-千葉県・O邸-
立地 | 千葉県成田市 |
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住宅形態 | RC13階建マンション (1999年竣工) |
リフォーム工期 | 2017年4月~10月 (フルリノベーション) |
窓リフォームに 使用した主なガラス |
エコガラス |
利用した補助金等 | 平成28年度 住宅ストック循環支援事業 |
「木の匂いがするコンクリートの箱で暮らしたい」
そんな願いをかなえたマンションエコリフォームをご紹介しましょう。
築18年の中層マンション。その一角がOさんの住まいです。
竣工時から独居を続けていますが、近くに住む甥ごさんやその家族が頻繁に訪れにぎやかに過ごすとのこと。シンプルな室内にそこはかとない温かさを感じるのは、この家が家族・親戚にとってサードプレイスのように居心地のいい場所だからかもしれません。
浴室ドア下部にある換気口の劣化をきっかけにリフォームを検討し始めた当初、Oさんが工事対象として考えたのは水まわりだけだったといいます。
ところが、見積もり依頼をしてやってくるリフォーム会社の担当者たちは「私の話を聞きもしないで『2ヶ月で全体の工事を終わらせます』『プランはこの中から選んでください』なんて言うんですよ」
納得できないOさんは、インターネットを駆使して自ら調べ始めました。おりしも周囲には定年まで数年を残して自宅のリフォームを検討・実行する知人が増え、話を聞いて知識や情報を増やしながら、徐々にイメージを作り上げていくことに。
そんな中でOさんの心に浮かんできたのが“自然素材”と“細かい仕切りは不要”というキーワードでした。
そして2015年秋、木材を多用したマンションリフォームを手がける工務店のウェブサイト経由で野口修一さんの事務所ホームページへとたどり着き、Oさんは改修設計を依頼したのです。
木造戸建住宅の設計を主に手がける野口さんは“スケルトンリフォーム”の手法で今回の改修に取り組みました。既存の間仕切り壁をすべて取り払い、住まい手が描くイメージや具体的な希望をもとに、平面全体を変更・設計するやり方です。
細かく仕切りたくない、というOさんの思いを「玄関ホールから先をひとつの部屋ととらえ、その中にリビング・キッチン・水まわりの設備がある家」へと転化し、設計コンセプトとしました。
このイメージのもと、例えばリビングと寝室の境の一部を、壁ではなく2枚の引戸にしました。開ければ双方がつながってひとつのスペースにできるしくみです。
プライベート性が高い寝室とパブリックなリビングをつなげてひらくとは、独居を前提とする計画らしい自由さでしょう。
他の建具も、水まわりを含めてすべて引戸にしました。開け放すことで住戸全体を“あちこちに壁のあるひとつの空間”になるよう設計したのです。
「状況に応じて開け閉めできると、あとあと効いてくるんですよ」と野口さん。以前から家じゅうの扉を開けては風を通していたというOさんにとっても、違和感のない暮らし方です。
こうしてできた“大きなひとつの部屋”で目につくのが、存在感のある造り付けのソファでした。
これは“窓越しの緑を眺めながら住まい手がくつろげる場にしよう”と設計者が想定し、設計全体の核にもなった造作家具です。O邸リビングの主役的な位置づけである反面、人が大勢来た時にはベッドとしても使えるフレキシビリティを備えています。
そしてこのソファの正面に、南に向いた大きな掃出し窓。周辺の緑や田んぼを望み、O邸でもっともよい眺望を持つこの窓には、ナラ材を使ったオリジナルの木サッシが採用されました。
床は杉の無垢材、壁は漆喰仕上げと、自然素材を多用した空間の中で「窓も木サッシでなければ申し訳ない、という感じでした」と野口さん。その言葉に「野口さんならきっとそうしてくれると思っていました」とOさんがにっこりしました。
この木枠の窓は、エコガラスがはめこまれた内窓です。
今回の改修では、すべての窓にLow-Eガラス入りの内窓が取り付けられ、室内の快適さにひと役買っています。フルリノベーションであるとともに、窓のエコリフォームでもあるのです。
改修前の室内環境をOさんに尋ねると、夏はバルコニーの照り返しによるひどい暑さ、そして冬は北側の部屋の冷えが厳しかった、との言葉が返りました。「夏の出勤時は、バルコニー側の窓に厚手のカーテンを引いてから出かけていましたね。冬の寝室も寒かった」
しかし目や皮膚の乾燥が苦手で、四季を通じてほとんどエアコンを使わずに暮らしていたそうです。
エコガラスの内窓は、この問題を解決するために野口さんが提案したものでした。「窓は全部シングルガラスですから、これは変えないと! と思いましたね」
リビングダイニングはふたつの掃き出し窓が並ぶ明るい空間ですが、改修前は広いバルコニーからの強い照り返しがこの開口部を通り、室内に暑さを持ち込んでいました。
エコガラスの内窓はこの熱を遮断し、冬には室内の暖かさを外に逃さないよう、設置されたのです。
既製品を使わずに造作の木サッシ窓にしたのは、ここが住まい手に安らぎを提供する大切なスペースだから。
里山の緑の風景を楽しみながら自然素材に囲まれてくつろいでほしい、そのために窓のデザインにも妥協はしない…設計者のそんな思いが伝わってくるようです。
一方、北側には玄関を挟んでふたつの窓があります。共用廊下を向くこれらの窓には、アルミ枠+Low-Eガラスを組み合わせた既製品の内窓が設置されました。
木サッシにしなかった理由は、リビング側との用途の違いです。
改修前は寝室と納戸だったこのスペースは収納部屋と玄関ホールに姿を変え、長時間滞留する場ではなくなりました。このため、一定の断熱性能は確保しつつ、意匠性より経済性により重きがおかれたというわけです。
予算面を考える際に、参考になる選択ではないでしょうか。
O邸にやってきたエコガラスの内窓は、改修後まもなく訪れた冬にその実力を発揮しました。
「雪でも降らない限り、真冬でも暖房はしないのですが、それでもリビングの室温が18℃に保たれているんです。朝、射し込んでくる日ざしの暖かさがたまっているのではないでしょうか」
マンションの中間階・中住戸が冬暖かく夏涼しいのは、よく知られた話です。
しかし真冬に無暖房で室温18℃は、やはりかなりの好成績といえるでしょう。これから迎える夏場の照り返し熱の遮断効果も期待できそうです。
以前は鉄扉から外の寒さが伝わってヒエヒエだった北側の玄関や、かつては寝室で、今は衣料などほとんどの荷物が収められている収納部屋も「以前とは全然違います。無暖房でも13~14℃はありますね」こちらも十分な断熱状態が実現しています。
加えて、寒くない部屋では結露やカビも発生しづらくなるというメリットが。常時たくさんの服や靴が収納されているこのエリアに、もうひとつの安心が提供されたといえるでしょう。
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「希望通りのリフォームで、思っていた以上の家になりました。ここに住めて幸せです。あと25年は住んでいたい」
笑顔で話すOさんの言葉は、時を重ねてこれから変わっていくかもしれない自らの暮らし方や身体的状況をも十分考えた上で、この家に住まい続けていこうとする強い意思を感じさせます。
家は安心・安全で、快適に過ごせ、そして“人を幸せにできる”もの。
性能の向上と新たなデザインとのマリアージュが生み出したこの空間にあって、住まいの持ち得る力を改めて教えられた気がしました。
取材協力 | 野口修アーキテクツアトリエ |
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URL | http://www.ki-no-ie.net/hp/ |
取材日 | 2018年2月21日 |
取材・文 | 二階幸恵 |
撮影 | 中谷正人 |