-山梨県・K邸-
立地 | 山梨県笛吹市 |
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住宅形態 | 木造平屋建(1980年竣工) |
リフォーム工期 | 2009年・2010年・2011年(各1日間) |
窓リフォームに 使用した主なガラス |
真空ガラス |
利用した補助金等 | 住宅エコポイント/固定資産税減免 |
四方を富士山・南アルプス・八ヶ岳・秩父山塊に囲まれる甲府盆地に、K邸を訪ねました。
盆地と聞いてイメージするのはやはり“夏暑くて冬寒い”。
「夏の最高気温は38度。冬は北西の風が吹いてマイナス4℃まで下がります」笑顔で迎えてくれたKさんに土地の気候風土を問うと、こんな答えが返ってきました。
K邸の竣工は1980年です。住宅供給公社が建てた3LDKの平屋は東西に長く、デッキを隔てて南面に庭がついています。
水まわりを除くほぼすべての窓がエコガラスに交換されました。
75㎡の室内は中央にリビング、左右に寝室と夫の部屋があり、各室とも掃き出し窓からデッキに出られます。リビングの北側にはダイニングキッチン、その両側に水まわりとご子息の部屋が並んでいます。
改修前の室内環境を思い出していただきました。
冬の日中は、南の掃き出し窓から差し込む日差しで部屋は暖まるものの、日没とともにすっと冷え、すぐエアコンの出番になったといいます。
東と南に窓がある寝室はベッドに入る1時間前からエアコンを回し、就寝時はオイルヒーターに切り替えて朝までつけっぱなしでした。
夏は夏で、もと和室だった奥の部屋に強い西日が長時間入り、デッキ側の掃き出しからはどの部屋にも「熱い空気が入ってくるのを感じていました」
やはり厳しかった寒さと暑さ。さらにもうひとつ大きかったのが、愛犬の存在です。
クーちゃんは13歳のラブラドールレトリーバー。長い年月をKさんファミリーとともに暮らしてきたベテラン選手にとって快適な室温は「夏は24℃、冬は18℃から25℃くらいですね(笑)」
エアコンの設定温度も、クーちゃんに負担がかからないよう注意深く保つのが必須だったのでした。
窓のエコ改修に踏み切ったのは2009年です。
結露と寒さは長年の悩みでした。たまたま友人宅でエコガラス窓の性能を知ったKさんは、情報を集めるうちに地域のローカル誌に掲載されていた(株)クリアのエコリフォーム広告を見かけ、早速電話したのです。
クリアはお隣の甲府市にある、窓とサッシの断熱&防犯リフォーム専門店。店長・林 則子さんの説明を聞いて「すとんと落ちました」とKさんは納得、工事依頼を決心しました。
当初よりKさんは“段階的な改修”を計画していたといいます。
初年の工事対象は寝室の腰窓と掃き出し窓、そしてリビングの掃き出し窓のみ。翌2010年はダイニングキッチンと洗面、11年に西の部屋2箇所と、3年という月日をかけて効果を確かめながら堅実なリフォームを実践しました。
「家に不満があったら、予算を優先して少しずつ変えていけばいいと思うのです。共働きなら寝室やリビングなど、一番居心地をよくしたいところからまず変えるのがおすすめですね」
選ばれたのは、真空ガラスです。
クリアの林さんは「結露が最大の悩みとお聞きしたことと、掃き出し窓が多かったので開け閉めの手間、予算、そしてサッシの変形がなかったことで、ガラスのみを真空ガラスに交換する方法を提案しました」と振り返ります。
いずれの年も工期は1日、しかも午前中のみでスピーディに行われました。
「そのぶん、採寸は完璧を期しました」と林さんはにっこり。工事当日、職人さんは既存のガラスを取り外すや“完璧な寸法の”エコガラスにさっと入れ替え、工事完了! の状況だったのでしょう。
住みながらのエコリフォームで、短工期はひとつのポイントです。
加えて3回とも冬場の工事だったK邸では、外の冷気がどうしても室内に入る施工時間は短いほどよかったはず。覚えておきたい事柄でしょう。
