Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声

脱・ゼネコン依存し省エネで進化する 河村硝子株式会社 代表取締役 木村 俊一さん

木村俊一(きむら・しゅんいち)
1970年生まれ。大学卒業後、大手商社の物流・鉄鋼・IT部門に勤務。2005年河村硝子入社、創業75年を迎えた2013年に代表取締役に就任。

初代から続く大手ゼネコンとの太いパイプをベースに、高層オフィスビルのほか熱田神宮神楽殿、ナゴヤドーム、中部国際空港まで著名な建築物を施工してきた東海地域有数のガラス工事店三代目トップとして、変化著しい業界での生き残りを模索する。12年間の商社勤務で培った広い視野とデジタル関連の知識・スキルを駆使し、自社と業界の大改革を進行中。
天性の明るさとその熱いハートは誰をも魅了し、常に厚い信を持って迎えられる。2012年日本板硝子スペーシア販売東海地区第1位・全国第7位。東海板硝子工事協同組合理事長・全国板硝子工事協同組合連合会副会長・家庭の省エネエキスパート認定者


ガラスは今やサッシの受け身。生き残るため変わらなければ

使い込まれた直角定規が掛かる応接室でお話をうかがった
現在は職人を束ねて工事を監督する立場だが、社内には東海地域には2名しかいない『建設マスター』(国土交通省が実施する優秀施工者国土交通大臣顕彰受賞者)のうち1名が在籍。1級ガラス施工技能士の資格を持つスタッフも複数おり、技術力は他にひけを取らない。「現場で何があっても緊急の対応ができる、それが強みです」
戦前創業から積み重ねられた75年の歴史を背負う三代目社長は、ガラスとは無縁の職場からこの世界に飛び込んだ。入社後は職業訓練校で学び、卒業時に挑戦したガラス施工技能士試験は「筆記はOKでしたが、実技はガラスを割って2秒で落ちました」と笑った

──百貨店から市庁舎、空港、大学キャンパスと大規模な新築建物のガラス工事を一貫して請け負ってこられた御社ですが、過去と現在とで変化を感じられることは。

大手ゼネコンの新築工事にともなうガラス工事が中心ですが、昔は現場所長の権限が大きく、さまざまな事柄をすべて現場で解決できることで商売がうまくいっていました。
今は同じゼネコンでも、“現場”と “支店”というそれぞれ立場の違う組織が関わるようになり、商売のやり方が難しくなっています。
世の中の風潮も建設業界に厳しくなった結果、以前はほとんどチェックされなかった関連書類にもかなり細かな確認が入るようになり、作成に時間をかけざるをえなくなりました。

もうひとつは、サッシメーカーが“窓メーカー”になり、ガラスとサッシの棲み分けが崩れたことです。サッシ屋さんが描いた図面に指定されたガラスを用意してはめ込むのが、今のガラス工事業の仕事になってしまっている。いろんな意味で“受け身”なんですね。

しかし、これからは「ゼネコンさんに仕事を取ってもらい、下請けとして工事をする」という今までのやり方を変えないと生き残れません。
夢を見ることができなければ若い人は入ってこず、業界はすたれていく。それでは困るんです。ガラス業界全体を盛り上げていかなければ。

──3年前に三代目代表取締役となられ、さまざまな改革に着手されています。

2015年に東海板硝子工事協同組合の理事長に就任し、今月28日には最初の技術勉強会を開催します。専門工事会社としての施工技術と知識、提案・説明力を上げて、信頼感を高めるのが目的です。

お施主さんから技術的な問合せがくると、これまではまずメーカーに連絡し、東京や大阪の担当者が来るまで待たなければなりませんでした。それを、自分たちがその場で答えられるようにする。“技術や知識の内製化”ですね。

最近はガラス卸会社がそのまま工事会社になるような現場が増え、仕入れ先と競合するようなおかしな状況にもなりつつあります。
そんな中で、受け身でいてはダメ。担当者が表に立って説明できるレベルでないと、専門工事会社に未来はありません。
新商品については卸会社の分野ですが、施工技術や施工後のアフターフォローは工事会社の持ち分だと思います。そこをきっちりしていきたいですね。

──技術力と知識の向上こそがゼネコン依存体質から脱却するカナメである、と。

技術の内製化は、自社内でも進めています。
主に改修工事ですが、ガラス板厚・耐風圧の検討・資料作成など、従来はメーカーに依頼していた業務をできるだけ社内でやる体制にしています。担当職として、ガラスメーカー出身の技術スタッフも新たに迎えました。
高い技術力で仕事を自己完結しお客さまに出すことで、他社との差別化を図るのが狙いです。

クライアントに対して「僕らはこんなことができます、どうでしょう?」という姿勢でやっていきたい。サッシメーカーに対抗するのではなく“自分たちに何ができるか”という考えにもっていかなければ、と思うんですよ。


省エネを提案する力を新たな武器に

名古屋市内の印刷会社社屋の省エネ改修事業ではガラス工事を担当。技術面からコストまで総合的に検討し、既存サッシにエコガラスを入れ替える工事を提案・施工した
かつてガラスメーカーの技術サービス部に勤務していた神(じん)茂治さんは、省エネ関連新規事業構想のキーパーソンとして白羽の矢を立てられ、5年前に中途入社。懐刀として木村さんが厚い信頼を寄せる、河村硝子の技術部門リーダーだ

