Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声

女性ならではの“丁寧さ”を武器に

南 道徳(みなみ・みちのり)

1954年生まれ。高校卒業後、ガラス加工の家業を手伝いながら大学夜間部にて文学を修める。1977年、南ガラス入社。創業者である父を兄とともに支え続け、2001年代表取締役に就任。

機械による大量生産化やバブル崩壊など社会変化を乗り越え、現在は自身とふたりの弟、息子、社員3名の計7名で営業を続ける。会社の顔として営業に現場に飛び回りつつ、社内では断熱や防犯など機能ガラス分野を担当。

飾らず明朗な佇まいと、個性豊かなスタッフに向けられる暖かい目が印象的。率直かつ誠実な語り口と手を抜くことのない仕事は誰をも魅了し、顧客から圧倒的な信を獲得している。

趣味のカラオケではサザンオールスターズの『いとしのエリー』やCHAGE&ASKAの『SAY YES』を熱唱、90点をめざす。機能ガラスゴールドマスター・2級錠施工技師・第二種電気工事士・防犯設備士

機械化・バブル崩壊を経てガラス加工から施工販売へ

ガラス加工業での創業から64年、現在はガラス工事・窓やサッシまわり・錠前・インテリアそして機能ガラスまで、ご兄弟3人を中心にさまざまな業務を手がけておられます。

父が始めたときは手加工で、コバ磨きや面取などが主でした。18歳から手伝っていましたが、職人仕事だったので不器用な自分が継げるかなあと大学在学中もずっと迷っていました。
そんなとき、高熱を出した父がねじり鉢巻で仕事を続けているのを見て、入社を決心したのです。

当時は父・兄・職人との4人体制で自分は運転手でしたが、その職人が他社にスカウトされ、加工をやれるのが父だけになりました。機械化も進んで、父が1日やって40枚の面取加工をパート従業員が300枚つくれるように(笑)
単価も下がり、加工業はもう難しいのでは…と思っていた頃に建築バブルがきて、加工ができるならと引き合いが来るようになったんですね。

色ガラスや鏡を使った店舗の内装を経て、ALC3階建新築住宅の窓ガラス工事を依頼されるようになりました。そこから建築用ガラスの扱いが始まり、とても忙しくなりましたが、今度はバブルがはじけました。

バブル崩壊は、新築工事にとって大きな打撃でしたね。

弟たちもすでに入社していましたが、周囲の会社がどんどん倒産し苦しくなりました。
その頃に末の弟がご近所のガラスやサッシ、網戸の修理工事を始め、お客さまがエンドユーザーへと変わったのです。

並行して、地域の小中学校にガラス修理の営業に行きました。たまたま業者入替の時期で、見積を出したら通った。そこから広がって、現在は戸車や網戸の張替えも含めて練馬区内全小中学校の開口部修理を請け負っています。

エコガラスとの出合いは?

15~16年前、真空ガラスが出たときですね。メーカーさんの講習料4万円は高かった(笑)でもこれからは機能ガラスの時代だと考えました。

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60余年の歴史が重厚に積み重なる事務所でお話をうかがった

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打ち合わせスペースには、厚いガラス天板を載せた無垢の一枚板テーブル

こだわりは純正部品と施工。“技術本位”で地域一番店をめざす

『ひと味違うこだわりの地域一番店』をめざしておられます。どこが違うのでしょうか。

“純正部品を求めるこだわり”がありますね、クレセントでも戸車でも。
昔は70社ほどあったメーカーは今や3~4社にまで減ってしまいましたが、積み重ねた人間関係を基本に追っていき、融通してもらえます。

もうひとつは鏡かな。大工さんの中には壁に凹凸があってもそのまま張ってしまう人がいますが、もっと気を使えばよりきれいに張れますから。

以前、神奈川県のスポーツセンター内にあるスタジオの幅11m高さ2m60cmの開口に11枚の鏡を張ることになりました。大きいものなのでまず厚みを検討し、幅によってずれが出てくるところはカイモノで調整。さらに鏡自体のしなりで見え方が変わるので隣同士を入れ替えたりもしました。

素材から施工まで、技術力に対する強い意識を感じます。加工から工事へと業務転換された経験もその一因でしょうか。

“できないことをできるようにしてきた”という面はあると思います。
学校の扉のフロアヒンジ埋め換えや、ドア、錠前のピッキング被害防止工事なども見よう見まねで始めて、その後に資格も取りました。

スタッフの資格はたくさんありますよ。1級ガラス施工技能士のほか、2級錠施工技師・防犯設備士・2級ガラス用フィルム施工技能士・第二種電気工事士、足場の組み立て等作業主任者。兄弟3人に社員ふたりで、ある程度までは自社で施工できるようにしています。

資格はやはり大切ですか。

取ろうとすれば、まず勉強しますよね。仕事の上で安全性も高くなります。そしてあとひとつ、「モグリと言われずにすむ」。以前、ライバル会社にそう言われてショックでしたから(笑)

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在庫部品が床から天井まで積み上がるさまは、頼もしさにあふれている

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古い部品は建材メーカーに問い合わせても在庫切れになっているのがほとんど。南ガラスでは部品メーカーまで遡っての入手経路を確立している。壁にはすでにコレクションレベル? の貴重な戸車やクレセントが展示されていた。奥で机に向かうのは3兄弟の真ん中、窓ガラス・鏡・フィルム工事等を担当する南 貴法さん

安く、早く、丁寧に。現場は車で30分圏内が基本

現在メインとなっている業務内容とお客さまの属性、商圏をお聞かせください。

新築はおつきあいで少し、メインはリフォームです。個人のお客さまでは戸建とマンション両方ですね。
練馬区と板橋区を中心に、車で30分圏内を商圏としています。遠くて下見に半日かかったりすると、安くできなくなってしまうので。高くてもいいからと言っていただければ受けますが。

遠方の現場では、何かあったときに飛んでいくのも難しくなります。さらに30分圏内であれば、移動しながらついでに「ここにも寄っていこうか」といったこともできますし。

きめ細かいサービスを重視されているのですね。PRや営業はどのように?

