Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声

女性ならではの“丁寧さ”を武器に

林 則子(はやし・のりこ)
山梨県生まれ。短大卒業後ケーブルテレビ局に勤務した後、父が創業したカワサキ株式会社に経理職として入社。2001年、自ら企画した一般ユーザー向け機能ガラス部門『クリアさんの窓の店』店長に就任。2013年、夫とともに独立し株式会社クリアを立ち上げる。

60年余の歴史を持つガラス工事会社の長女として誕生。一時は傾きかけたこともある会社を経理担当として支え続けた。ビル用サッシ販売施工の世界をつぶさに見てきた経験を、いわゆる“男の世界”とは違う自らの仕事術の創出へとつなげている。

明るい笑顔と話しぶり、求められればいとわずどこにも足を運ぶ身軽さは大きな魅力だ。細やかな気配りと「男性には頼っちゃいけません」と笑うマニッシュな言動が絶妙にバランスするその姿勢は多くの顧客の信を得、仕事を超えた人間同士のつながりをも生み出している。二級建築士・防犯整備士・機能ガラスゴールドマスター


エコガラスなら「自分にもできる」事務職から一転、販売営業へ

自邸の一角、表側に設えられた会社スペースに迎えられてインタビューを行った

デスクに置かれたデモ機は、提案時に必ず持参する必須アイテム

──経理のお仕事から機能ガラス販売業務へ、17年前に転身されました。何がきっかけだったのでしょう。

実家のビル用サッシ・ガラス販売会社でずっと仕事していましたが、三十代後半を迎えた頃「男性中心のガラス業界でも、自分で何かやってみたい」という気持ちが芽生えてきました。

そんな時にめぐり合ったのが、親しくしていた問屋さんに紹介された真空ガラスです。
当時は高価なものでしたが、なぜか「これなら自分にもできるかもしれない」と感じたのです。ピンときたというか…それまで物を売ったことも、営業したこともなかったのに。

自分でチラシをつくり、甲府市内から車で30分のエリアを走っては、持参した折り畳み自転車でポスティングしました。
同じ頃に生協の宅配システムに携わる人と出会い、エコ関連の展示会にPRブースを出店させてもらえることにもなりました。県内3万人の生協会員さんに向けて、チラシの折り込みもしましたね。

──そんなお取組が、販売拠点となる店舗『クリアさんの窓の店』の店長就任へとつながった。

工場の片隅にあった小さな建物を2001年に改築し、全部の窓に真空ガラスを入れたお店にしました。従来のガラス屋さんのイメージを払拭して喫茶店のようなデザインにし、女性にも来てもらいやすいショールームに仕上げました。

スタッフは誰もおらず、営業から提案、見積もり、メーカー発注、集金まで、ひとりでやりました。施工は外部の職人さんに依頼し、自分は現場監督で(笑)

──真空ガラスや防犯ガラス、通風雨戸など、“一般向けの断熱&防犯”に特化した新部門としてのお店ですね。お客さまはどのような方が?

立ち上げから数年は、県外から山梨に移住して田舎暮らしを楽しむ“環境に関する意識の高い方々”が主でした。営業は甲府市を中心にチラシを撒いて。

その後、7~8年目ぐらいにインターネットのウェブサイトによる営業へと切り替え、県内から長野、さらに東京や神奈川まで商圏が広がりました。
はじめは首都圏の採寸まで自分で行っていたんですよ。でも今は遠方の案件の施工は現場に近い協力会社さんにお願いし、こちらは契約や集金業務をする体制にしています。


提案はバリエーション豊かに。予算と効率を考え、選択肢を増やす

空色のガラス製表札でアピール。クリアという社名には「ガラスの持つ透明感、英語で“聡明”を意味すること、そして、経験してきたゼネコンさん相手の仕事形式をいったん“クリア”にして新しいことを始めようという思いを込めました」

営業はインターネット一本のため、ホームページのわかりやすさにはとくに気を使う。親しみやすいオリジナルのキャラクターを登場させて窓リフォームの実際を楽しく伝えるのも工夫のひとつ

──2013年に独立を果たされ、新たに事務所も構えられました。
現在のお仕事について聞かせてください。

会社はビル用サッシの業務を主に行っていますが、私は「クリアさんの窓の店』店長として、一般のお客さま向けの窓の断熱・防犯リフォームを専門に取り組んでいます。

──営業はウェブサイトを見たお客さまからの問い合わせに答えるかたちですね。どのようなご相談が多いのでしょうか。

ほとんどのお客様の目的は明快。「機能ガラスを入れたい」「断熱を考えたい」と言ってこられますね。こちらからはお客さまのお悩み解決を最重点に考え、ご提案します。

結露や寒さの改善をご希望の場合は、真空ガラスを基本に提案しています。メリットはもちろん、既存のアルミサッシには結露が残る可能性や、他に比べて値段が高めといったデメリットも必ず説明して。

