大供真一郎(おおとも・しんいちろう)
1963年生まれ。大学では電気工学を専攻、卒業後は大手電気機器メーカーで照明技術の仕事に携わる。2005年、明治時代から関西板ガラス流通の中枢を担ってきた最古参の特約店・卸商であるワイダ(株)4代目社長に就任。バブル崩壊・日米構造協議・ガラス業界の流通改革など未曾有の激動期を乗り越え、2006年には機能ガラスによる生活環境向上の提案を旨とする「リグラス部門」を設置。従来の卸売部門・化成品部門に加え、エンドユーザーへの視点も備えた新たなビジネスの可能性に挑戦し続けている。
照明技術者時代には、横浜のマリンタワーのライトアップをはじめ橋梁・野球場・歴史的建造物・美術館の展示まで数多くの照明設計を担当、照明学会での研究報告も行う。培われたそのデザイン感覚で「豊かな建物空間を生み出す魅力ある素材」としての新しいガラス像をも追求する。
窓リフォームのご相談を受けることは「お客さまの不安感を取り除いていくこと」だと思っています。
貴重なお金を使う、大きな買い物です。そのときお客さまが私たちに望むのは「何が一番ベストな選択なのかを専門家の立場でアドバイスすること」だと思うんです。
勉強されているお客さまも多いですが、それが本当に正しいかどうかの確認もしたいだろうし、信頼できそうだと思える人間から話が聞ければお金も出しやすい。そこがポイントではないでしょうか。
商品説明は全然しません(笑)
お客さまの困りごと、たとえば結露なら「換気扇は今つけておられますか」とか「結露防止には湿度も大事なんですよね」といった感じで話をしていく。いわゆるお医者さんの問診です、「どこが悪いんですか」と。
いきなり商品を出さず、どんな具合ですかと話しながら最後に「あなたにはこの薬が一番いいですよ」と提案する。知っている情報をすべてお伝えした上で最後にお客さまに選んでいただくんですね。
以前、お得意先であるリフォーム会社さんから、チラシを見たお客さまへの対応依頼があり、いつもどおりに説明しました。ところが途中で「もう帰ってくれないか」と言われたんですよ。
そのチラシには「内窓1箇所○○円」というような表記だけがされていたようなのです。お客さまからは、実際に説明するときには高いものを売りつけようというのか、と怒られてね。
でも、そこでひるむわけにはいきませんでした。
「そうではありません。これだけ結露がある状態を見せてもらったら、エコガラスについて言わずにいることはプロとしてできないのです。こんな商品もあるとお伝えした上で選んでいただきたい、後で知って後悔させるわけにはいきません」と、バシッと言ったんですよ。
ちょっと間があったあとに、ご夫婦でボソボソっと「どうする、2箇所だけにするか」なんて話を始められました。
きちんと話すことで、別の財布が開くというか。
「本当に必要なものは何か、そのためにはいくらかかり、費用はどう段取りするか」と、お客さまの意識の方向が変わっていくのがわかりました。
言ってよかった、と思いましたね。
メーカーさんのカタログには、商品のことが載っています。
でもお客さまが知りたいのは、商品がどうなっているかではなく「それをつけたらどうなるのかな」なんですよね。
お客さまがほしいのは「商品」ではなく「つけたあとの空間・快適な環境」。結露がなくなった状態がほしいんですよ。
評価されるのはいい商品をつけたことではなく、快適になったこと、つけて良くなったこと。
そうなると、お客さまにとって商品は、もしかしたら何でもいいのかもしれません(笑)
もちろん、メーカーさんに作ってもらった商品があってこそ我々は商売ができます。だからこそ良い商品をどんどん出していただきたい、という思いがあるんです。
また薬の例えになりますが、コンビニで売っている第二・第三類の薬と、薬剤師さんしか売ることができない第一類の薬があるでしょう? メーカーさんにはこの「第一類」にあたる商品を作ってもらいたいんですね。
薬剤師さんがフェイスツーフェイスで話をしてその人の症状に合った薬を渡すように、ガラス屋さんのアドバイスがあった上で売ることができる良い商品があれば、我々販売店の存在価値が上がるわけですから。
それこそが、リグラスの仕事かもしれません。
ガラスの持っている価値や魅力を提案しながら、快適な暮らしや豊かさの幅を広げていくような、そんな仕事もするべきなんだろうと思っています。
ガラスという素材そのもののよさ、価値をもっと認知してもらい、高めていかなければ。
そのためには機能面以外でも、インテリアや内装面、生活により密着したところでの提案もできるのではないでしょうか。
例えば高透過の鏡なんか面白いと思いますし、模様のついたガラスを壁材として装飾的に使うとか。リフォーム時にワンポイントとして使うことによって空間に面白みが出ることはありますから。ニッチのところにカラーガラスをあしらうとかも。
実際のリフォーム工事でやったこともありますよ。
東京でも大阪でも、すばらしい加工技術や施工技術を持ったガラス屋さんや職人さんはいらっしゃいますから。
メーカーさんとしては、あまり量が出ないという話になるかもしれないけど(笑)
でも、そういうところからだと思うんですよ。まだまだ多くの方々がガラスのことを知らないと思うんですね。
私たちが長く扱ってきた「ガラス」というものを、より大切にしながら売っていきたいんです。