事例紹介/リフォーム ビル

窓だらけの古い役所、省エネの殿堂になる(前編)

-東京都 三鷹市役所-

Profile Data
立地 東京都三鷹市
建物形態 RC造5階地下2階(1965年竣工)
利用形態 官公庁(地方自治体市庁舎)
リフォーム工期 2010年11月~2011年2月
窓リフォームに使用したガラス エコガラス(真空ガラス)
利用した補助金等 東京都地球温暖化対策等推進のための区市町村補助金
工事費用 約6,000万円(全額補助対象)



庁舎は築45年。サッシは換えずにガラスだけ新しくできる?

改修当時すでに築45年を数えていた三鷹市役所本庁舎はRC造のモダンな建物。前面の芝生は、もとはアスファルト敷だった中庭をエコ改修の一環で緑化した。コンクリートの上に芝生を張り潅水することで、屋上緑化の実験場ともなっている
ガラス張りの業務スペースは明るく見通しがよい反面、断熱力のないシングルガラスで四方を囲われることで外の冷気や熱がそのまま室内に伝わっていた。冬寒く夏暑い室内環境は空調負荷にダイレクトに影響する
高度成長期から半世紀近く建物を包んできたスチールサッシは、そのレトロ感がなんとも魅力的。ガラスをはめ込む溝幅は狭く、通常の複層ガラスはそのまま入らない。二重でありながら6.2ミリの厚さを実現した真空ガラスの登場が、窓のエコ改修に道をひらいた
一連のエコ改修の総指揮をとった岩崎さん。三鷹市が資源・エネルギ−関連事業に積極的に取り組む以前から環境部門に在籍し、今年で12年めを迎える。三鷹の環境政策を引っ張るキーパーソンだ

東京都のほぼ中央に位置する三鷹市は人口18万人、国立天文台キャンパスをはじめいくつもの大学が立地する学術都市です。
井の頭恩賜公園や玉川上水など緑地帯も多く見られ、作家・太宰治ゆかりの地として記憶される方もあるでしょう。

省エネルギー事業に力を入れていることも、このまちの特徴のひとつです。

「1997年にCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)があり、市庁舎のエネルギ−削減は可能なのかと考えるようになった、それが取組のスタートでした」と三鷹市生活環境部環境政策課課長の岩崎好高さんは話します。

翌98年には当時まだハシリだったESCO事業*の形態を取り入れ、本庁舎の照明や空調機器の交換・省エネ化を実現。その後もコミュニティセンターや芸術文化センター、下水処理場など市内の公共施設もESCO事業を活用して省エネ化していきます。

近年、そこに新たな取組が加えられました。『スーパーエコ庁舎推進事業』と銘打たれた、本庁舎の窓を中心とする省エネ改修です。

ここでは<ほぼすべての窓ガラスのエコ改修>を中心に<太陽光発電システムの導入><中庭の芝生化>が事業の柱となりました。
「98年の省エネ事業のあと、庁内のパソコン利用が進んでひとり1台体制になり、省エネした分を全部食われてしまったんですよ」と岩崎さんは笑いますが、きっかけはそれだけではありません。

三鷹市の本庁舎は、建物の4面すべてがガラス張りです。1965年に建てられて以来のシングルガラスの窓は、冬は冷気が入って室内を冷やしつつ結露も発生させ、夏は直射日光の熱を通して室温を上げ…と、業務スペースの空調に負荷をかける大きな要因となっていました。

しかし「ガラスをなんとかしなければと思いながらも、サッシ全部を換えるのが予算的に無理だったのです」

そして今回、既存のサッシ使用を大前提とする中で浮上したのが、98年当時はまだほとんど知られていなかった、エコガラスの一種である<真空ガラス>へと、ガラスだけ交換する改修方法でした。
「実は、結露が特にひどかった庁舎内の一室で、実証実験的に真空ガラスを導入してみたんです。そうしたら結露がぴたっと止まって暖かくなった。これはいい、となったのですね」

高い断熱力があるのに薄く、既存の窓枠にはめこめる真空ガラスなら、今あるサッシをそのまま使うことができる。この実験が決定打となり、スーパーエコ庁舎化が動きだしました。


