窓から快適、リフォームレポート -兵庫県 N邸-
立地 | 兵庫県宝塚市 |
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住宅形態 | RC造6階建てマンション (1997年竣工、2012年内装リフォーム済) |
住まい手 | 世帯主 |
間取り | 2LDK+和室 |
リフォーム工期 | 2012年6月 |
窓リフォームに使用した主なガラス | エコガラス |
利用した補助金等 | 107万5000円(税込) |
工事費用 | 復興支援住宅エコポイント |
タカラジェンヌの故郷・兵庫県宝塚市は、六甲山系から吹く強い風「六甲颪(おろし)」に、一年を通してさらされるまちでもあります。
伴侶が他界され、住み慣れた東京から生まれ育ったこの地に帰ってきたNさんのエコリフォームも、きっかけはこの「風」でした。終の住処として選んだ中古マンションに住み始めてすぐ、
「天候が悪くて、風がすごく強い日がありました。そうしたら、窓のサッシが揺れてしなるの。気持ち悪くてサッシメーカーに電話したら、無愛想に『そんなものです』と言われて。窓ごと全部換えてやりたくなったけど(笑)マンションではダメでしたね」と振り返ります。
近所で建設関係の仕事をしている妹夫婦に相談し、入居から3ヶ月後、内窓設置工事が行われました。
窓が二重になることへの抵抗は? の問いに「前の家が二重窓だったので、それが当たり前だと思っていました」
長年住んだ東京の住まいは線路沿いのマンションで、防音用にと最初から二重窓になっていたため、抵抗感は一切なかったそうです。
強風がきっかけとなった窓リフォーム。エコガラスの活躍を見せていただきましょう。
工事では、浴室を除くすべての窓に内窓がつけられました。施工を担当したヨネダ商店の米田泰士さんは「洗面室のみ遮熱エコガラス、ほかは断熱エコガラスを使いました」と話します。
南にひらけて日当り抜群のN邸では「この日差しを極力取り込んで、逃がさない工夫をするのがいいんですね」
N邸はバルコニーに沿って南西側に3つの部屋が並んでいます。中でも東に窓があるリビングは「冬の朝、カーテンを開けると日差しがドバッ(笑)それがだんだん南に回って、部屋の半分くらいまで入ってきます」とNさん。家中でもっとも明るく暖かいスペースです。
エコガラスの内窓ごしに差し込む日射熱を取り込んだ室内で、エアコンのスイッチが入るのは日が落ちてから寝るまでの数時間。「設定温度は20℃。低いです」
スイッチオフして一晩たった翌朝も、室温は18℃に保たれています。
リフォームのきっかけとなった「風によるサッシの揺れ・しなり」も、工事後は「台風が来たときでさえ、一切気になりませんでした。外からの騒音もなくなり、雨が降っていてもわかりません」
さわっていない既存の窓の揺れは、今でもとくに変化はないはず。内窓の防音力を物語る言葉です。
一方、寝室のエアコンは「就寝前に1時間くらいつけて、眠るときには消します。朝起きるとまだ14~15℃くらいあるし、湿度も60%くらい」前夜の40%台からいい具合に上がるんですよ、というNさんに「気密が上がっている分、それはあるでしょうね」と米田さんがうなずきました。
さらに、北側の洗面・脱衣室では、すきま風が防げないジャロジー窓に内窓がつけられました。
リフォームを決めたときも「寒さや結露についてはとくに考えなかった」Nさんに「あれだけは絶対やってほしい」と言わせたほどの、お風呂上がりの厳しい寒さが解消した上、使い勝手のいい棚もつき、Nさんお気に入りの場所になっています。
今回のリフォームには、実は大きな課題がありました。
本来内窓がつくはずの「額縁」の奥行きが、N邸の窓にはほとんどなかったのです。
内壁との段差が小さい窓自体は珍しくなく、新たに「ふかし枠」をつけて内窓を設置する工事も一般的です。
しかしN邸の額縁は「見込みがほぼゼロでした」と米田さんが振り返るように、通常のふかし枠の設置すらできない状況でした。
もうひとつの問題は、ダブルのレールを納めたカーテンボックス。内窓の位置と重なるため、撤去もしくは移動が必要でした。
米田さんからは「カーテンを1枚にする」「外窓と内窓の間にブラインドを入れる」などいくつかの提案があったものの、住まい手の意思は「ブラインドは会社のイメージが強くて嫌いなんですよね…このカーテンも気に入っているし」
これらの難題に米田さんは「窓屋さんと大工さんの協働」で挑戦しました。懇意にする大工さんとアイディアを出し合い、木工事を積極的に取り入れた独自の内窓設置方法を見出したのです。
既存の窓枠の内側にオリジナルの木枠を取りつけ、そこに内窓用の樹脂サッシを留めつけました。奥行きは約13cm。数字だけ見ると、室内への出っ張りはかなりのものにも思えます。
カーテンボックスも移動し、同様に木枠に留めつけて、内窓に干渉せずカーテンを引けるようにしました。こちらもかなり内側に出っ張っているはず。
ところが不思議なことに、内窓もカーテンボックスも「狭さも違和感も本当にない、当たり前という感じです。出っ張っている、というのがよくわからないんですよね(Nさん)」
実はこの感覚こそ、施工チームが知恵を絞った工夫の賜物でした。
リビングの窓回りをよく見ると、床に接する木枠が丁寧に決(しゃく)られているのがわかります。
こうすることで幅木のような印象を与え、内窓の出っ張り感が軽減されているのです。色も白くして室内全体のイメージに合わせました。
「13cmも中側に出てきていれば、窓だけがとってつけたようにポンと出ているようになりかねません。極力目立たないような形をとりました」
工事方法の知恵を出し合い、模型まで作って検討を重ねた米田さんと大工さん。その「プロ魂」に火をつけたのは、専門家の意見を尊重した住まい手の姿勢でした。
「家に対してはあまりこだわりがないし、自分に知識がない分、信用できる専門家の意見はすごく大事だと思っていました。ダメなものは絶対ダメだけど、それ以外はよほどのことがない限り、プロの意見でオッケーなんです(笑)」
Nさんの言葉に「けっこうプレッシャーでしたね」と笑う米田さんは「とくにご希望がない分、違和感がない・出っ張ったように見せない、というところを一番考えました」と話します。
圧迫感を抑えるため、窓枠もカーテンボックスもぎりぎりの寸法で処理しました。
さらに洗面・脱衣室では、現場から生まれたプレゼントも。
「すごくいいんですよ」と住まい手が絶賛する、内窓の枠と同じ奥行きでつけられた棚は、大工さんのアイディアです。お花も飾れて、この家の風景として一番気に入っていますね、とNさんがにっこりしました。
鉢植えが並ぶバルコニーの花台も大工さんの手になるもの。「東京にいたときは植木を枯らす名人だったけど(笑)今回はうまくいってるの」の言葉通り、水仙やヒヤシンス、ハーブ類が風に揺れています。
米田さん、大工さん、そしていつも近くで支える妹さんと、住まい手を取り巻く人々の思いがいっぱい詰まったN邸エコリフォーム。
ふるさとでの新たな暮らしのベースは、窓を通して差し込む日差しとたくさんの心とで暖められた、穏やかなひだまりとなりました。