事例紹介/リフォーム ビル

夢は地域のエコビレッジ化 エネルギーと食の自給に挑むゴルフ場(後編)

-栃木県 ファイブエイトゴルフクラブ-

Profile Data
立地 栃木県矢板市
建物形態 RC造2階地下1階(1988年竣工)
利用形態 ゴルフ場クラブハウス
リフォーム工期 2013年12月
窓リフォームに使用したガラス エコガラス
利用した補助金等 平成25年度 住宅・ビルの革新的省エネ技術導入促進事業(ネット・ゼロ・エネルギ−・ビル実証事業)
工事費用 約2,000万円

環境助成を申請するには、事業者にも専門知識が必要?!

レストランスペースのシャンデリアも含めて、照明はすべてLED。洗面所などでは人感センサーを採用し、省エネルギーを徹底している
スポーツ施設ではプレー後のシャワーは不可欠であり、その存在感は大きい。震災時、A重油で焚き続けて地域住民に奉仕した大浴場は、今は間伐材の薪を燃やすバイオマスボイラーで給湯され、完全なエネルギ−自給を実現
事務室のBEMSコーナー。小森さんが指し示すのは、場内各エリアの電力の稼働状況を制御できるタッチタイプのモニターだ。その日に使われない居室はスイッチだけでなくブレーカーが落とされ、待機電力の消費を防いでいる。右下のモニターに映るのは電力デマンドを示すグラフ。使用電力量が予測デマンドに近づくと警告音が鳴り響く
給湯状態を確認するBEMSの画面。ボイラー貯湯部内の温度から浴室給湯時の水温まで、誰でもひと目で分かるように設計された。現場のニーズを最優先に考えた小森さんの労作

ファイブエイトゴルフクラブの多面的エコ事業を直接担当したのは、総務や設備のスタッフではありません。社長の小森さんでした。

<お客さま対応が本業のスタッフに余計な仕事を増やしたくない。渉外、しかも補助金などのお金も関わる事柄だから経営者として把握しておきたい>との思いで自ら引き受けたものの「キロワットってどういうこと? というところからでした(笑)何もわからないので恥も外聞もなくいろいろ聞いて」

環境関連の補助事業に慣れているコンサルタント、環境経済㈱の助力を得て、小森さんは補助金申請手続きとエネルギ−関連の専門知識の猛勉強とに並行して取り組みました。ZEB化事業の助成は、プロのサポートは受けられても最後は申請者が面接官に直接説明しなければならないため、事業内容を完全に理解する必要があるのです。

建物の断熱から太陽光発電、バイオマスボイラーによる給湯、空調・照明・設備の省電力化まで、その範囲は多岐にわたりました。「補助金獲得はたぶん、素人だけでは難しい。しかも興味を持っている事業者でなければできないと思います」

その一方で、自分のゴルフ場の年間エネルギ−使用量すら知らない支配人・経営者も多い中ですごく勉強になった、とも。日々の経営にもこの経験が大きく反映されるようになったそうです。

身につけた知識は、BEMS※1の名で知られる、コンピューターの一括管理で建物全体のエネルギー制御を行うシステムを作る際にも、十二分に発揮されました。

ファイブエイトゴルフクラブのBEMSでは、事務室のモニターで全エネルギー状況がひと目で分かります。
大浴場に給湯するボイラー貯湯槽内の温度、クラブハウス各室の使用電力量、使用中のエネルギーが契約電力量を超えそうになると知らせる警報まで組み込み、シンプルな動作で確認・コントロールできる独自のシステムは、BEMS制作の専門家と小森さんの協働で完成しました。
現場の声をどんどん取り入れて作り上げた使い勝手のよさが特徴です。

最近はオフィスビルなどへの設置が増えてきたBEMSですが、ほとんど活用されておらず、その実態も作り手にフィードバックされないから結局ずっと同じものがつけられている、と小森さん。
見た目のきれいさではなく使いやすさを重視したファイブエイトのBEMSは、今ではゴルフ場向けのパッケージ商品になっているそうです。
システム開発への問題提起とともに、設置する側の「つけるからには最大限使いこなそう」という姿勢の大切さがうかがえる話ではないでしょうか。


