窓から快適、リフォームレポート -神奈川県 N邸-
全国20政令指定都市のひとつである川崎市は、東は東京湾から西は多摩丘陵まで細長く伸び、変化に富んだ地域特性を持っています。
このまちの西寄り、豊かな緑に恵まれた高台がN邸のロケーション。南に向かって「くの字」に開く変形の土地に合わせた、個性的なスキップフロアの住宅です。
住まい手のNさんは、この家で夫と愛犬の3人暮らし。窓リフォームのきっかけを「とても寒かったんです。天井が高くて窓が大きい家なので、設計者は断熱ガラスを強く勧めてくれたのですが、予算の関係でかなわなくて。リビングの真下は駐車場ですし、寒くないわけがないんですよね」静岡県生まれで寒がりなんです、とも付け足し、笑いながら答えてくれました。
N邸は1階に玄関ホール・洗面・無窓の音楽室・駐車場、2階にはリビングダイニングや寝室、さらにリビング上部に約3畳のロフトを配置。間仕切り壁はなく、各スペースをつなぐステップでゆるやかに階層化された一室空間となっています。
天井高3.6mのリビングは、バルコニーに面した東南のほぼ一面がガラス窓。1階からの吹き抜け部分にも大きなFIX窓がつけられ、昼間は照明いらずの明るさです。
玄関の三和土(たたき)から数段スキップしていて中2階的な雰囲気の玄関ホールも、小ぶりのリビングを思わせる居住性の高い空間。庭に面した掃き出し窓からの採光で読書も楽しめる、こちらも明るいスペースです。
このたくさんの窓が、厳しい寒さの原因でした。正確には「窓にはまっているシングルガラス」が、室内の暖かさを外に逃がしていたのです。
大出力の業務用エアコンを一日中フル稼働、設定温度は30℃。リフォーム前、N邸の冬の空調はこんな状態でした。
「これだけかけても、室温は20℃いっているのかな? と感じるくらいでした。オール電化でガスファンヒーターも使えず、暖まるまで時間がかかったし」とNさん。
冬期の電気料金は、最大でひと月3万8000円にのぼることもあったそうです。
家中で一番暖かく快適なはずのリビングを仕事場にし、パソコンに向かうNさんのいでたちは「上はフリース、下は膝掛け毛布と厚い靴下。ムートンスリッパをはいて足温器に入っていました(笑)これだけ着込むと肩が凝り、体はちぢこまり、乾燥もひどくてストレスフルでしたね」
とくにきつかったのが窓の近くで「窓際のテーブルの方に座ったりすると底冷えして、とにかくつらかった」
新築時から寒さを予測し「壁の断熱材はパンパンにつめてもらいました」というNさん、つらさの元凶が窓だとはわかっていたものの、その一方で「ガラスの交換で本当に変わるのかなあ、という疑いも少しだけありました。見た目は同じですしね」。
窓リフォームへの気持ちが固まったのは、同じ設計者が手がけた住宅に住む友人が一足先にリフォームした部屋を訪ね、受けた衝撃からでした。「真空ガラスで家が魔法瓶みたいになったよ、と言われて行ってみたら本当で。友人も強力にプッシュしてくれました」
寒さを我慢し続けて約3年、リビング・玄関ホール・寝室と、N邸内で大きな窓を持つすべての箇所に、エコガラスによるエコリフォームが施されました。
さて工事後の変化は?
