-千葉県 M邸-
立地 | 千葉県佐倉市 |
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住宅形態 | 木造軸組2階建(1961年竣工) |
住まい手 | 夫婦 |
リフォーム工期 | 2015年2月~9月 |
窓リフォームに使用した主なガラス | エコガラス |
利用した補助金等 | 省エネ住宅ポイント |
築55年のその家は、緑豊かな田園風景の中に建っています。先祖代々この地に住んできたMさんご夫妻の住まいで、2015年にエコリフォームされました。
周辺には農業用ハウスや家庭菜園も点在し、明るく開けています。その分「風が強いんです。日の光も一日じゅう家の中に入ってきます。夏も冬も変わらないですね」という環境です。
リタイヤ後の暮らし方を見すえたリフォームは、外壁をやりかえ、耐震強度をアップし、間取りも一部変更するなど大規模なもの。ここに暑さ寒さの解消も加えたエコリフォームでもあります。
「家のリフォームで考えるのはまず安全、そして快適さ。これに尽きます」施工を担当した丸勝建材工業の三代川勝良さんの言葉です。
周囲に遮るもののないM邸の夏を、奥様は「暑さはすごかったですね」と振り返ります。昼間は夫婦で仕事に出かけるため「家じゅうの雨戸は閉めっぱなし。帰宅の1時間くらい前にタイマーでクーラーが入るように設定していました」休日はエアコンを25℃に設定し、終日フル稼働です。
東南向きの1階には、リビングダイニングと広縁と合わせて3つの掃き出し窓があります。日差しを防ぐためヨシズを張っていたこともありましたが「風が強くてすぐに寄ってしまって。外壁にも傷がつくので結局やめちゃいました」とMさん。
東側のキッチンでは出窓から朝日、奥様の部屋は西向きに窓があり、2階のふた部屋はどちらも2面採光。窓が多い明るい家は、その一方で一日じゅうどこからか日射熱が入り込み「本当に閉口しました」。雨戸を閉めての出勤もうなずけます。
冬の悩みの筆頭は、北窓のある浴室の寒さでした。「お風呂に入るのがもう、イヤでイヤで」当時を思い出しながら奥様が笑います。
家全体のすきま風も気になっていました。築年数の長さや東日本大震災の影響で建具や柱が少しずつ傾いたためで「雨戸を閉めてもカーテンが揺れてたりしましたね」
「家は何十トンもあるものが土の上に載っているから、長年住んでいれば必ずどこかゆがんでくるんですよ」と三代川さん。
工事は2015年2月から9月までの8ヶ月を費やしました。住まい手が寝起きする空間を確保しつつ、部分的に壊してはその都度新しくつくっていく“居ながら改修”です。一時的に転居して行う改修よりも時間はかかりやすいながら、ご夫妻は平日日中は出勤という生活形態でもあり、この方法が選ばれたといいます。
1階は古い土壁をすべて壊して、厚い断熱材の入った新しい壁にしました。同じく床や天井も古くて薄い断熱材を新しいものに交換。地震に備える耐力壁も、10箇所近く増やしています。長年の湿気で壁の内部から柱まで腐朽し、ひどく傷んでいた浴室は、洗面やトイレなど他の水まわりも含めて大改修。さらに奥様の自室を和室から洋室に変更し、西向きにふたつ並んでいた掃き出し窓のひとつをふさぎ、ひとつを腰窓に縮小しました。
一方、2階は当初リフォーム対象とは考えておらず、軽めの改修になりました。窓をエコガラスに変更し、既存の壁に断熱材を足したうえで、屋根に遮熱塗料を塗っています。
上下階の工事で共通するのは新しい断熱材、そしてエコガラス窓に換えた開口部。耐震と並んで目された夏涼しく冬暖かい家づくりは、この“断熱コンビ”に託されたのです。
リフォーム後に迎えた夏、M邸のエアコン設定温度は24~25℃から28℃に、運転はリビングダイニングなど人の居る部屋だけになりました。以前は和室や2階など家じゅうで回していたといいます。
室温のキープ力も上がりました。
2階のふた部屋を自室にしているMさんいわく「帰宅すると33℃くらいありサウナのようだった部屋が、今は30℃くらいです。エアコンの効きも早くなった。温度設定をこまめにして、室温が27℃くらいになったら扇風機だけにすることもあります。止めてもすぐに暑くならず、冷えた空気が“もつ”んですね」
