事例紹介/リフォーム ビル

エコ改修は地域社会への“お役立ち”

-京都府 カシックス-

Profile Data
立地 京都府京都市
建物形態 RC造2階建(1974年竣工)
利用形態 事業所
リフォーム工期 2016年8月(2日間)
窓リフォームに使用したガラス エコガラス(遮熱真空ガラス)
利用した補助金等 国土交通省 平成28年度既存建築物省エネ化推進事業補助金

築40年超の建物に“省エネ設備投資”する

ほうぼうから集まる金属製コンテナや1トン入りフレコンバッグを一時保管する倉庫が付属する本社社屋

2箇所に太陽光発電パネルが並ぶ社屋の屋根。すぐ近くを京阪国道が走っている

サン・ウインドの小林徹也さんにも同席いただき、藤田社長にお話をうかがった。2階応接室の窓の外には、道路を挟んで向かい側で操業する食品工場が見える。その距離はほんの10m足らず

盆地特有の蒸し暑さと足下から這い上がる冷気…夏暑く冬寒いことで知られる京都を創業の地とする企業が実践したエコ改修にスポットを当てました。

カシックスは京阪神エリアで工業原料薬品を専門に手がける物流会社です。2016年に京都市内の社屋をエコ改修しました。
この建物は40年以上前に大手メーカーが建てたRC建築です。2004年に取得し、現在は約百名の社員の三分の一が勤務する本社になっています。

「物流会社として“燃料削減”が省エネ面で高いウェイトを占めますが、同時に環境への取組も大事にしようという認識がいつもあります」と語る現社長の藤田周士さんは、里山の保全などCSR活動も積極的に行ってきた人物。
社屋にエコの目を向けたきっかけは“窓サッシの老朽化”と“気密の低下”だったといいます。

「国道に近いせいか、車のタイヤカスのような黒いホコリが、たてつけの悪いサッシからすきま風と一緒に入ってきていました」
しかし窓を丸ごと換える予算はなく、サッシの形も少し変わっていたためカバー工法*1も難しい状況でした。

そんなとき、開口部全体の調整も含めたエコガラスの窓改修提案があったのです。

宇治市に本社を置くサン・ウインドの小林徹也さんの提案は、古くなった空調設備の更新も同時に行い、さらに補助金を獲得してコストダウンをはかろうというものでした。
「老朽化で設備投資が避けられない中、低コストで省エネも実現できる…そんな改修なら、一挙両得と思いました」と藤田さん。本格的な打合せが2016年3月から始まりました。

施主側の担当となったのは藤田さんご本人です。トップが建物改修事業を直接担当するのは少し意外な気もしますが、とくに補助金申請などでスピード感も必要な場合、その場で意思決定できることは大きな強みになり得ます。

毎回の打合せも短時間でした。検討・確認の必要な事柄を予め小林さんがまとめておき、資料とともに持参。課題解決の方法論まで含めて即決が常でした。足りない分は頻繁なメールのやりとりで補い、ITも有効に活用したのです。


業務を止めず、2日間の工事で執務スペースをエコガラス窓に

4本の道路に囲まれた三角地帯に位置するカシックス京都本社。建物南東の一角を占めて前面道路に接する執務エリアは、日射や騒音など周辺環境からの影響をもっとも大きく受ける

既存サッシを活用した窓のエコリフォームで採用されたのは真空ガラス。1階事務所のほか、2階の会議室・応接室・従業員向けの食堂と、執務エリア内の計3室が改修対象となった

執務エリアの窓は1、2階とも日射をまともに受ける。1階窓に、取り外しがかなわなかった面格子が見える

工事は最初の打合せから約半年後の2016年8月下旬、実質2日間で行われました。

暑さ到来の前にやった方がいいのでは? とも思えますが、真夏まで待った理由を「空調設備の新機種が出るのが夏だったのと、春は補助金申請の受付が始まる前で内容がよくわからなかったからなんです」と小林さん。

それまでの時間を、小林さんは補助金申請用の書類作成に力を注ぎました。改修後のエネルギー削減率を15%とし、数値データなどの細かい資料を整えて、国土交通省が補助金を発表した時点ですかさず申請できるよう準備を進めたのです。
公的な補助金は多くの場合、発表後あっというまに枠が埋まるのが常で、小林さんが取ったこの方法は決して大げさではないのが実情です。

