Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声

家づくりは生きる道(後編)

下浦玲子(しもうら・れいこ)
1945年千葉県生まれ。東京都職員を経て、1984年に家族と共に北海道・十勝に移住、翌85年(株)下浦ハウス立ち上げ。以来、営業・プランニング・財務管理・顧客の資金計画の相談まで、経営者の意思を現場に浸透させ実行する推進役として第一線を走り続ける。さらにトップの名代として多くの外部折衝も担当、会社のスポークスマンとしての役割も。
生来の明るさと気配り、さらに自ら「本州のバイタリティ」というアクティブな行動スタイルは周囲を巻き込み、常に新たな地平へと牽引する。趣味は短歌。「せせらぎもやがて大河となることを我は信じて今日も生きなん」の一首に、企業人としてのぶれない姿勢と覚悟とがにじむ。


技術も心も常に協力会社と共に

とくに基礎には気を遣う。現場溶接ではなくあらかじめ工場で溶接したものを使うことで精度を高め、鉄筋も太いものを採用している。
「どこの現場でも、棟梁によって大きな優劣が出ないようにしています。おかげさまで口コミが広がり、ご紹介・ご依頼をいただけているのだと思います」
すでに確立している施工方法でも、現場からの声を吸い上げ、新たなニーズや志向に呼応して進化させてきた。この柔軟さもエアサイクル工法の魅力だという。

――協力会社さんとの関係をとても大事にしておられます。

技術の均一化と向上、すべての仕事を精査するために、大工さんの現場研修会議を月に2回、全ご協力会社さんが一堂に会する研修会議を年に3回くらい行っています。

住まいの工事は、自分の担当分だけやればいいのではなく<バトンタッチ>です。
基礎とか大工さんの建て方が一番の基本となりますが、ここがきちっとしていると、後から来られる協力会社さんが「気が引き締まる」「いいかげんな仕事ができない」と言ってくれるんですね。
次に入る人が前の仕事をチェックするんです。だから、みんなきちっとする。

私はいつも<扇の要>と言っているのですが、180°開く扇も閉じれば一本、筋が通っています。これが弊社のトップから設計・監理そしてご協力会社さんの姿。
工事が最後までトラブルなく進んでこそ、温度差のないパッシブなソーラーシステムの家が完成します。

それから<気持ちを伝えていく>ことですね。
施工技術力というのは心、ハートなんですよ。技術の向上や工法の理解はもちろんですが、一番大事なことは、感謝の心を持ってお仕事させていただく喜びを皆さんに伝えていくこと、同じ気持ちを持ってつながっていくこと。
だから決して<下請け>ではないんです。

――頻繁な会議は、技術・施工面と精神面の両方を共有する場として設けておられるんですね。

現場からのアイディアが出てくる場でもあります。

以前、大工さんの研修で、外壁と対で空気層をはさんでいる専用のボードを「逆に張ればもっと効果があるんじゃないか」という意見が出たんですよ。

施工マニュアルでは、このボードは通常、熱が回りやすいようデコボコにした面を外壁側に、つるりとした裏面を室内側に張ることになっています。
でも、寒いこの土地では空気層が冷やされないように、私たちは東と北の非日射面を逆に張るようにしました。

――十勝という地域に合わせたオリジナルの施工法を発見されたと。

こういったことも、私たちにとってのやりがいですね。


家づくりは生きる道。生きる目的は周囲への愛

信頼するスタッフとともに。「仕事を通じて育て合い、お客さまにも育てられて私はすごく幸せ、至福です」
家族の食生活も含めて、健康への思いは強い。「結露がなくカビが生えない家は、肺呼吸する人間にとてもいいんですね。結露で劣化する心配のない住宅は、人も建物も健康でいられるんです。人間は弱いものだから、ちょっと具合が悪くなるだけで気が充実しないんですよね」

