工務店・ガラス店のみなさま/スペシャルインタビュー

ガラスは美しく、難しい

内藤惠子(ないとう・けいこ)

1950年生まれ。大学で住居学を修め、1972年より大手ハウスメーカー研究所に勤務。結婚を機に退職、専業主婦に。15年後、設計者として仕事を再開し1991年現在の事務所を設立、現在に至る。愛知淑徳大学非常勤講師

内藤太一(ないとう・たいち)

1977年生まれ。大学建築学科卒業後スイスに留学、現地設計事務所に勤務。2010年に帰国、母である惠子氏が代表を務める設計室ないとうに入社し現在に至る。管理建築士

設計室では住宅・非住宅、新築・リフォームとオールラウンドな建築設計業務を行う。新築案件は全国、リフォーム案件は愛知県内及び岐阜エリアが対象。「何が幸せにつながるか」をベースに、地域や施主との縁を大切にしながら親子二人三脚で設計に取り組む

窓は“風”と“一番良い景色”を取り込む位置に

設計を行う際、どんなことを基本とされますか。

(内藤惠子・以下K):住宅の場合は、デザインよりも住まい手の暮らし方です。
ヒアリングする中で「どういう生活をしたいのか、こだわりは何か」といった“その人のありよう”をお聞きし、心豊かな暮らしになる家にと考えます。少し大げさに言えば「何が幸せにつながるか」ということでしょうか。

それから、六畳があって四畳半があってリビングがあって、というような考え方は最初に壊します(笑)

そんな中で、窓はどのような存在でしょうか。

K:内と外とをつなげ、開放感をつくり、風を通すもの。気持ちの良い風通しを大事にしています。

配置については、敷地の環境を見て考えますね。山並みが見えたり、きれいな借景があるなど、その立地で一番良い景色を取り込める位置や向きに窓をあけます。どうしてもないときには、壁面緑化など人工的につくることも。

(内藤太一・以下T):ただ、せっかく窓をつくってもカーテンを引かれてしまうことも多いですね(笑)やはり、外から見られてしまう心配がありますから。

K:そんなお施主さんの意識に配慮しながら、開けてもらえる環境・仕掛けをつくるんです。

T:高い位置につけて視線を外したり、隣家の窓からずらしたり、建物の形や位置を工夫してお隣との距離を確保したりしています。

接骨院の案件では、壁の真ん中は閉じて患者さんのプライバシーを保護し、上と下を窓にしました。
住まい手・利用者の性格や暮らし方使い方にもよりますが、やはり“窓は外から見られるもの”という意識を常に持っています。

建築物の性能面から見ると?

K:設計時に性能を考えるのは当たり前で、住まい手それぞれの暮らしを考え、生活の仕方に合わせて性能を考えていきます。
比較的に規模が大きいリフォームではとくに断熱について考えますし、結露が激しい建物には窓の断熱を提案します。
コスト面から内窓を提案することが多いですが、場合によっては真空ガラスもお勧めし、結露対策として評判が良いです。エコポイントを利用したこともありました。

でも、窓について最初に考えるのは風通し。この地域は東京の都心と違い、窓を開けることで気持ちよく風を通せる環境ですから。

省エネルギー基準といったものについてはどうお考えですか。

K:都市部・郊外・山間部は自然環境も含めて地域ごとに違い、それぞれの快適性はデータで表せないものもあります。数値上の縛りでやりにくい場合もあり、全国一律の法律は違うのでは、と思います。

ガラスは美しく、難しい-詳細写真01

鉄骨造の事務所は戦後日本を代表するニュータウン内に建つ。銘木の一枚板でつくられた会議机でお話をうかがった

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接骨院の設計では、患者さんのプライバシーに配慮しながら外光と風景を取り入れる窓をつけた(写真提供・設計室ないとう)

割れる、透明、そしてきれい。ガラスは美しくて難しい

建材としてのガラスに対する感じ方考え方を教えてください。

K:ガラスは割れます。そこが難しいところ。地震が怖いからとの住まい手の意向でガラスの欄間をポリカーボネートに変更することもあります。
昨今、都市部で見られるガラス建築の多さは、地震や災害を考えるとどうかと思いますよ。