──省エネルギーをキーワードとする提案・工事への取組も明言しておられます。

現在の売上は新築9割・改修1割。うち省エネ関連が2割弱くらいです。

「いずれはゼネコンの下請けではなく、省エネのスペシャリストとしてやっていこう」と考えたのは5年ほど前、知人の家の断熱改修を手がけたのがきっかけでした。
真空ガラスの力を実感し、それ以来“効果を体感できる高い性能を持っているもの”を基準に、エコガラスの採用に取り組んでいます。

現場所長とのやり取りが濃密だった昔ながらのガラス工事はもうできなくなりました。今や設計と直接話しているのはサッシ屋さんで、突拍子もないことはそうそうできません。
でも、なんとかしてそこに入り込みたい。技術力に裏打ちされた省エネ提案なら、それができるのです。

──開口部の断熱による省エネという面では、サッシ以上にガラスの性能が重要だからですね。

社内では私を含む2名が、省エネルギーセンターの『家庭の省エネエキスパート』試験を受けて合格しています。今後は省エネをキーワードに、設計との事前打合せでガラスを提案していきたいです。

ただ、実際には省エネは提案してもなかなか通りません。電気料金が下がるなど効果が見えやすい空調の取替と違い、ガラスの有利性は金額に出づらい。そこが悩みです。
だから提案時は空調交換や遮熱塗料採用も含めた“合わせ技”で考えます。「空調取替のみの場合よりもトータルでコストダウンできますよ」と言い切れればいいんですけどね(笑)


IT化で業務・社内・社員を明るく変える

パソコンのモニターを前に熱く語る。自ら作成した工事組合向けのプレゼンテーションから社内用原価管理増減システムまで、膨大な情報を集積しフル活用する姿勢
工場に面した入口からふたつの事務室へと、スキップフロアになっている社屋内部。開口部は開け放たれている。木村さんいわく「仕入れ先、取引先も含めて、近くに来たらいつでも誰でも気軽に寄れる会社にしたいんです。そこでの会話から情報収集し、アイディアが生まれる。先を読むための材料になりますから。資料や書類も全部見てもらってかまわない、簡単に真似される程度のものなら、最初からダメなんですよ」

──社内のIT化を、自ら先頭に立って進められていますね。

工事物件ごとの原価管理も含めた、オリジナルの施工管理システムの開発に取り組んでいます。

今開発しているのは、各社員が担当分の発注書をそれぞれ入力すれば発注金額や施工費まで出てくるシステム。工事損益から資金繰りまで自動化され、建築生産という仕事全体が見渡せるものです。

仕上げ業ではとかく計算書の提出を急がされるので、自動化することで少しでも楽になるしくみを作りたいと思ったのがきっかけです。自社で試してうまく完成したら事業化し、同じ悩みを持つ同業・異業種に向けて販売することも考えています。

──本業のガラス工事業とは少し離れているようにも見えますが…

会社を守るための変化ですね。

代表取締役になったとき、社員ひとりひとりに「社長の仕事ってなんだと思う?」と聞いて回ったんです。出てきたのは「会社を守ること」という言葉でした。
社員にも、このシステムを通じて会社の状況を理解してほしいと考えています。自分が給料をどう受け取っているのか、もうかればたくさんもらえるし、ダメなら少なくなるんだと。全員が決算書を読めるようにするのが目標です。

多くの中小・零細企業では「売上に関してはオーナーが把握していればいい」とする風潮がありますよね。でも僕は、家族の幸せのために社員が一丸となって楽しく仕事してみんながもうかる、そんな“楽しい会社”にしたいんです。

有給休暇も、うちではホワイトボードに名前を書いた時点で取れます。日数は決まっていません。

──それで大丈夫なんですか?

その仕事を代わりにやれる人間がいるかどうか、だけですね。
だって仕事より大事なことがあるでしょう? 僕は子どもの運動会は全部行っていますよ(笑)
こういう頭・考えを持っていないとどんどん暗く狭くなってしまう。会社は明るくないと。
今の建築業界では、ガラス工事会社はやり方を変えなければ生き残れないでしょう。昨日までやっていたことだけが正しいと思っていたら、その時点で進化はない。

これで失敗したら、僕がここに来た意味はないんです。


めざすのは“楽しいサービス会社”

おおらかな笑顔とオープンマインドが多くの心をひきつける。その一方で「仕事の現場で仁義的におかしいところは言っていきたい。大きな会社の名前を出して無理を言う人には我慢できません」硬派な一面ものぞかせてくれた

──変化しながらこれから先、どのように進んでいかれるのでしょう。

このやり方が正しかったかどうかは、先にならないとわかりません。でも少なくとも今は「ゼネコンからの仕事がなくなったらどうしよう」という不安にとらわれることなく、その先を見据えて動けています。

今後は協力会社同士でコラボレーションしていきたいですね。サッシや外壁など異業種の人たちと複合技でやっていければいい。

そういう面でも、会社として省エネ・環境に取り組んでよかったと思っています。ガラス工事だけにこだわらない“サービス会社”になっていこう、と。

──ガラス専門工事会社から新たな姿へと進化する?

建設業の市場は、これからは改修の時代です。お客さまにきちんと話をして快適さを提供するには、ガラス工事の枠に縛られない方がいい。サービス業と思えばいろんなことができる…そういう気持ちですね。

ゼネコンに依存せず、独自の技術力を持って安心安全、環境、エコを提案・提供できるサービス会社になっていきたいんです。楽しくね(笑)


取材日:2016年6月2日
取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人

河村硝子株式会社
河村硝子株式会社
愛知県名古屋市
社員数 8名
事業内容/ビル建築向け板硝子工事・省エネガラスの提案及び工事

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