窓から快適、リフォームレポート -高知県 H邸-
立地 | 高知県高知市 |
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住宅形態 | 木造軸組2階建(1977年竣工、1991年一部増築) |
住まい手 | 世帯主+母 |
間取り | 2LDK+和室+多目的スペース |
リフォーム工期 | 2013年 |
窓リフォームに使用した主なガラス | エコガラス |
利用した補助金等 | こうち健康・省エネ住宅推進事業費補助金(リフォーム) 高知市木造住宅耐震改修費補助事業 こうちの木のすまいづくり助成事業 |
幕末の志士坂本龍馬を生んだまち・高知市は、黒潮の洗う土佐湾に面する四国の中核都市。温暖湿潤な気候を基本に、夏の最高気温は34〜36℃まで上がり、冬は零下1〜2℃を記録する土地柄です。
Hさんのお住まいは1977年、市街地から車で20分ほどの郊外にある静かな住宅地に建てられ、91年に一部増築した木造の家。
リフォームのきっかけはシロアリでした。「2階の部屋が昔より揺れるようになったなあと感じていたのに加え、西部の四万十市で起きた小さな地震でちょっと揺れた(笑)高知市内で震度が出てないのにこれはおかしい、と畳をはいでみたら、コロニーができていました」
この出来事によってHさんの中での「自宅改修」はにわかに現実味をおびていきます。
他にも耐震面の心配、切盛りした敷地のため不同沈下が起こっていたこと、さらに建物全体が断熱されていないなど、40年近い歴史を経た住宅には多くの困りごとがありました。
「母の終の住処として、どうにかしなければ」改修設計を担当したMasa建築設計室の政岡慶子さんと本格的に話を始めたのは、2年前のことでした。
改修前の自室の環境について「タイマーをかけ忘れて出勤してしまうと、夏は帰宅後エアコンを全開にし、ちょっと涼しくなったなと感じるのが3時間後。冬はヒーターが効き出すまで1時間以上かかりました。それまで? どてら着て正座してテレビを見ていましたよ(笑)」とHさんは振り返ります。
2階に2部屋あった自室には、それぞれシングルガラスの大きな窓があり、メインの部屋は西日にもさらされます。天井や壁は断熱材が入っておらず、外の熱気や冷気が建物外皮からどんどん入り込んできました。
夏場、ようやくエアコンが効いてきても「空気は冷たいんだけど部屋の中がなんか暑いんですよ。だから、日が入りはじめたら窓にはカーテンを引いていました」
Hさんの言葉からは、外気や直射日光にあぶられた窓や壁や天井が熱くなり、断熱材が入っていないためその熱が直接室内に伝わる状態がうかがえます。冬の冷気ももちろん同様。
西向きの窓には遮熱フィルムを張ったもののあまり効かず「もう辛抱ならんな、と屋根裏に換気扇をつけました」これは屋根裏にたまった熱気を外に追い出すシステムで、改修後も使われています。
一方、茶の間のある1階は、南の縁側がバッファゾーンになり、また2階が載っていて天井に直射日光が当たらないため、比較的涼しいと感じられていました。
しかし冬には大きな問題が。すきま風がひどく「電気のコンセントに手を当てると孔からシューッときていたのです」。
室温はどの箇所も10℃前後。すきま風に気づくまで「エアコン、電気ストーブ、こたつ、ホットカーペットまでつけて、どうしてあったかくならないんだろう」と思っていたそうです。
隣で話を聞いていた政岡さんが「床下の換気口から入る風が、断熱材の入っていない壁の中を通って上がり、コンセントから出るんですね」とうなずきました。
さらに浴室や脱衣室の寒さがきびしく、とくにタイル張りの浴室は冷えが強いため「母には、まず壁にお湯をかけて暖めてから入るようにと言っていました」
自宅で体調をくずす高齢者の多くが浴室・トイレまわりで倒れている、という調査結果もあります。健康面ではH邸の中でも危険な箇所だったといえるでしょう。
H邸リフォームの基本は「耐震」と「断熱」です。それに加えて不動沈下の修正や内装の変更など、工事は多岐にわたりました。
まずは、地盤のプロフェッショナルであるHさんが不同沈下を修正する工事を実施。床をはがした室内から建物を支える杭を打設できる新しい工法を採用しました。大掛かりな工事にならずリフォームにフィットする工法です。
その後に基礎・柱・梁を補強し、家のあちこちに筋交いや耐震のための壁を入れました。シロアリ対策も怠りません。「ほぼフルリフォームですね(政岡さん)」
そして断熱です。
増築した和室部分以外、断熱材がまったく入っていなかった建物の天井・壁・床下といった建物の外皮にそれぞれグラスウールやセルロースファイバーなどをもれなく詰め込みました。改修前は「等級なし」だった断熱性能は、工事後は『等級4』に跳ね上がっています。
窓はふたつの小さなジャロジーを除き、すべてエコガラスに取り替えました。和室の東側窓のみ既存のサッシを生かしてガラスだけを交換し、それ以外はサッシごと新しくしています。
改修前の図面と照らし合わせると、全体に窓が減り、しかも小さめになっているような…? 「その通りです。もうあまり、大きな窓はいらないだろうと思って」政岡さんがにっこりしました。
改修前のH邸はもともと窓が多く、どれも大きめでした。
南側は1,2階とも掃き出し窓が並び、西にも北にもたくさんの開口部があります。一見明るく快適そうですが「これだと物も置けません。実際、改修前は窓の前にタンスも置かれていたので、それならいらないかなあ、と」