けれど、ガラスはやはりきれい。あれはポリカでは無理です。

T:最近は断熱性能も上がってきています。シングルガラスで囲まれたビルの会議室などは、冬でも日が当たると温室ですが(笑)Low-Eガラスはありがたいですね。

K:“透明であること”も大きいです。
以前担当した窓のリフォームで「障子が使えなくなるならガラスを乳白にしたい」とおっしゃったお施主さんがいました。それで検討している最中に、ガラス屋さんが間違えて本当に乳白ガラスを入れてしまったんです。
そうしたら閉塞感が大きくて、結局は透明ガラスを入れることに(笑)試せてよかったと今では思っています。

内部の開放感においてガラスの役割はすごく大きいと思います。たとえレースカーテンを引かれたとしても。

T:窓がないのが当たり前だった工場建築などでも、最近は建替時にLow-Eガラスが採用されることが多くなりました。
明るく快適な労働環境で社員を大事にしたい、そう考える経営者が増えているようです。

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相手の緊張を解く穏やかな話しぶりとリラックスした物腰が印象的。設計時のヒアリングでは「無駄話もしながら小さなことも拾っていきます」専業主婦として家庭管理に徹した経験もまた、施主の厚い信頼を得る要素となっているのだろう

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手がけた岐阜市内の住宅リフォームでは、新しくつくられた庭を楽しむ窓を設けた。東屋を見通す大開口は吹抜のリビングの開放感をさらに高め、住まい手からも高い評価を受けている

“建築のエコ”で必要なのは建物の魅力と住教育

環境やエコが叫ばれる時代、これからの建築や住宅に対するお考えは。

K:住宅でお話しすると、サステナブル住宅や百年住宅といわれるものがありますね。でも、実際は設備をやりかえなければならないので、手を加えないでいることはあり得ません。意匠とは関係なく、そこをやりやすいようにあらかじめ外に出しておくといった設計をしないと、どこが省エネなのかわかりませんね。
ただ、それがどこまで可能なのか…

T:設備はいいものがどんどん出てきますから、性能は新築の方が高い。ならば昔の住宅は壊した方がいい、となります。
その意識を変えていかない限り、安っぽくて新しいものばかりが売れていくといったことにも。

K:リフォームも、壊さないでやるしかないヨーロッパの住宅と違い、日本の木造住宅は新築同様に良くすると新しく建てるのと同じくらいの価格になってしまいます。そこが難しい。
中古住宅でリフォームするなら補助や融資がある、といったインセンティブが必要でしょう。

それから、建物自体に高い魅力と質があることですね。
カッコいいと思える家なら、お金をかけてリフォームしても住み続けるでしょう?

T:ただ安いだけの住宅では消費されてしまい、かえってエコでなくなります。住まう側の、家に対する価値観が重要だと思います。

K:日本の学校教育の家庭科では、衣食住の衣と食は教えても住は教えません。教科書に書いてあってもとばしてしまい「住教育がない」とあちこちで聞きます。

でも、住まいと暮らしはとても大きな関係があるんですよ。

家は住むだけの箱ではありません。人の暮らしには歴史があり、地域のコミュニティも含め長い時間を経た上で今の暮らし方がある。それをサポートしてきたのが住まいなのです。

大学では非常勤講師として『住まいと生活』という科目を教えています。住まいは“社会の最小単位“なんですよね。

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赤い折板の天井、鉄骨接合部のボルトが見える梁など、建築物の骨格を感じる事務所空間

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在スイス時代にはskypeを活用して日本国内の友人とやりとりし、設計活動を行ったという。新たな時代の建築設計を体現するひとりだろう

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窓のすぐ近くに迫る塀を壁面緑化し、閉塞感を軽減した住宅の模型を見せていただいた

取材日2019年9月22日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
設計室ないとう 一級建築士事務所
社名
設計室ないとう 一級建築士事務所
URL
http://naito-archi.com/
住所
愛知県春日井市
社員数
5名
事業内容
建築設計・監理/リフォーム・リノベーション
エコガラス