仕事もいっぱい書類もいっぱい! 業務を止めずに800枚の窓工事

庁舎5階部分の平面図。エレベーターや水まわりなどの設備を真ん中に集める<センターコア型>で、四方をガラス張り(青色部分)とし周辺にベランダがめぐる。業務スペースはすべて窓際となって明るい反面、外からの冷気や熱気、日射の影響を受けやすい
北側ベランダから見る
長年の風雪に耐えてきた鉄製サッシに現代のガラス技術が融合し、高断熱省エネ窓が実現
自然換気窓は、下階から新鮮な空気を取り入れて最上階から熱気を抜く「重力換気」を利用する。外に向かってゆらりと揺れ開く姿が印象的
5階北西側の業務スペース。壁がないため、一部の書類棚などはやむを得ず窓際に並ぶ。正面奥は西日対策のためにカーテンが多く引かれている

枚数は約1,000枚、面積にして約1,200㎡。おびただしい数のガラス窓を持つ本庁舎のエコ改修が始まったのは、2010年11月。工事は金曜日の夕方から日曜日の夜の間です。

「金曜日に養生をし、工事対象となる部課の職員に棚などを1メートルくらい内側に移動してもらいます。土日で工事をし、月曜の朝また職員が1時間くらい前に出勤して棚類を元に戻す、とやっていました」

日程はそれぞれの課の都合に合わせ、工事は各階ごと部分的に進められていきました。

ガラス交換のほか、最上階である5階フロアでは、自然風の力で自動開閉する「自然換気窓」もつけられました。
冷房を入れるには少し早い時期、建物の中は1階から上階に向かって暖かい空気が流れます。この時に起こる弱い風で開き、熱を逃がすのが自然換気窓の役割。ゆったりと揺れる姿が、省エネに配慮するビルでしばしば見られるようになっています。

工事の間には、予想外の困難? もありました。

「役所ってやっぱり書類が多くて、場所によってはガラスが見えなくなるほど窓面を全部つぶして棚を置いてある部課もあるんですよ。それを全部移動するのは大変でしたね」

さらに、市役所は住民の個人情報を管理する役割も担っています。
岩崎さんいわく、コンピュータ室はセキュリティがきびしく「今回の工事でも、いつ、誰がどう入って作業するかということを、作業する方の氏名も含めてしっかり確認しました。工事にはコンピュータ室の担当職員も立ち会いましたし。事前説明はかなり入念にやりましたね」

たとえ職員の机まわりで工事が行われても「通常業務を止めることはあり得ない(岩崎さん)」状況は、24時間休みなく患者さんのケアをする病院と同様に、役所の宿命といえるでしょう。
そんな中でも職員はみな「仕事の環境がよくなるんだという考えの下、とても協力的でした」

こうして、動かせない機器類がある箇所や一部の自動扉などを除く本庁舎のすべての窓が、市役所機能を滞らせることなく改修されたのです。


プロの調査研究データで見るエコ改修の効果

フロア中央の室温を、複数の高さ位置と時間で測定したグラフ。縦軸が床面からの高さ、横軸が温度を示す。床面から50cmごとに天井まで計6か所で測定した。始業前では、全測定地点で工事前後に2~3℃以上の差がある。業務が始まりエアコンが動き始めると、改修前は時間の経過にともない温度が上がるが、改修後は無暖房時点での温度から目立った変化が見られない。
測定位置の高低による温度の差異も、改修前は床面は低く天井に向かうほど上がる「温度ムラ」が見られるのに対し、改修後はほとんど違いがない。「足元が寒くて顔や頭は熱い」状況が改善されたといえる(画像提供・三鷹市)
職員を対象とした体感アンケートの回答結果。室温の感じ方を「非常に寒い」から「非常に暑い」までの7段階で選んでもらった。横軸は人数を示し、青色が改修前、赤色が改修後。改修後は「寒くも暑くもない」と「やや寒い」の回答が逆転し「寒い」の回答が半減した一方で「やや暑い」の回答が増えている(首都大学東京須永研究室による調査結果をもとに作成) 業務スペースの北側と南側での室温差を比較したグラフ。測定点は北と南それぞれの窓際から1m、床上60cmに定めた。縦軸は室温と日射量、横軸は時間を示す。左は改修前の12月5日、右は改修後の3月6日の24時間での測定結果。赤い線が南側、緑の線が北側の値で、改修後はほぼ一致しているのがわかる(画像提供・首都大学東京須永研究室) 2010年1月に撮影したサーモカメラの画像。青く写ったシングルガラス窓の表面の温度は16.6℃、右隣のエコガラス窓は21.5℃を示した(写真提供・三鷹市)
空調に使われた都市ガスと電力の合計をエネルギー使用量とし、改修前と後で比較したグラフ。とくに冬場の削減効果が著しい。夏については、測定期間である2010年8月~9月の平均気温が過去5年間の平均気温と比べて2℃ほど高かった(8月の平均は過去5年間は26.9℃、2010年は28.7℃)こともあり、冬と比べて削減率が低くなったと考えられる(画像提供・三鷹市)