HPのほか、年始に5万枚のチラシを新聞の折込で配布しています。でも、口コミでご依頼いただくほうが多いですね。

一例を挙げますと、以前エレベーターに入らないほど大判の鏡をマンションの玄関につけたいとの依頼があったとき、階段で回せるかどうか同じ大きさのベニヤ板で試したり、搬入時にも入口の床立ち上がりを越えるために工夫をこらしました。
それを見ていたお施主さんが周囲の方に話をされ、新たに3、4軒の仕事につながったのです。

エコガラス関連ではどのような案件がありますか。

戸建でもマンションでも、結露と寒さの解消を希望される方が主ですね。7割から8割がリピーターのお客さまで、真空ガラスの採用が多いです。

コールドスプレーで効果を体感していただき、その後データを示しながら説明します。
「室温20℃で湿度60%のとき、単板では外気温8℃で結露しますが、内窓ならー5℃、真空ガラスならー23℃まで大丈夫です、アタッチメントも不要です。ただし結露は湿度次第なので絶対になくなるとは言えません」といった調子で。

その一方で、風圧には耐えるが衝撃には弱いこと、真空ガラスは紫外線防止フィルムが張れない、値段が高いなどのデメリットもきちんと話しています。

その上で、お客さまご自身が選ばれる。

そうですね。
ときには、いわゆる“全部のせ”的にさまざまな機能を希望されるお客さまもいらっしゃいます。そんなときは「何を重視されますか?」と聞いて本来のニーズを把握していきます。
単に取り替えたいのではなく「実は結露が問題なんだな」と“本当に困っていること”を見抜く。そこが大事ですね。

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天井や外構など、ガラスや開口部まわり以外の仕事で窓口業務を務めることもあるが「基本的には自分たちで全部やれる工事をしたい」。壁から見守る肖像画は自ら手を動かすガラス加工職人だった創業者。その血は変わらず受け継がれている

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文字通り窓一枚の交換工事から請け負う。「断熱・結露防止のエコリフォームは工事翌日に効果がわかるので、その日のうちに追加されるお客さまもいます。電気料金の違いがわかるのは1ヶ月後ですが(笑)」

人として仕事をする。それがブランド

ご兄弟3人が力を合わせる中で、南さんの役割は?

営業や打ち合わせ、工事の段取りが主です。錠前関連以外の施工は他のスタッフに任せています。

現場に着いて荷揚げの手伝いが終わったら、両隣や階上階下のお宅にタオルを持って挨拶に行きます。
エレベーターを止めたり、台車や人が通ったり、グレチャンを叩く音が聞こえたりすると、周囲の人は「何しているんだろう」と不安になる。マンションなどでご近所づきあいがない場合は、なおさらです。

でも、最初からわかっていればクレームにはならないんですよ。工事終了後は電話も入れています。

当たり前のようでいて、実はおろそかにされやすい部分ですね。

“人として仕事をすること”。そうすればお客さまはついてきてくれると思っています。人として最低限のことができなければ、いくら仕事ができてもね…

会社では挨拶や感謝、勇気など『10の徳目』を努力目標としています。
例えば挨拶はコミュニケーションの始まりです。「行ってきます」と言うときは会社の代表として出ていくのであり、「おかえりなさい」は今日も無事に仕事が終わったことを意味します。

徳目は南ガラスブランド確立の指標ですね。

いわゆる企業理念とは違う“人としての品性”を謳っておられると。ほかに、社内で大切にされていることはありますか。

会社の福利厚生については、常に考えています。給料を上げ、ボーナスも出せるように。

毎月の売上高や粗利などの数字を、社員全員で共有しているんですよ。その上で「先月は粗利がなかったのに給料をもらえるのはなぜなのか」そういったところを考えてほしいと思っています。

技術的な社内勉強会とは別に、月に一度ミーティングします。数値データを見ると、みんなわかってくれるんですよ。7年ほど前からです。

経営面をオープンにすることが、仕事に対する高い意識につながる…

ガラス屋だけに、ガラス張りでね(笑)

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南ガラス工業所の根幹を形成する哲学『10の徳目』

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南ガラスには地域の工業高校のインターンシップを経て入社したルーキー2名が在籍し、現場での仕事に奮闘中。技術指導はビスの整理から始め、作業場である程度の加工ができるようになってから現場に出すという丁寧な新人育成だ。この日、事務所では3兄弟の末っ子である南 英明さんが、新人の川島大生さんと机を並べて打ち合わせ中

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インタビュー中、どんな問いかけにも打てば響くように答えが返る姿に、日頃からのたゆまぬ思考訓練がうかがえた。広げた両手はご本人のオープンマインドそのものだろう

取材日2018年10月18日
取材・文二階幸恵
撮影中谷正人
有限会社 南ガラス工業所
社名
有限会社 南ガラス工業所
URL
http://minagara.sakura.ne.jp/index.html
住所
東京都練馬区
社員数
7名
事業内容
各種ガラス修理・鏡・錠前や補助錠の取替取付・断熱省エネ・真空ガラス・防音・防犯安全・フィルム・サッシ・ドア・戸車やクレセント錠等各種部品の交換~改装・網戸・特殊窓・玄関引戸等(レール取付可)施工
エコガラス