岸野浩太(きしの・こうた)
1975生まれ。一級建築士、二級福祉住環境コーディネーター。東京の建築設計事務所で積算・設計・現場監督業務に携わり、高断熱高気密住宅の経験を積む。2004年、地元である埼玉に戻り、夢・建築工房に入社。2013年より現職。会社は新住協マスター会員。
社内では設計監理担当ながら、現場で大工とともに施工に親しみ、建物のみならず外構も合わせた空間設計を標榜。その研究熱心な姿勢と軽妙な語り口、こまやかな心配りとで、社内そして打合せに訪れる施主からの信は厚い。高性能住宅のつくり手としての飽くなき探究心と未来を見据える経営者としての歩みは、常に模索を続けながらも力強い。「最後まで生き残っていくのは工務店だと思っています」
そうですね。都心の住宅と違って田舎の家は太陽もいっぱい入るし、窓を開ければ風も通る。夏でも夜は風が通れば過ごしやすくなります。
そうです。こういうところで断熱住宅が普及しないと、と思う。これでやっていきます。地元の仕事の8割くらいはQ値1の家を造りたいなと思っています。
家の中だけでなく外の植栽から、お客さまと一緒に空間を設計していきたいんです。緑とかそこに来る鳥とか、見た目の涼しさも取り入れて体感温度を1℃くらい下げる(笑)
個人的な意見ですが、人工的な既製品の建具に囲まれた12畳の部屋にいるのと、同じ室温湿度で自然素材の中にいるのとでは、私の中では2℃くらい体感温度が違うのではないか、と考えているんです。
本当の性能だけでなく<見た目で感じること>もちゃんと入れていきたいんですね。家の中の自然素材はもちろんですが、家の外まですべてひっくるめた形でケアしていきたいなあと。
そう、意匠の話ですね。春になったらまた来てみてください。今この事務所の裏に新しく造っている打合せスペースは、木製デッキをつけて植栽も植えるので、その頃にはすごくいい雰囲気になっているはずです。
まず、新築は増やしていきたいですね。今は年間12棟くらいですが、20棟弱くらいまで、できれば倍くらいつくれたら最高だと思います。
でも、そのための大工さんがいないんですよ。だから今は棟数を増やすより大工さんを育てたい。うちが給料を払い、優秀な大工さんにつけて育てていけば、棟数も自然に増えてくるかなあと。
そうです。今は個人の大工さんが多くて、独自に弟子を入れて一緒に仕事をしていくという形は不可能なんです。だからうちで雇ってつけてあげると。大工さんがいないと、いくら棟数を増やしたくてもできないですから。
うちみたいな工務店に建ててもらいたいお客さまは、これからどんどん増えると思います。
なぜかというと、最近はこだわりの強いお客さまが増えてきて、そういう方は「全部自分で決めたい」と考える方が多いんですよ。
でも住宅メーカーさんの家では、Q値2といえば選べるものは決まっている。何万通りっていっているハウスメーカーさんもいますけど、大したことはないし(笑)
断熱性だけでなく、いろんな面でこだわるお客さまは増えていますよ。このあいだも「キッチンも自分たちの好みでつくれるんですよ」って言ったらすごくびっくりされて。そうしたら奥様は「じゃあやりたいね」って言うじゃないですか(笑)
今の私たちの世代、40歳前後の方って、住宅メーカーで建てたいと思わない人も多いんじゃないかなあ。
だから、最後に生き残っていくのはやっぱり工務店だと思っているんです。工務店が建てる新築は、10年後には倍くらいになっているんじゃないかな。
常にふたつぐらい上を行っていくこと。そうじゃないと目新しさで来てくれる方がいなくなる、それが一番大変です。
断熱気密に関しては行くところまでいったかな…5年後はどうしようかと(笑)
これからの家づくりでは、どんどん<電気を作っていく>流れになっていくでしょう? それは設備投資であり、誰でもできるんです。高性能な家をつくるにはある程度知識が必要ですが、太陽光発電パネルは誰でも買える、誰でもできるんです。
そういうものと建物をいかに差別化し、ふたつ上を行くかがすごく難しい。一番悩んでいることです。
いっぱいあると思うんですがそれが見つからない、本当に模索中です。
高性能だけで攻めていてももうダメかな、と思うところがあって、そっちはそっちで今まで通り一生懸命やっていくんですが、同時にもう少し意匠をがんばっていかなければと考えています。
女性の設計者になるべく任せていこうかと。
家づくりって、女性を連れてくることができるかどうかがやっぱり9割(笑)旦那さんは最初にちょっと言うだけで「あとは好きなようにしなよ」となりますから、最初の印象でいかに奥さんにその気になってもらうかですね。
難しい話ばかりじゃなく、雰囲気よく、ちょっといい音楽を流したりもして、五感で攻めていかないとダメかな、と(笑)
そうなんです。快適かどうかは、住んでもらえばわかりますから。
ひと夏かひと冬どちらかを過ごした後に、みなさん必ず電話かメールをくれますもの。こんなに快適だと思わなかった、岸野さんが言ったとおりに本当に暖かいです、とね。