あおやま・よしつぐ(青山建築計画事務所/代表)
1953年富山市生まれ。関東学院大学建築科卒業後、渡辺武信設計室を経て地元富山に戻り、スペースシステム建築事務所、ビーツーデザインアソシエイツに勤務。1988年自身の事務所を設立して、新庄の家(とやまの木で家を作る会)、山間のコートハウス(2009年中部建築賞)など住宅を中心として設計活動を展開中。
なかたに・まさと (建築ジャーナリスト 千葉大学客員教授)
1948年生まれ。「新建築」編集長を経てフリーの建築ジャーナリスト
僕は窓が好きなんですよ、窓っていろんな要素があるじゃないですか。古い建物も新しい建物も、それぞれふさわしい形ができていると、本当に素敵だなあと思います。
建物を見るときにも、窓のデザインはかなり大きな要素だと思っています。
僕の場合はまず、建主さんの要望と敷地をどう理解するかということから始まります。
細かく言えば、この地域の歴史や文化をどのように解釈するかということもありますし、現代の技術や社会状況に対して自分はどういうスタンスを持っているかなど、さまざまなものや状況を条件として、とにかくずっと考えるんです。
答えは一週間くらいで見つかることもあるし、なかなか見つからなくて2ヶ月くらい悶々とすることもあるんですね。
求められる形はどういうものが一番いいのだろうと考え続けていて、あるとき突然、それが形になる。そんな瞬間ってあるんですよ。
それを手で確認し、具体化するためにスケッチを描くという感じです。
頭で考えたものを形にする時には、自分の好みのプロポーションがあります。そこにプランやディテールまで、すべてのものを収斂させていくのが僕のスケッチかもしれません。
だから、手を動かすというのは自分の中でプロポーションを確認していくということでもあります。スケッチの時に線をいろいろ描いて、ここはいけるぞという感じが見つかった時は本当にうれしいですね(笑)。
これしかないって感じでやると、だいたいそれがお客さんにも伝わるようで、それでオーケーになることがほとんどですね。
最近は富山にも新しい家や洒落た家がたくさんできてるんですが、どの家を見ても日中は窓にカーテンを引いている。非常にもったいないし寂しいし、という感じです。僕なら日中はカーテンを開けて外の自然を取り込みたい。窓の外は時間によっても、四季によっても、風景は変化しますよね。それを感じていたいんです。
僕は渡辺武信さんという建築家の事務所で6年ほど修行しました。
渡辺さんは胎内的な空間、守られている空間を作ることを非常に大切にする人で、プランを考える時もそういうゾーニングをするんですね。
修行したからということではなく、僕自身もそういう体質なので、家というのは「守られている」というのが大きな要素だと考えています。どうやって「守られた空間」をつくるのかを考えるわけです。
窓についても、カーテンを引かなくても「守られた空間」として感じられるような窓をどうデザインし、かつ「外とつながること」がどのようにできるか。設計をするときにはこれを大きな要素として考えますね。
だいたい建築って矛盾する要素を統合するものですよね(笑)。
そのためにいろいろ手法があるんですが、僕の場合は「守られたい」というのは「外から見られたくない」ということなんです。でも中から見るときには外とつながりたい。
設計は敷地という限られた領域の中で矛盾する要素を統合しなければならないので、結局ひとつの壁や窓でそれを達成することは不可能です。
はい。それを可能とするためには、やはり外から見えないように、「深み」を窓廻りに作るしかないかなと思っています。
とくに動線的にも外と内をつなぐ開口部の場合には、何か中間地帯を設けないと難しいですね。
あるいは開口部。
言われて気が付きましたが(笑)、確かに違いますね。
僕が開口部という場合には、奥行き感が必要なんです。
開口部は外と空気がつながっていて、それが大切なんですが、直接ではなく、その中間に距離感や空間の変化というような幾つかのフィルターを設けたい。そのフィルターのひとつが窓のこともありますが、開口部ならば奥行き感なんです。
