Builder’s Voice 工務店・ガラス店の声

「心くずぐる建築」めざして 豊かな木の空間をつくる続ける(後編)

森 望(もり・のぞむ)
1955 年生まれ。(株) 美登利屋工務店 代表取締役。一級建築士。
建築設計事務所を経て、1987 年父・將氏の後継として三代目代表に就任。その後、個人経営から法人への移行、住宅建設への主力事業のシフトなど幾つもの経営改革を断行。設計から施工まで、地域や環境に配慮したトータルな家づくりに取り組む。 その一方で日本の伝統的な建築技術や大工の職人技を次世代に伝えるべく、NPO 法人信州伝統的建造物保存技術研究会理事・広報委員長として講演にセミナーに日々駆け回る。


技術と環境と大前提。「+αの発信」こそが工務店に求められている

赤い木サッシの断熱性能は「実はほどほど。これを数値化していくことが、今の課題なんですよ(森さん)」
木肌と土の風合いが映えるモデルハウス2階。正面奥には、大工の心意気を伝える大鋸が展示されていた。

今までは、予算内で一番長持ちさせて喜ばれる技術を発揮し、それをなにげなくやる「なんでもできる工務店」がすばらしいと思ってきました。
でも最近のお客さまにはわかりにくいようで、一層の特化が必要な気がしています。

――特色を出すことですね。環境住宅ならお任せ、というような。

いや、環境住宅や木の家はもう標準ですよ。
必要なのは「それ+何か」。このためにうちは建築やってます、くらいの発信をしないと伝わらないみたいです。

――例えば「美登利屋さんといったらエコガラスと木サッシ!」とか?

それくらいの必要性を感じます。木サッシは製造時のエネルギーコストを考え「アルミでないもの」として採用しているんですけどね。

――意匠性より環境的な視点を優先されたんですか。

オリジナリティを表現する面ももちろんありますよ(笑)

神社仏閣で培った伝統建築の技術や、先人の知恵を受け継ぐ「本当の木の家づくり」こそがうちの特色。
これを発信するために、美登利屋オリジナルの家づくりの本を販売ルートに乗せる計画もたてています。


心通う住まい手とともに家をつくり、自らも成長する楽しさ


玄関の飾り棚にはモデルハウスの模型と、「輪違い紋」を型どった陶板。

――営業面ではどのような方法を。

現在はWebと、モデルハウスの見学会です。考え方が共鳴できる人に来てもらえるよう、見学会は予約制にしてハードルを上げています。

――ただ人を集めるのでなく、ある種の「ふるい」にかける…?

その通り。特定のお客さまを狙える面で工務店はちょっと面白い商売です。住む人が成長できる家づくりを自然体でやらせてもらえれば一番ですよね。

それには、考え方や希望が合わない方には断る勇気が必要です。 住まい手と工務店が一緒になって、世界でひとつのものをつくり上げるのが家づくり。契約するだけでポンと建ってしまうような「ものを買う」感覚とは違います。

親身になって豊かな空間をつくる仕事は、ものづくりで貢献しながら住まい手の豊かさでこちらも成長できる、そんな楽しさがあるんですね。

――商売として儲かればいいという発想はお持ちではない。

そう。建築で世の中を変えよう、良くしようと思ってるから(笑)例えばエコガラスを使うのも心を豊かにする空間をつくるためです。

人間ひとりでは何もできない、とはっきりわかるのも建築。一緒にものをつくっていける人との輪が広がり重なっていけば、その先にユートピアだってあるんじゃないかな(笑)
だから、美登利屋の紋も「輪違い紋」にしているんですよ。


次世代に伝える「地域の文化」と「ものづくりの心意気」

壁は柿渋和紙張り、床柱には皮付きの杉丸太を使った本格的な和室。次世代に伝えたい大切な文化がここにも。

――やりがいを感じるのはどんな時ですか。

最近は「建築の技能と家づくりの楽しさ」を次世代に教えること。技能は一日二日で身につかないし、何より大工さんや技術屋さんがいないと形にならないので、永遠のテーマだと思います。

信州の伝統建築や景観を保全し風土に根ざした材料や技術を後世に伝えるNPOにも参画しています。古いものをただ残すのではなく、現代人が使える形で再生するんです。

――例えば古民家に最新のエコガラスを取り入れるような?

大事だと思いますよ。昔の意匠を壊さないよう普段は引き込みにするとか、いろんな工夫もできるんじゃないかな。

100年前につくられたものを守っていかないと、その背景にある技術や材料、人々の考えや生活、「地域の文化」がなくなってしまう。これからはそういったものを守り、検証していく時代だと思うんです。

それに、人間がつくったものは必ず人の心に響くはずですよ。「ものづくりの心意気」も、若い人には伝えたいよね。

――それは「工業製品ではないもの」という意味ですね。

そうです。知らず知らずに愛着がわくような、「心をくすぐる」って言うのかな(笑)そういう建築を、これからもやっていきたいですね。


取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人
株式会社加藤硝子店
株式会社美登利屋工務店長野県長野市
社員数 7名
木造住宅の設計・施工、社寺造営

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