大開口からの採光+LED照明でさらに明るくなった通所デイルームは、この日も大入りだった

BEMSのモニターは事務室を入ってすぐの位置にある。計画当初から工事期間中を経て現在に至るまで省エネルギー運用管理・提案を担当する與ノ恵介さんにご説明いただいた。エネルギーの全体計量から設備ごとの使用量、設備の稼働状況、各室の温度がモニター可能。遠隔操作機能もあるが、現在使っているのは中央熱源スイッチのオンオフのみ

年の瀬を前に改修は無事終了! 効果はどうでしょうか。

「工事後の冬は“暖かくなった”と感じました」と加藤さん。ただし、と一呼吸おいて「老健施設は室内をとにかく暖かくするので、電気料金などの劇的な効果は冬は見えづらいんです」
一方、夏場はエコガラスの断熱力や高効率の空調設備、LED照明などの改修要素が奏効し「従来と比較して5割以上の削減ができていますよ」

現場での体感もうかがいました。
小川さんは「ガラスについては、正直よくわかりません(笑)」と前置きしつつ「LED照明で利用者さんの顔色がよく見えるようになりました。スタッフが体調変化に気づきやすくなったのが一番ですね」

新たに導入されたBEMSは、館内のエネルギー情報を24時間集中管理・制御しています。
事務室に設置されたモニター画面では、館内の室温・空調の稼働状況・エネルギー使用量などを確認できます。日常的にはビル管理者がモニターし、中央の熱源を稼働させるスイッチもここにあるそうです。

さらにこれらの情報は、総合的なエネルギー運用管理を請け負うアズビル株式会社にも伝送されています。
「数値の確認・分析を行って、今後の運用提案へとつなげていきます」と、アズビルの担当者である與ノ恵介さんは話します。1分ごとの数値データが集積されているとのこと。

現場と管理をつなぐこの明快なシステムもまた、省エネ実績向上を支援する要素のひとつです。


現場は暖かさ優先、運営は省エネ優先?
せめぎ合いつつ最良の状態を探り続ける

利用者に合わせた温熱環境のもと、ケアスタッフは真冬も含めて一年中半袖姿で仕事するという。「ずっと動いているので、利用者さんとは全然感覚が違いますから」と小川さん。確かに過ごし方の違いはあるが、高齢者の温熱感覚について考える上でも参考になる話だろう

各階とも、4人室の窓側はほぼ全面開口部。廊下寄りのベッドまで光を届かせて居住性を高めるが、利用者間での個人差やベッド位置などで寒さ暑さの体感はそれぞれ違いはある。その上でどう室温設定していくかは簡単ではない

全国の介護老人保健施設数は2016年(平成28年)時点で4200余、定員は約37万人。利用者は毎年増え続けている。高齢化を反映しますます求められる施設において、利用者にも地球にもやさしい環境をどのようにつくりあげていけばいいのか。皆で考えたい

医療・福祉系建築物エコ改修のトップランナーとなったささやま老人保健施設ですが、工事後の省エネルギー運営は決して楽なものではなく、努力が継続されています。

改修後の総エネルギー使用量は、補助金を交付される時点で厳格に決められます。室温の設定など管理側からの運営提案もこれに基づき、事務室などはそれに従った空調制御がなされています。

ところが、療養室やデイルームといった施設のメイン空間では、話は少し違ってくるのです。

日々利用者と接してケアする現場スタッフにとって、数値に従い暖房を止めたり設定温度を下げるのは「利用者が寒さを感じてダメージを受けるからダメ。常に快適にしてあげたい、という気持ちが強いんですね」と小川さん。
体感には個人差があり、4人用療養室などはとくに判断が難しくなりますが、いずれにしても「利用者さん本位ってなんだろう、ということ。ひとりの利用者に寒いと言われたとき、その要望をどこまで聞き入れるのかが、課題です」

現場での小川さんとスタッフ、そして管理委託され運用提案する側のせめぎ合いは、そのまま“利用者にとっての快適性や安全性”と“省エネ目標の達成”とのせめぎ合いと言い換えられそうです。

「管理側からの運用提案は受けますが、最終判断は現場が行います」と小川さん。
建物全体のコスト削減をめざす一方で、生命や健康の維持という医療・福祉現場の至上命題にも直接影響が及ぶ事柄として、その答えは一朝一夕に出されるものではないはず。まさに「これから互いにやっていくこと(小川さん)」なのでしょう。

通所デイルームでの活動を終え、楽しそうにさざめきながら家路につく人々の後ろ姿を見送りながら、やってくる冬の暮らしをエコガラスが暖かく保ちますように、と願いました。



*1 Building-Housing Energy-efficiency Labeling Systemの略で、ベルスと読む。建築物省エネルギー性能表示制度。建物のエネルギー消費性能を第三者機関が評価・見える化することで、高い性能を持つ建築物が市場で適切に評価され選ばれる環境をつくることを目的に定められた。非住宅建築物では一次エネルギー消費量と外皮性能をもとに評価され、評価は☆の数による5段階で示される。評価申請時は申請書・設計内容(現況)説明書・図面等・計算書などを提出する

*2 Net Zero Energy Buildingの略で、ゼブと読む。エネルギー負荷の抑制や自然エネルギーの活用、高効率の設備導入等で、快適な室内環境を維持しながら大幅な省エネを実現しかつ年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロをめざす建築物を指す

*3 Building Energy Management Systemsの略。ベムスと読む。住宅以外の建築物のエネルギー需要をITを利用して最適に管理するためのシステム。住宅向けのものはHEMS(Home Energy Management Systems:ヘムス)


取材協力:兵庫医科大学ささやま老人保健施設
取材日:2017年11月7日
取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人
イラスト:中川展代

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