経営の極意は「人を切らずにエネルギ−を切る」

常日頃からスタッフの提案を吸い上げ、モチベーションアップに心を配りながら、高い経営倫理に従って事業に取り組む小森さんに寄せられる信は厚い。「とくにゴルフ業界ではデフレの波は止まっていません。でもそこで人を切ったら、何のために会社をやっているんでしょう」
もとはロッジの建設予定地だった敷地に隣家の土地を借り足して確保した場所に、300キロワットの太陽光発電パネルを設置。これでゴルフ場内の電気エネルギーすべてを実質的にまかなっている。計画自体が早かったため、買取価格1kWh42円で売電契約している
クラブハウス脇のボイラー室に並ぶ4機のバイオマスボイラー。間伐材の薪を生木のまま入れて燃やせるシンプルな構造、1日約1㎥の薪で6トンの給湯ができる高効率機器だ。稼働はゴルフ場の営業時間内のみで間に合うという

小森さんの取り組みとBEMSによる<見える化>とは、エネルギ−に対する高い意識をスタッフに植えつけました。

「とにかく電気を使わない、落とせるのはどこなんだ、と。以前は24時間つけっぱなしだったビールジョッキの冷却装置やカップウォーマーも夜間はコンセントを抜いたり、タイマーを活用するようになりました。予測デマンドの警報音が鳴るとみんなであたふたして消して回ったり、窓を開けたりしてね(笑)」

まとめ役である副支配人の岡本さんも「いろんなことがめまぐるしく変わって最初はみんなとまどいましたが、すばらしいことをやっているんだとわかるとモチベーションが上がり、今はスタッフの誇りになっています。みんなで省エネを勉強しながら、徹底的にコストカットしています」

部下の言葉に「エネルギ−は社会的な問題なので、どれくらい減らせたか目に見えると<自分たちが非常に社会貢献した>という意識に変わる。そうなるともっとしなきゃいけない、こんないいことをなんで周りはしないんだろう、となるんですよ」と小森さんはにっこりしました。

会社経営からみた省エネの効果にも、独自の視点が光ります。

「景気の上向きは地方ではまだ実感できませんし、売上が頭打ちの中では人件費削減が一番楽なので、どうしてもそこにいってしまう。でも本来、どんな企業も必ず社会貢献をうたっているはずなんです。雇用を切ったら本末転倒、何のための会社なのかと思うんですね」

スタッフの給料以外に何がカットできるのか? そこで燃料費や光熱費に着目してほしい。削減する手段はいくらでもある、<エネルギ−費用はかかるものだ>という固定観念を捨てよう… 
周囲のゴルフ場経営者に向けた勉強会で、小森さんはいつもそう話すといいます。

ファイブエイトゴルフクラブは、使用エネルギ−を<自給自足>しています。100万㎡の敷地に大きなクラブハウス、年間約3万人のゴルフ場利用者に加え食事やイベント、買い物に訪れる多くの地域住民を受け入れることで使うエネルギ−すべてを、です。

給湯は敷地内の間伐材を薪とするバイオマスボイラーでまかない、空調・照明用の電気は、太陽光発電パネルからの売電で実質的に全使用分を作っていることになります。
エコガラスによる建物の高断熱化とスタッフの省エネ意識、フル活用されるBEMSがそれを支えています。

使われるエネルギ−のすべてを作り出し、それまでかかっていた燃料・光熱費を100%削減すれば、従業員を減らす必要はなくなるはず。
「経営者の方には、人を切ることで招くサービス低下で陥る<安かろう悪かろうの負のスパイラル>を一度断ち切ろう、と。エネルギ−削減の手段はいくらでもあることを知ってもらいたいのです」


省エネルギー=社会貢献。地域の活性化を担うゴルフ場をめざす

美しいグリーンの周縁部には木々がうっそうと茂るエリアもあり、整備を待っている。これらの隣地の所有者から依頼される伐採・管理の実績が、ファイブエイトゴルフクラブを中心とした地域ぐるみの森林経営計画につながった
エントランス近くに建設中の間伐材ログハウス。「ゴルフ場に住み込んでいるよう」と小森さんが笑う地元のプロビルダーがスクールを開き、丸太の皮むきから生徒とともにつくっている。近所の住民から「終の住処として建ててほしい」と引き合いも
カリフラワーや葉もの野菜が育つ、ロハスファームの畑。芝を養生していたエリアを小森さんがトラクターで耕して畑にした。完全無農薬栽培でたくさんの蝶が舞い、虫喰い跡もあるが安全度は抜群。肥料はゴルフ場で出る枯れ葉に近くの養豚場からもらう豚糞を混ぜた堆肥を使用
クラブハウス2階で毎日営業するランチビュッフェは一般に開放され、ゴルフ客以外の地元住民にも人気。25種類ある自然食ビュッフェの主役はもちろん、畑で収穫した新鮮野菜
ロハスファームの野菜も並ぶクラブハウスロビーは、ゴルフ用品のほかにしゃれた食器や輸入家具・雑貨も展示販売されるカジュアルなスペースだ。「近隣農家に声をかけて、矢板の物産市のようなことを毎年やっています。道の駅のゴルフ場版みたいに」岡本さんの言葉に、地域活性の拠点になろうとする熱意がにじむ
ファイブエイトゴルフクラブ 周辺連携図

