清水康弘(しみず・やすひろ)
1957年生まれ。大学卒業後、建材商社・建材メーカー、工務店に勤務。1998年、参創ハウテックを創業。住宅の設計施工・リフォーム、フルオーダーキッチンや収納家具の設計・製作・施工、キッチンや住宅のパーツ販売と3つの事業による複合経営を展開する。2008年~2010年度国土交通省長期優良住宅先導事業に「東京家づくり工務店の会」名義で3年連続採択。2012年地域型住宅ブランド化事業採択。同年サステナブル住宅賞IBEC理事長賞受賞。2013年(株)エヌ・シー・エヌ夢の家コンテスト環境省選賞受賞。
住宅業界を横断する業務経験に基づいた俯瞰的目線を持ち、理科・工学的知識と実践を家づくりの核に据える「理科系工務店」を標榜。多くの研究会や団体に参加し日々研鑽と研究を続ける中、セミナー等の講師として後進の育成にもあたる。各種専門雑誌への寄稿多数。
歯に衣着せぬ物言いと「いいことはいい、ダメなものはダメ」とあくまで道理を重んじるその姿勢は強烈な存在感を放ち、社内の強固な一体感を醸成するとともに、同業者から環境デザイン系団体まで多くの人々の信を集める。東京家づくり工務店の会会員、(社)パッシブデザイン協議会顧問。
会社は16年前に始めました。社名の参は施主・設計・施工、さらに人・地域・自然。それらが三位一体となって家を創る、という思いをこめました。
社員には「技術の高い会社になれば仕事に困ることはない」とずっと言っていました。そして建築設計事務所との仕事や建売住宅の下請けの仕事もやっていたのですが、自分たちのやりたいことができないんですね。
設計事務所との仕事は納まりや仕様が毎回毎回違うので、確実な性能や品質の担保が難しい。そのためにずっとメンテナンスし続けなければならなくなります。これでは会社が成り立ちません。
そういう家はつくりたくなかったんです。それでも結局は、間接的であれお客さまに迷惑をかけてしまいました。
そこで8年ほど前、手がけた住宅のうち不具合が発生した現場を全部、徹底的に修復したんです。その年は受注していた仕事も断り、お金も人もすべてそこにつぎ込んで。
そうでなければこの仕事をやってはいけないんだ、と強く思いました。
そして、デザイン優先で性能や品質にこだわりがなかったりディテールの確証がない設計事務所から依頼される仕事は請けないことにし、おつきあいする事務所も絞ったのです。
7期めの決算は大赤字。倒産しなかったのが不思議です(笑)
つらかったけれど、許されないことは許されない、ダメなものはダメなんだって。自分たちの仕事に対しては絶対的に責任を持った、ということです。
それを乗り越えたとき、第二の創業という感じで会社が様変わりしました。
家づくりは第一に品質・性能、デザインはその次です。それはもう絶対に曲げない、全社員にとって普遍的なものとなりました。
2007年頃、 IBEC(建築環境・省エネルギー機構)から<自立循環型住宅>という手法が登場しました。エネルギー消費50%削減をめざす住宅設計の研究による成果です。
この手法を実践するための研究会※に参加して、会社スタッフみんなですごく勉強したんですよ。
当時は京都議定書の効力発生があったり、政権が変わったことで政治的にも「パッシブ」という言葉が受け入れられつつありました。その延長でパッシブデザイン住宅に取り組み始め、今も研鑽を重ねている状況です。
もうひとつ大きかったのは、東日本大震災での教訓。
3月11日って、東北地方はまだ冬。家は残ったけれどインフラが全部途絶してしまったとき、家が寒いと生きられないですよね。
断熱性能がしっかりした家に住んでいた人が曇り空でも室内は10℃を切らずに暮らせたのに対し、家によっては「外より寒い」こともあったといいます。
そんな中で家を考えるとき、基本性能のほかに耐震性はもちろん、断熱性能をどこまでやっておくかが、やはり重要になってきますよね。
2020年までに建物の断熱性能をどこまで上げるかの指針がすでに国からも出ていますし、今からそこを狙っていかなければなりません。
その上で最終的には資産価値が目減りせず、しっかりと評価されるようにと考えています。
とくに都市部では防火制限が優先されるので、その基準に通っているサッシやLow-Eガラスを使いつつ、足りない部分は壁とか屋根の断熱で補って、全体のバランスを見ています。
でも、窓の断熱省エネ性能に関して、メーカーさん側にもう少し、力を入れていただけたら助かりますね。
トリプルガラスなどの高い技術は持っているのに、需要を追いかけている風潮があるように見えます。しかし省エネに取り組むトップランナーの工務店は、そこで想定される需要レベルより先を行っていますよ。
本当の省エネ性を求めるとしたら、工務店をどんどん牽引してほしいと思います。
住宅の営業って、根拠や意味がないことでも、とにかく声高に言っていれば売れていくところがあるんですよ。そのようなことでよいのか、お客さまが幸せになるのだろうか。疑問のあるところです。
創業以前は建材商社やメーカーに勤務していたこともあり、住宅業界を俯瞰する中で、そもそも家づくりには<理科的・工学的知識>が必要なのではないかと自問自答してきました。
環境に対する対応が急務となった現在、工務店が設計知識や施工ノウハウにおいてお客さまの信頼に足る能力をつける必要性は、より大きくなっていると思います。
家づくりはバーチャルな情報の積み上げです。プラン作成段階から計画・予測(シミュレーション)・検証を繰り返し、住宅設計の可視化を図りながら提案をしています。
風の流れや陽当たりをシミュレーションし、数値も使いながら「窓はここにつけるといいですよ」「こういう空間を作ると気持ちいいですよ」という話をしながら設計を固めていくことで、どんどん具体化していきます。
もうじき省エネ基準が変わりますが、Q値やμ値、構造計算は全棟やっています。Q値を計算すれば年間暖冷房負荷も出ますし、その中でダイレクトゲインや日射遮蔽をどうするかを検討します。それで一次エネルギーの消費量がだいたいわかりますから、そこからまたいろいろ選択していくんですね。 基本的には常に次世代省エネルギー基準+αの性能をめざしています。
個別の敷地条件にこたえていく体制という面では、大手ハウスメーカーさんとはまったく違います。
けれど大手さんはすばらしい研究所を持っていたり、ずば抜けた研究者がいたりして、そこでは僕らは全然かなわない。対抗するには総力戦でやるしかありません。
だから、設計スタッフも現場スタッフも理科系になることをめざしています。もともと文系の人間である僕が工学とか理科系とか言っていて、自分より知らないスタッフには「ちょっと君、それはまずいよ、もっと勉強しようね」ってやってますから(笑)