金海 純二(かなみ・じゅんじ)
1956年生まれ。大学卒業後、建築設計事務所に勤務。その後兄の経営する塗料会社に入社、次いでAGC系の企業に転職。ガラスの技術営業から、住宅・施設の防音関連で一般ユーザーと接する部署に抜擢。建築のプロとして提案・販売に従事しながら防音のスペシャリストとしての経験と実績を積む。2003年、現在の事務所を立ち上げ独立。防音室設置を基本とする新築住宅の設計及び住宅リフォームの総合窓口・コンサルタント業務を行う。事務所は旭硝子(現AGC)いいまどショッププラチナステータス認定企業。社名には、温熱や空気清浄面等の一般的に意味される“住環境”を超え「それぞれの住まい手に合った安心・安全・快適な家を考える」との思いが込められている。
かつては音大を志したこともあるほど音楽を愛し、現在も自らボーカルやギターを担当しバンド活動を続ける。オーディオに対する深い造詣も、防音設計における施主の信頼獲得に一役買っている。ほかに愛玩動物飼養管理士として保護犬を預かり、趣味の写真ではフォトマスター検定一級認定。多彩な横顔の持ち主である。一級建築士
大学を卒業してからアトリエ系設計事務所に勤め、次に家業の塗料会社で営業とデリバリーの仕事を2年ほど経験しました。その後はAGC系の企業でガラスの技術営業、とくに一般のお客さま向けの防音分野業務に従事。2003年に設計事務所を立ち上げました。
基本としているのは“防音”です。
温熱や防犯と同じように、音は住環境の重要な部分。新築でもリフォームでも、依頼の中心は防音室の設置ですね。楽器の種類や演奏位置も考え、全体的な音の響きを整える“音響設計”をしながらつくります。それに付随する形で間仕切りの変更や水まわりのリフォームも、といった感じで仕事が広がっています。
新築は設計だけですが、リフォームは施工も受けます。
難しくて他で断られたという窓の工事を多くご依頼いただくんですよ。社員として勤務していた経験から、AGCの窓製品なら難しい工事でもできます。お施主さんへの説明も全部自分でやれますし、自由度の高い仕事が可能になるんです。
窓に限らず、マンション内に防音室をつくり、同時に全体も直したいといった場合、防音工事屋さんには水まわりや間仕切りの工事は無理。そういった仕事もお引き受けしています。
大工さんや左官屋さんなど建築のプロとのネットワークを持っていますが、住宅の工事は質が大切なので職人さんをしっかり吟味します。
仕事の仕方からコミュニケーション力まで、細かいところをお施主さんはしっかり見る。窓ガラスの取付けひとつとっても質が問われるのが住宅ですから。
受けた仕事は丸投げせず、必ず現場に一緒に行きますよ。
コンサル的な仕事もあります。マンションの大規模改修について、管理組合に依頼されたことも。結果として管理会社の提案よりも安くてしっかりしたものにできました。
コンサルタント業務は“住まい手がハウスメーカーのいいなりにならないように手助けする”という考え方ですね。
ほとんどのお施主さんが「ピアノ室を作りたい」「防音工事を」といった“音がらみ”でご依頼されますから、温熱環境は後まわしですよ(笑)最初は。
でも、できてからは全然違う。「これはいい」と。
家づくりにあたって、お施主さんは雑誌も写真も山ほど見て勉強されています。それをどんどん見せてもらいながら、希望や好みを引き出して設計を組み立てる。
その中で、エコについてはこちらから勧めていきます。
一般のお施主さんで省エネを考えておられるのは、やっぱりひとにぎりでしょう。だから“自動的に省エネして得をさせてあげる”ことが、機能ガラスを選んでいただくには重要なんです。
窓は風通しを考えた配置を前提にしています。そこから海風や山の風が気持ちよく入るのが理想ですが、とくに都市部の住宅は機能のある窓でなければ住まいとして成り立たたない、それが現実。
説明する時には、カタログの数値データやカットモデルを示し、結露についてもお話しています。
その反面、高断熱高気密という性能は“家も人間も壊している”と思います(笑)
断熱や防音に加えて“自然の空気も入る”のが、本来の快適さだと考えているんですね。
高断熱高気密の建物は外気を遮断するので、木材が傷みやすくなります。それは住む人にとってもよくないんじゃないか。
夏は高温多湿で冬は寒いという自然の状態を取り入れないと、人間の体がおかしくなるのではと思うのですよ。
ただし都会の真ん中は空気が悪いし、ヒートショックなど不慮の事故を防ぐといった健康面も、これからの住宅には大切です。もちろん省エネも必要。
一長一短といったところですね。
防音は別として、“四角くならない家”にする傾向があります。屋根が絶対前に出てくるというか。庇も大きくて、あとはできれば平屋! 現代の都市では難しいですが(笑)
自然素材も多く使います。木造を基本に、本物の漆喰なども。
窓は、東洋と西洋では違いますね。西洋の窓は壁に穴をあけたもの。それに対して東洋の窓は、外と内を区切る皮膜みたいなものです。昔は障子で今はガラスという違いこそあれ、開ければ外だし閉めれば内になる。
だから、室内を快適にしようとすれば必ず機能が求められるんです。
断熱だけでなく、耐震も防音もあたりまえの性能として、家をつくっています。
デザインとは格好良さではなく機能。必要だからこうなった、それがデザインです。はじめに使いやすさがあり、その上ですっきりした見栄えであればいいと思います。
住宅は設計者の作品ではなく、その家に帰ってくる人のためのもの、住む人がホッとできて心が豊かになる存在でなければ。「帰ってきたくない」と思わせたらダメですね。
家が“製品化”されているのが悲しいです。
昔のように大工や職人がひとりで建てられるものではなくなっています。オーダーメイドの家は減り続けるでしょう。
でも、建売やプレハブの家はやがて飽きられると思うんです。飽きた人が、では誰に家づくりを託していくのか。
現在の設計事務所ができるのは設計だけです。だからこそ住宅メーカーが“本当の意味での自由設計”を引き受ける部署を持つこと。ビジネスとして成り立たせるのは難しいと思いますが、これからはそれが必要なのではと思います。
若い人たちに教えたいです。
専門学校の講師も務めていますが、ここで教えるのは建築士試験のための建築計画。それとは違う建築や住宅の根本的・本質的な部分をね。
技術面だけでは、家は商品になってしまいますから。
将来は絶対こうなっていくんだよ、ということかな。
“建築物は本来、地球にあってはならないもの”と思っているんです。環境を壊していますから。
それでも建築はある、人が使うために。だから人にやさしい、人のために考えるのが大切です。
同じことは建築業界にもいえるのではないでしょうか。
特有の曖昧さとか危なさを孕みながら成り立ってきた古い業界ですが、最近ではお施主さんのメリット重視になってきています。
それが業界の縮小、言い換えれば建築に携わる設計者や建設会社、もちろんガラス会社も含めたすべての関係者の“資質”が問われる状況を生んでいる。
どちらを向いて仕事をするかでしょう。儲けるだけでなくお施主さんのため、人のために取り組むこと。それをやらなければ、これからもどんどん縮小していくと思います。
“働く”という字は“人”と“動”でできていますよね。働くとは“人のために動くこと”なんです。