満を持して始まった工事には、難関が待っていました。仕事を阻んだのは窓際に置かれたスチールロッカーです。

オフィスビルの居ながら改修は“通常業務に支障をきたさない”のが大前提。工事を土日に限定したり、家具をどける手間などもなるべく避けて、従業員の仕事に影響が出ないことが求められます。今回の状況では建物外側から作業するのが妥当でした。

ところが道路に面した窓の面格子が劣化しており、さらに耐震補強でビス留めまでされていて取り外せませんでした。やむなく室内側からの工事になりましたが、ずらりと並ぶロッカーに大量の書類が入っていて、容易に動かせないことも判明します。

そこで試されたのがプロの技術でした。「わずかな隙間を使って職人が頑張りました」と小林さん。そんな状況下でも「気がついたら終わっていた感じですよ」と就業中の社員さんに言わしめるほど、工事は迅速・スムーズに進められたといいます。

エコガラスのはめ込みに加え、パッキンの交換や既存サッシの補修など全体の調整を含む窓リフォームは、木曜日と土曜日それぞれ1日で無事終了。最新機種に更新されたエアコンとともに“エコなオフィス環境”が姿を現しました。


“ええ仕事”につながる、暖かくて涼しいオフィス

2面採光の1階事務所。南東の窓はカーテンを引き、パソコンモニターへの映り込みを防ぐ。正面の窓ごしには作業場に出入りするトラックの姿が

2階にある従業員用の食堂にはフロスト仕様のエコガラス窓を採用

北東向きの窓を背にデスクに向かう、人事担当の藤田さん。「暖房の効きが本当に違いますね。向かいの工場やトラックの出す音も静かになり、空気の震えまで違う気がします」

営業部のベテランマネージャー・杉岡さんは「暖房でも冷房でも、外に逃げる分が減っていると感じます。ガラスを1枚だけ元に戻してみたらよくわかるんじゃないかなあ」と笑った

1階事務スペースは、北東と南東の壁一面に窓が並び、北東側はトラックの出入りする倉庫前スペース、南東側は前面道路に接しています。

パソコン画面への映り込みを防ぐため、南東の窓は一年を通じて終日カーテンが引かれ、室温は夏はエアコン、冬は大きなペレットストーブ+補助エアコンで調整。これは今も変わっていません。

工事後の変化はどのようなものだったのでしょう。

「“劇的に静かになった”のが最初の印象ですね」と藤田さん。
真向かいに食品工場と国道、背後にも道路が走る社屋は、ときに会議に支障が出るほどの騒音に悩まされていましたが、今は「お向かいの工場、今日は休んでいるのかな? と思うくらいです(笑)」

エアコンも以前より効くようになりました。
夏の設定温度は26℃で、工事の後も変わりません。しかし「暑いときは23℃まで下げていいよ、と言えるようになりました。放っておいても30分で自動的に26℃に戻る設定にしてあり、戻った後もさほど暑さを感じません。それくらい効きがいいです」

冬の様子を話してくれたのは、人事担当の藤田千枝子さんでした。
「冷たいすきま風が少なくなったと感じます。この冬は暖房のかけ始めが少し遅かったですね。効きもよくなって、暖かいです」今でも足下にはひとり用ヒーターを置いているものの、部屋全体がとても暖まりますよとにっこりしました。

「去年と比べて暑いくらい、ストーブひとつでホカホカして本当に暖かい! 今年はちゃうな、と感じます。眠たくなって困る」と豪快に笑うのは自称“人一倍寒がり”のゼネラルマネージャー・杉岡伸一さん。
これを受けて藤田さんも「省エネには“辛抱”の部分があるでしょう? あまりうるさく言うと窮屈になり、不満も出てきます。それが、改修後はより前向きに取り組めるようになりました」と深くうなずきました。

“滞りなく、快適かつ効率的に仕事できること”をオフィス環境の前提とするなら、暑さ寒さによるストレスが少ない空間づくりもまた、考慮すべき要素のひとつといえるでしょう。

「暖かいと体が動きやすいから、今年はええ冬になるなあと思いますね」杉岡さんの言葉に、“ええ冬=ええ仕事”と聞こえた気がしました。


社屋のエコ改修=時代に合わせた社会貢献?