「晴れた日の日中はまったくエアコンをかけなくなりました。仕事がら夜が遅いので、かけるのは午後10時くらいから。曇りの日は終日運転しますが設定温度は23℃くらい、長袖ワンピース1枚にレギンスの服装で普通にいられます」
別にエアコンをかけていた寝室は「就寝30分前に扉を開け、リビングの暖気を送っておけば十分」になりました。玄関ホールに隣接する1階の浴室も、同じくエアコンの運転はオフに。気になっていた結露もなくなりました。
電気代は「最低でも毎月1万円は確実に安くなっています! 以前の3分の2程度をいつもキープしている感じ。1万円台で済む冬も夢じゃないと思っています」。
大きな窓から取り込まれる日差しもまた、暖かさに貢献しています。
N邸の一番大きな窓があるリビングのバルコニーには、奥行き最大2.3mの軒がついています。おかげで夏の直射日光が窓に当たることはなく「室内には1mmも入りません」。
建物の南北の奥行きが浅いため風通しもよく、さらに標高約75mの立地条件も手伝って「夏は快適、熱帯夜もないんですよ」
一方、冬は太陽高度が下がるため、高さ3.6mの大きな窓からは、リビングはもちろん突き当たりにあるトイレの扉に届くほどたっぷりと光が入ります。
この日差しのおかげで「リフォーム以前の冬も、天気がよければエアコンなしでいられました。でも夕方は急に寒くなるので、スイッチを「急」モードで入れて(笑)保温効果がまったくなかったんですね」
今回のエコリフォームでは、この冬の日差しを今までどおり取り込むために、遮熱タイプではなく断熱タイプの真空ガラスが選ばれました。
リフォーム後、冬の晴天時のN邸リビングでは、窓にかかったバーチカルブラインドのルーバーがもっとも日射の入りやすい角度に調整され、日差しの恩恵を余すことなく室内に取り込んでいます。
こうしておけば、日が落ちても「長々と、ゆるゆると、だんだん温度が下がってきて、夜10時にようやくエアコンをつける。エコガラスの保温能力は本当に驚きです」シングルガラスのときは日が暮れたとたんに寒くなったのに、とNさん。
大きな開口から太陽の熱を取り込み、夜はガラスの断熱力でその暖かさを保って、空調は最低限に…ダイレクトゲインの原理をそのまま生かした、賢く快適な省エネ方法と言えるでしょう。
エコガラスによる断熱力向上は、「スキップフロアの一室空間」としてのN邸の室内環境をどのように変えたのでしょうか。
「もともと間仕切りがないので、廊下に出たらすごく寒い! といった心配はない家なんです」とNさん。エコリフォームしてからは、リビングのシーリングファンを回すことで家じゅうの温度差をさらに小さくできている、と言います。
さらに、建物の中に異なる階層が多いことが「空気のパーティション」になっている、とも。
「リビングはほどよい温度で、ステップを1段下がるごとにちょっと寒くなる。でもヒートショックはないし、1階は長くいるスペースもとくにないので暖めすぎる必要はありません。上に行けばもちろん暖かいですが、窓を閉めておけば熱が外に漏れることもなく、シーリングファンが暖かい空気を全体に送ってくれるので、無駄はないですね」
エコリフォームを行った住まい手の感想でよく聞かれるのが「家じゅう同じ温度になった」という感想です。とくにトイレや浴室の冷え込み解消は、高齢者の健康・安全への不安軽減に役立っているようです。
しかしNさんの言葉の中には「あえて少しの温度差を楽しみながら許容し、家を立体的に住まう」そんなスタイルがかいま見えた気がしました。
このアクティブな姿勢は、実は今回のエコリフォームの根底にも流れています。
新築当初、設計者からは「窓には真空ガラスを採用しないと、寒さを感じると思いますよ」と言われていました。しかし予算が折り合わず、後からの工事が難しい壁の断熱を優先して、とりえあず窓はシングルガラスとしたのです。
当時を振り返り、Nさんは「リフォームを前提とした建築でした。数年我慢してお金が貯まったらすぐ窓をやろう、いつまでもこの暮らしは続けないぞ(笑)と思っていましたね」
初心貫徹でエコリフォームを果たしたNさんは、新築時の厳しい予算の経験を生かし、これから家を建てようとする人に対してこうアドバイスするそうです。
「性能の高くない複層ガラスを入れるより、シングルガラスで数年我慢して、まとまったお金ができたら真空ガラスに換えるといいよ」
実際、数年後のリフォームを前提に、新築当初はシングルガラスで減額して話がうまく進んでいる友達もいます、とにっこりしました。
最初から換えるつもりでシングルガラスを入れるのは無駄なのでは? という考え方もあるでしょう。
しかし、今回のリフォームを手がけ、Nさんのさまざまな疑問を解決しながら親身に相談にのってきた丸正屋の中村由多佳さんは「ガラスはそのまま廃棄せずリサイクルされるので、その点は問題ないと思います」と、胸を張って答えてくれました。
N邸のアイドル、ブルテリアのメリーは窓際のひなたぼっこが大好き。冷気の遮られた窓辺でくつろぐ傍らでNさんは仕事に取り組み、読書や家事を楽しみます。
ゆったりとしたその空気感を、大きなエコガラスがおだやかに支えていました。