スーパーエコ庁舎推進事業では、建築環境・省エネルギーの専門家による協力もありました。

首都大学東京・都市環境科学研究科の須永修通教授の研究室は、ガラス窓等の断熱実験を行っていた段階から調査研究に関わってきました。
今回のエコ改修でも、工事前と工事後の温度変化の測定から職員の体感調査まで数多くの実測調査・分析・考察を行い、学会発表もしています。

公表されたいくつかのデータを見てみましょう。

工事前と工事後、いずれも寒い時期に、フロアの中央で室温を測定した結果が、右のグラフです。床から天井まで高さの違う6か所で測定した数値を、始業前の8時から2時間おきに書き出しました。

同じく工事の前後で、職員を対象とした室内温度の体感アンケートも行われました。
改修前は123人ともっとも多かった「やや寒い」が、工事後は86人に減り、逆に工事前は83人だった「暑くも寒くもない」が128人に増えています。

5階北側の業務スペースに長く机を置き、工事にも立ち会った公共施設課の髙橋健治さんは「寒さに関しては、前よりも全然きびしくないですよ。その昔は防寒服みたいなものを着ていたけど(笑)」
所属する環境政策課が以前この場所にあったという岩崎さんも「寒かったですよ。後ろから風が吹いてくるような感じで冷気が漂ってくるんです」と、窓を背に仕事をしていた頃を振り返りました。

業務スペースの北側と南側での室温差も調べました。
空調を使わない冬の休日、改修前は一日を通して北と南で約2.5℃の差がありますが、改修後の差は約0.5℃です。
エコガラスに交換されて窓の熱損失が大幅に少なくなり、さらにサッシの気密性アップも加わって、南北方向の室内温度差がほぼなくなったことを、このグラフは示しています。
北側の席ではひざかけや足温器が手放せないのに、南側の席では汗をかいている… オフィスでよく見られるこんな風景の解消にも、エコガラスは一役買っているといえそうです。

工事の途中では、窓ガラス表面の温度を見るためにサーモカメラでの撮影も行われました。
12月に撮影された画像の中で温度が低く青く見えるのが交換前のシングルガラス。右隣のオレンジ色は入れ替えられたエコガラスです。その温度差は約5℃。鮮やかなコントラストが「昔はガラス面にさわると氷みたいでしたが、今は冷たいっていう感じはないですね」という髙橋さんの言葉を裏付けるようです。

さらに、改修後の空調向けエネルギーの使用量が冬期・夏期とも改修前より減ったことが確認され、エコ改修の省エネ効果が名実共に明らかになりました。

これを受けて翌年の冬には第2庁舎の窓が同じくエコガラスに改修され、さらに2013年春竣工の三鷹市公会堂別館「さんさん館」の建設では、ほとんどの窓に真空ガラスが採用されています。
「本庁舎でエネルギ−削減に成功したので、ぜひ入れようという認識でした」ちょっと高いんだけど、と岩崎さんが笑いながら付け加えました。(後編に続く)


取材協力:首都大学東京都市環境科学研究科建築学域 須永修通研究室


取材日:2013年11月6日
取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人
イラスト:中川展代

*ESCO事業:Energy Service Company事業の略。ESCO事業者が顧客のエネルギ−使用状況の分析から改修提案、設備導入、管理保守まで、省エネルギーを実現するための総合的なサービスを行う。事業者は省エネルギー効果を保証し、その削減によって生じたメリットの一部を報酬として受け取るビジネス形態

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