1階を主な生活スペースとする奥様は「前はクーラーの効いている部屋以外の場所に行きたくなかったんですよ。とくにトイレとか広縁は蒸し風呂にいるようでした」 平日は仕事から帰宅すると朝まで家じゅうのエアコンを回し、休日も同様に全部のエアコンを終日運転。これでは電気代も大変です。
工事後、エアコンの運転はリビングのほか就寝前に自室を冷やす程度になり、しかも涼しくなる夜間は自動停止するとのこと。ひと月約1万5000円だった電気料金は1万円ほどに下がりました。
冬場は石油ファンヒーター2台とエアコン、コタツを併用していましたが、工事後は新しく更新したエアコンのみで過ごし、ヒーターは厳寒期だけ使います。起床してから出勤まで羽織っていた厚手のジャンパーやモコモコのはんてんも、お役御免となりました。
北海道出身の奥様は「入るとヒヤッとしていた部屋が、今はフワッと暖かい。コタツで足だけ暖めて家の中が寒いままなのは、背中がぞくぞくするようで辛かったです」とにっこりしました。
断熱リフォーム後「コタツがいらなくなって本当によかった」とおっしゃる方は、Mさんのほかにも実は何人もおられます。
みなさんが口を揃えるのは「コタツは一度入ると出たくなくなり、動きが鈍くなる」。日本の伝統的な暖房形式である『部分間欠暖房』*の弱点が垣間見えます。
窓や壁など建物の外皮をしっかり断熱すること。その効果は、外の熱気や冷気のシャットアウトだけではありません。「涼しいリビングから暑いトイレに行くのが辛い」「浴室が寒くて両親のヒートショックが心配」といった、不快で危険な室内の温度ムラが緩和され、どこに行っても暑くない、寒くない環境がつくられることをも意味します。
エアコンやコタツのある部屋に閉じこもることなく、のびのびと暮らせるようになるのです。
「エコリフォームでは、窓と壁・床・天井の断熱をセットにすることが大事なんです」三代川さんのアドバイスです。
終わってみてのご感想は?の問いに、ご夫妻いわく「仕事を辞めたあとの老後を快適に暮らしたい、との思いはありました。でも、まさかここまでのリフォームになるとは(笑)」
これは、家で過ごす時間が長くなる定年後を念頭にリフォームを計画する人にとって、他人ごとではないでしょう。
実は当初、施主の主な希望は“窓と外壁と浴室と洗面のみ”だったそうです。施工側からいくつか提案もありましたが「予算的に無理と思っていました」
しかし工事が進むにつれ、リフォームした箇所としない箇所との差が歴然とし「やっぱりここもやらないと、という気持ちになるんです。今やっておかないと、後からでは体力・金銭面で無理かなあ、とね」
奥様も続けて「これからやろうとする方は、後から追加が出ないようによく吟味・検討して計画されるといいと思います」省エネ住宅ポイントの交付対象にもなりましたが「やはり予算にも時間にもかかわってきますから」
さらに自ら希望しての居ながら改修ではあっても「工事に合わせてものを片づけながら進める、という面では、やはり大変でしたね」
ご苦労を振り返りつつ、おふたりは「でも、もしやっていなかったら、って思うんですよ」その笑顔は、この家の住み心地をなにより雄弁に語っているようです。
ここで三代川さんが「人間、年取ってくるといろいろわずらわしくなるからね」とひとこと。一同思わず吹き出しましたが、あとに続いた「お金があっても体力・気力がともなわなくなる。だから、やるときは思い切りが大事」の言葉には、みなそろってうなずきました。
「施主と施工者が一緒に話し合いながらやるべきことをやらないと」とも。どちらも快適、安全、そして美しいエコリフォームを成功させる秘訣に違いありません。
住まう人と建設し維持するプロとが心を合わせてつくりあげた心地よい家を出ると、お聞きしたとおりの少し強い風が、緑の樹々をかすめて吹きわたっていました。
*部分間欠暖房:リビングやダイニングなど、家族が長く居る室内だけをストーブやエアコン、コタツなどで暖める暖房手法。採暖(さいだん)ともいう。相対する手法として、廊下や水まわりも含めて家全体を空調する〈全館暖房〉があり、ヨーロッパに多い。