内窓をお勧めするのは防音対策、さらにお客さまがとくに性能を重視される場合ですね。
以前、掃き出し窓に内窓をつけて「外に出るたびにこれだけの敷居をまたがなければならないの」と言われたことがあります。その失敗を糧に、使い勝手についてもきちんとお話するようになりました。

また、同じ断熱でもらんまのように小さな窓ならコスト面でエコガラスより薄型複層ガラスがふさわしい場合もありますし、サッシのレールが曲がっていればサッシごと交換が必要な場合もあります。

エコガラスは決してお安いものではありません。だからお客さまの予算をまず考えた上でもっとも効率のいいガラスを選び、かつバリエーション豊かな提案を心がけますね。
ご予算に応じて性能も変わることをきちんとご説明し、エコガラスと薄型複層ガラスを混在させながら選択肢を増やしていきます。


エコガラスが知られれば購買層はもっと広がる。PRが必要

「お客さまはお金がないわけではありません。知らないからエコガラスにお金を出さないんです」現場での経験に裏打ちされた言葉が静かに、しかし強く響いた

──依頼案件のメインとなるのは、どんなお客さまですか?

お目にかかるお客さまのほとんどは年齢60代以上、築20年超の住宅に住み、この先新築する予定はとくにない、といった方々が主です。
窓の断熱リフォームに求めるのは“結露や寒さのない快適さ”が第一。省エネや健康はあとからついてくるといったお考えだと思います。

「建て替えはできないけれど快適に暮らしたい」「子どもの住まいで断熱ガラスを見て自分の家でも使いたいと思った」というお気持ちでエコガラスの窓リフォームを希望される方が多いですね。

──若い世代など、他の購買層からの依頼はありませんか。

お若い方が新築で建てた家のガラスを入れ替える、といった案件はありません。購買層が広がらないのが悩みです。

ただ、お客さまはご予算が少ないからエコガラスを選ばないかというと、決してそうではないんですよ。

──なぜ、選ばれないのでしょう?

知られていない、一般的でないからだと思います。
例えば高性能エアコンはみなさん買われますよね。多くの人が性能を知っていてみんなが使っているから、たとえ高価でも買うのです。

その点、エコガラスはあまり知られておらず、お金を出す対象と考えられていないのではないでしょうか。

一生懸命チラシを撒いても、小さな会社ではやはり限界があります。メーカーさんには、エコガラスの良さをもっと大々的にアピールしていただきたいですね。国も巻き込んで、健康や省エネについてもどんどんPRしてほしいです。

ガラス屋さんを救うためではなく、多くの方々に「ガラスって大事なんだよ」と、伝えていくことが大事だと思うんです。


最大の武器は“女性ならではの丁寧さ”

夫と立ち上げた会社に現在は長男が加わり三人体制に。「今後はマンション一棟替えやビルのエコ改修にも取り組んでいきたいです」自ら天職というガラスの世界で、軽やかに歩み続ける

──店長という最前線のお立場で仕事をされる女性は、ガラスの世界ではまだまだ少ないと思います。そのあたりはどのようにお考えでしょうか。

私はガラス屋の家に生まれて仕事もしてきましたが、ゼネコン相手の会社はやはり“男の世界”。そんな仕事の仕方を、外側からずっと見てきました。

だからこそ、今はひとりひとりのお客さまに丁寧に対応できていると思っています。
お見積りは、男性なら面倒に思うかもしれないくらい細かくバリエーションをつけますし、クレームがあればすぐ飛んでいきます。

女性であることでお客さまに安心していただけるという面もありますね。寝室などプライベートな場所まで入っていかなければならないのが住宅リフォームの仕事ですから。

──その分、気を使われることもあるのでは?

まずは奥様に嫌われないことでしょうか(笑)
現場に出るときは必ずジャケットを着て、指輪などもつけません。なるべく女性らしくないスタイルにしています。

エコガラスという商品自体が、デザインや美しさ以上に“機能”を重視しているもの。自分はそれを引き立てるような佇まいでありたいですね。


取材日 2018年8月20日
取材・文 二階幸恵
撮影 中谷正人
株式会社クリア
株式会社クリア http://clear-g.co.jp/
山梨県甲府市
社員数 3名
事業内容 個人客向け窓の機能性製品販売・施工/建設会社向けビル用サッシ・住宅用サッシ・ガラス販売

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