自身の代表取締役就任1年後に採択された『京都議定書』が、環境・省エネに対する取り組みの契機だった、と藤田社長。「京都の名の下に世界に向けて発信された議定書ですから、京都の会社として貢献したい。しないわけにはいかないと思いました」

「2015年と2016年の9月〜12月の電気料金比較(データ提供・カシックス)」

基本提案から補助金獲得まで、改修事業の実質面を担当したサン・ウインドの小林徹也営業部長。太陽光発電にも明るく、藤田社長との出会いもカシックスの太陽光発電システム導入が縁だったという

2面採光の会議室もすべての窓にエコガラスを入れ替えた。プロジェクター使用時はカーテンを引く。次の夏にはグリーンカーテンとエコガラスのコラボレーションが実現するだろう

会議室の窓辺に揺れる、名残のグリーンカーテン

快適な温熱環境以外に窓のエコ改修で期待したことは? の問いに、まずエネルギー料金削減を挙げた藤田さんですが、もうひとつ印象に残ったのが『百年続く企業の基礎づくり』という言葉です。

築41年の建物を「RC造ですから少なくとも60年は使いたい。そのために手を入れていきます。老朽設備が新しくなれば安心・快適な環境で営業が続けられる。先人から預かったものをよりよくして、後世に伝えたいのです」
数百年単位で続く商いが珍しくない京都で、2011年に創業60周年を迎えた“若い”企業を背負う四代目は「会社は百年で一人前」と力をこめました。

「企業経営とは、本業+できることをする“お役立ち”です」とも。
その意味は、時代の要請に応え、必要なものを取り入れて変化し続け、社会に貢献し役立つことだといいます。環境の時代にあってエコ改修による省エネルギーや建物の長寿命化を実践することは、そのままひとつの“お役立ち”なのかもしれません。

さらに、オフィスエコ改修の主なメリットとして快適性・エネルギーコスト削減・地球環境保全への貢献、の3つを挙げた藤田さん。エコ改修を検討する経営者に対し「専門知識を持ち、数多くの情報をまとめあげ、事業主体にはその都度メリットとデメリットを整理して提案してくれる人をパートナーとする。これが大事と思います」と助言してくれました。

そんなパートナーシップを藤田さんと実現した小林さんは「この改修が“なぜ必要なのか”“何が変わるのか”をまずご説明し、職場環境がよくなることで働きやすさ・効率が向上、結果として会社の業績アップにつながります、といったことをお話しました。もちろん、ガラスが重要だということも一緒にね」とにっこり。

カシックスのエコ改修では、補助金獲得業務に加え、並行してBELS*2の評価申請業務という、ともに煩雑で難しい仕事がありました。
資料は分厚いファイル数冊に及び、国交省からは数度にわたる書類差し戻しもあった中で、通常業務をこなしながら申請作業を継続するのは簡単ではありません。諦めずに完遂するには、担当者の強い意思と互いの信頼関係に加え、コスト削減や労働環境改善といった経営的側面と、環境への取り組みで地域や社会に貢献しようとするCSR的側面の両立が不可欠なのかもしれません。

2階にある会議室の窓辺には、ひと夏活躍したグリーンカーテンの名残がありました。「大薯(ダイショ)という山芋です」と藤田さん。カシックスが社会貢献の一環として里山保全活動を展開する京都府精華町の特産品とのこと。 「『洛いも』の商品名で実も売っています。おいしいんですよ!」明るい声がそのまま、肩肘張らずしなやかにエコに向かう姿を映しているようでした。



*1 カバー工法:既存の窓枠に新しい枠をかぶせる窓リフォームの方法。壁を壊すなど大掛かりな工事にせず、サッシ部分の傷みやがたつきによる窓の不具合を改善する

*2 BELS: Building-Housing Energy-efficiency labeling Systemの略で、ベルスと読む。建築物省エネルギー性能表示制度。建物のエネルギー消費性能を第三者機関が評価・見える化することで、高い性能を持つ建築物が市場で適切に評価され選ばれる環境をつくることを目的に定められた。非住宅建築物では一次エネルギー消費量と外皮性能をもとに評価され、☆の数による5段階で示される。評価申請時は申請書・設計内容(現況)説明書・図面等・計算書などを提出する


取材協力:サン・ウインド(株)
取材日:2016年11月30日
取材・文:二階幸恵
撮影:渡辺洋司(わたなべスタジオ)
イラスト:中川展代

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