入り口からは奥が見えないけれど、アプローチしていくと奥の扉がちょっと見えるとか、思わぬところにスリットがあって、そこから庭や風景が見えるというような感じです。そんな奥行き感を持つことによって、守られている感じが作れると思うんです。
一般的に求められる、守られた空間という要望をある程度満たしながら、外、言い換えれば「公共空間」ですよね、そことつながる部分をうまく作ることで、自分も多少社会に参加したかな、という意識を持てることも大切ですね。
プライバシーを大切にしたいという要望にそのまま応えると閉鎖的な家になりがちですが、外とつながるように建物をデザインできると、周辺の家々を拒絶しているようには見えなくなるんですね。
そうすると本当に喜ばれます。そこが技なんですよ(笑)。
開口部に対して、窓は「開口にガラスが入っているもの」という言い方もありますが、僕にとってはまったく違う感じがします。
ガラスの入っていない開口部とガラスの入っている窓。窓にも透明なガラスもあれば不透明なガラスもあり、しかも形もいろいろです。
それらを組み合わせながら、守られた空間かつ中に入ると開放的な、外と触れ合えるような空間を作るというオーソドックスな方法が自分は好きだし、そういう家造りをしたいと思っています。
確かに、場所によりますね。
窓越しに外を見たい、あるいは窓で守られたいというように、視覚的な意味で積極的に窓を意識する場合もありますし、風が吹き抜けたり光が入ってくるといった機能的なことで考えると、「一見して開くことが分かる」デザインも大事です。
場合によっては窓に格子を付けたり、いろんなデザインもします。でも、もっと外と直接的につながりたいという気持ちが強い場合は、窓枠がなるべく目立たないように、シンプルにデザインしますね。
富山で仕事をしていると「地域の建築とは何か」と考えます。富山の気候、雪が降るとか湿度が高いとか、そういうことを否応なく受け入れることになりますね。
それに日本海側だから、東京と比べて冬の日照時間がすごく少ないんですよ。東京の冬はいつも快晴でからからですけど、富山は日照が少なく、データ的には東京の30%くらいしかない。
このような地域の気候風土を理解した上で建築を作る。作るだけではなく気候風土をより生かすような建築提案が、あるいは建築手法があれば、その地方、その場所だからできる合理的な家になりますね。
富山では、普通に考えると冬は暖房効率を上げて快適にしなければならないので、理屈で考えると窓は小さくしなくちゃいけない。
でも、それじゃあ気持ちよくないですよね。で、現代の技術を使いながら大きな窓を作っても良いと僕は思っています。
本当はダイレクトゲインが大好きで是非やりたいと思っているんですが、そのためには大きなガラス窓が必要となります。
でも、富山では高い断熱性能も求められる。そうなるとガラスだけに責任を押し付けるのではなく、ブラインドを併用したり家自体を超高気密超高断熱にしなければならないなど、夏と冬の対策をきちんとすることが前提となります。こうなると、経済的にも簡単にはいかないようですね。
僕は100%Low-Eガラスを使っています。さらに夏場対策として外付けブラインドを併用する場合も出てきました。
エコポイントのおかげか、このような仕様が最近一気に増えて、富山でも新築住宅の窓の半分がLow-Eガラスになりました。住む環境をよくするために、少しずつですが進んでいる実感はありますね。
まだまだ準備しなければならないことはありますが、地方の特色をうまく利用しながら対処することで、その地方の特徴が今までよりもっと出てくる時代になるんじゃないかな。それはとても良いことだと思います。
最近やっと、若手で頑張る人たちが富山にも出てきたので、そんな仲間とつくった「AnT」という組織で情報の発信を始めました。
年に3回くらい、一般向けにセミナーをやったり、HPを作ってブログで考えを発信しています。活動的な人たちが帰ってきたのでうれしいですね。富山はこれからです(笑)。