――家づくりはお客さまとの長いおつきあいが前提となる仕事ですが、創業者として会社の今後をどのように展望されていますか。

私たちも、いずれは代替わりしなければなりません。最初に組織の継承を考え、不動産などの資産面はそのあとです。

それと、人材。
お客さまありきの会社ですから、目的意識を持ってお客さまと共にがんばろう、と考える人材がもっと増えれば…。速度が遅いところを、もっと加速していきたい。そして仲間たちの精度がより上がれば、うれしいかな。

――速度、とは何の速度でしょうか。

考え方の普及ですね。人としての考え方、<生きる目的>を普及する速度。

人の生き方は<仕事も日常も一体でなければ>と思っています。
真実はいくつも転がってはいないと思うんですよ。そして、エアサイクル工法の道は私の生きる道、生きる目的とイコールなんです。

地域に根ざしたパッシブな家、結露がなく住む人も家そのものも健康な住宅…この工法って、もしかしたら日本の宝物じゃないかと(笑)思っています。<健康住宅>は商標登録もされているんですよ。

――自分が信じる家づくりを生きる目的として、それを協力会社も含め会社を取り巻く人々に伝えていく。

生きる目的って、やっぱり<愛>だと思うんですね。
人はひとりじゃ生きていけないから、いいものはいいと認め合い、ダメなものも認めて、それをなくすためにみんなで努力して、良くする。
人も自分も大事に、そして今という<二度とない時>を大事に。そのすべてが愛だと思っています。

構築してきたものをお客さまと分かち合い、喜びを共有する。共に生きて共に成功する<共生>。それが、仕事の基本と思います。


経営力は人間力。十勝の空のように洋々と進む

人生のパートナーとして、常に一心同体で歩んできた下浦義房社長。「トップとしての彼の思いを、細部にわたって一緒に考え、実行者として私がやっていったことがよかったのでは、と思っています」
「仕事を一生懸命がんばって、帰ったらそこにオアシスが待っている。そういう心豊かな空間をお客さまに差し上げたいんです」
夕暮れ時、雪の中にあたたかな光がこぼれる。

――知らない土地に根を下ろし、異業種の会社を起こして、450を超える住宅を建てるまでに成長させました。
夫との共同経営とはいえ、女性であることのハンディキャップも含めて多くのご苦労があったと思います。どんな力が下浦さんを支えたのでしょうか

私は気も強いけど涙もろいし、落ち込む時はすごく落ち込むんですよ。布団かぶって泣くこともあります。
でも次の日は目が腫れていてもニコニコ笑って(笑)そういう<負けない力>、やっぱり最後は人間力だと思います。

経営者として考え、実行するには、あらゆることを鑑み合わせていかなければなりません。瞬時に答えを出さなければならないときもあれば、ずっと考え続けていかねばならないこともある。

そのためには、いろんな知識を見逃さない、聞き逃さない。入ってくることを真剣に、集中力を持っておぼえておく。引き出しをたくさん持つことです。

その上で<自分自身で感じる>こと。新入社員はもちろん、ご縁があってうちの会社に来られた方には誰にでも言います、「目で見るのでなく心で見て、聞くんですよ、そうすると道が開けるんです」って。

あとは、元気と健康です。
心も体も元気に、私と社長がいつも気を入れて、助け合いながら一緒に仕事をしていくことが、会社の元気になっているんじゃないかと思います。
悩みもあるし、いいことばかりじゃありません、でも、愚痴らないこと。愚痴ると人は弱くなる。それに私はある意味スポークスマンですから、もし私が愚痴っぽい人間だったらこの会社は魅力がないですもの(笑)やっぱり。

だから、辛いことは全部袋の中に入れてギュッと閉めて。いつも十勝の空みたいに明るくね。
十勝の空は、洋々としていますよ。


取材日:2013年2月8日
聞き手:二階幸恵
撮影:中谷正人
ワイダ株式会社
株式会社下浦ハウス
北海道幕別町
社員数 18名
業務内容/エアサイクル工法による木造新築住宅のプラン・設計・施工

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