窓から快適、リフォームレポート -東京都 N邸-
立地 | 東京都立川市 |
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住宅形態 | 木造3階建(1989年竣工) |
住まい手 | 夫婦+子どもひとり |
リフォーム工期 | 2015年7月 |
窓リフォームに使用した主なガラス | エコガラス(内窓) |
工事費用 | 約43万円 |
利用した補助金等 | 住宅エコポイント |
N邸の立地環境は、武蔵野の自然の恵みに抱かれる静かな住宅地。竣工から28年めの住まいは、扇を広げたような変形のリビングに掃き出し窓がつき、近くを流れる多摩川上水沿いに茂る雑木林が借景となった気持ちのいい空間です。
けれど「床が寒くて寒くて」と奥様。床下に断熱材が入っていないのです。そこでご主人のNさん自ら〈寒さ対策に床板を重ね張りしよう〉と決心したことが、今回のエコリフォームのきっかけとなりました。
日曜大工から陶芸まで器用にこなすNさんは、その昔ご実家が建具店を営んでおり「ある程度の基礎的な知識はありました」と話します。
住宅の断熱についてインターネットで調べたり、近所のショッピングモールで見かけた断熱窓の紹介ブースをのぞくうち「窓ガラスから一番熱が逃げることがわかってきて、おやおやと思ったわけです(笑)そこから気持ちがシフトして、妻にもよく説明して」
奥様も「窓際の椅子あたりが確かに寒かったので、やっぱり窓だね、という話になりました。床まで届く大きな窓だし、そこから冷気が入ってきているんじゃないかと」と振り返りました。
石油ストーブを使っていたこともあって、結露も激しいものでした。「ぐちょぐちょで床がカビてきちゃって。木が腐ってくるんですよね」流れ落ちるしずくにテープやタオルで対抗する日々だったそうです。
ともかくもと、まずは床の重ね張りを終えた2015年の初夏、住宅エコポイントの利用も頭に入れて、N邸の窓リフォームが行われました。施工者探しにはインターネットを駆使し、近所で窓・アルミ工事から総合リフォームまでを請け負う吉岡硝子産業に白羽の矢を立てたのです。
リフォーム対象となったのは、リビングの3つの窓です。
小さい上げ下げ窓は既存サッシを残してガラスだけをLow-Eガラスに交換し、メインとなる2箇所の大きな掃き出し窓には、エコガラスの内窓をつけることにしました。
「窓全体を取り替えれば工事も大げさになる。ほんのちょっと狭くなるけど、一番早くて工事も簡単だから、内窓にしました」とNさん。テレビをはさんで右手にあるはめ殺し窓には2枚引き、デッキに向かう左手の窓には3枚引きがそれぞれ設置されました。
内窓と聞いてまず気になるのは〈室内にどれだけ出っ張るか〉でしょう。しかし「かなり出ちゃうかもと思っていたのに、意外にフラットできれいにできました。すごくうれしかったですね」と奥様は笑顔を見せます。
今までなかった新しい窓枠も、目に入るようになりました。とくに一枚ガラスのはめ殺し窓は、遮るものなく庭の風景を楽しめるようにと設計者がこだわった開口部。気にならないのでしょうか。
しかしNさんはこともなげに言うのです。「初めて見たときは、真ん中に桟が入って狭くなったなという感じはしました。でも1、2ヶ月すると慣れて、どうってことないんですよ」
引き違いの内窓には、もちろんメリットがあります。掃除のしやすさはその筆頭でしょう。
デッキに出るための引戸とはめ殺し窓を組み合わせた左手の窓は、それぞれに動く3枚引きの内窓なので、外窓をむらなく拭くことができます。「掃除はやりやすいですよ」と奥様。
さらに意匠性も、実は内窓の強みとなり得ます。
「この色合いがすごく気に入っているんです、ちょうど良い濃さで嫌みもなくて」と奥様がおっしゃる樹脂製の内窓枠は、穏やかな木目調。外窓の白い枠と比べ、ダークブラウンの室内壁によくなじんでいます。
「僕らも年を取ってきたから、木の色の方がいいんですよ」Nさんの言葉に笑い声が上がりました。
石油ストーブ・ホットカーペット・パネルヒーター、そして膝掛け。N邸のリビングには以前、これだけの暖房機器がそろえられていました。
「エアコンと石油ストーブは一日中。ホットカーペットに座って膝掛けや毛布をかけて、火が燃え移るんじゃないかと思うくらいストーブの近くに座る(笑)ダイニングテーブルにつくときは足下でパネルヒーターをつけていました」
リフォーム後の今、使うのは1台のエアコンのみ。18リッター缶を週に2缶買っていた灯油も購入ゼロになりました。
ホットカーペットも外された室内の温度計は20℃を示しています。取材に訪れたのは1月終わり。フローリングに座布団で座っていても、寒さを感じることはありませんでした。
奥様は「朝起きてきたときも、まだあったかいんですよ」とも。「2階の寝室から降りてくると、階段は寒くてもここに入ると暖かさが残っています。以前は全部抜けちゃって、寒かったですね」
リビングの窓にはブラインドや雨戸がなく、就寝時も厚手のローマンシェードを下ろすだけです。その状態でも「この前測ってみたら、外気温2℃の朝に無暖房で8℃以上ありました」とNさん。
リフォーム前は欠かせなかったエアコンのタイマー設定も、もうしません。「今は降りてきてからつけます。温度設定は『快適エコ』にプラス1とか2くらいかな」
N邸のエコリフォームには、住まい手の意思と参加する態度とが強く感じられました。
内窓を取り付けるため必要だった新しい額縁(ふかし枠)の施工をしたのは、なんとNさんご本人です。床張りの際に余った材料を使って見事な額縁を製作し、留めつけまで行いました。
そうといわれなければわからない、玄人はだしのできばえです。
もとからある窓の写真を撮り、住まい手自身が寸法その他いろいろ描き込みをして工事後のイメージを把握する。そんなことも試みられました。「腰高窓にしようかと考えたときもあって、どうなるか色鉛筆で描いて夫婦で確認したんですよ」
なぜこの時期にエコリフォームを? と問うと、奥様からはこんな言葉が返ってきました。
「若いうちは寒くても我慢できます。それができなくなった段階で、そろそろ老後の暮らし方を考えましょうと。そんな時期がどこの家にもあるのではないでしょうか」
「考えてみれば、ここを売って新しくてあったかいマンションに引っ越してもいいんですよね。でも、この土地はたとえばウォーキングするのに非常によかったりするんです(笑)家に対する情も出てきますし、地盤もいいらしいし。
そこで決心するわけです。『ここで暮らそう』と。そうしたら、ここを快適にするしかないですものね」
この先も暮らし続ける決心。そのために何をするか。リフォームという行為の底にある今まで知らずにいた一面を、にこやかに語り続けるご夫妻に教えられた気がしました。