窓から快適、リフォームレポート -神奈川県 Y邸-
立地 | 神奈川県横浜市 |
---|---|
住宅形態 | RC造3階建(2008年竣工) |
住まい手 | 夫婦+子どもひとり |
間取り | 2LDK |
リフォーム工期 | 2010年7月 |
窓リフォームに使用した主なガラス | エコガラス/真空ガラス/防犯ガラス |
利用した補助金等 | 住宅エコポイント |
左肩にちょこんとガラスをのせた真っ白いキューブ。Y邸のファサードは、トップライト以外に窓が見当たりません。デザインに対する住まい手の高い意識が反映された住宅です。
「今は世界中でデザインが注目される時代。実用性重視だった日本の製品も、ようやく最近デザインにこだわりを持つものが出てきました。みんながそういう感性を高めて、電柱一本からそうなってほしいと僕は思っています」
迎えてくれたYさんは、ご自身の考えに妥協することなく、意匠性あふれるこの家を設計者とともにつくり上げました。
一歩足を踏み入れると、外観からは見えないたくさんの窓やガラスが現れます。
1階はガラス張りの水廻り、2階はトップライトやガラスの壁で囲まれたリビングダイニング。寝室のある3階に続く階段室にもトップライトがあり、居室の手前に伸びる廊下は階下まで素通しの強化ガラスです。
メイン空間であるリビングは奥様が主宰するダンス教室のスタジオを兼ねており、壁2面は天井まで鏡張り。
加えてホームシアター仕様のため防音に対する配慮も求められ、多くの壁に囲まれた空間となっていますが、南北2方向のトップライトからの採光によって十分な明るさが保たれていました。
エコリフォームの対象となったのは1階、2階キッチン脇の縦窓、そして3階居室南側の開口部です。
工事を手がけたワイズ・ワンの大畑祐二さんは「通常、窓のリフォームは<遮熱・断熱・防犯・防音>のうち最も重視する点を中心に提案しますが、Yさんには<すべて>と言われ…勉強になりました」と笑いながら振り返りました。
「3階の寒さと結露をどうにかしたい、と考えたのが最初です」とYさん。主寝室と子ども室にはシングルガラスの掃き出し窓があり、結露と冷えが悩みでした。
大畑さんに依頼する以前からインターネットで窓の改善方法とその効果を徹底的に調べ上げていたといいます。
洗面と浴室を外部から隔てる1階の開口部も同様の困りごとを抱え、さらに安全上の不安もあったため防犯ガラスの導入を希望しました。
2階の縦窓で問題だったのは夏の暑さです。「キッチンに向かって直射日光が入るうえに、火を使って調理していますからさらに暑くなります。ずっとブラインドを下ろしていました」
そして「いろいろ耐えきれなくなったのと(笑)補助金について知ったこと、あとはお金も少したまったので(Yさん)」竣工から2年後、窓リフォームが実施されたのです。
直射日光の熱にさらされていた2階の縦窓は、既存サッシはそのまま生かし、エコガラス+防犯ガラスの3枚仕様にガラスを交換しました。
「効果てきめんでした。涼しいとまではいかないけど、刺さるような暑さはなくなったし、冬場の結露もほとんどしません」
1階も同様にエコガラスに防犯ガラスを加え、合計3枚のガラスを、こちらはアタッチメントを使って既存サッシにはめ込みました。
「夏の午前中にとくに感じていた暑さや、冬の寒さが弱まり、なによりも防犯性が上がって安心感につながりました」
そしてリフォームのきっかけとなった3階の窓は、既存のサッシを生かしてガラスだけを真空ガラス(エコガラス)に入れ替えました。
「冬は暖房要らずになりましたね。結露もだいぶ減りました」
ここで読者はお気づきかもしれません。「おや、トップライトのリフォームはしなかったの?」
その通り。ここには、Y邸の持つ<建築物としてのデザイン性>が大きく関わっています。
Y邸のトップライトは断熱・遮熱性能を持たない強化ガラスで、一年を通じて熱の出入り口になっています。夏は遮るもののない直射日光が朝は8時から夕方5時くらいまで射し込んで、室内の暑さの原因になるのです。
この状況に対し、2階リビングはロールスクリーンで窓を遮蔽し、設定温度27℃にした大きめのエアコンの風量を最大限に上げ、さらにサーキュレーターも併用して室温を調整しています。
暑さが厳しい時には「自分でポリカーボネート板を内側につけて空気層をつくったこともありました(Yさん)」
3階もほぼ同じ条件ですが、こちらは基本的に寝るためのスペースであり、日中はロールスクリーンで遮蔽し、就寝から起床時までエアコンを回してしのいでいます。
一方、冬は激しい結露と冷気が悩みです。
リビングのトップライトはキッチンと隣りあい、また折り上げ天井のように凹面状であることから「熱や湿気がたまりやすく、上から水滴が落ちるくらい結露します」とYさん。続けて「僕は業務用のスクイージーを使っています。すごいですよ、一発で拭き取れます」と笑いました。
3階のトップライトは北側に切られ、また東面がコーナーガラスになっていることもあって北風がまともに吹きつけ、やはり結露と冷えの温床となっています。
リビングでは3階に通じる階段室のガラス扉を閉め切って冷気を遮断し、エアコンと床暖房とで過ごしている、とのことでした。
室内環境に大きく影響するこのトップライトが、なぜ今回はリフォームされなかったのでしょうか。
Y邸のトップライトはサッシがなく、シールのみで固定されたFIX窓です。こうすることで建物のシャープなフォルムが壊れず、造形的な美しさを保っているのです。
「建築家がこだわった意匠への思いを大事にしていきたい」
この考えから、サッシがつく窓リフォームではなく、ガラス面に直接張りつける透明断熱フィルムを採用することをYさんは選びました。
機能・性能と意匠がせめぎあう中で<デザインされた空間世界を崩さずに住み続けたい>という住まい手の強い意思が、そこには感じられます。
住まいとは何なのか。そして人はそこから何を与えられ得るのだろう。投げかけられた声なき問いを胸に、白い家を後にしました。