鞭馬重隆(むちま・しげたか)
1947年生まれ。中学卒業後、大工である父に弟子入りし木造建築を学ぶ。1966年に独立、鞭馬工務店を立ち上げ代表者となる。現在に至るまで、大工の親方として自ら手を動かしつつ職人を束ね、阿蘇周辺地域をフィールドに設計から施工まで一貫した木造建築に取り組む。個人住宅のほか、過去にはくまもとアートポリス参加の町営住宅なども手がけた。
ログハウスの世界ではつとに知られた存在であり、数々のコンテストで受賞歴を誇る。2015年ログハウスオブザイヤーでは読者賞を受賞。
会社所在地である南小国町の特産『小国杉』の丸太を大胆に使ったログハウスは、在来構法と組み合わせた独自の建設手法が特徴。木造建築に関する深い知識と卓越した技術は、その柔らかな物腰と相まって多くの尊敬を集めている。一級建築施工管理技士。
1962年頃から、大工として木造の家をつくってきました。純和風の家からログハウスまで、今までに60棟くらいつくっているでしょうね。
職人の仕事をしよう、職人がつくる家をつくろう、ということです。
父について仕事を始めた頃は電気鉋もドリルもなくて、すべて手作業だったんですよ。そういう大工さんの技術を生かした、職人技のある仕事を続けようと思っています。
ログへのとっかかりは30年ほど前、高度経済成長の最後の頃です。それまでやってきた〈大工さんのつくる日本の家〉の注文が減ってきました。ハウスメーカーの住宅はどんどん建ったけれど、大工さんの仕事はお呼びではないという感じで。
生き延びるために何があるだろう、そんなときにログのことが耳に入ったんです。目新しかったですね。
同じ頃、木の値打ちが下がって売れなくなり、山の手入れのために切り倒した木をそのまま放置して腐らせるしかないような状況もありました。
せっかくの木材を捨てたくない、ログハウスなら間伐材でもつくれるのではないかと始めて、ここ10年でうちの中心になりました。
ログハウスが洋風とは思っていないんですよ。大工としては普通の木造建築の範疇、木材を使った昔からの建築の一部と考えています。
許される限り窓を広く自由に取るのは、家をつくる際の大きな目標のひとつです。
来てくださるお客さまは、いろんなログハウスメーカーを下見していますが、うちのログハウスは「明るいね、窓がいっぱいあるね」とおっしゃいますね。
伝統的な日本家屋は柱以外全部障子ですから、日本人はやはり大きな開口がたくさんあるのがいいと思うのではないでしょうか。
日本は雨が多くて四季があります。だから、いかに開口して自然とともに暮らすかは、日本家屋の昔からの課題であり一番の命題。
窓を通して家の中に風を取り入れ、湿気は外に逃がす、〈風を出入りさせる〉という考えが根底にありますね。気候のいいときは窓を全開して外と一体になり、雨風には軒や庇でぴしっと対策する。日本の家にとって大事な、根本的な原則です。
ただ、ログハウスそのものは開口をつくりにくい建築なんですよ。
開口すれば強度は当然下がります。だとすれば、大きな木材を丸太で使って、強くて大きな空間を得るのが窓を多くする早道だろうと。
使用に耐えるだけの長くて太い材料が売っていないので(笑)
丸太はその美しさを大事にするために表面を磨いています。磨き丸太と通常の角材ログ両方を使うのがうちの特徴ですね。
このガラスを知ったときからです。以前は複層ガラスでしたが、もうひとつ上を標準にしてログハウスの家をつくろうと。
直射日光が当たっても室内への影響が少ないと聞き、考え方としていいなと思ったんですよ。
気候の良いときは全開して外とつながり、夏のじんじんする暑さは防ぐことができる、そんな効果のあるガラス窓は魅力だと思います。
断熱もそう。ログハウスは木の厚みによる高い断熱効果があります。お施主さまにはそう言ってお勧めするし、断熱は気を配る部分です。
しかも大きな窓を取るのが私たちの家づくりの前提ですから、Low-Eは普通のガラスよりも当然いいですね。
もうひとつ良いのが、外からの透明性が低くて視線を遮るところ。
お施主さんに許していただける限り、窓ガラスは全部透明にしたいんです。内から外が見えることが大きな前提のひとつ。
というのも、ある意味で家は住んでいる人が王様ですから、俗世間である外から中を見てやろうと思っても見ることはできない、そこが大切なんです。
そういう意味でも、Low-Eガラスは面白いですね。
最近は、ログハウスオブザイヤーの受賞などで雑誌に載せてもらったので、そこから調べたお客さまからお電話をいただきます。
でも、その前はできあがった家の見学会をやるくらい。しかも周囲の方が「できたら見せて」とおっしゃるので、どうぞという感じで、営利目的ではありません。案内板などは今も全部手作りしています。
それが積み重なって、仕事につながっていったと思います。
いわゆる団塊の世代の方ですね。社宅やアパートで暮らしてきた方が、会社を退く時に持ち家をと。ご連絡をいただいて私たちの家を見ていただくと、こういうログハウスでいいとおっしゃいます。
打合せでは、こちらからいろいろ問いかけをします。窓のことや屋根のこととか。業者に頼めばできると思っておられる方は驚くかもしれません。
でも、家をつくるにはある程度の〈覚悟〉がいると思うんですよ。窓について問われたらあちこちの窓を見て歩き、屋根なら屋根を見て歩く、そんなお施主さんも実際におられますし。
そうやって改めて問題意識を掘り起こしていく、家づくりとはそういうものだろうと思います。
最近は若いカップルの方が来て「3年か5年後にはログハウスの家をつくりたい」とおっしゃられたりします。うれしいですね。若い方に興味を持っていただける、そんな家をつくり続けたいです。
今、世代交代をはかろうとしているところです。請負前から引き渡しのプロセスまで幅広く。
もちろん技術の継承もあります。宮大工の修行をしていた人がうちに入ってきて、木造やログハウスについて勉強していますよ。木は自然のものでひとつひとつ形も違う。それを全部おさめていくのは、やはり勉強です。
ログハウスで、ホテルのような大きいものをつくれたらいいと思うんです。ログハウスは横につないでどんどん延長できるんですね。ログでできた、木のテクスチャーがきれいなホテルの広間に、3メートル角のはめ殺しLow-Eガラス窓がずーっと並ぶ。そんな光景はいいですよね(笑)