省エネ+自社の使用エネルギ−自給をめざすファイブエイトの取り組みは、今やゴルフ場を中心とする地域活性化という壮大な構想へと変貌しつつあります。

コース整備を兼ねてボイラーの薪取り用に行っていた樹木の間伐は、敷地周辺の荒れた山林を復活させる地域ぐるみの森林経営計画へと発展。
小森さんらの取り組みを見て、土地を管理する跡継ぎも予算もない山主からの整備依頼が次々と舞い込んできたのです。

切り出した間伐材は薪利用のほか、質のいいものを選り分けてログハウスの建設・販売にも使われ、その売上は伐採費用の足しにされています。ゆくゆくはバイオマス発電用のチップ加工も始めて完全な電力自給をやりたい、コージェネで熱供給もできるし、と小森さん。小さなスマートシティともいえる構想でしょう。

さらに、農業生産法人という顔もファイブエイトゴルフクラブは持っています。
所有する敷地に加えて外に農地を借り、10反部ほどの畑を耕して無農薬有機野菜やハウスイチゴを育て、<ロハスファーム>のブランド名でランチビュッフェで料理を出すほか、出荷もしているのです。

これは、食も含めた地域の完全自給自足をめざす構想に加え、ゴルフのオフシーズンとなる冬場に畑の世話やイチゴ収穫の仕事を創出することで、スタッフの通年雇用を確保する狙いがあります。
「小量多品目で、まず自分たちの食べるものを。最初は僕が独りで耕していたんだけど、今は料理長も含めた全スタッフで土作りからやっています」

きれいに枝打ちされた樹木がバランスよく立つ明るいコースを少し外れた敷地内では、畑の一角に卵を採る鶏とひよこが育ち、ヤギの乳のチーズ作りや、菜種を使ったエクストラバージンオイルの生産・販売計画も進められています。
ほかにも草刈りや落ち葉清掃などのコース整備を地域住民に依頼し、代わりにプレー料金が無料になる「ボランティア会員」という独自制度もあり、時間のある地元のシニア層に好評。地域全体をまきこむ開かれた場としても認識されつつあるのです。

そこには<ゴルフ場とは特権階級が楽しむ、周囲と隔絶した世界>という認識を次々と覆してくれる爽やかな空気が、満ちていました。

「エコ事業は<老朽化した設備を補助金使って安く直そう>ではなく、どれだけエネルギ−を削減できるかという大筋に着目して取り組まなければいけません。
これからエコ改修をする人には、エネルギ−という社会問題に対して企業や家庭、自分たちがどれだけ貢献できるかを、真剣に考えてやってもらいたいです」小森さんの言葉です。

ファイブエイトゴルフクラブの一連の取り組みは、経済産業省・環境省・農林水産省が進める<J-クレジット制度>※2の第1回認証委員会で承認された、日本初の事業のひとつでもあります。

この成果をどう活用されますか、と水を向けると
「たとえばイベントなどをやるとき、入場料の一部としてクレジットを少し渡す、そんなことをやってみたいですね。あなたはこれでCO2を1トン買ってくれたんですよ、ということで(笑)」

エコ事業は金儲けのためではなく社会貢献。この取り組みを世の中に知ってもらうことこそが重要なのだ。かつてゴルファーだった経歴も持つ特異な経営人の揺るぎない信念が、ひとつひとつの言葉の中で底光りしているようでした。


取材協力:(株)テクノプランニング
取材日:2014年10月2日
取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人

※1 :Building Energy Management System=ビル内エネルギ−管理システム

※2:省エネ機器の導入や森林経営などの取り組みによって実現するCO2など温室効果ガスの排出削減量・吸収量をクレジットとして国が認証する制度。クレジットはカーボン・オフセットなどさまざまな用途に活用できるとされる

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