住まい手のHさんも「確かに家具を置いてカーテン閉めっぱなしの状態でした。言われてみるとそんなに開けないし、実はそんなに必要ないのかな、という気にはなりましたね」
「住宅を完璧に断熱したかったら窓をつけなければいい」という笑い話もありますが、窓の面積や位置が住まいの温熱環境に影響を与えるのは事実です。暑さや寒さを防ぐため、エコガラス採用のほかに窓そのもののあり方にまで、政岡さんは切り込みました。
1階のひとつを除いて西側の窓はすべて取り去り、2階の掃き出し窓は腰窓に。そのほかの窓も総じてサイズダウンしました。
暗くなったり、空気がこもったり、圧迫感が出るのでは? と心配になりますが「南側が開いていれば明かりは十分です。あとは風抜きがしっかりできていれば」とHさん。前の窓はもともと大きすぎだったのでね、と笑います。
明るさ確保の工夫は、1階リビングにも見られました。
縁側との間に立てられていた障子をガラス障子の建具に換え、閉めてエアコンをかけても光がそのまま入るようになっています。
改修前の畳敷きの茶の間は、押入があり壁の黒ずみも目立ったりと暗さ・圧迫感を感じるスペースでしたが、今はHさんに「一番好きな場所かもしれません」と言わせる快適な空間になっています。
間取りと用途を変更した箇所もあります。
2階に2室あったHさんの居室は、中央に耐震壁をはさんでワンルームにしました。それまでメインで使われていた西側は、窓を取り去ってウォークインクローゼットと多目的スペースに。南の窓も小さくしましたが、風抜きには十分です。
一方で物置になっていた東側を新たにHさんの寝室とし、三面ある窓はどれも小さめにして外気の影響を和らげました。
長い時間を過ごす部屋はなるべく西日から遠ざける… 室内の快適さを考える、ひとつのヒントとなりそうです。
さらに水まわりでは、設備面のグレードアップが図られました。
ヒートショックが心配だった浴室は「天井も床も壁も魔法瓶みたいにしました」という政岡さんの言葉どおり、タイル張りからユニットバスに換えて断熱性能を高め、浴室暖房を設置しています。
洗面脱衣室も、窓を小さくしてしっかり断熱。トイレも含めて玄関近くにあるこれらユーティリティの正面に、以前は和室に寝起きしていたお母様の自室を配置して使いやすくしました。建具もドアから引戸に変え、バリアフリー仕様になっています。
すべての工事が終わったのは2013年の11月でした。効果のほどをうかがってみましょう。
「工事後は、暖房していない部屋でも室温が13℃〜17℃ありました。はじめのうちはいつもの習慣でエアコンを設定温度30℃でつけたら、暑くて(笑)こんなに効くとは思わなかった。その後は23℃くらいの設定にして、しかもすぐに止めるようになりました」
改修前と後での光熱費の比較グラフが、Hさんの驚きをそのまま証明するようです。
「それと、窓のカーテンを開けるようになりましたね。以前は朝起きても、冬は寒くて開けられなかった。今は寒くないから開けます」
本来、光を取り入れるとともに外の様子や風景を見通せることが窓ガラスという透明な建材ならではの魅力のはず。寒さが阻んでいたそんな楽しさも、エコリフォームはH邸に運んできたといえるでしょう。
一方、暑さは?
取材日は5月というのに気温が27℃近くにもなり、強い日差しが照りつける夏日となりました。
しかし、キッチンに置かれた温度計が示しているのは23.9℃。外回りの撮影を終えて戻ってきたカメラマンの「暑い暑い」の言葉に「外、暑いんだ…」というHさんのつぶやきが印象的でした。
これから迎える高知の高温多湿な夏も、楽しみな気さえしてきます。
実はこのエコリフォームは『こうち健康・省エネ住宅推進協議会』による健康・省エネリフォーム住宅向け補助金の交付対象となった、第1号の案件です。耐震のほか、断熱改修のモデルとして位置づけられるため、工事前後の室温の測定やサーモカメラの撮影による室内の温度状況可視化など、いくつかの調査がなされました。
どれも改修後の断熱性能アップを裏付ける結果となっています。
これとは別に、お母様を被験者とする血圧測定も実施され、数値はやはり好転したとのこと。お母様が終の住処として安心できる、室内の温度差がない家を、というHさんの願いをかなえる改修となりました。
リフォームを終えた住まいを振り返り、Hさんは「エコガラスの窓にしてよかった、壁や天井の断熱も含めて効果が大きいです。快適になりました。それから、木をたくさん使ったのもよかったですね」。
その言葉どおり、室内の至るところに見られる白木の床や板壁もまた、生まれ変わったH邸の魅力です。
使われた木材は高知県産の杉や桧。「壁は杉、床板は桧の無垢材を張っています。県土の84%が森林で、桧の保有率は日本の三分の一と全国トップなんですよ」と、生まれも育ちの高知県の政岡さんがにこにこと話します。
その隣で「壁に杉を使うなんて思ってもみなかった、ずっと塗り壁だったから。全然いいね」とHさんが大きくうなずきました。
地元の気候風土を考慮した改修工事を、その土地にある材料を多用して実現する地域密着のエコリフォーム。
それは住まい手に快適で健康的な住空間を贈るとともに、ふるさと独自の生活文化や産業を改めて見直し、ひいては地元経済の活性化にまでつながり得るものなのだ…そんな発見とともに、土佐の緑したたる郊外の家を後にしました。