工事をずっと見ていたというKさんにリフォーム後の様子を尋ねると「リビングも寝室もホンワリ暖かくなって。それで翌年にキッチンもお願いすることにしたんです」
結露は軽減し、エアコンの使い方も大きく変わりました。一方、既存サッシの状態は「今となっては、サッシも変えてよかったかもしれないとも思います。でも、結露しても以前のように濡れないし、お掃除も好きですから(笑)」
一見、少々落胆があるようにも思えるこの言葉の中に、実は住まいに対するKさんの姿勢が現れています。
そこにはよく考えられた“室内環境を整える独自の流儀”がありました。
取材に訪れたのは夏まっさかりの8月中旬。招き入れられて驚いたのは、午後の早い時間にもかかわらず室内がかなり暗いことでした。
ほとんどの窓が、開閉できるスラットつきの雨戸で閉め切られていたのです。
当日の甲府エリアの最高気温は36℃でしたが、わずかなエアコンと扇風機が稼働する室内は涼しく快適でした。
厳しい暑さに対抗するため開口部を外から遮蔽し「灯りは少しだけあればいいのです」
長く教職につき、今も現役の教え手として教育に携わるKさんは、指定席であるダイニングテーブルで、キッチンの窓からの採光と柔らかな照明の下で採点作業などもするとのこと。「暗い方が涼しく感じる効果もあるんですよ」と、軽やかに語ります。
窓があっても、すべて開けない方が快適なときもある。目を開かれる思いでした。
反対に秋から春まではレースのカーテンも引かず、網戸も外して窓の透明性を楽しむといいます。
リビングも寝室も外から見ようと思えば見えてしまいますが、そこは気にしない、とKさん。
「南の窓から日差しが入って暖かいんですよ。そして夕方4時頃、まだ部屋がホカホカしているうちに雨戸を閉めればそのまま暖かさが保たれるんです。リフォーム前からやっていましたが、当時はすぐ冷えてしまいました。エコガラスにした今は大丈夫。エアコンはボチボチ薄く入れる、という感じでしょうか」
リフォーム後は室内の温度ムラもなくなり、リビングと奥の部屋を隔てるガラス戸を閉めなくなったといいます。厳冬期はベストを羽織っていた部屋着も、2枚あれば十分になりました。
さらに寝室のエアコンがお役御免に。ベッドに入る30分前に低い温度設定でオイルヒーターをつければ間に合い、電気料金も下がったそうです。
「理想を言えば、パッシブな家にしたいんですよ。でも、古い家を建て替えずに今ある中身を突きつめて、頃合いよく手を掛けてやれば、家が寄り添ってくれるんです」
本当は自家用に太陽光発電もしたかったけれど、発電パネルの重量に屋根が耐えられないのと蓄電池が高いのとで断念したの、と笑うKさんのキーワードは、“整理整頓清潔清掃”です。
「同じものを同じところに常に置き、汚れていないかどうかまめに点検して、掃除は朝晩。そして窓ガラスは毎日拭いています」
すっきりと整えられた室内は、そんな日常のたまものでしょう。この家なら、たとえ素通しのガラス窓越しに見られてもなんら問題ない…そう思わずにいられませんでした。
このリフォームが縁となり現在も交流が続く林さんは「Kさんには学ぶことばかりです。最近はサーモスクリーンによる効果的な断熱のタイミングも教えていただきました」
湧き出る暮らしのアイディアを共有し、取材の合間も話がはずむふたりの姿は、仕事を超えて人生の先輩と後輩が語らっているようでした。K邸はこれからも変化・成長し続けていくのでしょう。
自ら考え、働きかけることで暮らし方に合う家を育て、長く心地よくともに生きていく。“丁寧に住まうこと”の美しさと難しさに出合うひとときとなりました。
取材協力 | 株式会社クリア |
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URL | http://clear-g.co.jp/ |
取材日 | 2018年8月20日 |
取材・文 | 二階幸恵 |
撮影 | 中谷正人 |